近年,技術革新や情報化,サービス経済化の進展,高齢化社会への移行,女性の職場進出,若年労働者の減少等,今日の社会変化には目を見張るものがある。
職業能力開発は,これらの変化に適切に対応していくことが求められている。
このような中にあって,各都道府県立職業能力開発校は,新たな訓練科の模索をし,これまで以上にブルーカラー,ホワイトカラー,サービス関連の職業などについての訓練科の新設を行うとともに,時代の変化に対応した職業能力開発を実施している。
そこで,これまでの研究をみてみると,公共職業訓練施設の再編成の実態を分析した研究(注1)や都道府県立職業能力開発校の個別的な実態(注2)についてはすでに数多くの実態報告がなされている。
しかしながら,現在の都道府県立職業能力開発校の訓練科の実状を職業別に把握した報告はみられない。
ゆえに,本研究では訓練科の職業別分類を念頭において都道府県立職業能力開発校の訓練科の実状を全体的に把握し,どのような特徴があるのかを明確にすることを目的とする。
都道府県立職業能力開発校は,全国で254校設置されている(1994年現在)。ブロック別にみてみると,東北・北海道ブロックは50校,関東,中部,近畿,中国,四国,九州・沖縄ブロックは,それぞれ73校,42校,23校,18校,13校,35校設置されている。今回は,中央職業能力開発協会(1994)『職業能力開発施設ガイドブック』に掲載されている都道府県立職業能力開発校の実態から把握することとする(注3)。
ところで,「訓練科」の構成は,都道府県に共通した構成はみられず,統一された構成はされていない。
そこで,労働省編職業分類表を参考に「訓練科」の区分を行い,「訓練科」区分を,①ブルーカラー,②ホワイトカラー,③サービスの大きく3つに区分した。表1に「訓練科」の区分表を示す。
具体的な「訓練科」の構成は次のとおりである。
製造従事者,建設従事者を念頭におき生産関連の職業,建設関連の職業と大きく2つに区分した。生産関連の職業については,機械加工関連,電気・電子関連,衣服繊維製造,印刷製本等の訓練科の構成とした。訓練科名については,それぞれ次のとおりである。機械加工関連区分として機械加工,金属加工,塑性加工,溶接等。電気・電子関連区分として,電気,電子機器,電気通信等。衣服繊維製造関連区分として縫製,洋裁,ファッション等。印刷製本区分として,製版,写真植字,写真等の訓練科名とした。
また,建設関連の職業については,建築,設備,居住の訓練科の構成とした。訓練科名については,それぞれ次のとおりである。建築区分として,建築,ブロック建築,木造建築等。設備区分として,工業設備,タイル施工,構造物鉄工等。住居区分として,室内工芸,造園,表具内装等の訓練科名とした。
専門的・技術的職業従事者,管理的職業従事者,事務従事者,販売従事者を念頭におきオフィスの職業,販売関連の職業と大きく2つに区分した。
オフィスの職業については,管理的,事務的,情報関連,デザイン関連の訓練科の構成とした。訓練科名については,それぞれ次のとおりである。管理的区分として,経営管理実務。事務的区分として,OA実務,ワープロ文書,情報経理等,情報関連区分として,プログラム設計,システム設計等,デザイン関連区分として,広告美術,木材工芸,商業デザイン等の訓練科名とした。
販売関連の職業については,商品販売,販売類似の訓練科の構成とした。訓練科名については,それぞれ次のとおりである。商品販売区分としてショップマネジメント,販売事務等。販売類似区分として,不動産の訓練科名とした。
サービス職業従事者を念頭におき生活衛生,飲食物調理,家事,接客,ビル等管理等の訓練科の構成とした。
訓練科名については,生活衛生区分として,美容,理容。飲食物調理区分として,調理,給食サービス等。家事区分として,福祉ヘルパー,介護サービス等。接客区分として,観光ビジネス,レストラン等。ビル等管理区分として,ビル管理,ビルクリーニング等の訓練科名とした。
全体からみた「訓練科」の実状をみてみたい。
「ブルーカラー」の訓練科を開設している職業能力開発校は,249校(全体の98%)である。具体的にみてみると,生産関連の「訓練科」は223校(88%),建設関連の「訓練科」は180校(71%)実施し,どちらも高い割合で開設していることがわかる。
また,「ホワイトカラー」の「訓練科」についてみてみると,全体で143校(56%)開設している。具体的にみてみると,オフィスの「訓練科」は140校(55%),販売関連の「訓練科」は6校(2%)開設している。
