職業訓練を総合的に指導するには,モノづくりが一番効果的である。そこでポリテクカレッジ岡山の制御技術科では運動会ロボットを設計から製作まで行い,その中でメカトロニクスを総合的に指導している。
現在,実践研を中心に,多くのポリテクカレッジで相撲ロボットが製作されている。しかし,毎年同じ課題を繰り返すと完成品が同じようなものになり,学生それぞれの個性・創造性があらわしにくくなると思われる。
そこで本校制御技術科では相撲ロボットにこだわらず,毎年違った機能を持たせた自立型ロボットを製作させることにした。平成5年度卒業生には綱引きロボット,6年度卒業生にはリレー競争ロボット,7年度2年生にはスキー大回転ロボットを課題にし,指導したので報告する。
小型ロボットを製作するにはかなりの時間数が必要になる。本校制御技術科では,目標を運動会ロボットの製作に絞り,ロボット製作に関係のある学科,実習の単位を総合的に考え,教科指導を試みた。
モノづくりに必要な工程を含んだロボット製作工程は,図2のようである。本校制御技術科では,表1にある学科,実習をロボット製作に割り当てた。
ロボット製作を1つの単位と考えると合計38単位であり,総単位取得数156(平成7年度)に対し4分の1に値する。実際には,放課後や,夏休み(1~2週間)・冬休み(1週間)期間中等の授業時間外の製作も行っており,製作総時間数はかなりのものとなっている。
製作スケジュールは以下のようである。
学科を中心に基礎知識を習得させ,後期集中授業(3月)には構想,設計を行う。
機械,回路製作等,ロボットの基本機能は完成させ,前期集中授業(7月)に基本的な走行と簡単なセンシングを行えるようにする。
プログラムをつくりながらデバッキング作業を行い,ロボットを完成させる。
競技のアイディアは毎年変えている。アイディアは講師が決定し,競技ルールは学生たちと一緒に詳細を決めている。
平成5年度におけるロボットはA4高さ300mm以内とした。フィールドは白と黒に塗り分けられ,縁は赤青緑に塗り分けられた高さ5cmの枠で囲われている。自機は最初,敵陣に位置し,試合開始1分後に綱(鎖)の中心が自陣にあった方が勝ちとした。
平成6年度におけるロボットはB5高さ300mm以内とした。1チーム4人で,1人1周,全4周する。バトンの代わりにゴルフボールを使い,1試合2チームずつの一騎打ちで行う。白黒に塗り分けられたコースが2本あり,黒コースから出た走者のチームメイトは白コースに待っている。早くゴールに着いた方が勝ちとした。
平成7年度におけるロボットはA5高さ200mm以内とした。競技は白黒に塗られたフィールド(図3)に立てられたポールの外側を回って,ゴールを競う。また,コース途中に置かれた筒を別の指定された場所に運ぶという課題がつけ加えられている。
平成6年3月4日,第1回ロボメック(Robot Machanic)と題し,綱引きロボット大会を行った。
当日は学校にも広く呼びかけ,見学を募った。また,地元玉島テレビ放送にも取材にきてもらい,地元地域の方々にもテレビを通じ見てもらうことができた。
結果,綱をロールで巻きとってから自陣へ進むロボットが優勝した(しかし,これも1試合目だけ機能し,次からは巻きとりは動いていなかった)。
「第2回ロボメック,リレーロボット大会(サブタイトル「愛のマウスtoマウス」)」を平成7年2月25日(土)に行った。前年度同様玉島テレビ放送,および山陽新聞(図5)にも取材に来ていただいた。
地元玉島小学校にパンフレットを配り,小学生にも見てもらうことにした。当日は30人ほどの小学生が観覧に訪れた。
当大会前日までプログラムのデバック作業に追われてはいたが,前年の経験を生かし当日は行わなくてすんだ(6年度は当日も行っていた)。5チーム中2チームは,ボールの受け渡しがまともに行われなかったが,3チームは一応行われていた。優勝はエレベータ機構でボールを受け渡し,DCモータで走行するチームだった。テレビの優勝インタビューで一人が「みなさんのおかげです」と何度も言っていたのが印象的であった。
