• 神奈川県立相模原高等職業技術校  茨木三智夫
  • 神奈川県職業能力開発技法研究会 海外研修生指導技法・指導教材研究分科会メンバー
  • 繁山俊雄・中林信義・鎌田智義・茨木三智夫

1.はじめに

神奈川県では,職業能力開発事業の一環として,職業訓練に関する開発研究を実施しており,「職業能力開発技法研究会」と称し,認定訓練校のスタッフと公共の職業訓練に携わる指導員で共同研究を行っています。

昨年度は,新しいカリキュラムの開発やCAI,AV教材の研究および障害者や海外研修生の指導技法・指導教材の研究など,9つの研究課題・27のプロジェクトチームに分かれて,研究活動を行いました。

海外研修生用の教材を作成するうえで,注意したことは,大きな障害になっている言葉の問題を少しでもなくし,特に,専門用語の理解が進めば,訓練効果も大きく前進するのではないかと考え,テキストの中の説明部分では,文章よりも絵や図形等を多く取り入れ,視覚により少しでも多くのことを理解してほしいと考えて作成し,実際の指導の場面においても,実物や模型を使用して,専門用語の理解しにくい部分は目で見て,理解を深めてもらうように工夫して,テキストを作成するように心がけました。

平成3年から6年までの4年間に機械,情報,溶接,板金,電子,電気,自動車,アパレル等の分野において,教科の一部分ではありますが,テキストおよび指導書(マニュアル)の作成を行い,教材の一部は,英語および中国語に翻訳して,海外研修生はもとより,技術校生の指導に利用しています。

平成3年から6年までの4年間に作成した,海外研修生用のテキストおよび指導書(マニュアル)は,次のとおりです。

・平成3年度

  • 交流被覆アーク溶接…(日・中・英)
  • NC工作機械
  • プログラミングの仕方…(日・中・英)

・平成4年度

  • C言語入門…(日・中・英)
  • NC旋盤加工…(日・中・英)

・平成5年度

  • 自動車の始動装置…(日・中・英)
  • ディジタル回路の基礎…(日・中・英)
  • 熱処理作業指導マニュアル…(日・中・英)
  • 自動車の始動装置指導マニュアル…(日)
  • ディジタル回路の基礎指導マニュアル…(日)

・平成6年度

  • 板金展開図法の基礎…(日-英・日-中)
  • 縫製作業用語と作業の仕方…(日-英)
  • 自走車の作成指導マニュアル…(日)
  • 板金展開図法の基礎指導マニュアル…(日)
  • カタカナ日本語と中国語対比表…(日-中)
  1. (1)電子・情報技術編
  2. (2)機械技術編

2.海外技術研修員受け入れ状況

本県では,開発途上国等の技術協力のため,昭和47年度から海外技術研修員(海外研修生と同意)を受け入れています。

研修方法は,3ヵ月間の日本語研修の後,専門技術研修の7ヵ月間を県の試験研究機関,訓練機関および県内の企業,大学,公益法人等に依頼して実施しています。

研修分野は,農林,水産,土木建築,医療,薬学,福祉,教育文化,放送,化学,公害防止,金属加工,機械塑性加工,電気機器,通信,自動車,測量,デザイン,工芸,経営等と多岐にわたっています。

研修員の国籍は,アジア各国,中南米,アフリカなど平成6年度までに40ヵ国にのぼります。

中国・安徽省,遼寧省からは,昭和56年度から平成6年度までに機械加工,金属加工,コンピュータ・電子機器,公害防止,農林,化学,自動車整備などの分野に126人が来県し,各分野の研修を終えて帰国し,それぞれの分野で,活躍しております。

昭和47年度から平成6年度までに受け入れた研修員の総数は,356人で,そのうちの61人を高等職業技術校で受け入れており,最近3年間の受け入れ状況は表1のとおりです。

表1
表1

これらの技術研修員の受け入れ事業のほか,国際協力事業団の委託を受けて,主に開発途上国の技術研修員を高等職業技術校に受け入れています。

このうち,海外移住センターからの受け入れは,昭和54年度から開始し,平成6年度までに11人の研修員を受け入れておりますが,最近の3年間は,対象者がありません。

国際水産研修センターからは,昭和59年度から受け入れを開始し,平成6年度までに87人の研修員を受け入れております。平成4年度から平成6年度までの3年間の受け入れ状況は,表2のとおりです。

表2
表2

3.指導技法および指導教材の研究

平成6年度の海外研修生指導技法および指導教材の研究についてでありますが,溶接・板金分野では,過去の研究活動の内容等を種々検討した結果,モノ作りの基本は,図面から始まるということから,板金工作法の基本である展開図をとりあげ,研修生用の教材であるテキストを作成し,合わせて指導者用の指導書(マニュアル)を作成することにしました。

テキストは,「板金展開図法の基礎」というタイトルで,展開図を作成するために必要な製図の基礎知識として,簡単な用器画法や計算による作図の仕方,また展開図法の基本である平行線法による展開図の書き方,放射線法による展開図の書き方および三角形法による展開図の書き方の3つの方法を取り入れ,簡単な形状のものから,複雑な形状のものへと内容を進めました。

機械図面の基礎的知識のある方なら誰にでも,理解できるように作成し,これらをすべてマスターすれば,板金工作法の展開図を作成するうえで,ひととおりのことができることを目標に,テキストの内容を検討しました。

