• マツダ株式会社 マツダ工業技術短期大学校  波谷 和美・縄田 昭博

1.はじめに

私は,マツダ株式会社に昭和60年に入社以来,平成5年までの8年間,現場の第一線で保全業務を担当し,うち2年間は,マツダ工業技術短期大学校の1期生として基本的な技術・技能を学びました。そして,平成5年3月より,マツダ工業技術短期大学校の講師として移籍し,学生の兄貴分として,ともに勉強をさせてもらっています。

今回の教材コンクールに出品させていただいた教材は,私の現場での経験と第一線で現在も働いている人たちの経験をもとに,作成・製作したもので,多くの人たちの協力があって完成しました。

そのような背景があるため,このような賞をいただいたことに大変感激し,そして今後の励みとなりました。

2.教材開発に至る背景

従来のシーケンス制御の基礎教育ではリレーによる制御実習が行われ,教材として市販の学習キットが使われていました。これは,簡単にリレーシーケンス制御を体験できる大変便利な教材といえます。

しかし,この教材は簡易化されている分,現場でテスタが使えない・配線がわからないなど,故障復旧ができないという現実にぶつかります。

実際に,私自身このような教育を受け現場の第一線で働いた人間として,何より身にしみて感じたことでした。

そこで,現場が欲しがる人材の育成を目指し,カリキュラム・教材の見直し検討を行い,現場で使われている現物をもとに,基本を重視した教材開発に取り組むことにしました。

3.教科書作成にあたって

今回,新たに教科書を作成するにあたり,今までの市販の教科書を分析したところ,次のようなことが浮き彫りになりました。

  1. ① 一般的で必要なところが深く説明されていない。
  2. ② 文章が多く,理解しづらい。
  3. ③ 実際に現場で使われているセンサ・アクチュエータの説明がない。
  4. ④ リレーシーケンスの設定授業時間に対し,ページ数が多い。
  5. ⑤ 1つ習えば,そこで終わりという内容のため,せっかく憶えかけたものが,忘れられてしまう。

以上のようなことを踏まえ,まず何が必要かを,今までの経験および現場での先輩方までも巻き込み,教科書として「シーケンス制御基礎編」を作成しました。

4.各種教材(特徴)

4.1 教科書

  1. ① 現場の生の声をもとに作成したため,今,生産現場で必要とされている知識を織り込んでいる。
  2. ② 図を多用し,理解しやすい内容である。
  3. ③ 動作原理の説明があるため,カンで故障原因を追求するのではなく,事実に基づく故障追求ができるようになる。
  4. ④ 多種の機器の説明があるため,機器選定ができるようになる。
  5. ⑤ 必要な部分を整理して説明しているため,43ページという少ないページ数で内容の濃いものとなった。

しかし,この教科書だけでは,教科書で勉強しいろいろなものを“知った”だけで,この授業が終わるとともに忘れられます。これは,頭の中に入れただけで実際に目で見たわけでも,肌で感じ取ったものでもないからです。これを,実際に自分でやってみて,生の体験をさせる目的で作成したのが「シーケンス制御課題集」です。

4.2 課題集

  1. ① 注意事項を記載しているため,安全意識の向上となる。
  2. ② 実際に生産現場で必要な技能(例えばテスタチェック等)が習得できる。
  3. ③ 回路を製作するうえで,自然に図面の必要性,線番の必要性が理解でき,生産現場で働くときにそれぞれを大事に取り扱うことができる。
  4. ④ 自由な回路設計も設定しているため,応用力・発想力を養える。
  5. ⑤ 教科書に沿った内容のため,今,学んだことがすぐに体験でき,理解度が増す。

4.3 実習機器

実習機器にあたっては,学生が課題集を進めるうえでいかに実践的な体験をさせることができるかに主眼を置き,実習機器の選定および製作を行いました。

  1. ① 配線の1本1本から製作し回路を完成させるため,回路作成の一連の体験ができる。
  2. ② 部品・機器の数を設定しているため,不必要な部品の使い方や,むだな回路を十分検討したうえで回路を組むため,簡略化されわかりやすい回路が作れるようになる。
  3. ③ サーキットプロテクタを取り付け保護機器の重要性を十分理解し,ショート等の失敗も現場さながらの生の体験ができる。
  4. ④ DINレールに実際にリレー等を取り付けるため,生産現場で実際に行うテスタチェック等,故障追求を模擬的に体験できる。
  5. ⑤ 各種センサもそろえているため,実際の配線方方法および動作内容が理解できる。
  6. ⑥ 実際には考えられない,多種のセンサを取り付けた自作教材ロボットのため,一度に各種センサを使った制御を理解することができる。
  7. ⑦ 各種アクチュエータの制御を行うため,現場でしか体験できなかったような体験ができる。
  8. ⑧ 何度も失敗を繰り返し回路を完成させるため,現場に強い人物の育成ができる。

5.訓練効果

  1. ① 実際に各種機器の分解・組立をすることにより構造・原理を理解し,各種機器の正規な使用と,適正な機器の選択ができるようになった。
  2. ② 構造を理解したうえで配線を行うため,容易に回路の改造ができるようになった。
  3. ③ ロボットに各種センサ(近接スイッチ・光電スイッチ・リミットスイッチ・エンコーダ)を使用しているため,それぞれの使い方が体得できた。
  4. ④ 基本回路を理論だけで理解するのではなく,実際に自分の手で組んでいくため,理解度の高い授業ができた。
  5. ⑤ 今までは,ランプがついたり消えたりするだけの実習に対して,実際にロボットを動かす実践的な内容のため,応用が自らできるようになった。
  6. ⑥ 実際に現場を想定して実習したため,安全上の注意事項なども理解できた。

以上の効果より今までの「シーケンスを知る」から「シーケンス制御ができる・やれる」に一歩近づいた授業を行うことができました。

6.おわりに

はじめに,「完成した」と述べましたが,これは「形になった」という意味にとってもらいたいと思います。私自身このような職務について2年しかたっておらず,実際の授業においても,たくさんの改善点が出てきました。

わがマツダ工業技術短期大学校では,近藤前労働大臣より「天無極」という言葉をいただきました。これには,「天には上がないから,どんどん上を目指せ」という意味が含まれています。この言葉を肝に銘じ,今回の受賞をさらなる出発点とし,講師側ではなく学生の立場に立って,教材開発に取り組んでいきたいと思っています。

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