• ポリテクセンター香川(香川職業能力開発促進センター)村上 正孝

1.はじめに

コンピュータの教育への利用は,CL (Computer,Literacy),CAI (Computer-Assisted Instruction),CMI (Computer-Managed Instruction) などがある。

コンピュータの簿記教育訓練への利用について,特に弥生CAI教材について報告するものである。

2.コンピュータ会計ソフトないし簡易言語ソフトを利用した簿記教育訓練

コンピュータ会計の発展普及は,会計情報の受理・処理・伝達において,省力化と簡便性と正確性とそして迅速性をもたらした。そして,会計教育もまたコンピュータ会計を無視でき得ない状況をもたらした。実務界の現状を鑑みれば,教育界においてもコンピュータ会計に習熟した人材の育成ということも考慮していかなければならない。

2.1 コンピュータ会計ソフトを利用した簿記教育訓練

実務用会計ソフトをそのまま教育用に導入する場合には,操作系の教育と応用系の教育に絞り込まれる。この種の会計ソフトは,操作法を理解できれば,習熟は訓練によってできる。コンピュータのハードはもちろん,簿記会計の原理を理解していなくても操作はできるのである。問題点は,コンピュータ内の会計処理過程がブラックボックスになっている点にある。自動処理されない入力データの仕訳を除いて,そのほかの帳簿記録や会計報告書の作成については,コンピュータが自動的に処理するからである。これらの部分は,簿記会計教育においては重要な領域の1つである。コンピュータ会計のアプリケーションソフトを用いた教育訓練では,操作の習熟は基本的条件ではあるが本質的教育部分ではない。コンピュータ会計を利用しての簿記教育訓練は,会計情報化と意思決定支援資料作成のツールとして,また,会計データのインプットにおいて仕訳の教育と結びつけるなど,簿記教育訓練の観点からの教育利用が考えられる。

2.2 簡易言語ソフトを利用した簿記教育訓練

いわゆる表計算型ないしDB型の簡易言語ソフトを簿記教育訓練に導入する場合には,原始仕訳入力から各種の簿記会計の諸帳簿ないし会計諸表を作成させる一貫した操作系の教育が行われる。これらは,簿記一巡の手続きと各勘定の関連性を十分に理解させるためというよりも,むしろ,それらの理解を前提として,完結した一連の総合取引を処理できるシステムそのものを組ませる教育訓練である。この延長線上には,これらのアプリケーションソフトを目的によって使い分けたり,リンクさせるような能力を養成する教育訓練が考えられる。

簿記教育訓練におけるコンピュータの教育利用という観点からみれば,例えば「簡易言語ソフトを用いて,損益計算書と貸借対照表を作成する」「同,帳票管理を行う」「同,分析に必要な会計資料の一覧表を作成する」「同,資料の数値をグラフ化する」などの問題提起~解決型の教育利用である。問題解決のためには,どのソフトを用いるのが最も適当か,またどのような方法で,どんな手順でコンピュータ処理すれば最も適当であるか,ということなどを考えさせ,情報処理させる必要がある。

簡易言語ソフトを扱う場合には,データの計算,集計方法,容量の問題,画面構成,印刷出力レイアウト,マクロ化の要・不要,ソフト間のリンクなどを考慮しながら合理的なアプリケーションソフトウェアの選択やデータ処理を考えさせることが重要である。簿記教育訓練からみれば,“Lotus1-2-3”や“Microsoft Excel”などの表計算型の簡易言語, “dBASE”や“桐”などのDB型の簡易言語,それぞれの特徴を生かしてベストの選択をすることでどのような処理が可能になるか,そのことを知って簿記会計の情報処理を考えさせる。そのような教育訓練利用が展望できる。

3.CAI教材を使っての簿記教育訓練

簿記教育訓練におけるコンピュータの利用の1つに,CAIがある。CAI教材を使っての簿記教育訓練用の市販ソフトがすでに存在するが,教員がオリジナルCAIを作成するケースも考えられる。コンピュータに関する知識とプログラミングに精通している現場の教師たちが,ともに協力し,よりよいソフトの開発,ソフトの利用法なりを研究し推進していけるような環境が必要であるといわれている。