また,応用として平行線法,放射線法,三角形法の3つの方法のうち,2つを組み合わせた相貫線や相貫体の展開図の書き方も取り入れてあり,基礎から応用までを学ぶことができます。

作成したテキストの内容は,次のとおりです。

(1) 用器画法については,

  1. ①定直線を2等分する方法
  2. ②定直線上の1点Pから垂線を立てる方法
  3. ③定直線の一端から垂線を立てる方法
  4. ④定円周を12等分する方法

の4課題を作成しました。そのうちの1つ,コンパスを用いて,「定円周を12等分する方法」が図1です。円筒,円すい等の容器を作成する場合に用い,正確に等分できないと製品の寸法に大きな影響を及ぼします。

図1
図1

(2) 計算による作図の方法については,

  1. ①計算による直角の書き方(三平方の定理)
  2. ②計算による直角の書き方(二等辺三角形)
  3. ③任意の角度をけがく方法

の3課題を作成しました。そのうちの1つ,「計算による直角の書き方(三平方の定理)」が図2です。材料に寸法をけがくとき,最初の基準線として用います。

図2
図2

(3) 平行線法による展開図の書き方については,

  1. ①斜めに切断された正四角筒の展開図
  2. ②斜めに切断された正六角筒の展開図
  3. ③円筒二片エルボの展開図
  4. ④斜めに切断した円筒の展開図
  5. ⑤台形台(角すい台)の展開図

の5課題を作成しました。そのうちの1つ,「円筒二片エルボの展開図」が図3です。

図3
図3

平行線を利用して,展開図を書きます。

(4) 放射線法による展開図の書き方については,

  1. ①円すいの展開図
  2. ②水平に切断された円すいの展開図
  3. ③上部斜めに切断された円すいの展開図
  4. ④上部水平,下部斜めに切断された円すいの展開図

の4課題を作成しました。そのうちの1つ,「上部斜めに切断された円すいの展開図」が図4です。

図4
図4

放射線を利用して,展開図を書きます。

英語・中国語版のテキストは,表面が英語(図5)または中国語(図6)で,裏面は日本語(図4)で,表記してあります。

図5
図5
図6
図6
図4
図4

(5) 三角形法による展開図の書き方については,

  1. ①台形台(角すい台)の展開図
  2. ②上部円形,下部長方形の展開図

の2課題を作成しました。そのうちの1つ,「上部円形,下部長方形の展開図」が図7です。三角形を利用して,展開図を書きます。

図7
図7

(6) 相貫線と相貫体の展開図の書き方については,

  1. ①四角すいに水平に交わる四角筒の相貫線
  2. ②四角すいに水平に交わる四角筒の展開図
  3. ③四角すいに垂直に交わる四角筒の相貫線
  4. ④四角すいに垂直に交わる四角筒の展開図
  5. ⑤円すいに水平に交わる円筒の相貫線
  6. ⑥円すいに水平に交わる円筒の展開図
  7. ⑦円すいに垂直に交わる円筒の相貫線
  8. ⑧円すいに垂直に交わる円筒の展開図

の4課題の相貫線と展開図の書き方を作成しました。そのうちの1つ,「四角すいに水平に交わる四角筒の相貫線」および「四角すいに水平に交わる四角筒の展開図」が図8図9です。

図8
図8
図9
図9

相貫線とは,2つの品物がお互いに接触して,その重なり合う部分がどのようになっているかということを,図で表したものであります。

作成した指導者用の指導書(マニュアル)には,円筒二片エルボの展開図の解説(図10)や四角すいに水平に交わる四角筒の相貫線の解説(図11)のように,ところどころに解説を付け加えました。

図10
図10
図11
図11

円筒二片エルボの展開図の解説では,直角以外の角度のもの,また三片エルボヘの応用へと内容を広げ,理解しやすく,幅広い指導が可能となるように作成しました。

また,「板金展開図法の基礎」を理解するために必要な予備知識や実技能力が,どれくらい必要か,そして,ひととおりのことをマスターするために,必要な訓練時間数や仕上がり像,授業のための準備教材や指導順序および,実際に品物を作成するときの接合方法などの項目について,記載してあります。

4.今後の課題

テキストは,英語と中国語に翻訳されておりますので,これから先,海外研修生や日系人または,外国人を受け入れて指導する場合,大いに役立てることができると思います。現在,作成されている教材は,まだまだ数も少なく満足のいくものではありませんが,今後使用していく中で,検証を重ね,より良いものに改善したいと考えております。

職業能力開発大学校や(財)海外職業訓練協会(OVTA),(財)国際研修協力機構(JITCO)や国際協力事業団(JICA)等で作成されている教材等を参考にしながら,今後は,1つの教科分野を完成させることを目標に,少しずつ積み重ね,作成し続けることが重要であると思っています。

5.おわりに

この1年間を振り返ってみると,テキスト作成のための資料作りが思うように進まず,展開図の作図や説明の文章作成に手間取り,かなりの時間を費やし,やっと完成させることができたので,研究員一同大変うれしく思っています。

これらの教材は,海外研修生用として作成したものではありますが,民間,公共を問わず訓練生用の教材として,ご使用いただければ幸いです。

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