• ポリテクカレッジ宮城(宮城職業能力開発短期大学校)早川 明徳

1.はじめに

ポリテクカレッジ宮城に隣接している企業には電子部品や自動車部品などの部品メーカが多い。これらの企業の課題として,組み立てラインの自動化があげられており,これからの短大は,地域企業にとって魅力のあるものにするためにも,このような自動化技術に対して技術援助ができるようにしなければならない。そこで,当短大では昨年,教育用FAシステムを導入し,地域企業に対しては自動化に対する技術援助が行えるように,また学生に対しては,これから要求されると思われる自動化システムの実習が行えるようにした。

昨年の卒業研究において,卒研生がこのFAシステムを使って,システムの動作確認,およびその改良を行った。これによって,卒研生が自動化システムの設計,開発技術を習得し,さらに生産管理の基礎を理解することができたので,ここにその報告をする。

2.導入したFAシステム

2.1 FAシステムの構成

導入したFAシステムは鉄琴の自動組み立てを行うFMS(Flexible Manufacturing System)になっている。このFMSは組立1セル,組立2セル,演奏セルと呼ばれる3つのFMC(Flexible Manufacturring Cell)と自動倉庫セル,およびホストパソコン,ホストPC(Programable Controller),無人搬送車で構成されている。また,4つの各セルはそれぞれパソコン,PC,ロボット,パレット移載装置で構成されている。パレット移載装置はワークの取り込み,送り出しを行うための装置で,2本の空気圧シリンダで構成されている。無人搬送車は各セル間のワークの移動を行うための機器である。ワークとしては鉄琴を採用した。この鉄琴は11枚の鍵盤と鉄琴本体から構成され,鍵盤を本体に取り付けることにより鉄琴は完成する。

システムを構成している4つの各セルはホストパソコンによって制御されている。ホストパソコンは各セルのパソコンに対して起動信号を送り,各セルのパソコンを起動させる。同様に,起動した各セルのパソコンはそれぞれのPCに対して起動信号を送り,起動した各セルのPCはそれぞれのロボット,およびパレット移載装置に対して起動信号を送っている。また,無人搬送車はホストパソコンによって制御されており,ホストパソコンが無人搬送車に対して移動先を指定し,起動信号を送ることにより,無人搬送車は指定されたセルへ移動する。

パソコンとPC間でのデータ通信には,データメモリと呼ばれるPC内部の16ビットのデータを記憶することのできるメモリを用いている。また,5台のPCをバスライン方式で接続することにより,それぞれのPCのデータメモリにはすべて同じデータが記憶されるようになる。したがって,あらかじめアドレス番号とそのデータの内容を定めておき,パソコンおよびPCでそのデータの読み書きを行うことによって,1台のパソコンからすべてのパソコン,およびPCに対して起動信号を送ることができる。

2.2 FAシステムの動作内容

各セルの動作内容として,自動倉庫セルではワークの未完成品,完成品の保管,管理を,組立1セル,および組立2セルではワークの組み立てを,演奏セルではワークの演奏検査を行っている。なお,組立1セルと組立2セルはその動作内容が同じであるため,自動運転動作では組立2セルでのワークの組み立ては行っていない。

ワークの組み立てを行う自動運転での動作内容は,

  1. ① 無人搬送車を自動倉庫セルへ移動させる。
  2. ② 自動倉庫から未完成品のワークを無人搬送車に搬出する。
  3. ③ 無人搬送車を組立1セルへ移動させる。
  4. ④ 組立1セルを起動し,ワーク取り込み,ワークの組み立て,ワーク送り出しを行う。
  5. ⑤ 無人搬送車を演奏セルへ移動させる。
  6. ⑥ 演奏セルを起動し,ワーク取り込み,ワークの演奏検査,ワーク送り出しを行う。
  7. ⑦ 無人搬送車を自動倉庫セルへ移動させる。
  8. ⑧ 完成品のワークを自動倉庫に搬入する。

2.3 FAシステムでの学習内容

このFAシステムを実習やセミナーなどの教育用として用いる場合,次のような学習を行うことができる。

① 全体制御(FMS学習)

FAシステム全体の制御を学習する。

② 組み合わせ制御(FMC学習)

FAシステムを構成している各セルでの制御を学習する。

③ 個別制御

FAシステムを構成する機器の取り扱いや,その制御を個別に学習する。

2.4 FAシステムの問題点

現FAシステムには以下のような問題点がある。

  1. ① 自動運転では,組立2セルでワークの組み立てが行われていない。
  2. ② 自動運転では,1つのワークの組み立てが終了するまで次のワークの組み立てが行われず,すべてのワークの組み立てが終了するまで長い時間を必要とする。
  3. ③ 現FAシステムの動作は鉄琴の組み立てのみで,FMSとしての働きが十分でない。
  4. ④ システムの構成や,機器のプログラムが教育用としては複雑である。
  5. ⑤ 附属のマニュアルが簡単な操作用マニュアルのみで,教育用マニュアルや学習指導書がない。

