• ポリテクセンター福島(福島職業能力開発促進センター) 渡辺 正夫

1.はじめに

地絡継電器(GR)は,電線路または機器の地絡事故を零相変流器(ZCT)によって地気電流(零相電流)を検出し,遮断器等を動作させ,回路を保護するために使用する。

最近,地絡事故が発生していないのに,高圧地絡継電器が動作するいわゆる不必要動作や,原因不明で動作するという事例が少なからず発生している。

ここではGRの不必要動作と防止対策について述べる。

2.GRの動作状況

ある電気保安協会のデータによると,高圧需要家9万1,000件に対し,平成3年度のGRの動作事故は318件に達し,そのうち原因不明のものが228件で全体の約2/3となっている。

3.GRの不必要動作要因

GRの不必要動作要因を分析すると,回路条件によるものとGRの特性劣化によるものとに大別される。その内訳を分類すると図1のようになる。

図1
図1

4.GRの不必要動作防止対策

GRの不必要動作について,主として施工面,感度電流の整定および維持・運用面での対策としては以下のようにまとめられる。

4.1 施工面での留意事項

(1) ケーブル遮へい層接地工事上の留意点

GRの零相電流検出に,ケーブル貫通形零相変流器(ZCT)を使用する場合は,ケーブルの遮へい層接地線を適切に施工しないと,この接地線に漏れ電流が流れるなどして不必要動作を生ぜしめる場合がある。

高圧受電設備の引込み口に使用されるケーブルに,ケーブル貫通形ZCTを使用する場合のケーブルの遮へい層接地線の適正な施設方法の一例を図2に示す。

図2
図2

(2) ZCT二次配線工事の留意点

GRは,地絡電流を検出するZCTと,継電器本体とが別々に取り付けられリード線で結ばれるが,このような場合,静竜誘導による影響を防止するため,リード線にシールド線を用いることが望ましい。

(3)電波ノイズ防止の離隔距離

違法に出力をアップした移動無線(27MHz,出力100W)などによりGRの不必要動作が生じている。このような場合,高圧受電設備を設置する際は,幹線道路などから,十分離れた場所を選定することが必要である。実験によれば,出力100Wの無線機との離隔距離は10~15m程度必要となる。

4.2 感度電流の整定に関する留意事項

非方向性のGRは,零相電流のレベルが所定の値以上になったとき動作し,零相電流の方向による選択機能はない。

地絡時,対地静電容量を通して零相電流が流れ,GRが不必要動作をすることがある。

また,構外地絡が間欠アーク地絡の場合には,GRの整定値は,この零相電流に高調波成分が多く含まれるので,これらの影響を考慮に入れて設定する必要がある。

GRの整定値は構内充電電流が50mA以下であれば200mA,構内充電電流が50~100mAであれば400mA程度にしておくと電気機器の地絡保護もでき,かつ,不必要動作のおそれは少なくなる。

構内充電電流が100mAを超える場合は,整定値は600mA程度となる。

この場合は,電力会社と協議することが必要である。

保護協調が困難な場合には,方向性地絡継電器(DGR)を使用する。

4.3 維持・運用面の留意事項

(1)雷サージによる不必要動作防止対策

雷発生時に高圧機器に何ら異常も認められないのに,GRが動作することがある。

このような場合は,実際に高圧機器のどこかで雷サージにより,フラッシオーバするとともに続流が生じていることも考えられる。

このような動作を避けるためには,避雷器の設置が有効である。

(2)電波ノイズによる不必要動作防止対策

GRの動作原因が電波ノイズによると疑われる場合には,次のような対策を施すことが有効である。

電源から侵入する電波ノイズに対しては,電源にフィルタを設ける(図3)。また,ZCT側から侵入する電波ノイズについては,ZCTの配線を鋼製電線管に入れるか,シールド線を用いる。

図3
図3

(3)慣性特性の確認など

GRには,遮断器の不揃い投入などの極小時間に生じる見かけ上の零相電流による誤動作を防止するため,不感度時間をCR回路により設けている。この特性を慣性特性という。

この回路を構成するコンデンサが設置後年限を経るとともに劣化し,やがて不感度時間が短縮しているものがある。このようになると,GRは動作が過敏となり,不必要動作を繰り返すおそれがある。

そこで,GRの定期的な動作試験に加えて慣性特性を確認し,特性不良のものの早期発見に努めることが必要である。

さらに,GRの内部に異物の侵入,錆などが発生すると不必要動作の原因になることがある。よって,頻繁に原因不明で動作する場合はGRのプリント基板など内部を点検することも大切である。

5.地絡方向継電器(DGR)

DGRは,電路に地絡事故が発生した場合に,その際流れる電流(零相電流)を零相変流器により検知し,同時に発生する零相電圧を零相電圧変成器により検知し,それぞれの出力を入力し,零相電圧を基準として零相電流の位相を判定し,零相電圧,電流のレベルが設定レベル以上で,しかも位相が所定の範囲内(進み90°~遅れ30°)である場合に作動する。

高圧受電用としてはすべて静止形が採用される。

近年は高圧受電設備も規模が大きくなる一方,ケーブル布設の増大,太線化,長こう長化など対地静電容量が増大する傾向にある。このため事故時の零相電流が増大する。

地絡事故が需要設備(自所の受電設備)以外の地点で発生した場合,需要設備から事故点に向かって需要設備の対地静電容量に起因する電流が流出する。

一般の高圧地絡継電器では,電流レベルのみで事故の有無を判断するため,需要設備からの電流流出で作動することがある。これを不要動作といっている(誤動作とは違う。継電器は正常に作動している)。この不要動作を防止するために使用されるのが地絡方向継電器である。

6.おわりに

以上の結果により,平成3年度において,地絡継電器(GR)の動作事故は,全体の約2/3が原因不明であることが明らかとなった。受電設備を常時運転中の日常生活の中で,私たちは原因不明の動作防止に努めなければならない。本稿が,受電設備を取り扱ううえで,皆様の一助となることを期待している。

〈参考文献〉

  1. 1) 第一種電気工事士試験テキスト,(株)綜文館.
  2. 2) 第一種電気工事士技能試験受験テキスト,(株)電気書院.
  3. 3) 電気工事技術情報,(財)電気工事技術講習センター.
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