• 職業能力開発大学校 情報工学科
  • ポリテクカレッジ滋賀(滋賀職業能力開発短期大学校)情報処理科
  • 大野 成義*
  • *
  • ohno@uitec.ac.jp
  • ohno@cs.shiga-pc.ac.jp
  • http://www.uitec.ac.jp:8080/~ohno/
  • http://www.shiga-pc.ac.jp:8080/~ohno/

1.はじめに

最近はテレビ等のマスコミでインターネットについて取り上げられるようになり,書店にもインターネット関連の書物1)が所狭しと並ぶようになりました。国内のインターネット・ユーザも急速に増加しつつあります。以前からインターネットの利用を勧めてきた者として,最近の風潮は大変喜ばしい限りです。

しかし,一方で大変な誤解が生じているのも事実です。これは,急激な変化に人々の理解がついていけないということも考えられますし,マスコミ等の偏った報道や誤った理解に基づく解説にも2)原因があるのではないかと思っています。

そこで,インターネットとマルチ・メディアの関係にポイントをおいて,インターネットについての紹介を行いたいと思います。

2.マルチ・メディア

一言に「マルチ・メディア」といってもその定義はきわめて曖昧です。そこで「マルチ・メディア」という言葉自身を再確認してみましょう。

「メディア」を整理してみると3,4),

●表現メディア

  1. 1.テキスト(英数文字)
  2. 2.音声
  3. 3.静止画像
  4. 4.動画像

●伝達メディア

  1. 1.通信(LAN,ISDN,フレームリレー,ATM等)
  2. 2.放送(地上放送,衛星放送,CATV等)
  3. 3.蓄積(磁気ディスク,光ディスク,テープ等)

と分類できます。「マルチ」は「多」の意味ですから,「マルチ・メディア」は上記のが混合したものと解釈できます。

表現メディアの混合,つまり,テキストの他に音声や静・動画像が単に扱えることが「マルチ・メディア」であるがごとくとらえられている場合が多いのではないかと思います。これではきわめて古い概念の「マルチ・メディア」(ニューメディア?)です。このレベルであれば何年も前の技術レベルで実現可能でした。

したがって,「マルチ・メディア」という以上,最近になって可能となった,または現在研究中である「種々の表現メディアを統一的に扱うこと」と認識を改めなければならないでしょう。種々の表現メディアを個々に扱うことができるというレベルでなく,有機的に関係づけて統一的に扱えてこそ「マルチ・メデイア」でしょう。

さらに,一歩進んで,伝達メディアも含んだものと認識すべきでしょう。特にリアルタイム性や双方向性を持った通信に熱い目が注がれています。「マルチ・メディア通信」です。

3.インターネットとその歴史

インターネットはマルチ・メディアとは全く異なった概念です。

インターネットは1969年のARPAネットの実験にはじまります5)。このときネットワーク自体は信頼性の低いものと仮定され,それでも発信元と受信先の計算機間で定常的に通信ができるようにとインターネット・プロトコル(IP)が研究されました。信頼性の低いネットワークを仮定するということは,奇妙なことのように思います。しかし,現在インターネットが世界に広まっているという事実がこの仮定の正しかったことを証明しています。また,咋年の阪神大震災での活躍をみても理解できるのではないでしょうか?

IPの技術をもとにスーパーコンピュータを共有する目的で1980年代後半NSF(全米科学財団)がネットワークを構築しました。このネットワークは当初の目的であるコンピュータの共有だけでなく,データを含むソフトウェアなどの共有を許し,共同研究などを効率的に進めるコミュニケーション手段として利用されることとなりました。

ハード・ソフトウェアを共有し,コミュニケーションを促進するための基盤として,IPの技術で世界中のコンピュータ・ネットワークが相互接続を行ってできたのが,現在のインターネットなのです。

個々の計算機がインターネットなのではありません。計算機が集まってネットワークを形成し,それらネットワークが相互接続して世界で唯一のインターネットを構築しているのです。

3.1 インターネットの3つの層

インターネットを理解するには3つの層に分けて考えるとよいでしょう6)。

まず,TCP/IPというネットワークの相互接続を保証した技術的な層があります。この技術が異機種環境での動作やワールド・ワイドでのネットワーク接続を保証しており,現在も進化し続けています。

次にアプリケーション・ソフトの層があります。全世界で数千万人の利用者がいるインターネット上での,アプリケーションの量やその開発速度は計り知れないものがあります。このアプリケーションに関しては後でインターネットで利用できるサービスとして紹介します。

