当校福祉サービス系福祉ヘルパーコースは,昭和61年神奈川県新職業訓練体系整備事業(基本理念は産業社会が求める人材の育成と能力の開発をめざす)より新設され,平成7年度から定員が25名となり現在に至っている。
修了生は400名を超えており,介護・福祉分野で活躍している。
「高齢者・障害者を対象とした日常生活援助の専門職者」を育てるため,知識と技術習得訓練を実施している。施設介護実習の現場で,入校生は,指導者や諸先輩から介護へ取り組む姿勢と心,さらに責任と役割を学び,自分自身のあり方を考え深めていることが,実習場面や記録から伝わり読み取れる。
私が平成6~7年に担当した技術校生の気づきと学びを通して,コースの現状と今後の課題をまとめ,ここに報告させていただくこととする。
教科内容を訓練時間20時数を1単位とする技能要素に分解し,確実に単位を履修することにより,必要な技能水準に到達できるように単位制訓練を実施している。
福祉ヘルパーコースは,32単位を6ヵ月で履修している。内訳は,基礎17単位・選択基礎8単位・選択応用7単位で組み立てており,社会福祉・老人福祉・家政学・精神衛生・心理学・生理解剖・介護技術・リハビリテーション・コミュニケーション・人間学等の科目から構成されている(表1)。
各単位のなかで,高齢者・障害者の心身の変化や疾患の理解を基本に,健康障害時の観察や判断力,障害を考慮した自立への援助,処遇のしかたを学び,介護者として人間関係を深めていくことができるように目標を設定している。
入校初期から,クラスの相互の連携と相互関係を深めるため,学習にグループワークを取り入れている。介護技術の学習は,3~4人のグループ構成として,実習の進行を確認しながら助言指導を行い,メンバー各自の能力を把握するよう努めており,技術習得訓練は,簡単な実技から複雑な実技へと段階を経て積み重ねができるようにプログラムしている。さらに,個々の課題がより具体的になりやすくするため,実技終了後,レポート記入により自己評価できるよう考慮している。
また,高齢者の身体のしくみや病気についてグループワークで学習し,資料作成した内容を発表しあい,各自の学習成果を共有することで,自主的に学びを深めていこうと努力することになり,効果的である。
次に介護者として,自己の価値観や考え方で他者をみることや判断することは避けなければならない。個々人の生活や社会背景を尊重し,言動や反応を客観的に総合評価して,自立できるよう側面から援助することが重要である。施設介護職員の身体介護場面やコミュニケーションを通じて,自己の老化について,介護者としての自分の関わり方,安全で確実な技術の提供が望まれていること,介護者間のチームワークの重要性等さまざまなことを学び得ていることがわかる。
当校に入校する年齢構成をみると,18歳~60代前半までと幅広く,平均年齢では約36歳であるが,時期により平均年齢が高くなることもある。家族背景や社会的な高齢化問題など介護への関心が高まっていることがわかる。中途退校者は,平成5~7年の3年間で2名のみであり,中途就職のため退校に至ったケースである。修了時の就職状況をみると,平成5年前期生までは100%であるが6年度からは76.7%と著しく変化しており,7年度は53.8%とさらに低下している(表2,表3)。
求人施設のほとんどが学歴と資格を優先し,人材を選択しているため,技術校修了生は短期間のパート対応として求人されてくる。修了後,専門職として実務につき,さらに学習を重ねた後,介護福祉士の受験資格を目標としている技術校生は,希望する福祉施設から求人がないため求職待ちという現状である。
入校当初,介護者としてどのようなことを目標にしているかグループワークで話し合い,発表した内容や,施設見学・施設介護実習終了後のまとめなどから,施設入所者・施設の構造・介護者の関わり方についてどのようなことを感じているか抜粋してみたい。
以上各期のレポートの抜粋から,施設設備や構造が整備されていることだけではなく,高齢者や障害者の方にどのように関わり介護しているか,介護の心や姿勢に視点を当てて学んでいる。施設実習はこれから自分自身が就業する場所であり,そこで介護を行う先輩から指導を受けることになるため,実習生の受け入れや指導体制が整備されていることで安心感を抱くことができるのである。
技術校で学んだ介護の基本や職業倫理について,現場でどのように生かされているかを確認することができる機会となり,専門職として今後,自分がどのように介護に取り組むべきかを考えながら実習していることが伝わってくる。
後輩や新人の緊張感を和らげ,育てていこうとする努力が実習施設で感じられたとき,介護業務のすばらしさが実感されるのである。