3.新しいFAシステムの開発

3.1 新FAシステムの開発

現在のFAシステムを平成6年度の卒業研究で使用し,卒研生がその動作確認,および新しいシステムの開発を行った。卒研生をシステム全体の開発を行うFMSグループと,各セルの開発を行うFMCグループに分け,FMSグループではホストパソコンのプログラムを,FMCグループでは各FMCのPCのプログラムとロボットのプログラムを新たに作成した。

新しいFAシステムとして,

  1. ① 各セルのパソコンを省き,システムの構成を簡単なものにする。
  2. ② 自動運転動作時に,組立2セルでもワーク組み立ての一部を行う。

(1) FMSの開発

FMSグループの卒研生が行った学習内容を以下に示す。

① PCを使ったデータ通信

まず,このシステムでのパソコンとPC間のデータ通信,およびPCとPC間のデータ通信の方法を確認した。

次に,PCの取り扱い説明書に書かれているデータメモリへデータの書き込み,読み出しを行うサンプルプログラムを参考にしながら,パソコンからデータメモリへデータの書き込み,データメモリからパソコンへのデータ読み出しを行うプログラムを作成し,データ入出力の動作確認を行った。

② ホストパソコンのプログラム作成

まず,システムの組み立て,検査の各工程のフローチャートを作成した。新しいシステムでは各FMCが工程順に起動し,1つのワークの組み立てが終了してから,次のワークの組み立てを行うようになっている。

次にFMCグループとの間で各セルの起動信号,終了信号のデータを与えるためのデータメモリのアドレスを決めた。そして,フローチャートでの工程順に従って,ホストパソコンから各工程のデータメモリの起動指示のアドレスへ起動データの書き込み,さらに起動終了のアドレスから終了データの読み出しを行い,起動中の工程が終了したならば起動データをクリアにして,次の工程の起動指示のアドレスへ起動データを書き込むプログラムをBASICで作成した。

(2) FMCの開発

FMCグループの卒研生が行った学習内容を以下に示す。

① ロボットの手動操作,プログラム作成,位置教示

ロボットの取り扱い説明書を見ながら練習として基本的なロボットの手動操作,プログラム作成,ロボットの移動位置を指定するための位置教示を行った。プログラムに関しては,BASICと共通する命令語が多く,BASICの基礎を理解していればプログラム作成は十分可能である。次に,新しいシステムでのロボットプログラムの作成,位置教示を行った。

② PCのプログラム作成

まず,AND回路やOR回路などの基本回路,自己保持回路,タイマ回路,インタロック回路等の基礎的なプログラム,さらにデータ通信でのデータ比較命令などの応用機能の動作確認を行った。

次に,ホストパソコンからの起動信号によってPCが起動することを確認し,次に,PCの入出力とロボットの入出力がどのように接続されているかを確認し,次に,PCからの起動信号によってロボットが起動することを確認した。これらを組み合わせることによって,新しいFMCでのPCのプログラムを作成することができた。

3.2 新しいFAシステム

このように,FMSグループでは,ワークの組み立て工程順にホストパソコンから各セルのPCへ起動信号を送るようなプログラムをBASICで作成し,また,FMCグループでは,ホストパソコンからの起動信号で各セルが動作を開始するようなPCのプログラムを作成した。これによって,各セルのパソコンを省き,ホストパソコンからの起動信号で各セルが起動するようなシステムに作り替えることができた。

また,FMCグループで,組立1セルで5枚の鍵盤を本体に取り付けるようなロボットのプログラムを,組立2セルで残りの6枚を本体に取り付けるようなロボットのプログラムを,それぞれ新たに作成したことによって,自動運転ですべてのFMCが動作するようなFAシステムに作り替えることができた。

マニュアル作成に関しては,全時間の約3割をかけて,誰が読んでも容易に理解でき,かつ安全,確実に操作できるようなマニュアルを作成した。その内容は,システムの立ち上げ方法,各機器の操作方法,プログラムフローチャート,データ通信の方法などである。これにより,初心者でも,ロボットの操作や,PCのプログラムが容易に作成できるようになり,教育用FAシステムとして,より効果的に利用できるようになった。マニュアル作成を重視した理由は,導入したFAシステムに附属したマニュアルは,システムの立ち上げ方法が中心で,教育用としては不十分であったためである。

4.まとめ

  1. ① PC,ロボットなどを組み合わせたFMCの開発は,短大レベルの技術で,十分行うことができることがわかった。
  2. ② システム全体を制御するFMSの開発を行うには,「物の流れ」を扱う生産の工程システムを理解する必要がある。
  3. ③ 自動化技術の学習用として使用するために,システムの構成やプログラム等を大幅に変更し,簡賂化した。

今後の計画として,各セルが並行して動作するようなシステム,さらに,複数種類のワークの組み立てを行うようなシステムの開発を考えている。

最後に,このFAシステムの開発を行った平成6年度の5名の卒研生に感謝する。

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