• 職業能力開発大学校 研修研究センター開発研究部  沢田石 仁・後藤 康孝

1.はじめに

情報通信のインフラ整備が取りざたされている昨今,近未来の知的生産システムとしてグループウェアというコンピュータネットワークを利用した技術が研究されており,すでに商品化されているものもある。今回,パソコン通信を利用して,異なる能開施設の指導員によって訓練用教材の共同開発を行い,その開発過程を通して近未来の教材開発体制を検討する研究を行ったので,成果の概要を紹介する。

2.グループウェアの概要

2.1 グループウェアとは

グループウェアとは,グループ(集団)のためのウェア(Ware=製品)という意味を持っているが,情報関係では同一の目的を持って活動するグループの協調作業を支援するコンピュータシステムのことをいう。すなわち,日常の業務のほとんどは,同じ目標を持ったいく人かのメンバーによって構成された組織(部,課,係等)を中心に,意見調整,会議,作業分担等を行うことで進められる。その協調作業を何らかの形でコンピュータによって支援すること,そしてそのシステムをグループウェアといっている。

ここでのグループによる協調作業とは,例えば,会議,意見交換,業務指示と報告,資料作成,開発研究等,グループのメンバー間によって時間と空間を越えて進められる知的生産作業のことを指す。そしてグループウェアは,同じコンピュータ支援であるデスクワーク支援と異なり,このグループメンバーの協調作業を支援するシステムである。

2.2 グループウェアの分類

それでは,グループウェアが対象としている知的生産業務というのはどのようなものであるか,またその支援するグループウェアシステムはどのようなものがあるかをみてみる。

その対象とする業務はその内容,組織の体制等によって形態は異なり,時間と空間によって分類すると以下の4種類となる。

(1) 同じ時間同じ場所

会議においては,検討内容等を黒板に明記し参加者の共通認識を図りながら意見を集約していくのが一般的に行われる光景であるが,この黒板の代わりにコンピュータディスプレイを使用し,参加者全員が電子黒板に接続された端末を操作し意見を入力するシステムが,この分類に属する。

これによって決定事項の確認および記録等がその場でメンバー全員によって行うことが可能となる。

また,KJ法のような発想支援をディスプレイ上で行うことも可能である。

(2) 同じ時間違う場所

遠隔電子会議に代表されるものであり,遠く離れた人によって行われるコミュニケーションが,同席した場合のそれにできるだけ近づくようにしたシステムで,画面の共有,音声および映像の伝送をコンピュータによって支援する。

(3) 違う時間同じ場所

フレックスタイムの採用や外勤の多い部署では,グループのメンバーが一堂に会して意見調整を行う機会が少なくなる。そのため業務の進行状況を把握しづらくなることが発生する。また数少ない全員参加の会議のために一度に多くの資料を準備する必要もでてくる。これらの解消のために,業務指示,業務報告等を各立場で入力可能な時間に端末からシステムに入力することで,スケジュール管理,プロジェクト進行管理を支援するシステムがある。

(4) 違う時間違う場所

遠隔地間において連絡を取り合う手段としては,一般には相手が在席なら電話を使用するが,不在の場合はFAX,留守番電話といった手段が使用される。しかし,いずれも加工可能な情報のやりとりではなく,かつ情報として共有できるものでもない。パソコン通信等の電子メール機能はこの点を補うシステムとして有用である。

さらに,1冊の本を離れた施設のメンバーと共同文書執筆するために,1人の執筆者の原稿をグループ全員が見ることを可能にし,さらに校正や添削の機能を付加した共同執筆システムがある。

2.3 グループウェアを支える技術

これらのグループウェアシステムの実現は次の技術によって支えられているものであり,その技術の著しい進歩によってグループウェアがより身近なものとなってきている。

(1) ユーザインターフェース

協調作業を行うすべてのメンバーの専門性の違いに関係なく使いやすいシステムである必要がある。グループの中でコンピュータに触ったことがない者でも,短時間で使用可能な操作性を有する必要がある。また,現在行っている作業形態からコンピュータの導入で作業形態の変化を余儀なくされることになるため,その操作性はできるだけ現行の作業感覚に近いものである必要がある。そのためのものとしてデスクトップメタファ,マルチユーザインターフェース等の技術がある。

(2) データベース

協調作業を行うすべてのメンバーが多くの情報を共有し,必要なときに利用できるようにする必要がある。そのためのものとしてデータベース技術がある。グループウェアで扱う情報は,グループ内の意思疎通をよくすることと,誰にでも使いやすいように,文字,数字,音声,画像等多様なものが用いられる。そのためこれらのデータを取り扱う技術として,マルチメディアデータベース,オブジェクト指向データベース技術がある。

(3) 通信ネットワーク

グループのメンバーと協調作業をする場合,意思の疎通が重要であり,そのためさまざまな情報伝達の手段が講じられる。一般的な情報交換の手段は電話,郵送,FAX等であるが,グループによる知的生産を支援するための情報交換となると,情報共有が可能でかつ情報の加工可能な手段等が必要となり,コンピュータ通信ネットワークが必要になる。この通信ネットワークには,遠く離れたメンバーのコンピュータをつなぐ広域ネットワークと同一場所におけるコンピュータを接続する構内ネットワークがある。

3.研究用システムの設定

今回の研究は,異なる能開施設間の指導員の協調作業によって教材作成を行い,その作成過程においてどのようなシステムによる支援が必要であるかを現状の中から見いだし,今後のシステム構築の際の基礎資料とするために行ったものである。そのため,ネットワークおよび設備等はできるだけ現有のものを活用することとして行った。

