• 職業能力開発大学校 造形工学科3年  須藤 秀樹

1.「技術」とは「技能」とは…

「技術」や「技能」といった単語は日常よく使うという言葉ではないが,私たちはそれらの言葉を経験的に無意識のうちに使い分けている。しかし,「技術」と「技能」のそれぞれの意味や,相互の関係についてもう一段階深く考えてみると,人によってその考え方や見方は,一致しているとは言えないことが多いのである。

ある言葉を理解しようとするときに,まず頼りにするものに辞書がある。そこで,「技術」「技能」「技」そして「熟練」の四語について,国語辞典,漢和辞典,百科辞典を合わせて20種を引いてみた。これらの語がどのように説明されているか,一番多かった記述は何かを調べ,また最もわかりやすく(一般的で),納得のできる説明は何かについて検討してみることにしたい。

2.「技術」に関する辞書の記述とその検討

まず図1を見ていただきたい。この図は辞書で「技術」の項目を調べたときに,そこで使われている単語や説明文を1つずつ抜き出す作業を行った結果である。その結果を同じか類似した説明についての出現件数を「●」で表し,多い順に上から並べている。単語の意味がわかりにくいと思われるものについては,さらに意味を詳しく調べて,次の階層に記している。例えば「新世紀百科辞典」5)を調べた場合の原文は次のようになっている。

図1
図1

「ぎじゅつ【技術】①技。技芸。技巧。②自然を改変して,人間生活に役立つような物を作る方法。生産的実践における客観的な法則性の意識的適用。また,生産手段の体系」とある。①についてはそのまま1つずつ抜き出して図に入れる。つまり「技」「技芸」「技巧」のそれぞれで1カウントしている。②について前の2つは図中の「科学の理論を実際に応用し…」の(類似した表現)の中に入れた。このような作業をすべてについて行ったものである。

さて,図1によれば「技術」の意味として一番多いのが「技」で,その次に「て(手)わざ」である。後でふれるが,「わざ」という言葉自体には「技術」と「技能」も含まれている。この理由は「技」のところで述べたいと思うが,ここでは「技術」の正確な意味を考えているので,ある程度範囲を限定して進めていくことにしたい。

図1
図1

「わざ」という語は「技術」の説明としては少し難点があるように思われる。他には,「技芸」「技巧」「芸術」「芸能・医療などのわざ」「理論を実際に応用するわざ」「科学知識を生産・加工に応用する方法・手段」「物を取り扱ったり事を処理したりする方法や手段」とあり,中には本当にごく限られた範囲での説明にとまどっているものもある。しかし,図全体を見ると,どの説明にも共通している部分があることがわかる。

それは,「他の何らかの形に置き換えられたものであったり,置き換えること」を指しているというところである。「他の何らかの形」というのは,数値化であったり言語化であったりいろいろある。そうすることによって何も知らない人にも容易に伝えることが可能となるだけでなく,技術化によって,その内容を広げ,高度化し,蓄積していくことがあらゆる人の手によって可能になることを意味していると考えられる。

「置き換える」ことに注目した理由は次の点にある。例えば,図中の語句である医療などは昔はまったく個人的な技(才能といってもよい)として存在していたものだが,その技を文字や数式に置き換えて医学書を作ったからここまで発達したのではないだろうか。また,工学は,自然科学の理論を使いやすいように置き換えることによって,現代をここまで発達させたのではないだろうか。このような点から図1を見ると符合する点がいくつもあることに気づく。

図1
図1

このことを考えたうえで納得できる説明を選んでみると,「物を取り扱ったり,事を処理したりする方法や手段」である。この説明は先の点にも符合するし,広い視野で「技術」を説明しているのがその理由である。ただ具体的でないので少々わかりづらい。これに対して,他のほとんどの説明は「技術」を特定の分野,例えば芸術や科学の中で語っているために,今回の目的である「技術」の一般的な解釈としては不適であると言わざるを得ない。

その他に気になった記述に「学びて得たるワザ」というのがあった。はじめにも書いたが「技」には「技術」のほかに「技能」も含まれると思われるから,単に「技術」だけを考えようとしたときには,この説明は適さないのではないか。

3.「技能」に関する辞書の記述とその検討

同様にして「技能」について調べてみた。「国語大辞典(新装版)」15) の場合,「ぎ-のう【技能・伎能】物事を行う腕まえ。技芸。技術。わざ」とある。図2図1と同様に分類したものである。

図2
図2
図1
図1

図2によれば,一番多いのは「うでまえ」である。また1つだけだが「技芸を行ううでまえ」というのもあった。この「うでまえ」という言葉はあまりよくわからない言葉だ。日常よく使われる言葉ではないし,たとえ使われたとしても,その意味まで追求されるような種類の言葉ではないからだ。この「うでまえ」をさらに「日本語大辞典」10)で引いてみると,「物事をうまくやりこなす力やわざ」「手なみ,腕」や「その面の仕事などに関し,フルに発揮されるかどうかという観点からみた,技術・能力」とあった。

