3次元CAD/CAMシステムの教育環境を,教材開発のために,質問の視点から考えてみる。意欲や集中力を持続し高めるために,多種多様な突発的な質問事項の対応に細心の神経と情熱を注ぐが,多人数の場合はリズミカルな対応が難しい。今,授業の雰囲気を高揚させながら,感性と創造性を重視した質問処理をスムーズに行うための実践的方法の開発をめざしている。ここでは,質問内容の評価(レベル・適切さ)より,質問の位置づけ(発生源・発展方向)を重要視する。今回は評価項目を質問処理に絞り,「学習曲線」(図3)をもとに,2つの取り組み方法(図4,図5)を比較検討して,授業を計画し,実践結果と効果をまとめた。
3次元CAD/CAMシステム教育では,1人が1つの課題に専念できる機器がある。機械システム系(46名)の授業では,2グループ(1グループ23名)に分けて,1人1台の使用。この機器を生かしきることと質問処理をスムーズに実行することとの関係に注目する。人間中心の教育環境を構築するために,学習の進捗度を時系列で定性的に把握して,質問の発生源を特定できるデータを求めて,グラフで表現する。
スパナの場合の10分経過ごとの進捗状態を1アイテム・コマンドを1仕事と換算して仕事量を求める。編集コマンドは無視した。増分量と%,累積量と%,で図1に示す。これを縦軸(進捗度・%),横軸(経過時間・分)の学習曲線(図2)で示す。課題のレベルは縦軸に,個人の能力は横軸に関係する。一般的に,課題が異なっても,個人の能力が異なっても,学習曲線の傾向は同じで直線的にはならない。
学習曲線から次の3点を確認できる。
3次元CAD/CAMシステム教育計画では教育的区切りを重視する。複数の課題をやる場合,1つの課題(図面)を完成して次の課題をやる方法が一般的であるが,課題を作業種類で分割して,作業種類ごとに実行して最終的に課題を完成させる方法もある。分割作業には,図面の場合,外形線等の作業・寸法線や記号等の作業・検図等の作業の3種類ある。しかも,それぞれの作業の所要時間は,ほぼ等しい。『学習曲線の3等分した時間的区切り』を重要視する。時間がきたから,きりの良いところで区切って続きを計画するという一般的な方法もあるが,学習曲線を時間的に3等分した区切りを考慮した計画の方法を採用する。
今回の計画では,質問処理をスムーズに行うために計画段階では,作業過程(操作作業と思考作業とのバランス状態)と質問の発生源と発展方向とに注目する。知識的な作業の要素内容による区切りでなく,学習曲線を3等分した時間区切りをもとにして計画を立てる。すると,学習曲線から質問の発生源を特定でき,質問状況を推定しやすくなる。
一例として,1課題が3時間で完成する程度の2課題(A,B)を3日でやる教育計画を立てる。学生の集中力持続時間を45分,休憩15分と設定して,学習曲線を3等分(3=180/(45+15))して,質問の発生状況と作業の進行状況とを比較検討しながら,実践的な方法を計画する。A,Bの学習曲線(図3)を利用して,2つの取り組み方(図4,図5)の質問状況を推定する。
第一の取り組みは,結果を重視した,1課題が終了してから次の課題に取り組む方法(図4)。これは,時間がきたから区切る方法である。第二の取り組みは,過程を重視した,要素別に取り組む方法(図5)。これは,学習曲線を利用する方法である。はたして,どちらが,質問処理に適した方法だろうか。ここでいう質問処理とは,質問の解消ではなく,質問の育成である。実践して確認する。
質問の内容は一般的には,最初は,操作を中心とした慣れるための質問がほとんどであり,コマンドとの出会い方が問題である。イメージとしての,CADシステムの構築が必要である。慣れてくると,判断や思考に関する質問が多くなる。ここでは,道具としていかに自分のものにできるかが問題である。CADシステムの個性化が必要である。
今回は集中実習で,5課題を42時間で完成させる場合を計画し,実践した。
3次元CAD/CAM作業のリズムに注意した。リズムの変わり目に質問が頻繁に発生する。
時間がきたから区切るという課題別の場合は,多人数になると,作業状況がバラバラになるので,質問もバラバラになる。個人個人のリズムがバラバラとなり,お互いに干渉し合って,CAD室のリズムが弱くなる。質問処理は,パニック状態になる。その結果,次のような現象が現れる。①できる学生は,ほっておく。②遅れる学生を支援する。③平均的なところを中心に進める。④各自にまかせてしまう。
これでは,感性や創造性どころではなく,仕方なく,やむを得ずといった状態に陥ってしまう。課題別方法では,構造的に問題があり,5名以上では,質問情報処理がスムーズにできない。
「学習曲線の時間的区切り」で区切る場合の要素別学習曲線の特徴は,
質問の発生源と発展方向をできるだけそろえることができるのである。
状況としては,質問が気楽に飛び交い,質問を中心とした,バランスのとれた授業環境が成立している。質問のバラツキが少ないが,質問数は増える。作業している学生から,自然に質問が発生してくる。できる学生と遅れている学生とが質問に関して,バランスして,1つのシステムを形成し,それぞれの学生は集中している。興味あることは,質問が質問を生み,質問の高度化・専門化が進み,興味点が変化してくる。個々人のリズムの総和としてのCAD室のリズムは,力強いものとなる。鋭い質問もでてくる。
個人差に対応できる教材を事前に準備するのは難しい。感性や創造性を磨くために必要な質問処理については,機器や教材自体には限界がある。教材は,質問のための材料にすぎない。作業者の作業状況に細心の注意を払うことにより,質問処理がスムーズになり,質問のバラツキをおさえることができる。
感性や創造性は教材ではなく,質問によって磨かれる。質問は,変形型教材として位置づけられる。質問は,魅力的な教育環境を確立できる教材と考えられる。
3次元CAD/CAMシステム教育では,教材にたよりきった一方的な情報だけでは,楽しくないし,質問も短絡的になる。創造性に関して教育効果が大きいのは,教材や機器よりも,質問の方である。質問が創造性を高めるためには重要である。要素別方法では,この質問を自然に処理できる環境ができあがった。教育効果を4つにまとめる。
3次元システム教育では,「わからないから質問がでる」というマイナス的ではなく,「関心を持ち始めた」というプラス的認識が必要である。プラス的認識が興味づけに役立つ。質問は感性的教材である。「あくび」や「つぶやき」もりっぱな教材の1つである。
3次元CAD/CAMシステム教育ではイメージ力が大切である。イメージ力の3要素は,形状イメージ・操作イメージ・作業イメージである。「質問は,イメージ力により発生する感性的ベクトル量である」と表現できる。難しいけれど,教官は,質問の発生源と発展方向を見極めなければならない。
質問は,単なる質問ではなく,それ自体りっぱな教材である。第二次的の教材としての質問の特徴は,次の3点がある。①作業者自身により,事後準備される。②変動型である。③興味づけに最適である。
興味点が質問点に,質問点が興味点に変換しながら,3次元CAD/CAMシステム教育で感性が磨かれていく。
感性や創造性を高める3次元CAD/CAMシステム教育には,人間中心の環境が必要となる。3次元CAD/CAMシステム教育において,学生の質問は,興味とともに発生して,喜びとともに消滅する。質問が存在することは,CAD室が生き生きとした,楽しい雰囲気である証である。質問は感性的教材という新しいタイプの教材である。学習曲線という時系列データに基づき,慣れより楽しさを目標に,楽しさの源として活気のある緊張感を持続するために,感性的情報処理の視点が,ますます重要になると思う。