大学校及び設置科 関東職業能力開発大学校 生産システム技術系共同開発
課題実習の前提となる科目または知識、技能・技術 科に係らず必要となる創造的開発技法、生産管理、品質管理などの知識とこれまでに学習した学科・実技のすべてを総合して課題の開発に取り組みます。また、各科の「標準課題」で習得した技能・技術の整理が必要となります。
課題に取り組む推奨段階 応用課程2年
課題によって養成する知識、技能・技術

ニーズ調査の実施、仕様書、構想設計、基本設計、詳細設計、工程表の作成等、装置の開発技術が養成できます。システムの詳細設計からハードウェア及びソフトウェアの製作ができ、単体テストや機械部・電子部の統合組み立て及び統合テストなどの技術が養成できます。

製作の目的と概要

 現在、銀杏の殻を剥く作業は剥き師が手作業で行い、市場に出荷しています。しかし、殻を割る・殻を外すという作業の中で実に傷やへこみができてしまったり、図1に示すように殻と一緒に薄皮が剥けてしまうB級品のものができてしまったりします。また、剥き師の高齢化や人件費に係るコスト高といった問題もあります。
銀杏の殻剥き装置はいくつか市販化されておりますが、殻を割ることを主目的とした装置であり、薄皮にキズが付いたB級品のものが多く混入してしまっている装置がほとんどです。
今回は、殻を割るだけでなく殻を外し、かつA級品の銀杏の生産に特化した装置の開発を依頼されました。そこで、本課題ではこのような銀杏農家の要望を受け、大量投入した銀杏を整列させて、自動で殻を割り、そして薄皮にキズをつけずに殻を剥く装置の完成を目指しました。そして、本装置の開発を通して、地域・農業関係分野への社会貢献目指します。

★技能・技術習得目標:
 各科において専門課程から応用課程1年までの3年間で習得した専門的な技能・技術を大いに発揮するとともに複合的に活用することで、専門的な技能・技術全般の向上を図ります。また、様々な大きさ・形状・色という特徴を持っている銀杏という農作物を対象とした装置開発を行なうことで、十分な検証実験や統計手法を用いたデータ整理を活用し、データに基づいた様々な銀杏に柔軟に対応できる装置の開発技術を習得します。製作の過程では、ブレーンストーミングなどの手法を取り入れた構想設計、各部の設計・製作技術、制御技術および調整技術などを総合的に習得します。あわせて、3科合同での製作を通し、専門分野以外の分野に関する用語や知識などをお互いに学習します。そして、3科の知識・技能・技術の有機的融合と創造を習得します。
各科での応用的に習得した技能・技術を以下に示します。
(生産機械システム技術科)ゼネバ機構、ロータリーコネクタ、セクター歯車などの設計・製作 他
(生産電子システム技術科)H8マイコンを使用した装置の制御、2つのH8マイコンの同期制御 他
(生産情報システム技術科)パソコンとマイコンとの通信技術、画像処理手法(RGB法、HSV法など) 他

成果

大量投入した銀杏の殻を割り、薄皮に傷をつけることなく殻と実を仕分けする装置開発および製作を行ないました(図2参照)。装置の開発を始めるにあたり、銀杏のサイズの測定や特徴の観察をしっかりと行ないました。
銀杏が成長する際に芽が出る方向と根が出る方向では殻の厚みが異なり、重心位置が芽側にあることがわかりました。そこで、本装置ではこの銀杏の特徴を利用して、アクチュエータやセンサ類を使用することなく、40度に配置したV字レール上に銀杏を乗せると自重によって殻の厚い側(芽の出る側)が下を向く整列機構を採用しました。
殻の厚みの違いから割った際に厚い部分が割れにくく、割った後に殻を剥く作業が困難になっていることも確認しました。そのため、殻の厚い部分をベルトサンダーでV字状に削ることで、殻が割れやすい状態に処理してから殻を割ることで、きれいに殻割りができます。その後、殻を外す際にも直線状に引っ張ることで薄皮のはがれや傷が生じることなく、きれいに銀杏と殻を分けることができました。
品質判定では、繰り返し実験によりわかったことをアルゴリズム内にうまく取り入れて、独自の画像処理プログラムを作成したことにより、依頼主と確認した傷サイズをミリメートル単位で検出し、A級品・B級品・それ以外に検出することができました(図3参照)。


★アピールポイント:
・アグリビジネス創出フェアにおいて出展をしていた際に相談を受けた隣県の茨城県からの依頼であり、地域に密着した開発を行ないました。
・銀杏の特徴を理解するために銀杏のサイズなどのデータ取得を行ないました。
・薄皮付きの剥き銀杏を生産するために、グループ全員で多くの検証実験を繰り返し実施して装置の開発を実施してきました。
・農業製品であり1つずつサイズや形状などが異なる銀杏に対して、柔軟に対応できる装置を製作しました。
・作業性を考慮した装置設計を行ないました。一例として、10kgの大量投入を行なう投入口については作業者の負担を軽減するために投入位置を腰位置程度の高さとしました。
・銀杏の重心位置を利用し、センサやアクチュエータを使用せず、自重を利用した整列を行ないました。
・実験を多く行なうことで、サイズによらず銀杏の殻を割る際に3?押し込むと殻の全周を均一に割ることができるきることを見出し、機構として実現しました。
・画像処理には独自のアルゴリズムを採用し、ミリメートル単位での傷サイズの検知およびA級品の判定ができるプログラムを製作しました。
・銀杏の表裏の画像処理を行なうために、輪ゴムを利用した銀杏の反転機構を考えました。
・タッチパネルを使用したメイン操作画面は必要最小限のボタンのみ配置し、作業者が簡単に操作できるようにしました。また、音声や画像などを活用し、作業中の注意やアラーム等の発生時にはどこで発生しているのかがわかるようにしました。あわせて、メンテナンス用に別途ボタンを設置することで、管理者がメンテナンスする際に容易に作業できるようにしました。
・コスト意識をもち、使用部品が少なくなるような装置の構成や部品の選定を行ないました。
・栃木県内の高専、短大、大学等の高等教育機関で構成する大学コンソーシアム栃木主催の「第11回学生&企業研究発表会」において、ポスター発表および口頭発表で参加しました。その結果、ポスター発表部門では、最上位賞である金賞を受賞し、口頭発表部門でも企業賞を受賞することができました。本装置には、実験などを通して学生たちが工夫したアイディア等が多く盛り込まれており、それらを自信をもってプレゼンテーションできたことが評価されたと思います。
・千葉校の学生見学会や企業等の来客およびベトナムからの視察団や厚労省からの視察などの際も、担当者を決めることなくその場で作業している学生がすぐに対応し、開発課題の概要説明やPRをしています。
・今後は依頼主である銀杏組合に装置を活用してもらい、依頼企業と繋がりのある機械メーカによって、今回開発し製作した装置を参考にした商品開発に向けて活用されるものと考えます。
薄皮付き銀杏の自動殻剥き装置の開発(H26)の画像1
図1 剥き銀杏の品質
薄皮付き銀杏の自動殻剥き装置の開発(H26)の画像2
図2 装置外観図
薄皮付き銀杏の自動殻剥き装置の開発(H26)の画像3
図3 画像処理結果