平成8年度より,ホームヘルパー養成カリキュラムが内容の充実を目的に改変され,より高齢者のニーズに対応できるよう知識と技能を習得させることが求められている。当校の位置する西湘地域は,県内の中で,人口の高齢化が高い地域である。
施設介護職員や在宅福祉サービスに携わる人材の育成については,今後も求められているが,現在施設で業務に従事している職員の研修も重要である。現職者に対する技能向上訓練については,地域の中でも大きな課題と考えている。そのために実践の積み重ねを経て,ケースの問題解決能力を養い,事例の分析を行うことができるようカリキュラムを充実させていかなければならない。また,介護技術習得についても,家庭介護の事例や課題を提示し,イメージできる教材の準備が必要となる。
さらに,在宅介護実習で現場の状況を学び,ケースのまとめに重点をおいて指導することである。介護者として,自立への援助や関わり方について考察した内容を,グループワークで検討し合い,深めていくことができるよう指導・助言することが指導員の課題である。
当校の現状と今後の課題についてまとめてみた。
今後も職業訓練指導員として,介護ヘルパーの養成に携わることになるが,技術校に入校し,介護者として学び,自己成長していく技術校生に出会えることはすばらしいことである。訓練が進むに従い,介護の基本である優しさや思いやりについて改めて考え,自分自身を正しく評価しようと努力する姿勢に接するとき,指導員として頼もしく感ずるときでもある。技術校生が思い迷うとき,適切な個別指導ができるよう努力していこうと考えている。
なお,以下に当校を修了し,就職した17・19期生の「就職後の自己目標」という作文を示した。介護者として,どのような感想や目標をもち勤務しているか理解していただけると思う。
最後に,職業訓練指導員諸先輩の皆様のご意見,ご批判をいただければ幸いである。
(福祉ヘルパーコース・平成7年度卒湘南老人ホーム勤務)
自分は,現在老人ホームに臨任職員として勤めているが,まだまだ経験不足で失敗ばかりしている。幸い他の職員のフォローで大過なく何とか仕事をこなしているが,反省することが多い。
なかでも,忙しさのあまり自分の都合ばかりを押しつけ,相手のことを考えていないことが多いことに気づく。例えば利用者にはさまざまな人がおり,皆個性的で良い人ばかりであるが,中には我の強い人もいる。未熟な自分は無意識に利用者に対して厳しい口調で対応したり,忙しい時間帯に,他の利用者に迷惑がかかるような行為をしている利用者がいるとき,丁寧な対応ができなくなる。また,夜勤の際,大きな声で騒ぐ利用者やナースコールを頻繁に押す人に対して,ゆとりを持ち話を聞き,何を欲求しているか判断できず,その場だけの対応をしている。
勤務が終わり,一息ついて,夜勤の日誌を記載しているとき,利用者の気持ちをまったく考えていない自分が浮き彫りになり,「なぜあの場面で他の対応ができなかったのだろう」と後悔ばかりしている。利用者の方々は皆,自ら望んで入所されているわけではない。入所してからは,本人の意志だけでは自由に外出することもできない。自分たち職員以上にストレスが蓄積するはずである。
忙しいと少しゆとりを持って考えるとわかることも頭から抜けてしまい,職員のいらだちやストレスで厳しく威圧的に対応してしまいがちである。「常に相手の気持ちにたち行動する」,これはどの職種にも共通していえることであるが,福祉の現場では特に大切なことである。今は最低限これができるよう自分の目標として日々努力していこうと考えている。
(福祉ヘルパーコース・平成6年9月卒)
4月に入校してあっというまに6ヵ月が過ぎ卒業となった。在校中の施設実習でお世話になったK荘へ就職することができて,初出勤の日を目前に控えて少々緊張気味である。
緊張といえば,今年の夏は稀にみる酷暑であったが気がはっていたのか,実習中は暑さも忘れて終わっていた。学校で学んだ基本技術は,現場の作業スピードにまったくついていけず,毎日自分の未熟さに自己嫌悪に陥っていたが,指導して下さったワーカーさん達に“たくさん場数を踏んでいけば大丈夫だから”と,励ましていただいた。今度こそミスは許されないから,一歩一歩着実に知識や技能を身につけて,余裕ができてきたらさらに一段と高めるように努力したい。
お年寄りと関わるのに,自分が内容のある人間でなければならないので,読書や音楽,美術の観賞も余暇を利用して親しんで,奥行きのある教養を身につけるよう心がけたい。定年後の再就職であるが,息子たちも各々独立して,妻と2人の生活は年金で十分維持できるので後顧の憂いなく働けるのは何よりもありがたい。
福祉という目標に出会ってこれからの人生を充実して送れることを本当に幸せだと,ご指導くださった先生方に感謝しています。