団立施設の多くは能開大の情報工学科が開設するUITnetに加入し活用している実績があること,および各能開施設には指導員が教材作成用に利用可能なパソコンがあることから,このパソコン通信を中心とした教材開発が可能であった。以下,具体的にシステムについて説明する。

3.1 通信回線

UITnetは,利用できる通信回線が数種あり,今回利用したものは次の3種類である。相手方施設のおかれている環境,混雑状態,通信する情報量等によってこれらを使い分けた。

(1) 公衆回線網

通常のNTTの公衆回線を利用して直接ホスト局へアクセスするもので,ホスト側のモデムが,9600bpsの通信速度に対応している。

(2) VAN(付加価値通信網)

F社が運用するVANのFENICS網を利用してアクセスする方法で,端末のパソコンからFENICSへの入口であるアクセスポイントまでは公衆回線で接続し,アクセスポイントからホスト局までは専用線で接続する。利用者は,アクセスポイントまでの電話料金を負担すればよいので通信費を節約することが可能である。通信速度は2400bpsである。

(3) 能開大の内線

大学校の内線電話を利用して直接ホストにアクセスするもので,通信速度は9600bpsに対応している。

3.2 ハードおよびソフト

今回は,当センターと5ヵ所の能開施設の職業訓練指導員によって行われた(図1参照)。各施設の準備できる設備の違いにより同一の仕様にすることはできなかったが,基本的にPC9800シリーズのパソコン,9800bps対応モデムおよびソフトウェアを統一することができた。

図1
図1

ソフトウェアは,ワープロソフトと通信ソフトを同時に使用できるようにしたものを使用したが,すでに使いなれているものについてはそのまま使用した場合もあった。

3.3 UlTnet

UITnetには,次のサービスがあり,グループウェアとして使用する場合に支援可能な業務内容を想定した。

(1) 電子メール

これは,郵便の手紙に相当するもので,主に会員同士の個人的な連絡に使用するものである。協調作業では,会議開催前後の連絡調整に使用可能である。

(2) 掲示板

これは,諸機関から有益な情報を会員に提供するものであり,能開大,研修研究センター,事業団本部,労働省等の情報が提供されている。協調作業では,会議内容の広報に使用可能である。

(3) フォーラム

これは電子会議と呼ばれているもので,全員が互いに意見を交換するものである。協調作業では,違う時間違う場所型意見調整に使用可能である。

(4) データベース

これは,ホストシステムに蓄積された情報を提供するものであり,フリーウェアソフト,自作教材情報等が蓄積されている。協調作業では,知識の共有に使用可能である。

(5) チャット

これは,オンラインでキーボードから入力することによって会員同士で会話をするものである。協調作業では,同じ時間違う場所型意見調整に使用可能である。

4.試行結果について

今回の試行では,前項に示したUITnetのフォーラムを利用して,異施設間の意見交換,資料伝送等を行い教材開発を進めてきた。作成した教材は2教材で,以下に示すようにそれぞれ別のフォーラムの委員会で作業を進めることとし,さらに2教材の作成に共通する事項,グループウェアに関すること,システムに関すること等の意見調整や連絡のためにもう1つ委員会を設置した。

  • A210  グループウェアによる教材作成委員会
  • A210 B01  一太郎Ver.5教材作成分科会
  • A210 B02  油圧教材作成分科会

これらの分科会の運営は,教材作成については作成委員の中から選出されたグループリーダが行い,グループウェアの委員会は事務局が行った。また,委員間の連絡調整には,メール機能を利用した。これらによって作成された教材の内容が表に示すものであり,これらの教材は,能開セミナー(短期課程)の訓練用として企両開発されたものである。訓練ニーズに対応して,各能開施設において加除,変更等が編集可能なように,一太郎Ver.5ファイルとして,UITnet上に公開している。

5.まとめと今後の課題

教材を共同で開発することは,作業分担による労力の軽減,他指導員との情報交流による付帯的情報の入手等の効果を期待でき,訓練の内容を短期間で質の高いものとするために必要なことである。そのためシステムに起因するコミュニケーションの不都合は,ぜひ解決しなければならない問題であるが,すでにグループウェアシステムとして音声および動画の伝送を併用したもの,資料および提示物を共有できるもの等の技術的な問題を解決しているものもあるので,体制と導入の検討をすべきである。

また,現状のUITnetを利用したシステムであっても,教材作成の作業分析をし,面会して行う会議と併用することで十分効果が期待できるものと思える。今回の試行の結果から考慮すると,教材の基本方針の策定のような不確定要素の多い議論は,文章による意見交換では十分な検討が困難であり,会合による形式のものが適すると思われるが,記述に関する調整や技術的問題の質問のように議論が大きく展開しないものについては,パソコン通信によるやりとりでも十分であると考えられる。

なによりも同じ専門性,認識を持ったグループが存在することによって,教材作成をはじめとする職業訓練に関する相談が容易にできる環境は貴重なものであることを強く感じたところである。

6.おわりに

本グループウェアによる成果物一太郎Ver.5セミナーテキストと油圧技術[I]セミナーテキストをUITnetの掲示板および教材DBにアップロードしているので,必要に応じてダウンロードしてご利用いただきたい。

また,このテキストをさらに改善するために,使用した際の感想,変更点等についてのご意見をぜひお聞かせいただきたい。ご意見は,本研究の趣旨から,UITnetのフォーラムにアップロードしていただくと幸甚である。

なお,本研究に参加された委員ならびに所属施設の方々のご理解と協力に心からお礼を申し上げます。

〈詳細については本調査研究の調査研究報告書No.67をご覧ください。〉

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