最後に文化の層があります。この文化はオープン,自律的といった要素からなると考えられます。オープンとは誰でも参加でき,さまざまな議論や決定がすべて隠し事なく行われるということです。インターネットの支配者がいるわけではなく誰もが平等です。したがって,参加するものは自分のことは自分で責任を持つという自律した存在であることが要求されます。

4.誤解の原因

「インターネット=マルチ・メディア」という誤解の原因を考えてみます。

「マルチ・メディア」は80年代末に騒がれた「ニューメディア」の二の舞いになりつつあるのではないでしょうか?「ニューメディア」はコンテンツ不足で失敗してしまいました。つまり,利用するソフトウェアの開発に失敗してしまったのです。「マルチ・メディア」も騒がれているわりには,ゲームやXXX関連を除くと有用なソフトウェアが大変少ないようです。

そこで,インターネットに多くの人が注目したのです。インターネット上では次々と新しいソフトウェアやデータが提供されています。斬新なアイデアが提案され,それを実現するためのシステムも開発されています。「マルチ・メディア」が欲していたものが「インターネット」上に存在するのです。インターネット上には従来からある文字データだけで提供されているサービスや情報も実際には数多くあります。しかし,音声・動画で提供されている新しいサービスや情報だけしかないかのように錯覚し,それが転じて「インターネット=マルチ・メディア」という誤った認識が生じたのだと思われます。

5.パソコン通信との違い

インターネットとパソコン通信を混同していることがあるようです。確かに,最近のパソコン通信はインターネットと相互接続されていて注1)インターネットの一部と見なせないことはありません。しかし,両者には明らかな違いがあります。

パソコン通信では中心にホストコンピュータが存在し,ユーザの利用するパソコンはそこにつながっているただの端末にすぎません。インターネットでは接続されたコンピュータは個々にコミュニケーションできる存在です。

つまり,パソコン通信ではホストコンピュータで用意されたサービスしかユーザは利用できないわけです。ユーザが新しいサービスを考えてもホストコンピュータの方がその要求に応えなければ何もできません。したがって,パソコン通信は比較的安定した形で管理されているという長所を持ちますが,劇的な変化は起こりにくく発展性は期待できません。一方,インターネットでは個々のコンピュータがコミュニケーションをする基盤となっているので,ただ1つのコンピュータが勝手に始めたことがインターネットでの活動につながります。その活動を支持する人たちが多ければ瞬時に広がり,急激な変化を生じさせることができます。

6.インターネットのサービス

インターネットで利用されている代表的なサービスについて紹介します。

6.1 電子メール

インターネット上で最もポピュラーなサービスで,個人単位で文字情報を交換するのに用いられます。電話では相手と同期する(電話の向こうに相手がいる)必要がありますが,電子メールですとその必要がありません。Faxも電子メールと同様に同期する必要はありませんが,電子メールと異なり電子化された情報ではないので再利用しにくいという欠点があります。電子メールは電話やFaxの欠点を補う新しい通信手段であるといえます。

基本的には文字情報の交換ですが,コード変換することにより,音声データや画像データも交換することができます。

6.2 ネットニュース

不特定多数の受信者を想定しており,ニュースグループと呼ばれる話題によって分類が行われています。1995年現在で約5000のニュースグループがあり,100MB/1日を超える記事がインターネット上を流通しています。

パソコン通信における掲示版に近いものがあります。ただ,ニュースの記事はパソコン通信における掲示版のようにホストコンピュータに保管されるのでなく,インターネット上のそのニュースグループを読んでいる組織のすべてに複写・配付されます。意味のない記事の投稿は世界中のコンピュータ資源をむだに利用することですから,投稿には注意が必要です。そのために配付範囲を制限するDistributionというパラメータがあります。

また,ニュースに投稿する場合に注意することとして,他に漢字コードの問題があります。これは電子メールを出すときにも注意すべきことです。漢字コードには大きく分けて3種類(JIS,Shift-JIS,EUC)あります。インターネットではJIS(正確にはISO-2022-JP)が標準です7〕。S-JISやEUCの場合はJISにコード変換して発信すべきなのです。本来はメールやニュースのアプリケーション・ソフトが処理すべきことなのですが,現状ではコード変換までサポートしていないものも多く使用には注意が必要です。