図2
図2

これらの説明だけで理解するのは難しいかったので,次に多い「はたらき」という言葉に注目して検討することにした。同じ辞書で引いてみると,「活動。仕事。work」「作用。機能。function」「てがら。骨折り。achievement」「動作。動き。action」「才能。機転。ability」というように非常にたくさんの意味を持っていた。

この中から最も適したものを選んでみたが,最初の頃は「作用。機能。function」が当てはまるのではないかと思っていた。というのも「技能」は,「影響を及ぼすこと」や「効果をあらわすこと」のようなものという思い込みがあったからである。しかし,これをある先生に見せたとき,「技能とはもっと動的なもので,この中から選ぶのなら『動作。動き。action』じゃないかな」と言われたのでそのときは意外に感じた。

それからしばらくして,工場実習で家具製造工場へ行くこととなった。私はその実習の目的の1つに実際の現場で「技能」をよく見てくることをひそかに決めていた。そうすれば自然にその意味もわかるだろうと思ったからである。その結果,「技能」とは「動き」であるということを実感した。工場で人の作業しているところ,つまり「技能」を発揮している場面を見ると,それは決して「作用」とは違うものであることがわかる。彼らはその作業中の動作の中で技能を発揮しているのである。ということは,「技能」とは,動作を伴うものなのである。

この他に多い記述は特にない。各辞書によってさまざまであることがわかる。いくつかを抜き出してみると「才能」「技量」「技術」「技芸」「わざ」「技術的な能力」「その物事を行ううえでの技術的なうまさ」というのがある。どの記述もそれぞれに特色があるが,納得のいくものとなると「才能」「技量」「技芸」はいささか親切味に欠けるし,前述したように「技能」とは「動き」であり「動作」であるということもその中に含まれなければならない。

それらを考慮した結果,最も良いと思ったのは,「技術的な能力」「はたらき」である。どちらも「技能」に必要な「動作」ということを意識しているし,その「動作」に直接的に関わる「能力」や「はたらき」は能動的に発現してくるということ,つまり技能を発揮する「ひと」が主人公であり,彼が意識的に動作を行うことによってはじめて現れるものであると同時に,個人的に対して使われるものということが想起できる。また,前者は具体的でありながら,より一般的な表現をしているという理由から,これが「技能」を説明するのに最も適していると考えたからである。

4.「技」に関する辞書の記述とその検討

「技能」と「技術」の両方に含まれている「技」について調べてみよう。「大漢語林」16)で「技」の項目を引いてみた。「【技】①わざ。てわざ。たくみ。技芸。技術。「球技」。②うでまえ。はたらき。技能。=伎(ギ)。「美技」。③技術者。工人。④わざおぎ。俳優」とある。

「一般的な」ということを優先して考えて①と②のみを使い,その中でも「球技」や「美技」を省いて図に入れた。他の辞書に関してもほぼ同様の基準で選んでいる。図3を見てみると2通りの記述があるように思われる。第1は「手わざ」「技芸」「たくみ」「技術」というように,これは「技術」の説明と同じものである。そして,第2は「うでまえ」「はたらき」「才能」「技能」というように,これは「技能」の説明と同じものである。このことは「技」という語の成り立ちを端的に示していると思う。つまり「技」を説明するなら「技術」の側と「技能」の側の両方から説明する必要があるのではないかということである。

図3
図3

もっと詳しく検討してみよう。私たちが日常この言葉を使う場合,いちいちその意味の違いを考えて使うことはないが,会話での「技」という語の使われ方を分析してみると,例えば「あの人の技はすばらしい」と言った場合の「技」は「技能」のことを指しているし,「あの人はすばらしい技を持っている」と言った場合の「技」は「技術」のことを指している。このように,個人に対して「わざ」を使うときはほとんどの場合「技能」の意味で使い,事柄について「わざ」を使うときはほとんどの場合「技術」の意味で,無意識のうちに使い分けているようである。

また余談になるが,サッカーでは,選手個人の持っている技のことをスキルということがあるが,これは「skill-技能」のことであるし,またドリブルのようにサッカーという競技において必要な技はテクニックといい,これは「technic-技術」である。

「技」という語はその持つ意味が広いために使いやすいが,逆に「技術」や「技能」のような特定の意味を持たせて使う場合には気をつけて使わなければならないと思う。

「技」の説明としては次の2通りを選びたい。1つは,「技術」にしたい。その理由は,この語が雑誌や新聞などでよく使われているために,その意味もかなり一般的に認識されていると思われるからである。そしてもう1つは,「はたらき」もしくは「腕前」にしたいと思う。これについては,本来ならば「技能」とすべきなのだろうが,前述したメディアでの使用頻度という点からみると「技能」という語はかなり少ないと言わざるを得ない。先ほどの話になるがサッカーの中継を見ていても解説者が「技術」と言っても「技能」とは言わず「スキル」と言っていたりするわけである。そこでより一般的な「はたらき」もしくは「腕前」をもってきたのである。

