• 神奈川県立京浜高等職業技術校校長
  • 鈴木 史朗

ある研修で「有言不実行」の意義を聴きました。その話の要旨は,言った本人ができることでなくても話を聞いた誰かが,その話からヒントを得て実現できることもあるのではないか,実行のできる力のある人が聴くこともあるはずなので「有言不実行」も必要なのだと事例をあげての説明でした。

この話をきっかけに私自身が職業訓練指導員として指導に携わっていたときのことを振り返ってみると,訓練生の前では「やってみせ,言って聴かせて,させてみて,誉めてやらねば人は動かず」の言葉そのままにやってみせたものです。それが訓練生に信頼されることに繋がっていたと思っています。

したがって日常においても私なりに「有言実行」をモットーに努力してきたつもりです。

しかし,訓練生を直接に指導することを離れて職員に指示やお願いをする立場になってからは,見方,考え方を変えるように努めています。

いまさら言うことではありませんが,人に何かを教えるということはなかなか困難なことですが,さらに難しいことは教えたことを相手に理解してもらうことです。

私もそうでしたが教えることに熱心で訓練生の理解度より自分の熱心度に満足してしまって,この程度のことがわからないのは訓練生がしっかり覚えようとしないからだ,なんて思っていました。ですが相手が理解してくれないことは確かなのです。

それではどうしたらよいのかを考えますと,自分が教えたことを訓練生がどの程度理解しているかをしっかりと検証し,同じ程度のレベルに到達させることができて一番手が抜ける楽な方策を考えてみるのはどうでしょう。

うまい方策を見つけて時間に余裕を持ってこそ,さらに一段のレベルアップを図ることが可能となるのではないでしょうか。

そんなことはわかっているはずですができていない,それは「有言実行」型の指導法が従来から続けられて忙しさに繋がっているのではないでしょうか。

本来,「実行」は訓練生の領域でしょう,そこで指導員は「実行」を少し我慢をしてみてはどうでしょう。「やってみせ…」ることが理解させやすく効率的かもしれませんが,それを我慢して,遠回りのようでも訓練生各々に考える余裕を与えることが,自ら考えて行動できることを求められている現状に応えられる能力開発になるのではないでしょうか。

そして訓練生が各々の力量に応じて技能・技術をどのくらい体得してくれたかを見定めることが肝心でしよう。

しかし指導員は「有言実行」の力が必要なことは当然であり,これがなくては職務の遂行がおぼつきません。このことは誰よりも訓練生が一番敏感です。「有言不実行」で訓練を展開するには,自分自身に十分な力をつけていなければならないでしょう。

いまさらのことを書き連ねましたが,限りのあるなかで最良の訓練効果をあげることができるのは指導員以外にはいないのですから,講師の話にあった「実行のできる力のある」皆様に期待をしています。

すずき しろう

すずき しろう
すずき しろう

略歴

昭37 民間会社を経て県立秦野職業訓練所(現技術校)仕上げ科指導員
横浜・川崎技術校勤務
昭62 県立藤沢高等職業技術校教務課長
平3  県立横浜高等職業技術校副校長
平6  現職

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