ニュースでも電子メールと同様,音声データや画像データを7bitのasciiにコード変換することにより交換が可能です。

6.3 ファイル転送

インターネット上にはanonymousFTPと呼ばれる,不特定多数の利用者に無料で情報(ドキュメントやソフトウェアなど)を公開している組織があります。

提供されている情報はテキスト形式だけでなく,音声データや画像データなどもあります。

以上の電子メール,ネットニュース,ファイル転送といったシステムではテキストだけでなく,音声・画像データも利用できました。しかし,これらは異なった表現メディアに関して,個々にしか扱えません。したがって,「マルチ・メディア通信」という場合の通信の部分は満足していても,異なる表現メディアを統一的に扱うという条件は満たしていません。

6.4 WWW

WWWはスイスにあるCERN(Organisation(旧Conseil)Europeenne pour la Recherche Nucleaire)で提案された広域分散情報システム8)です。

システム自身は1989年頃に提案されたのですが,システムで提供された情報を利用するためのソフトウェアとしてNCSA(National Center for Supercomputing Applications)でMosaic9)が作られて一躍脚光を浴びるようになりました。このソフトウェアはGUIに優れており,従来のシステムでは個々に扱っていたさまざまなデータ形式を統合的に扱えるようになったのです。異なったデータ形式のものを扱うだけでなく,WWW以外のシステム(ファイル転送など)も扱えるようになりました。

原理はファイル転送と同じです。必要なファイルをそれを提供するところから転送してきます。従来のアプリケーション・ソフトを決動したことと,必要なファイルがどこで提供されているかといった情報の形式(URL)を採用したことなどが流行を生んだ原因でしょう。

さらに,Mosaicを開発したメンバーが中心となって別会社を設立し,Netscape10)を開発するに及んで,世界中にインターネット・ブームが巻き起こりました。このソフトウェアは従来のほとんどのシステム(電子メールやネットニュースなどさえ)が扱えます(日本の場合は先に述べた漢字コードという特殊事情があるため,全く問題なく扱えるわけではありません。注意しましょう)。

これらMosaicやNetscapeがあまりに有名になり,それがインターネットであると勘違いしていることもあるようです。Netscapeなどはあくまでアプリケーション・ソフトウェアであり,インターネットそのものではないのです。

6.5 その他

他にMbonやSeeUCMeeについての研究もインターネット上で行われています。

SeeUCMeeは既存のハードウェア(ネットワークとコンピュータ)を利用することにより,安価なテレビ会議システムの構築を可能にします。

7.展望

現在,さまざまな表現メディアが統一的に扱えるようになったとはいえ,まだ,やっと同時に同等に扱えるといったレベルです。「マルチ・メディア」でなく「メディア・リッチ」になっただけであると謙虚にとらえている人もいます。

異なる表現メディアを融合的に扱え,真の「マルチ・メディア通信」と呼ばれるようになるには,まだまだ技術の発展を待たなければなりません。特に,動画像や音声データを瞬時に転送可能な通信網の整備と,多くの人が簡単に利用できる情報端末の開発でしょう。日本の場合,前者は世界的にもきわめて高価格で,インフラストラクチャの整備を阻んでいるようです。後者に関しては,入力システムやオープンなOSの開発が期待されています。

「インターネット=マルチ・メディア」ではありませんが,マルチ・メディアの研究・開発はインターネット上を中心に行われ,その実現もインターネット上を軸に展開されていくでしょう。これからマルチ・メディアが発展していくにはインターネットという基盤なしでは考えられないでしょう。

>注1) 96年1月現在でUITnetはインターネットときわめて限られた方法でしか接続することができません。残念ながらメールの相互交換も今しばらくできません。

〈参考文献〉

  1. 1) 村井純,「インターネット」,岩波新書,1995.
  2. 2) 読売新聞社,「子供達にインターネット中毒広がる。英心理学者が研究」,Jan.17.1996などのような情報源の曖昧な記事が多い。
  3. 3) 藤原洋,「MPEGにおけるAVコーディングの現状と動向」,ISR Workshop予稿集,1994.
  4. 4) 堀良彰,渡辺健次,「インターネット上でのマルチメディア」,JC/OLU合同シンポジウム予稿集,1995.
  5. 5) E.Krol,E.Hoffman,'What is hte Internet?',RFC:1462,FYI:20.1993,
  6. 6) 高岡正,「職業能力開発機関のネットワーク化~インターネットとは何か~」,1994.
  7. 7) 藤本衡,http://www.is,titech.ac.jp/labs/makimotolab/fujimoto/JIS/fujimoto.html.1995.
  8. 8) http://www.w3.org/hypertext/WWW/TheProject.html
  9. 9) http://www.ncsa.uiuc.edu/
  10. 10) http://www.netscape.com/
ページのトップに戻る