コンピュータの教育利用が進展するにつれて,プログラミング言語を知らなくても教材開発のできる環境が整いつつある。いわゆるオーサリングシステム(CAIの教材開発を支援するソフト)がもたらしたものである。

CAIによる簿記教育訓練への活用は,従来の板書と筆記による伝統的簿記教育を支援する活用法といえる。最近,新井清光教授監修で発売された簿記CAIソフト「弥生CAIシリーズ簿記入門(日商簿記検定3級をめざして)」(日本マイコン販売株式会社)を紹介する。

4.弥生CAIシリーズ簿記入門(日商簿記検定3級をめざして)システム

このシステムは,図1のように学習編,検定編,実践編の3つから構成されている。

図1
図1

学習編では,簿記の基本原理,現金取引,当座取引,商品売買取引,有価証券取引などの期中取引,試算表の作成,決算修正,精算表および損益計算書,貸惜対照表の作成,帳簿決算の学習を行う。検定編では,過去に出題された3級の問題(2回分)を解答し,合格のレベルに達しているのかどうかを判断する。さらに実践編では,財務会計ソフト「弥生会計3」による一連の実務処理を簡単な事例のもとに体験することができる。

この「弥生CAIシリーズ簿記入門(日商簿記検定3級をめざして)」システムは,簿記の基本学習と同時に仕訳辞書による自動仕訳と各帳簿への自動転記を行う財務会計ソフトの実習も兼ねる。これは,情報化社会において簿記を体系的に学ぶという新しい試みである。価格も手頃で(1万2000円),学校教育用として学校パックもあり,利用価値は高い。参考のために,そのシステムの一部を紹介する。まず「メインメニュー」の画面から学習編を選択する(図2)。

図2
図2

次にステップが1から3まであるので,どれかを選択する(図3-1)。

図3-1
図3-1

ステップ順の学習項目は,内容→例題→練習の順番に学習をしていく。ステップ1の学習項目を内容→例題→練習の順番にディスプレイに表示すると図3-23-33-4のようになる。

図3-2
図3-2
図3-3
図3-3
図3-4
図3-4

練習問題は,用語,勘定科目を直接入力するのではなく,解答群から番号を選択するか,ファンクションキーf・10(参照)を押して勘定科目辞書を呼び出し,そのなかから解答を選択して入力する。金額はテンキーから入力する。解答入力後,ファンクションキーf・7(判定)を押すと,正解か間違いかが表示され,ファンクションキーf・6(正解)を押すと,解答が表示される。検定試験問題の解答は,メインメニューから検定編を選択して学習編の練習問題と同じ方法で行う。

実践編については,次の簡単なモデルで実習を行う(図4)。

図4
図4

処理操作の方法は,「弥生会計3」と同じく仕訳辞書に基づく自動仕訳,各帳簿への自動転記による。なお,終了したい場含は,ファンクションキーf・5(終了)を押せばメインメニューに戻るので,終了を選択すればよい。

このシリーズは,「簿記中級(日商簿記検定2級をめざして)」も発売されている。

5.おわりに

CAIによる簿記会計教育訓練が教育の新たな方法として普及するためには,CAIの教材の作成と利用が板書と筆記による場合と同等以上に簡便にならなければならない。

さらにCAIによる教育効果がCAIによらない場合よりも,効果的でなければならないことはいうまでもない。

また,コンピュータを活用する場合であっても,簿記一巡の手続きと各勘定の関連性を十分に理解させるため,完結した一連の総合取引例による記帳練習を取り入れていくことが必要である。

〈参考文献〉

  1. 1) 阿部錠輔:情報会計入門,共立出版,1988.
  2. 2) 河合信雄:コンピュータ簿記,税務経理協会,1985.
  3. 3) 切通博明:日本マイコン販売「教育版弥生会計3」 (フロッピーディスク付き),エーアイ出版,1992.
  4. 4) 中谷恒敏,切通博明:日本マイコン販売「AI方式簿記3級実践編」,エーアイ出版,1992.
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