• 宮城県立塩釜高等技術専門校 情報処理科  新妻 幹也

前回号では,在宅学習システムを考慮に入れて,「マルチメディアCAI」の構想を紹介しましたが,今回は具体的に「マルチメディアCAI」を実現するためのハードウェアとソフトウェアについて考えてみたいと思います。

1.ハードウエア

「マルチメディアCAI」を実現するためのハードウェアについて考えてみると,とりあえずすぐに思いつくのがパーソナルコンピュータを活用するという方法です。

もちろん将来的には低価格の専用機器が使われるようになるかもしれませんが,当面はパソコンで行われることになるでしょう。しかし,一口にパソコンといってもその種類は新旧含めてたくさんのものがあり,マルチメディアに対応しているものとそうでないもの,また,何らかの拡張を施すことによって対応可能なものとさまざまです。そこで,マルチメディアの3要素に照らしながらマルチメディアパソコンに必要な機能を取り上げてみることにしましょう。

(1) 文字表示の機能

文字表示の機能として要求されることは,マルチポイント,マルチフォント表示が自由に設定できることです。マルチポイントとは文字の大きさが自由に設定できることで,小さな文字から大きな文字までかなり細かく大きさを設定できることをいいます。また,マルチフォントとはいわゆる「書体」のことで,明朝体とか丸ゴシック体とか角ゴシック体というようないろいろな形状の文字を選べることです。しかし,これは最近の傾向としてはハードウェアとしてパソコンにあらかじめ登録(ROM上に置かれている)されていることはなく,後からソフトウェアとして供給される形態が主流になっています。

この機能により,文字による情報の提示がより表現豊かになり,見る人に非常に自然なイメージを与えてくれます(図1参照)。重要な部分の表示を大きくするといったことは,ごく当たり前のようにできます。

図1
図1

(2) 映像の機能

映像の機能として要求されるのは,カラー写真の表示やビデオのような動画の表示です。これらの機能を実現させるためのハードウェアとしては,多色を表示する機能を持つパソコンとアナログカラーディスプレイが必要です。これは,写真などの自然画を表示しようとするときには,画面のドット数の細かさに加えてかなり多くの色を表現できないと表示することができないためです。同じドット数で比較した場合,使用する色の多い方がよりきれいな映像を再現できます。しかし,表現できる色数を増やすためには,パソコンに内蔵する画面用のメモリ(VRAM)の量も増やさなくてはいけないため,一概に色数を増やすことはできません。なぜなら,自分のパソコンの画像メモリだけを増やしてマルチメディア用画像を作っても,それを他に持っていったときに表現できなくなっては意味がないからです。そのような観点から考えるとおおよそ表1のような選択肢から選ぶことになります。

表1
表1

動画を実現するためのハードウェアが必要になってくる場合もあります。しかし,これは必ず必要というものではありません。基本的には動画の機能はOS(コンピュータを使うための基幹ソフト)が,ソフト的に提供しているというのが最近の傾向になっています。ですから,OSとしてMachintosh用のMAC-OSやMS-WINDOWSを使用しているならば動画の表示もむずかしいことではありません。しかし,動画のファイルサイズは表示秒数が数十秒のようなものでも何十Mバイト(フロッピーディスク1枚が約1M)にもなることが多いために,それらのデータを効率よく圧縮するボード(MPEGボード等)が使われることもあります。ただ,これらを使う場合も,再現するパソコンにこれらのハードを備えていることが必要となります。

(3) 音の機能

音の機能として要求されるのは,声や音楽など音として耳に聞こえるものはすべて再現できることです。これらの機能を実現させるためのハードウェアとしては,PCM(パルスコードモジュレーション)音源をパソコンが持っていることが必要です。このPCMを簡単に説明しますと,音の波形を非常に短い時間で区切って,その区切った部分のレベル(音量)を数値で表現して記憶して再現する方法です。この方式は今や音楽ソースの主流になったCDにも採用されているものです。この音源の特徴はゲームの音源として主流になったFM(周波数変調)音源とは違って,声も含めてマイクから入力できる音はすべて再現できることです。音楽でもFM音源のように音楽データを人間が入力するような手間はありません。このPCM音源の機能は最近のパソコンには標準で付いているものがほとんどですし,付いていないパソコンでも後から追加することが可能です。

2.外部記憶装置

さて,これまで説明してきたマルチメディアの3要素を支えるにはパソコンにある程度の機能(ハード)が備わっていなくてはいけませんが,さらに必要になってくるものがあります。それは,映像や音をディジタル化したときに発生する大容量ファイル(データ)の記憶です。次にこれらを解決するための外部記憶装置(ハードディスク以外の差し替え可能なもの)について説明します。

(1) CD-ROMドライブ(写真1)

写真1
写真1

CD-ROMはオーディオで今や主流となった音楽媒体のCDと同じものです。音楽CDでは音をPCM化して記憶しているのに対し,CD-ROMではコンピュータのプログラムやデータ,また普通のCDと同じPCMデータ等も記憶しています。その記憶容量は約650Mバイト,通常私たちが使用するフロッピーディスクの実に500枚分にも相当します。この膨大な記憶容量を使って,データ容量の大きな動画のファイルや音声ファイルなどを記憶します。しかし,CD-ROMはプレス量産システムによって製造されるため,使用者が後からデータを書き込んだりはできません(読み出し専用です)。