このように,5割以上の職業能力開発校で「ホワイトカラー」に関する「訓練科」を開設していることがわかる。さらに,販売関連の「訓練科」の開設が全体的に少ないこともわかった。続いて,「サービス関連」の「訓練科」についてみてみると,全体で40校(16%)開設しているが,他と比べてみるとその比率は小さい。
次に,全体の状況を具体的に把握するためにブロックごとにみてみることにしたい。表2はブロックごとにおける「訓練科」の状況を示す。
まず,「ブルーカラー」からみてみると,100%のブロックは,東北・北海道,中部,中国,四国である。特に「生産関連」の開設は,どこのブロックでも8割以上という高い割合を示している。「建設関連」に目を転じると,関東ブロックの開設は5割以下(44%)であり,他のブロックと比較すると極端に低い割合の開設になっている。
次に,「ホワイトカラー」をみてみると,全体の55%より10ポイント以下のブロックは,東北・北海道,四国である。10ポイント以上のブロックは,関東,中部,中国である。特に中国では78%と高い割合の開設である。このように,ブロックごとにバラツキがあることがわかる。
続いて,「販売関連」の「訓練科」をみてみると,1桁台の低い割合の開設になっている。特に,中国,四国,九州・沖縄の西日本ブロックはいずれも開設していない。
最後に,「サービス」をみてみると,中国ブロックが最大で39%の開設であり,続いて近畿,関東と続く。
具体的に「訓練科」の実状を区分ごとに詳細にみてみよう。ここでは,①「生産関連」,②「建設関連」,③「オフィス」,④「販売関連」,⑤「サービス関連」の「訓練科」区分を詳細にみてみることにする。
「生産関連」の職業の中で最も多く開設している訓練区分は,「機械加工」区分であり,その開設数は186校(73%)である。続いて,「電気・電子関連」が100校(36%),「衣服繊維製造関連」が44校(17%)と続く。
ブロックごとにはあまり極端な変化がみられず,全体比率に沿っている。
「建設関運」の職業の中で多く開設している訓練区分は,「建築」,「設備」区分であり,それぞれ117校(46%),116校(46%)の開設数である。続いて「住居」と続く。
これらをブロックごとにみてみると,「建築」において高い比率の開設は,中国ブロック(61%),東北・北海道ブロック(56%)である。逆に低い比率の開設は,関東ブロック(29%),近畿ブロック(43%)である。
また,「設備」において高い比率の開設は,中国ブロック(72%),四国ブロック(69%)である。逆に低い比率の開設は,関東ブロック(26%),中部ブロック(38%)である。
続いて,「住居」において高い比率の開設は,中国ブロック(56%),中部ブロック(55%)である。低い比率の開設は,四国ブロック(15%),関東ブロック(19%)である。
このように,「建設関連の職業」でどの区分でも下位にランクされるのは,関東ブロックであることがわかる。
オフィスの職業の訓練区分の中で最も多く開設している訓練区分は,「事務的」区分であり,その開校数は108校(43%)である。続いて,情報(21%),デザイン(8%)と続く。
「管理的」は関東ブロックの1校(0.3%)のみの開設である。
これらをブロックごとにみてみると,「事務的」において高い比率の開設は,関東ブロック(59%),中国ブロック(61%)である。逆に低い比率の開設は,東北・北海道ブロック(18%),四国ブロック(31%)である。
「情報」において高い比率の開設は,近畿ブロック(35%),中国ブロック(33%)である。逆に低い比率の開設は,四国ブロック(8%),東北・北海道ブロック(14%),九州・沖縄ブロック(14%)である。
「デザイン」において高い比率の開設は,中国ブロック(17%),中部ブロック(12%)である。逆に低い比率の開設は,東北・北海道ブロック(2%),四国ブロック(6%)である。
このように,「オフィスの職業」でどの区分でも下位の方にランクされるのは,東北・北海道,四国,九州・沖縄ブロックであることがわかる。
「商品販売」区分は全体の2%,「不動産」区分は0.3%であり,販売関連の職業は全体的に開設している数は少ない。「不動産」は関東ブロックの1校のみである。
「家事」区分が最も多く18校(7%)開設している。続いて,「生活衛生」関連区分(4%),接客(4%),ビル等管理(4%),調理(2%)と続く。
