• ポリテクカレッジ秋田(秋田職業能力開発短期大学校)伊藤 隆志

1.はじめに

ポリテクカレッジ秋田の生産技術科では,学生に対するモノづくりの課題として何が適切か模索していくなかで,「ソーラーバイシクルの製作」に取り組むことにした。この取り組みを通じて教材の開発をしていくことが,われわれの第一の目標である。また,ソーラーバイシクルの製作からレースへの参戦を通じて当校のPRをすることも大きなねらいである。

幸い,われわれが「ソーラーバイシクルの製作」に取り組もうとしていた折,杉原博治氏からの車両製作に関する技術的な協力依頼があり,本課題には同氏と一緒に取り組むことができた。杉原氏は,当校の所在地と同じ秋田県大館市在住の方で,自動車,建築など広範囲な分野で,省エネルギーの問題に取り組んでいる。

ソーラーバイシクルの構成およびレースの対策については,昨年のレースにも参戦した杉原氏のノウハウをもとに進めていった。

課題の選定にあたっては次の3点を考慮した。

  1. ① 学生が高い関心を持って取り組める課題であること。
  2. ② テーマに新規性があること。
  3. ③ 幅広い作業要素があること。

省エネルギーと環境保護は時代の要請であり,テーマとしてソーラーエネルギーの利用を取り上げることは有意義であると思う。また,学生の自動車に対する関心の高さを考慮すれば,課題として「ソーラーバイシクルの製作」を設定することは適切であると考えられる。

2.ワールドソーラーバイシクルレースについて

ワールドソーラーバイシクルレースは秋田県大潟村のソーラースポーツラインにおいて,平成7年7月22日,23日の2日間で行われた。本大会は昨年に引き続き開催され今年で2回目であった。「大潟村ソーラースポーツライン」は,1周約31km,幅員7mの折り返し周回コースで,平坦な舗装路である。また,一般道との交差はなく,各種スポーツトレーニングや大会が行える施設となっている。ソーラーバイシクルレースの1週間後にはソーラーカーラリーが行われた。このように大潟村の夏はソーラースポーツでにぎわうのである。

ワールドソーラーバイシクルレースは,車両の適用として表1のように,A,B,Sの3つのカテゴリーに区分されている。カテゴリーAは,ISF公認の太陽電池および蓄電池を搭載したものである。カテゴリーBは,基準内で自由に製作・改造を許されたものである。カテゴリーSは,基準内で自由に製作・改造を許されたものであるが,カテゴリーA,Bが,人力とソーラーエネルギーの併用走行が認められているのに対して,カテゴリーSでは,ソーラーエネルギーのみでの走行と規定されている。いずれの場合も,この大会におけるソーラーバイシクルには,0.15㎡以上の太陽電池により得られるエネルギーで推進する装置を装備していることと決められている。さらに,カテゴリーA,Bはライダーの年齢に応じて3つのクラスに分類されている。18歳以下のジュニアクラスと一般のオープンクラス,それに50歳以上のシニアクラスである。以上のクラス区分により競技は行われた。

表1
表1

競技の種類は,最高速度コンテストと100kmマラソンの2種類である。最高速度コンテストは,コース内の所定区間を走行し,計測区間における平均速度を競うものである。また,100kmマラソンは周回コースを使用し,100kmを走破し,所用時間を競うものである。

3.ソーラーバイシクルについて

3.1 基本構成

ソーラーバイシクルの仕様は,レギュレーションで規定されている。写真1が今回製作したソーラーバイシクルである。車両はカテゴリーB規格で製作した。走行エネルギーは,人力とソーラーエネルギーの併用である。車両本体には市販されている自転車を使用し,これにソーラーパネル,バッテリ,DCモータおよびコントローラを搭載した。

写真1
写真1

モータの動力は,スプロケットおよびチェーンを介して後輪に伝達される。ノーマル状態での自転車の変速機は外装式8段であり,変速用スプロケットと同軸上にモータ動力用のスプロケットを配置した。

3.2 電気系統について

電気系統結線図を図1に示す。面積0,356㎡,最大出力44Wのソーラーパネルを車両後部に搭載し,発電された電力により,DCモータの駆動あるいはバッテリへの充電をする。DCモータは常に駆動しているわけではなく,停止も含めて手元でコントロールできるようになっている。DCモータは,100kmマラソンでは出力120Wタイプを使用し,最高速度コンテストでは250Wタイプを使用した。また,バッテリとして,12V,3Aのタイプ4個を直並列により24Vとして使用した。

図1
図1

ソーラーパネルは,太陽の光が十分であれば発電量が多くなるため,余剰電力が生ずればバッテリに充電されるが,曇りの日などは発電量が少なくなってしまうため,バッテリの蓄電エネルギーでDCモータを駆動することになる。

3.3 ソーラーバイシクル構成上のポイント

ソーラーバイシクルを構成するうえで考慮した点は次のとおりである。

① 車両の軽量化を図る

省エネルギーで走行するため,車両の軽量化を図った。

② 重心を車両中央の低位置に配置する

車両の操縦性,走行安定性を損なわないよう,特にバッテリの取り付け位置を考慮した。

③ 空気抵抗が大きくならないようにする

車両から不必要な突起物を出さないようにした。

④ ドライバーの体力やモータの特性を考慮して最適な減速比を選択する

何種類かの減速比(スプロケットの組み合わせ)を準備し,テスト走行を繰り返しながら決定した。

4.ソーラーバイシクルの製作

ソーラーバイシクルの製作では,私と杉原氏の指導のもと,生産技術科の2年生を中心とするスタッフで取り組んだ。製作内容としては,スプロケットやキー溝,そしてスプライン等の動力系統部品の機械加工,ソーラーパネルを支えるフレーム(アルミ製)の溶接などである。その他,メータパネルの加工も行った。スプロケットの加工にあたっては,重量軽減のため,できるだけゼイ肉を落とすように努めた。モータの動力を取り込むスプロケットは,写真2のように歯部を鋼製とし,本体はアルミ製のハイブリッド構成とした。苦労した点は,自転車用ワンウェイクラッチをモータ軸に接続するための中間軸を製作することであった。