このCD-ROMドライブはパソコンに内蔵されているものも多くなっていますが,後から買い足すとしても2万円前後で購入できます。

(2) PDディスクドライブ(写真2)

写真2
写真2

CD-ROMが膨大な記憶容量を持っていても一般的に書き込みができないことは不便なことです。書き込みも消去も自由にできたら,こんなありがたいことはありません。そこで最近登場したのが,PD/CD-ROMドライブという装置です。これは,CD-ROMと同じ直径12cmディスクにフロッピーディスクと同じように書き込みや消去,読み出しができるものです。もちろん通常の4倍速CD-ROMとしても使えます。書き込みのできる媒体の価格も1枚6000円と低価格です。1Mバイト当たりの単価は10円ほどでフロッピーディスクと比べても1/10程度です。

書き込み,読み込みのスピードはハードディスクほどではありませんが(シークタイム165ms),本体の価格も10万円程度ですから,今後パソコン本体に始めから内蔵するタイプも含めて,マルチメディア分野を中心に急速に普及していくと思われます。

(3) MOディスクドライブ(写真3)

写真3
写真3
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PDディスクドライブほどの容量はありませんが,フロッピーディスクのように入れ換え可能な230Mバイトもの記憶ができるMOディスク装置がすでにかなり普及しています。メディアは写真3のように大きさはフロッピーディスクとほぼ同じ(厚さがフロッピーディスクの2倍ぐらい)で扱いやすく,メディア自体の価格も最近では230Mバイトで2500円程度,128Mバイトで1300円程度と破格です。このMOディスクは容量こそ最近出てきたPDディスクには劣るものの,シークタイムなどは30ms(とハードディスクは10ms前後)と高速で,ハードディスクの代わりに使うこともほとんど問題にならないものです。また,ドライブ自体がかなり一般的に普及していることから,データを他のパソコン等に持っていって使えるという共通性はかなり高いといえます。

3.画像の読み込み装置

次に画面上に表示する写真などを画像データに変換する装置について説明します。

(1) フルカラーイメージスキャナ(写真5)

写真5
写真5

写真などの自然画(静止画)をデータ化するためによく使われるのがイメージスキャナです。最近は写真のようなA4サイズでフルカラー(1677万色)の原稿の取り込みのできるものが主流になっているようです。イメージスキャナを選択するポイントとして解像度があります。これは一般的に1インチ当たりの点の個数で表すdpiという単位が使われます。この値の多い方が解像度は高いということになりますが,取り込んだ画像を印刷の段階まで高解像度を保つ必要がない場合は(ディスプレイに表示する程度の用途では),400dpi(価格は6万円前後)程度のもので十分です。

(2) ディジタルカメラ(写真6)

写真6
写真6

私たちが昔からいわゆる「カメラ」と称して使っているものは,24枚撮りなどのフィルムを入れて使うものです。このようなカメラを使ってマルチメディア画像を作ろうとすると,どうしても次のようなプロセスになってしまいます。

カメラで撮像 → 現像 プリント → スキャナでデータ化

このプロセスにはどうしても物理的な時間を覚悟しなくてはいけません。最近では現像・プリントに要する時間はかなり短くなりましたが,それでも撮ったその場でというようなわけにはいきません。

そこで最近では撮影したと同時にデータ化(圧縮形式なのであとで変換は必要)まですんでしまう「ディジタルカメラ」が登場しました。写真のように私たちがよく使うコンパクトカメラとほとんど同じです。フィルムに相当する撮影枚数は96(36枚撮りの2.6倍),シャッタースピードも1/8~1/4000秒となっています。画質を追求すれば従来型のカメラにかなうはずもないのですが,「撮ってすぐ使える」的な部分はマルチメディア製作には即戦力になる機器の1つといえるかもしれません。

(3) ビデオカメラ(写真7)

写真7
写真7

ディジタル画像を作る方法として意外に忘れられがちなのが,たいていの家庭に1台はあるビデオカメラです。これを使ってディジタル画像を取り込むためにはビデオ入力端子のある画像取り込みボード(あるいはAVタイプなどで本体に標準装備)があればよいのです。しかし,この端子が標準で装備されているパソコンは少なく,たいていはあとから入力のためのボードを追加することが必要です。ともあれ,そういった端子と取り込みのためのソフトがあれば,手持ちのビデオカメラで動画も静止画も取り込むことができます。

4.音の取り込み装置

マルチメディアで使われる音声を取り込む装置で最も手軽なものは,最近のパソコンには標準で付いてくるマイクによる取り込みです。また,内蔵されているCDからの取り込みもできるものもあります。したがってこと「音」に関しては新たに特別な装置は必要がないといえます。

5.マルチメディアソフトの開発

これまで紹介してきたような機器を駆使して作成するマルチメディアソフトは「さぞ大変そうだ」というような気もしてきますが,意外に簡単なものです。

最近の新聞記事には近い将来「パソコン通信のための通話料金を定額制にするということによるマルチメディア利用の促進策も打ち出された」ということも報じられていました。この分野の将来性はかなりありそうです。

次回はこれらのハードウェアを使って実際のマルチメディアソフトを開発するための「マルチメディア開発用アプリケーションソフト」について紹介します。

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