高齢化社会が到来し,人々の多様化するニーズの一端を担うべく,昭和62年に介護福祉士という資格制度が誕生してから9年になろうとしています。
兵庫県でも平成3年に,公共職業訓練校としては全国で唯一の介護福祉士養成コースである「介護福祉科」を開設し,社会の期待に応えられる介護福祉職の育成に取り組んできました。
介護福祉士という職種そのものの歴史がまだ浅く,教育訓練の場面でも多くの課題がありますが,一つひとつを訓練生とともに乗り越えながら,その成果を実感しつつあります。
今回は,その教育訓練の現状について報告します。
入校の状況は表1のとおりです。定員30名に対して,毎年2~3倍の受験者があり,当科の人気の高さを示しています。
応募者の多くは新規高校卒業見込み者ですが,中には大学や就業経験を経てから,介護職としての技術を身につけて,福祉の仕事に就きたいとの強い決意を持って入校してくる者もあります。
就職については表2のとおりで,平成7年度においても卒業予定者の3倍を超える求人数があります。
介護職への需要の高さを実感するとともに,私たち教員の果たすべき役割についても再認識させられるところです。
介護福祉科のカリキュラムは,介護福祉士として必要な基礎的知識と技術の習得を基盤とし,対象となる人を広い視野を持って総合的にとらえられる福祉専門職の育成をめざして編成されています。
訓練科目および時間は表3のとおりで,社会福祉士および介護福祉士法による厚生省基準の1500時間の内容と職業能力開発促進法施行規則による労働省基準の2800時間の内容を合致させるものとなっています。
特に実習では,独自に「介護応用実習」を設け,在宅介護も含めたさまざまな場における介護の実際を体験させ,幅の広い活動のできる人材育成に力を入れています。
以上のような教育訓練を受けて,やがて卒業を迎えようとしている第4期生の「2年間を振り返っての感想」を紹介します。
「この2年間で私の中で何かが少し変わりました。障害を持っている人が,その人なりに一生懸命頑張っている姿を見て,その日その日を何気なく過ごしている自分に気がつき,反省する点が多くあることを感じました」。
「私は,人を見る目が変わりました。人には一見短所と見えることが多くあっても,その人が持つ個性として受けとめて,なぜそういう態度をとるのかを理解しようとすることで,その人との関係も変わってくることを学びました」。
「実習を通して,少なくとも100人以上の人と出会うことができました。普通に生活していてもこんなに多くの人と出会えることは難しかったでしょう。私にとってこの2年間は,介護を学ぶのと同様に人のあり方も学ぶことができた2年間でした」。
「実習での体験から,自分の思い込みという枠を超えて人に接することができたように思います。人と出会うということは,その人を知るということだけでなく,同時に自らに疑問を投げかけたりして自分と出会うことだと思いました」。
社会の高齢化が進むなか,ますます需要が高まる介護労働者。そのような社会のニーズに応えられるよう,日々,努力することが私たちの役目です。
しかし,介護そのものが人と人との人間的な触れ合いを基盤に成り立っているものです。介護労働者の量的な養成だけが先走ることのないよう,質的な面での教育訓練内容の充実が必要となってきます。
介護福祉士の教育訓練においては,基礎的な知識,技術の習得と同時に,人としての自己の成長が求められるといえるでしょう。
訓練生の皆さんには,2年間の教育訓練での学びと実習での体験を素地にして,卒業してからの活躍に心から期待をしたいと思います。