雇用促進事業団の職業能力開発施設においては,生涯職業能力開発体系の確立を一層推進するために,事業主自らが行う職業能力開発について,事業主団体を通じて専門分野に関する能力開発事業を展開している。能力開発事業の内容に応じて,A~Fまでの事業主団体方式があり,ポリテクカレッジ福山では,平成6年度に,D方式事業主団体としてBISTEC(備後半導体技術推進連合会)1~5)を選定した。本稿では,このBISTECに対する平成6年度の沽動実績と,平成7年度の取り組みについて報告する。平成7年度当初は,能力開発セミナーが計画どおり立ち上がらなかったため,この結果を踏まえて,新たな取り組みを展開した。今固は,この新たな取り組みを中心に報告する。
図1に能力開発セミナーの実績を示す。各能力開発セミナー終了後,毎回アンケート調査を実施した。その結果を分析すると,約6割の受講者がセミナーの内容を「理解できた」「十分理解できた」と回答し,残り約4割の受講者が「難しい」「早すぎる」等の見解を示した。このような結果を鑑み,平成7年度は,能力開発セミナーの体系をより細分化し,受講者がレベルに合ったセミナーを選択できるようにするため,受講モデル体系図を作成した(図2)。
表1に,事業内援助で行っている「液晶研修会」の実績を示す。平成6年度までの総受講者数は1000名を超しており,会員企業からの好評に応え平成7年度も継続実施している。今年度からは,より密度の高い研修会とするため,2部制を導入した。これは,最初の1時間を講義に当て,後半の1時間をディスカッションに当てるものである。前半は,講師机を前にした,いわゆる授業スタイルの講義を行い,後半は場所を変え,フリーなディスカッションができるように,コの字形に椅子を並べたセミナー室を用いて行っている。この試みは好評を得,後半のディスカッションは予定時間を遙かにオーバしている。
表2に,事業内援助で行っている「特別講演」の実績を示す。この特別講演の講師は,その道の第一線で活躍されている方々ばかりである。このような方々が,遠路遙々備後地方まで来て講演してくださるのは,BISTECの趣旨に賛同していただいた結果である。国内において,BISTECのように中小企業が中心となった活動は画期的なことであり,当業者仲間として,ぜひ成功してほしいとの強い期待があるからである。われわれの能力開発施設にとっては,二度とないチャンスであり,何としてでも成功させたいものである。
平成7年度の能力開発セミナーの募集は,団体方式のマニュアルに従い平成7年2月に実施し,また受講申し込みに関しても,マニュアルどおり3月20日で締め切った。締め切り直後の受講申し込み者数は,当初の予定を逢かに下回っていた。
主要会員企業に確認したところ,半導体関連産業は好況に恵まれ,超多忙中につき受講できないとのことであった。しかし,人材育成は必要であり,計画を変えて実施してほしいとのことであった。
少人数の能力開発セミナーを計画どおり実施するわけにもいかず,BISTECの事務局と相談した結果,計画変更もやむなしとの結論に達した。しかし,われわれの立場上,早急にセミナーを立ち上げたい旨を説明したところ,やや遠方にある中堅会員企業2社に能力開発セミナーの受講を打診することになった。さっそく訪問し,事情を説明したが,やはり忙しいとの理由でよい感触が得られなかった。
受講者の立場を考えると,終業後に約40kmも離れたポリテクカレッジ福山まで出向き,勉強をした後,夜の9時過ぎに再び約20㎞も戻るのは大変なことである。そこで,この2社の近くにある商工会議所の会議室を借りて,能力開発セミナーを実施したい旨を説明したところ,受講の方向で話が進んだ。
早速,この2社用に追加セミナーを計画し,再訪問して検討していただいた。しかし,この2社の業務内容は全く異なっており,セミナーのテーマは同じであっても同内容で実施できないことが判明した。A社は1部門として半導体製造装置を製造しており,B社は小型のLSIを製造している半導体デバイスメーカである。
A社の総務部長,技術部長殿と打ち合わせを持ち,社内教育の趣旨・目的等をうかがった。A社としては,能力開発セミナーを社内教育の一貫として取り入れ,次年度以降も継続させたいとのご意向であった。また,将来的には,能力開発セミナーの結果を,人事考課に取り入れることも考えたいとのご意見をうかがうことができた。