このように「技」には実行をつかさどる技能と,表現としての技術の両面が含まれていることが鍵になっているといえる。

5.「熟練」に関する辞書の記述とその検討

「漢和大字典」18)を引いてみると「【熟練】①よくなれてじょうずなこと。②よくねった絹。③ねりぎぬの衣服」とある。②,③は直接は関係ないが,図に入れることにしたい。

最も多い記述は「練達」「熟達」であるが,これは「熟練」を説明しているというよりは,言い替えただけにすぎない。そこで,次に多い「(よく)慣れていてじょうずなこと」や「物事によくなれて巧みなさま」から考えていくことにした。結論から言えば,これらの説明が一番わかりやすくて的確だといえる。他の記述では「(物事に)なれてじょうずになること」のように「…になること」というのがあるが,これだとまだ「なって」いないという印象を受ける。もちろん,熟練の上限というのもないから「…になること」というのもあると思える。しかし「熟練」になるためには「技能」がある一定のレベルを超えなければならないわけだから,じょうずな状態であることを表しているほうがよいと思ったのである。熟練は技能が熟達するのであり,技能が練達するのであって技術にはこの言葉はなじまない。なぜならば働きかけや動きがあって「慣れる」ものだからである。

さて,この「熟練」の説明として「ねりぎぬの衣服」というのがあった。「練り絹」とは,「生織物を精錬して柔軟性と光沢を持たせた絹布」という意味で,まさに文字どおりの意味である。しかし,なぜ「熟練」の説明でこのような語が出てくるのだろうか。私の推測だが,練り絹という柔らかい布で作った服は着ていて肌になじむため動作が抵抗なくできるというようなところからきているのだろうと思う。「熟練」との関係についてはまったくの推測だが,肌になじむというところが適切に表現しているように思える。

6.不即不離の関係

「技術」「技能」「技」「熟練」各用語について,辞書において最もよく使われる説明は何か,またそれらと一般的な解釈との差の有無,そして納得できて最適な説明は何かを考えてきた。

特に「技術」「技能」「技」の3語については,そのもつ意味は違うものの互いに強く関係していることがわかった。大まかにみると「技」を介して,「技術」と「技能」が位置しているというように考えられる。しかし「技術」と「技能」の間においてもいくつか共通の説明があるので,この両者も結びついている。そして,「技能」に「熟練」がさらに関係してくるというようにみることができる。これを整理してみると図5のようになる。

図5
図5

つまり,「技」と「技術」と「技能」と「熟練」が互いに関連しているということを図形の重なりで表し,その中でも「技」-「技術」系で共通していることは「技の表現」ということで,「技」-「技能」-「熟練」系で共通していることは「技の実行」であることを表している。このように「技」が表現と実行の2つの流れで「技術」と「技能」という言葉が生まれていたと結論づけられる。

最後に,このレポートを書くに当たってアドバイスしてくださった指導学科の森 和夫先生に感謝の意を表したい。

〈出典〉

  1. 1) 新村 出編「広辞苑第4版」,岩波書店,平成3年.
  2. 2) 赤塚 忠,阿部吉男編「漢和中辞典」,旺文社,昭和52年.
  3. 3) 金田一春彦,池田弥三郎編「学研国語大辞典」,学研,昭和53年.
  4. 4) 藤堂明保編「学研漢和大辞典」,学研,昭和55年.
  5. 5) 新世紀辞典編集部編「新世紀百科辞典」学研,昭和53年,増補改訂版.
  6. 6) 時枝誠記,吉田精一編「角川国語中辞典」,角川書店,昭和48年.
  7. 7) 簡野道明編「字源」,角川書店,昭和61年.
  8. 8) 尾崎雄二郎,都留春雄,西岡 弘,山田勝美「大字源」,角川書店,平成4年.
  9. 9) 上田万年,栄田猛猪,岡田正之編「大字典」,講談社,昭和52年,第14版.
  10. 10) 金田一春彦,梅悼忠夫,阪倉篤義,日野原重明監修「日本語大辞典」,講談社,平成元年.
  11. 11) 三省堂編集所編「広辞林第6版」三省堂,昭和58年.
  12. 12) 松村 明編「大辞林」,三省堂,昭和63年.
  13. 13) 日本大辞典刊行会編「日本国語大辞典」,小学館,昭和51年.
  14. 14) 尚学図書編「国語大辞典言泉」,小学館,昭和61年.
  15. 15) 尚学図書編「国語大辞典(新装版)」,小学館,平成2年.
  16. 16) 鎌田 正,米山寅太郎「大漢語林」,大修館書店,平成4年.
  17. 17) 諸橋轍次「大漢和辞典」,大修館書店,昭和63年,修訂版.
  18. 18) 服部宇之助,小柳司気太「詳解漢和大字典」,冨山房,昭和50年,修訂増補版.
  19. 19) 上田萬年,松井簡治「大日本国語辞典」,冨山房,昭和38年,新装版.
  20. 20) 大槻文彦「新編大言海」,冨山房,昭和59年,新編版.
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