• ポリテクカレッジ宮城(宮城職業能力開発短期大学校)機械システム系  伊藤 秀夫

1.はじめに

平成5年度の卒業研究1)で,「三次元測定機の測定データを利用したマシニングセンタによる加工」をとりあげ,その概要については,すでに本誌2)で報告した。

このテーマについては学生の関心も高く,平成6年度も継続して取り組むことにしていたところ,タイミングよくこれに関する相談が地元自治体から寄せられ,卒研3)での加工対象モデルとしてとりあげることができた。以下にその活動の概要について報告する。

2.相談の内容

最近,各地で町興しや村興しが盛んであるが,宮城県古川市でも,その一環として写真1に示したような釜神様のキーホルダーを発売した。このときは金型の製作を東京のメーカーに依頼し,地元企業で射出成型をして製作した。

写真1
写真1

このアイデアをさらにお菓子やオモチャに拡大していくことになり,商工会議所の担当者が先のキーホルダーのモデルを持参し,これの雌型のNCデータの作成についての相談に来られた。当初はCADによりNCデータの作成ができないだろうかということであったが,曲面がかなり複雑でCADでは難しいということになり,三次元測定機を用いてNCデータ作成を行うこととなった。

なお,釜神様とは宮城県の県北,大崎地方に古くから伝わる“カマド”の神様のことで木製のお面である。大きいものは高さが1mを超えるものもある。写真2にいくつかの例を示した。

写真2
写真2

3.釜神様モデルのNCデータの作成

3.1 モデルのレプリカ作成

持ち込まれた釜神様のモデルは小さすぎて,三次元測定機の測定子が曲面の溝部分に入り込めず正確なデータを取り込むことが困難と判断された。それで写真3に示したような拡大したレプリカを作成することにした。

写真3
写真3

三次元測定機で曲面のデータを正確に採取する場合,チップ(測定子先端のボール)はできるだけ小さなものを使用し,さらに測定のピッチを細かくすることが望ましいが,データ量が膨大になるため今回もφ3の測定子を使用することにした。そのためモデルの曲面の凹部の半径は最低1.5㎜以上であることが必要であった。また,紙粘土を使用し,手作業でレプリカを作る際の製作のしやすさを考慮しレプリカの大きさはモデルの約10倍,すなわち顔面の長さで約300㎜とした。なお,実際の作業は,キーホルダーのモデルを参考にしながら進められたが,これには地元の商工会議所会員の美術広告業者が当たった。

3.2 モデルの形状測定とNCデータの作成

モデルの測定からNCデータの作成,さらに加工までの詳細については前回報告したとおりであるが,その要点である加工の流れを再度図1に示した。

図1
図1

前回は指導側としても初めての取り組みであったため学生と一緒になって作業を進めたが,今回は大まかな指示だけを与え,できるだけ彼らの力でやらせるよう心がけた。そのため予想以上の時間がかかってしまったが,以下に示すような点,すなわち,

  1. ① 測定プログラムの作成が自力でできるようになった。
  2. ② MS-DOSについての理解がより深くなった。
  3. ③ DNCによるマシニングセンタ加工についての自信が持てた。
  4. ④ 座標系の設定やスケーリングについて理解が深まった。

等の点でかえってプラスになったと思われる。

3.3 モデルの試作

今回の目的は雌型のNCデータの作成であったが,前回も報告したようにオフセットが二次元にしか働かず,オフセットを使用すると形状が若干変わってしまうというソフト上の問題があるため,オフセットは使用せず,一応雄のデータを作成し,さらに加工をしてその形状を確認することにした。できあがった釜神の雄モデルを写真4に示す。モデル原型と比較すると若干平面的に感じられる。

写真4
写真4

次に雌のNCデータを作成し,雌型の加工を行った。この場合のNCデータは三次元の測定データをIBMでNCデータに変換する際,雄か雌かを指定するだけで簡単に作成することができる。できあがった雌型(サイコウッド製)に紙粘土を押し込み,その形状を確認したところ,写真5に示したように全体にふっくらした感じになり,まずまずの形状が得られた。

写真5
写真5

4.卒研の成果

終盤に差しかかった平成6年2月,できあがったNCデータについてはいささか不安もあったが,担当した学生を連れて金型の製作を担当するM社を訪問した。

サイコウッドに試し削りした雌型を紙粘土に転写し,先方に提示したところ,その出来具合いについては大変満足してもらうことができた。さらにNCデータについてマシニングセンタ加工担当者と打ち合わせを行ったところ,先方のマシニングセンタには拡大・縮小のスケーリング機能がないことがわかり,ファナックモデルP-HによるTRACER MILL IIを使用したNCデータの拡大・縮小の仕方についても指導した。

その結果,商工会議所の方でもこのNCデータを実際に金型の製作に使用し,お菓子の試作に取りかかりたいとのことであり,満足感を味わいつつ帰校した。

5.おわりに

その後,このNCデータは,「市内老舖の菓子製造用金型製作に実際に使用され,第一弾として“らくがん”が試作され,今秋発売される」との記事が地方紙4)に掲載された。

今回の卒研では課題が地元企業と直接関係するものであり,自分たちが作成したNCデータが実際に使用されるということで学生の励みになりすべてが順調に推移した。また,これらを通して,課題の選定が学生のやる気を引き出すのにいかに重要であるかを改めて知った。

〈参考文献〉

  1. 1) 野村敬市:三次元測定機による測定データを利用したマシニングセンタ加工,宮城職業能力開発短期大学校平成5年度卒業研究.
  2. 2) 伊藤秀夫:技能と技術,Vol.30,3/1995.
  3. 3) 山田隆康・播磨谷玄:三次元測定機による測定データを利用したマシニングセンタ加工,宮城職業能力開発短期大学校平成6年度卒業研究.
  4. 4) 大崎タイムス:1995.4.26付け.
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