写真2
写真2

5.レースへの参戦

エントリーした車両数は全部で100台であった。われわれは,杉原ファミリーのチーム名でレースにエントリーした。エントリーの区分はカテゴリーBのシニアクラスである。全レースを通じて杉原氏がドライバーとなり,学生を中心とするグループがピットワークを担当した。写真3がピット内の様子である。初めてのピットワークということもあって,事前に十分なミーティングとトレーニングを行った。故障時を想定し,特にスプロケットやチェーンの交換それにモータ位置の調整は入念に練習した。また,レース時のドライバーに対する飲料水の補給も大切である。ドライバーに飲料水を手渡す練習も十分に行った。

写真3
写真3

レースは2日間の日程で行われた。車両検査の後,1日目の7月22日は最高速度コンテストが行われた。このレースは,800mの助走区間走行の後,200mの計測区間の平均速度を競うものである。このレース自体一つの完結した競技になっているが,この成績により2日目の出走順位が決まる。このレースのわれわれの記録は時速62.35kmで総合15位,クラス別1位の成績であった。ちなみに総合1位の記録は時速91.40kmであった。

レース2日目,7月23日は100kmマラソンが行われた。前日のレースの成績順に出走し,総延長約31kmのコースを3周と端数分走行する。

写真4は100kmマラソンのスタート前の様子である。レースの成績はゴールまでの所用時間で決定される。レースの行方は太陽の照り具合にかなり影響されるが,われわれがエントリーしたカテゴリーBは人力併用タイプであるため,曇りの日は体力で勝負することになる。あいにくレース当日は曇り気味であった。

写真4
写真4

われわれの車両は,走行中にチェーンが切れるなどのトラブルに見舞われ,さらに,初めてのピットワークに少々もたついたことも重なり,この間35分のロスタイムとなった。結局われわれの記録は3時間26分で総合37位,クラス別1位であった。3時間を切ることが一つの目標であったため,この間のロスタイムは,とても残念に思われた。なお,曇りの影響で,人力を使用できないカテゴリーSの車両の中には完走できないものもかなりあった。

6.反省点

学生は「ソーラーバイシクルの製作」にかなり意欲的に取り組んだ。今回製作した車両は,車両本体など市販品によるところも少なくなかったが,学生自らの創意工夫により,市販品に改良を加えたり,機械加工から溶接,それに組立調整等,作業の種類も多く,モノづくりの課題として最適であったと思う。また,レースに参戦することにより,自分たちの取り組みに対する目に見える結果を得ることもでき,製作した車両についての問題点を提起するよい機会であった。

反省点として次の点があげられる。

  1. ① ソーラーパネルを支えるアルミフレームの強度が足りなかった。走行中の振動による金属疲労のため,フレームの一部が破壊した。
  2. ② 走行中の空気抵抗を減らすためのフロントカウルは必要であったと思う。
  3. ③ チェーンが切れるトラブルに対して,速やかな対応ができなかった。
  4. ④ 体を鍛えたドライバーが2人以上は必要である。
  5. ⑤ レースに対するトレーニングも含めて十分な時間をかける必要があった。

7.教材としての可能性

次に「ソーラーバイシクルの製作」を通じて実践できる教育訓練について考察してみる。

自動車などのエネルギー源として化石燃料を燃やすことに依存している現状において,燃焼による大気汚染問題やいずれ枯渇する石油資源の代替エネルギー源として何が適当か,あるいはどうすればよいのかを考えていくものである。この問題の重要さは,例えば自動車メーカ各社の電気自動車の開発姿勢からもうかがい知ることができる。この問題について,環境保護と省エネルギーをキーワードとしながら教材として取り上げていくものである。

次に,車両製作を技術的教材という観点から考察すると,まず,自動車工学(自転車工学というべきか)としての機構学,材料力学,機械力学,空気力学等の実践的教材としてとらえることができる。また,コンピュータ等を利用したフレームやカウリングの最適化設計の教材としても利用できると思う。さらに,モータ制御回路の設計製作を通じて電気電子回路の教材にもなり得る。当然のことながら,機械加工作業については質,量ともに盛りだくさんである。

このように「ソーラーバイシクルの製作」を題材とすれば,その教材としての内容は多岐にわたるため,実施するためには,時間的,空間的な面を含めて考慮すれば,少人数による教育訓練が適当かと思う。私は,卒業研究の課題ととらえている。もちろん,実施により得られる諸々の結果は,技術的な具体例として,通常の集合授業にも利用できる。

8.まとめ

今回の取り組みは,学生が本格的に卒業研究に入る前の段階ではあったが,教育的効果を高めるためには,ソーラーバイシクルの製作過程を学生が単に体験したということで終わるのではなく,学生自らの手で,これら作業のドキュメントを作成することが大切である。そうすることによって,製作に付随する個々の作業方法の習得から,より高次元な系統だった技術技能の習得につながっていくものと思われる。

現在は,卒業研究も本番に入っているところであり,「ソーラーバイシクルの製作」について,学生自ら整理をし,お互いに議論を交わしている。この議論をもとに,新たな車両づくりに取り組んでいるところである。もちろん,省エネルギーと環境保護は最重要テーマの一つである。

今回の製作では触れなかった,構造力学的,空気力学的な面での最適化設計についても,今回の卒業研究で取り組める内容としたい。取り組んだ内容については,具体的に製作をして検証していく考えである。

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