これらをブロックごとにみてみると,特徴的なのが中国ブロックで全体的に高い値を示していることがわかる。
「訓練科」区分の組み合わせはどのようになっているのであろうか。みてみることにする。表3に訓練科の組み合わせを示す。
「ブルーカラー」のみ開設の職業能力開発校は,102校(全体の40%)である。その他の152校(60%)は,「ホワイトカラー」,もしくは「サービス」を併用して開設している。
具体的には,「ブルーカラー」「ホワイトカラー」の組み合わせが43%,「ブルーカラー」「ホワイトカラー」「サービス」の組み合わせが10%,「ブルーカラー」「サービス」の組み合わせが4%と続く。
例えば,「ホワイトカラー」を高い割合で開設していた中国ブロックでみてみると「ブルーカラー」のみが17%,「ブルーカラー」と「ホワイトカラー」の併用が44%,「ブルーカラー」と「ホワイトカラー」「サービス」の併用が33%である。このように,「ブルーカラー」のみの割合が少なく,併用した形式をとっている。
しかし,「サービス」のみの職業能力開発校は存在しない。
また,「ブルーカラー」の訓練科を開設しない職業能力開発校が関東,近畿ブロックに存在している。
続いて,「ブルーカラー」のみの組み合わせの職業能力開発校をブロックごとにみてみると,全体の40%より10ポイント以上のブロックは,東北・北海道,四国,九州・沖縄。10ポイント以下のブロックは中部,中国である。
以上のような結果から,都道府県立職業能力開発校における訓練科の実状として以下のような特徴にまとめることができる。
第1に,職業能力開発校は「モノづくり」を中心とした「生産関連」の訓練科の開設が約8割以上と多く,その中でも「機械加工関連」の訓練科を多く開設していた。
一方,「ブルーカラー」の中の「建設関連」の訓練科は,関東ブロックを除いて全体で7割以上をも開設し,「建設関連」の「ブルーカラー」を対象とする訓練科も多いことがわかった。
その意味から「ブルーカラー」の訓練科を新たな「区分」の訓練科分類で実状を明らかにする必要があると考える。
例えば,地域を意識した伝統的職業,ハイテク関連の職業の区分である。これにより“地場産業”の「モノづくり」とは何かを探る手がかりになるであろう。
第2に,5割以上の職業能力開発校は「ホワイトカラー」の訓練科を開設し,とりわけ中国ブロックでは78%という高い割合で開校していることがわかった。つまり,職業能力開発校の訓練科は「ブルーカラー」のみを対象にしているわけではないことがうかがえる。
また,ブロックごとに詳細にみてみると「ホワイトカラー」を開設する,しないという2極化現象であることがわかった。つまり,「ホワイトカラー」の訓練を実施するには“地域性”を考慮する必要があると考える。
第3に,職業別分類を念頭においた「訓練科」の区分をみると,とりわけ「ホワイトカラー」の事務的職業の訓練科の中に実務を強調するがゆえに,職業を想像できない実務の訓練科が多く存在している。
例えば,OA実務科,ワープロ文書科である。しかし,健康保険等の保険請求事務に関する実務を行う医療事務員を対象にした医療事務科や,簿記会計の理論と記帳実務を行う経理事務員を対象にした経理事務科など職業を想像できる訓練科もある。
つまり,事務的職業の訓練科名について実務的な訓練科名というより職業を想像することができ,なおかつ実務的な訓練ができる訓練内容,訓練科名の検討が今後必要と考える。その意味で業種別に訓練をとらえなおすことも必要であろう。
第4に職業能力開発校は職種別な訓練科が多く開設している。
しかし,数は少ないが階層別的な訓練,例えば,管理的職業の訓練科でみたような人事・給与,社会保険または税務および経営分析に関する実務を行う経営管理実務科の開設は注目したいと考える。
(注1) 田中萬年(1989)「公共職業訓練施設再編成の実状」職業訓練大学校『職業訓練研究』。施設の名称,職種(訓練科),課程,定員等の再編成の実態を解明している。
(注2) 『職業能力開発ジャーナル』では平成5年3月号より「新生能力開発」と題して,毎月各都道府県の職業能力開発の第一線における取り組み状況を記載している。
(注3) 中央職業能力開発協会(1994)『職業能力開発施設ガイドブック-全国公共訓練施設及び認定訓練施設総合ガイド-』。しかし,この『ガイドブック』に掲載されている都道府県立職業能力開発校の欄には在職労働者を対象とする訓練コース(能力開発セミナー)のデータは掲載されていない。