玉島テレビ放送は多くの学生にインタビューをし,「活動島」という番組で4分間放送を行った。またそのビデオがNHK岡山に採用され,「地域と暮らし」という番組で5分もテレビに映ることができた。アナウンサーの「マウスは生徒の思惑とは裏腹に,あっちへふらふら,こっちへふらふら」という解説がぴったりの映像であった。
第1回のロボメック大会より地元玉島テレビ放送と山陽新聞等,マスコミを利用した運営を考慮してきたことから,今年度は,学内だけではなく地域への出展に積極的に参加した。
今年度のロボメック大会は本校制御技術科の枠から飛び出し,多方面の協力を得ることができた。なかでも本校の他学科の協力や,中四国の職業訓練関連施設のロボメックへの積極的な参加が得られた。
また地域のアピールをより高めるため,地元商工会議所および倉敷市,岡山県の後援を得ることができ,さらには瀬戸内海放送の協力を得て1時間程度の番組を制作することになった(図6参照)。
下記に第2回ロボメック参加以降の運営経過を記載する。
第2回ロボメック大会
またロボメック運営において,本校産業デザイン科の学生の協力により,ロボメックのポスター(図9)の制作,および大会進行上のルール説明にコンピュータグラフィックを用いた動画(図8)の制作,大会ロゴとなったロボメックのデザインの制作等が完成され,大会運営上花を咲かしてくれると考えられる。
ロボメックの製作テーマは毎年変えている。テーマの発案は個人の意見が尊重されるが,一度テーマが決定されると職員の責務の分担を尊重し,チームワークをもって,そのときどきの問題を解決している。しかし,そのチームも相性の悪いのではうまくいかない。リーダを決めて運営することが,情報伝を早め,問題解決の鍵となるであろう。このことはロボメック運営上大切なことである。
また今後のロボメックの活路を見いだすためには,ロボメックのコンセプトをきちんとつくり,それを具体化し,これを規準にものごとを決めていくことが最も大切なことである。さらに,外部に対しては常に情報発信を行い,本校が地域のコミュニティカレッジとして,広く意見を聞く姿勢をとり続ける姿勢が求められるであろう。
学生に行った授業経験をもとに、平成5年度は床にかかれた黒枠の中を走行する搬送ロボット製作,平成6年度,7年度は,学生と同じ競争ロボット製作のセミナーを開講した。
マイコン制御の総合応用講座(レベル4)として開校したが,受講生はマイコン制御の経験が少なく,基礎知識の向上に多く時間をとられる。セミナーは計画の12回では完成せず,特別に開講日を増やし15~16回行った。しかし,5年度,6年度ともまだ時間が足りず完成の8割程度で終了している。7年度は完成をさせたいため,自宅でできる作業(半田づけ等)は宿題としている。
このセミナーは,すべて学生と同じように機械の設計から製作まで行っている。そのため機械加工も行わなければならない。ボール盤等の簡単な機械加工は受講生にもできるが,旋盤やフライス盤等の大型の機械での加工は危険も伴うため,本校学生に加工を手伝ってもらっている。
本能開セミナーは時間が制限されているため,ハードウェアはある程度標準化し,ソフトも同じような構造になるように指導したほうがよいと思われる。
5年度のロボットそのものは残念ながら完成にはほど遠い物だった。しかし,6年度は前年の経験を生かし,格段いいものになっている。7年度はさらにいいものになるだろう。毎年違った課題にすると,前年度までのデータが蓄積されないように思われる。しかしロボットはいろいろなものの組み合わせであり,組み合わさっているのも一つひとつは蓄積された知識データにより少しずつ向上すると思われる。
このカリキュラムは一部の学生には大きな負担になっている。しかし,自分のつくったロボットが思うように動くという感動を学生に与えることができたと考える。ゼロからの設計・製作でモノづくりの大変さを学び,そしてなによりもモノをつくる喜びを学ぶことこそが職業訓練すべてに必要なことだと考える。
(つづく)