プレス金型設計教育では,金属板材加工理論,プレス機械,金型の種類・構造,部品機能等の基本的事項について学習し,その後具体例に基づく金型設計演習を通じて金型設計に必要な知識・技能を習得する。
一般にプレス金型設計図は,上型・下型平面組立図,組立断面図,各部品図等からなり,いずれも2次元図が用いられる。しかしこれらの2次元表示図だけでは,金型の部品形状,型構造などの表示が平面的になり,未経験者や経験の浅い者には具体的な形状や構造の理解が困難である。特に順送り金型の設計では部品点数が多く,相互の位置関係,型構造が複雑になりさらに難解である。
そこでこうした面での理解を補助するために,具体的な実例に基づく立体表示図,あるいは実物や模型等の教材が必要である。特にセミナー等の短期間教育においては,要点を効率よくしかもわかりやすく教育するため必要不可欠である。しかし実物や模型の作成には多くの時間と経費を要し,またそれぞれに一長一短がある。そこで今回,プレス金型設計における教材として,CADシステムによる3次元モデルを取り上げ,具体例として順送り金型モデルを作成し,教材としての観点から検討したので報告する。
設計演習で用いる具体的な設計例として,クリップ製品の可動ストリッパ式順送り型を取り上げた。順送り型はプレス金型の中でも最も多く用いられており,またクリップはわれわれの生活で身近にみられる品物である。図1にクリップの製品図を示す。材質は硬質ステンレス鋼である。
金型設計教育では,まず始めに設計に必要な基本的知識を学習し,その後実例に基づく設計演習により設計手順や方法を実践的に習得する。そのため,設計演習で具体例として用いる金型の選定は,非常に重要である。実際の設計に即した標準的な手順や方法を用いて設計できるものであり,また型の構造や機能が理解しやすいものでなければならない。教育用の具体例としては,多くの型で用いられている基本的な工程を含むものが望ましい。今回のクリップ型には穴あけ,曲げ,外形抜き等の基本的な工程が含まれており,教材用として適切である。
次に製品図に基づいてストリップレイアウト図を作成する。レイアウトは非常に重要で,型の構造がほぼ決まる。そのためいくつかのレイアウト図を作成し,各々の長所短所について十分な検討を行う必要がある。今回用いたクリップ型のストリップレイアウト図を図2に示す。
レイアウトが決定されると組立図の作成に入る。設計演習ではこの段階が最も重要であり,時間をかけて理解を確認しながら進行する。実際の演習では,手順を細かく提示した資料に基づき作業を進めていく。最終的には,図3に示す下型組立図および正面断面図等の組立図を作成する。
組立図の作成段階において,こうした2次元表示図のみでは理解の困難な主な点を以下に記す。
また順送り型では部品点数が多くなり,そのほとんどが各プレートに挿入されて取り付けられるため,外からはほとんど見ることができない。そのため,型内部の様子がよくわかるような教材が必要不可欠である。
組立図ができあがると,これをもとに各部品図を作成し寸法記入をして設計図が完成する。
今回の3次元モデル教材の作成に使用したシステムについて以下に記す。
3次元CADによる立体表現法には,サーフェイスとソリッドがあり,複雑な自由曲面形状には,サーフェイスモデリングが適する。
実際の金型設計における3次元CADの使用は,主として複雑な自由曲面形状を有するモールド型や複雑形状のプレス絞り型に用いられる。今回作成したクリップ型のように曲面形状が少なく,穴あけや,外形切断の多いプレス順送り型の設計ではほとんど用いられない。
今回は始めに2次元図形を作成し,これをもとに3次元モデリングを行い,各部品の3次元立体形状を作成した。そしてこれらの部品を移動,複写などの機能を用いて順次組み合わせ金型組立モデルを作成した。作成した部品名称と個数を表1に示す。
各部品のモデリングは,比較的簡単で短時間に作成できた。しかし部品の組み合わせ数が多くなってくるとデータ量が多くなり,編集等の処理時間が長く,組立モデルの作成にはかなりの時間を要した。写真1から写真6は,今回作成した3次元モデルの一部である。
写真5は上型のダイセットプレートの透明度を高めて表現したモデルである。こうした表現により,ボルト,パンチの取り付け位置や配置状況がより理解しやすくなる。写真6はすべての部品を組み込んだ金型全体モデルである。
金型の3次元モデルにより,2次元表示ではわかりにくかった実際の形状や位置関係が一目瞭然である。金型設計教育における教材としては,他に実物や模型等がある。以下に教材としての3次元モデルの作成および適用の効果について記す。
以上のように多くの効果が期待できるが,実物や模型のように実際に加工を行ったり,じかに手に持って感触を確かめることはできない。
3次元CADの適用は教材作成用としてのみならず,実際のプレス型の設計においても設計の正確さやミスの防止,正確な情報伝達,CAM利用等の面において有効と思われる。
今回作成した3次元モデルは,多様な表現ができ,視覚的な教材としては非常に有効であった。
われわれにとっては,効率的な授業やセミナーを進めるうえで,教材造りは欠かせないものである。特に最近のようにさまざまな受講者を対象とした,多様なセミナー展開においてはなおさらである。しかしそのために多くの時間や経費を要することが多く,効率的な教材造りは欠かせない。
3次元CADシステムは,視覚的な教材作成法として効率的なシステムである。最近のCGシステムの発展はめざましく,性能や機能も飛躍的に発展している。さらにアニメーションシステム等を利用すれば,より効果的な教材造りが可能である。