• モノづくりをとおしての職業能力開発
  • ポリテクカレッジ大阪(大阪職業能力開発短期大学校)産業デザイン科  大江 裕一

1.はじめに

過去のあやまちを繰り返さず,住みよい町づくりのために岸和田市は,昭和58年3月14日に「核兵器廃絶・平和都市宣言」を行い,それに基づいて平和施策の町づくりを基本としている。

その平和事業の一環として岸和田市自治推進部・自治振興課から平和モニュメントの制作依頼が当校産業デザイン科にあり,検討した結果卒業研究制作のテーマとして取り組むことになった。

そのデザインから制作までの過程を報告する。

2.設置場所

平和モニュメント設置場所は,岸和田市山直市民センター(平成5年3月31日竣工)で,位置的には当短大から車で5分くらいのところで身近な位置にある。

設置箇所としては建物の周りに空間が少なく一階は大半が駐車場になっており,玄関付近は少しの庭と自転車置き場等で立体のモニュメントを設置するのは難しい。

学生と検討の結果,建物には窓のない広い壁面が多くあるのでこの壁面を利用することになった。

市民センターに訪れる人々に目につきやすく道路からもわかりやすい正面玄関に近い壁面を利用し,金属による平和モニュメントのレリーフを制作することに決定した(写真1)。

写真1
写真1

3.制作者

4期生・松原栄子,田中淑子(2年生)の2名の女子学生で卒業研究制作のテーマとして取り組むことになった。

人数的には少し不安であったが2人の意気込みをかってやってみることにした。

4.予  算

岸和田市から制作材料費として100万円(設置費も含む)提供していただいた。

5.日  程

後期からの卒業研究の授業で取り組んだ。

・ 平成6年

10月13日  市場調査・資料収集

コンセプト立案

11月下旬  モデルを各自デザイン

12月上旬  モデル制作

(モデルをつくりながら制作技術を身につける)

12月中旬  2案をまとめる

最終デザイン・図面作成

12月12日~ 制作 (集中実習より)

・平成7年

2月上旬  パーツごと部品完成

仮り組立・塗装

2月下旬  取り付け

3月中旬  除幕式

6.市場調査

3項目についてアンケート調査した結果次のようになった。

(1) あなたは平和と聞いて,まず何を思い浮かべますか

  • ・戦争のない幸せな毎日  (12.5%)
  • ・争わない社会 (12.5%)
  • ・自由 (9.4%)
  • ・はと (6.3%)
  • ・昔と比べ裕福 (6.3%)
  • ・戦争 (3.1%)
  • ・緑と水 (3.1%)
  • ・家庭 (3.1%)
  • ・食物が豊富 (3.1%)
  • ・平和すぎてエゴイズムが多い (3.1%)
  • ・心の豊かさが欲しい (3.1%)
  • ・無回答 (34.4%)

(2) 今平和のためにどのようなことができると思いますか

  • ・戦争の恐ろしさを子どもや孫に伝える
  • ・世界の人が手をつなぎ助け合う
  • ・戦争反対の運動をする
  • ・戦争のむなしさを知り,繰り返さない努力をする
  • ・過去の戦争を振り返り考えること
  • ・差別をなくする
  • ・自分自身が争うことをしない

(3) 平和と聞いて連想するものは何ですか

  • ・幸せ―自由―うれしいこと―すばらしいこと―楽しいこと―笑い
  • ・家族―楽しい生活―子どもの微笑み―みんな一緒―健康
  • ・戦争がないこと―人と人が争わないこと―人類が普通に暮らせること
  • ・はと―折り鶴―花―天使
  • ・苦しみや悲しみのないこと―差別がなく平等なこと―おもいやり
  • ・平和憲法―核兵器廃絶―非核三原則

以上の結果より,戦争のない幸せな日々を過ごしていると,平和とはどういうものかを考える人は非常に少ないことが,市場調査で理解できた。

しかし,データとしては少ないが今回「日常の平和な生活」をメインとして考えた。

また,市民がたくさん集まってくるところには戦争,武器をイメージするものはそぐわない。見て,心が和むものの方が市民センターに好ましいと考えた。

7.コンセプト

「楽しい生活,平和な社全,そしてゆとりのある心,誰もが望んでいて忘れかけているもの」を平和モニュメントのコンセプトとして提案。また,平和のシンボルとして「木」をモチーフとした。

8.デザイン

松原,田中の2名が各自コンセプトをもとにデザインしモデルを制作した。

材質は銅でアルゴン溶接にて接合,表面は緑青をだして仕上げている(写真2)。

写真2
写真2

材質は鉄で炭酸ガスアーク溶接にて接合,表面は錆止め後,黒の焼き付け塗装で仕上げている(写真3)。

写真3
写真3

2名のデザイン案は具象,抽象と両極端であったが,市民センターとしての役割から使用する人が子どもからお年寄りまで幅が広いため,みんなが見て理解しやすいデザインとし,また,材質は溶接しやすく加工性のよい鉄に決定した。

上記2案をベースにさらに検討を加え図1のようなデザインにした。また各パーツの構成としては次の①~⑨とした。

図1
図1
  1. ① 太陽      明るさ・希望
  2. ② ふくろう    夜の守り神
  3. ③ はと      平和のシンボル
  4. ④ 祭       岸和田だんじり
  5. ⑤ 親子の烏    生命誕生
  6. ⑥ 家族      親と子のふれあい
  7. ⑦ 動物      楽しさ・にぎやかさ
  8. ⑧ 大地      地球
  9. ⑨ 木       平和のシンボル

9.制作

(1) 6m×4.6mの大きさであるため製作,塗装,取り付け等のことを考え各枝のパーツごとに分けて製作した(写真4)。

写真4
写真4

(2) 枝のブロックごとに高低差を与え,重なりをもたせることにより継目がわからなくなる。また,その高低差により壁面に陰影をつくり思いがけない効果がでる。

(3) 材質は鉄の帯板,鉄板を使用。

>帯板 幅
32~44mm
厚さ
9~16mm
鉄板 厚さ
3.2~9mm

(4) 幹,枝の枠は帯板をハンマで打痕をつけ,柔らかさを表現した。

枠の中の表現には鉄板を切断しハンマで打ち出し立体感をもたせた。

(5) 接合方法は炭酸ガス溶接で接合。

(6) 表面処理は錆止めした後,黒の焼き付け塗装をした。

(7) 壁面の取り付けはステンレスのアンカーボルトを打ち込み,締め付けた。壁面と取り付け金具の間にはゴムを挟んでいる。

10.設置

2~3階の壁面に取り付けるのに足場などが必要で危険を伴うため,山直市民センターを施工した南海建設に設置を依頼した(写真5)。

写真5
写真5

11.作品題名

題名はオリーブの枝「Olive branch」とした。この言葉の由来は,Noahが箱船から放ったハトがオリーブの枝を運んできた故事から平和・和解の象徴を現している。

12.おわりに

「平和」という大きなテーマに学生2名とともに取り組んだが,女子学生ながら大ハンマを振り回したり,溶接したり体力のいることばかりだった。また,私が阪神淡路大震災のため2週間ほど学校に出勤できなかったが,その間,2人で相談しながら制作に励んでくれ予定どおりに完成することができた。

作品を建物に設置し終えたときの喜びは,学生たちにとって青春時代の思い出として深く心に刻まれたことと思います。

最後に私たちにこのようなすばらしい機会を与えてくださいました岸和田市に深く感謝致します。

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