われわれ担当者は,社内教育を担当させていただく責任の重圧を感じつつ,できるだけ効果の高いセミナーを計画することにした。テキストの内容はA社の意向に合わせ,さらに,一方通行とならないように,毎回宿題を出すことにした。宿題の目的は,講義の内容を復習してもらうためであり,きめ細かい設問を50問程度,穴埋め形式で出題することにし,最終回には記述式の試験を課すことにした。この試験は,各回の内容を理解したかどうかを確認するためのもので,2週間後にA社の総務部に提出していただくことにしている。宿題・試験の結果を評価し,ある基準以上の受講者には「優秀」の印を修了書に押印することにしている。さらに,超優秀者には表彰状も用意している。これらの評価方法が,受講者の「やる気」を刺激することになれば本望である。受講者の方々にとっては大変なことであるが,この苦しみが将来,必ずや役立つと思えば,我慢していただくしかない。
かくして実施計画書(案)を作成してA社に送付し,A社の部長会議に諮っていただいた。その結果,体系上,「半導体基礎講座」を追加してほしいとの連絡があった。早速,打ち合わせを待ち,追加講座の内容の検討を行った。このようにしてA社向けの能力開発セミナー実施計画書ができあがった(表3)。
B社の総務部次長,技術課長殿と打ち合わせを持ち,能力開発セミナーのテーマ,内容等についてご意見をうかがった。参考資料として,昨年度実施した能力開発セミナーのテキストを読んでいただき,レベル合わせを行った。各セミナーの内容は,A社に比べて全体的にハイレベルの内容を要求された。したがって,各テキストはすべてB社用に作成することになった。
また,B社においても,教育効果を高めるため,宿題・試験を実施してほしいとのご意向であった。
このようにして能力開発セミナーの実施計画書(案)を作成し,B社で検討していただき,表4に示す実施計画書ができあがった。
かつてわれわれは,自分の得意とする内容を能力開発セミナーとして実施してきた。しかし,結果は自明のとおりであった。
昨年度から「本来の団体方式」に取り組み,企業が求めるセミナーとは何かについて考え続けてきた。その結果,短大の専門課程の延長上のセミナーでは,通用しないことが判明した。もちろん,基礎分野としては専門課程の内容も必要であるが,本命は,より現場に近い内容である。すなわち,産業として成長しつつある“もの”に関連した分野が対象であり,書店に並んでいる専門書の解説のみでは満足していただけない。本来は,それなりの実習設備がありノウハウまでも知り尽くした担当者が,企業のニーズに応じた実践的な能力開発セミナーを実施するのがベストであるが,実習設備を整備できない現状では,無理な相談である。しかし,企業が求めるセミナーを実施するのがわれわれの業務であるから,ベストは無理としてもよりべターなセミナーを目指す必要がある。
よく専門分野の要素云々を耳にするが,企業が求める本来のセミナーに,担当者の要素が含致することは,希有なことである。いや,皆無に等しいと思われる(もし,合致した方がおられたら,お許し願いたい)。それでは「研修」ということになるが,これもまた難しい。なぜなら,研修のメニューは,企業の要求に合った内容のものがそろっているわけではないからである。結局,自己研鑽に負うしかないと思われる。担当者の要素は,広い専門分野の一部でしかないから,この要素が存在する分野の中なら,後は自己努力で勉強するしかない。しかし,未知の分野を自己勉学して,企業の従業員に教育するには,相当量の努力を要することも事実である。数種類の専門書,専門雑誌,文献,企業のテクニカル・ジャーナル等を幅広く調査・精読し,担当者自身が十分理解しておかねばならないからである。
新規分野の能力開発セミナーを展開する場合には,われわれは自己勉学とともに輪講を行っている。これにより,誤解,疑問点等の解消を図ることができる。
企業の求めるセミナーを実施するには,企業の立場に立って体系,テーマ,内容,期日,時間等を決めていく必要がある。単なる「人・時間」の実績を目的としたセミナーではなく,在職者のレベルアップを図ることを目的としたセミナーでなければならない。そのためには,当然,未知の分野への挑戦も必要であり,自分の要素の枠を大きく広げていく努力が重要と思われる。
短大設立以来,われわれは地元中小企業に対して,「地元に開かれた短大」「実践教育を重視した短大」「サービス機関としての短大」,さらには「在職者重視校」等と言い続けてきた。その結果,宣伝の効もあり,中小企業の団体はその気になり始めてきた。BISTECもそのなかの1団体である。しかし,現在,まだ実習設備の整備ができていないため,講義中心のセミナーで対応を続けている。一刻も早く,実践教育中心の能力開発セミナーを実現したいものである。