埼玉県立女性職業能力開発センター(以下,「当センター」という)は平成5年4月,女性の職業能力開発の機会拡大と地位向上を図るために職業能力開発促進法に基づき,埼玉県が大宮市内に設置,開校した。介護サービス科(以下,「当科」という)は当センターの訓練科目の一科目として,短期課程,6ヵ月の生涯コースとして位置づけられている。訓練生は修了時に,厚生省の「ホームヘルパー養成研修1級課程修了証」を取得,修了後ホームヘルパーや,施設の寮母としての就業を前提とした職業訓練科目である。
当科の訓練目標は,
① 高齢者,障害者にかかる福祉,介護知識を有し,福祉施設,在宅における基本的介助援助技術の習得
② 職業人として福祉ニーズに対応可能な知識,技術を向上させる人材育成
③ 修了時,厚生省認定資格ホームヘルパー養成研修1級修了証書を取得させる
としている。
今回,本誌に当科の訓練内容を紹介させていただく機会を得,ここに当科の訓練内容を紹介するとともに,現状の訓練が,複雑,多様な今日の高齢者社会や福祉ニーズに応えられる内容であるのか,またこれらを取り巻く状況と平成8年度からの新カリキュラム(厚生省通知)の大幅な変更,実施に伴う事がらも含めて報告したい。
当科は既述したように,普通短期課程として位置づけられ,前期課程を4月から9月,後期課程を10月から3月としている。定員は20名で,選考方法は筆記試験(一般常識)と面接試験である。応募資格は,年齢不問の女性を対象としている。
なお,入校状況等は表1のとおりである。
設備:教室,介護実技実習室,家政実技室,調理実習室,入浴実習室
主な備品:入浴装置,電動式ベッド,ベッド,実習用モデル人形,車椅子,調理台,家政支援システムなど
長寿社会開発センター「ホームヘルパー養成研修テキスト」4冊
医学評論社「絵でみる介護」
中央法規出版「介護用語辞典」その他,VTR資料など
看護婦資格を有する専任指導員2名と講師4名
実習施設:公立の特別養護老人ホーム2施設
見学施設:公立の総合リハビリテーションセンター,精神保健総合センター
訓練科目と時間については厚生省のホームヘルパー養成研修事業実施要領に基づく内容と時間,職業能力開発促進法規則の介護サービス科と合致させることが必要となってくる。当科の訓練計画による訓練内容および時間は表2のとおりである。
以下,当科の主な訓練内容の実際を紹介する。
社会福祉関係学科:老人福祉論を含む5教科(表2参照)では福祉,介護の概念を広く学び,ノーマライゼーション理念やQOL(Quality of life)などの理解を深めている。また手話や点字の実技を実施,障害者とのコミュニケーション方法についても学んでいる。
介護実技実習:ホームヘルパー業務には健康と体力が必要とされる。当科では開校以来腰痛防止を目的に各期の訓練生にボディメカニクスに基づいた創作体操と選曲で,実技実習前に15分程度の腰痛体操を実施して腰痛防止に役立てている。また基本実技実習ではデモンストレーションだけでなく,グループ単位で介護者,要介護者を体験して,双方の気持ちを共有できる実習体験をしている。特に車椅子介助と,視覚障害者のガイドヘルプについては外部に出て実習し,目線で考えることの必要性や障害者を取り巻く環境についての気づきをする場としている。
介護研究:訓練生にとっては難解な学習であるが,研究をまとめる過程で問題をとらえる視点や文献検索の意味,論文構成などを学び,さらに研究発表を体験することによって今後の業務のなかでの介護過程の展開,グループワーク等に役立つ内容であると思っている。
家政実技:エプロンの作成をとおして縫製の基礎を身につけ,介護用品やリフォーム用品を作製する。後期においては埼玉県高等技術専門校,彩の国総合技能展示会に作品の出品と介護実技コーナーを設け好評を得ている。
当科の修了生は平成7年3月までに82名であり,修了後の就職状況は表1のとおりである。
訓練内容については在校生,修了生の意見,感想から①訓練期間が短い,②在宅介護実習の希望,③カリキュラムがきつい(教科修了ごとのテスト,記録類の提出,介護研究など),④医療知識に関する知識を深めたかったなどが聞かれた。確かに6ヵ月の訓練期間のなかでは,多種多様な介護の質が要求されるホームヘルパーの育成には,もう少し時間が必要なのかもしれない。しかし定められた時間,条件のなかで優先度を考慮した訓練を心がけるなどの努力をしなければならないと反省する。
これらのことは今後,実施される新カリキュラムの実践と評価をしながら,より効果的な訓練に高めていきたいと思っている。
介護の対象は高齢者等,身体的弱者や精神的な問題を持ち,日々変化している「人」そのものである。ホームヘルパー,寮母などとしての業務を遂行するためには知識,技術のほかに感性豊かな人間性と品性が要求される。当科の短期訓練ですべてが達成することは不可能であるが,ここでの学習,実習をとおしてホームヘルパー,寮母等としての素地は取得していくものと自負している。しかし就職に関してはホームヘルパーの不足等が話題となってはいるが,現状は厳しく,雇用形態の不安定さ賃金の安さなど,また介護福祉士を希望する者にとっては,福祉施設での実務経験3年が必要なことなど,ホームヘルパー,寮母などを取り巻く問題は山積している。
今後,新カリキュラムヘの移行と公的介護保険導入等が検討されている今,ホームヘルパー,寮母等の社会的評価を高め,社会のニーズに合った福祉サービスの提供できる訓練生の育成のために努力していきたい。
最後に当科の訓練を理解,支えてくださる職員の皆様と講師の皆様に心から感謝を申し上げます。