日本の高齢化の現状は,皆様ご承知のように,平均寿命は,男女とも世界第1位であり,表1にあるように平成6年,男性76.57歳,女性では82.98歳である(表1・2)。
日本の高齢化率は,昨年(平成7年)65歳以上の構成比が14.5%に達した。2025年には25%にせまり,4人に1人が高齢者になると予想されている(表3・4)。
その日本の高齢化は3つの大きな特徴を持っている。①として,諸外国に類例のない急速な高齢化の進行であり,欧米諸国では,100年,200年という長い年月をかけて徐々に進行してきた状況変化に対し,日本では,高齢化社会(WHOでは,65歳以上人口比率7%以上を高齢化社会と定義している)といわれてから,50年たらずの短い年月で超高齢化社会になると予想される。
②として,後期高齢人口(75歳以上)の急増が見込まれる。このことは,当然のことながら,痴呆性老人や寝たきり状態の老人など,老化に伴う心身機能の衰退によって自立度が低下し要介護性の高い老人層を大量に生みだすものと予測される。
③として,高齢化率を全国の市町村レベルで比べてみると,新しくできている都市では5%前後であるが,過疎地域においては50%近い高齢化率の地方間格差が生まれている。
核家族化,少子化,女性の社会進出等により家庭内の介護力の脆弱化,ひとり暮らし老人の増加,家庭介護者の老齢化による老々介護の問題等々が生ずることは明白である。このような様々な理由から介護の需要が増大しており,訓練でも介護者の育成の一翼を担うため,介護サービス関連職種を展開している。
短期課程(6ヵ月)で実施している「介護サービス」関連職種のカリキュラムについては,内容の性質上,教科目が他の職種に比較して多く,しかも多岐にわたっている。
教材の使用状況調査によっても,幅広いカリキュラムに対応するため,数多くの市販教材を使用しているのが特徴として表れている。
介護サービス科は平成2年に労働省に新設された科目である。それ以前からある校では,家政科が時代とともに移行してきたところがほとんどであるということ,また,新しいということも原因していると考えられるが,自作教材の開発がなかなか進んでいないのも現状である。各施設間の指導内容・レベルのバラツキも,使用教材の不統一によるところが多いと推測される。
このことから,中央で標準的なモデル教材を開発し,それに準じて各施設で担当者が自作教材に取り組み,指導内容の向上,レベルの均一化を図っていく必要がある。
平成7年度,介護・福祉関連訓練科の全国の設置状況は,施設数では,東京5,神奈川,静岡が3施設をはじめとして,1都・1府・20県で40科を展開している。
訓練期間をみると,6ヵ月訓練が30科と全体の75%を占めている(表5)。
平成6年度,全国の20施設で行った教材使用状況調査の内容として,まず第一に使用テキストの区分は,
とした。
次に,補助教材の種類,指導員の受け持ち教科数,指導員の受け持ち時間数,教科書開発についての要望等について調査した。
その結果としては,
となり,両方合わせると74.4%と圧倒的に多く,自作テキストだけを使用しているのは,17.1%にすぎない(図1)。
市販教材の多くは,介護福祉士養成講座の教科書とホームヘルパー養成研修1級課程のテキストを使用している。
介護福祉士用の教科書は,介護福祉士になる学生や,すでに介護に勤しむ人々のためのものであり,ホームヘルパー養成研修のテキストは,3級を受講し,6ヵ月の実務を経て2級を受講,また,1年の実務経験を積んで1級を受講する。というように,現場ですでに働いている人々を対象としているものである。
このような現状から,6ヵ月の職業訓練のためのテキストが早急に望まれており,今回,教材開発に取り組むこにとなった。
教材開発にあたっての主な留意点は,
① テキストの表現は訓練対象者(中・高齢者等)を考慮し,理解しやすいものとする(例:イラスト・図・表等を多く利用する)。
② 各項目の仕上がり像を明確にする。
③ 実技と必要な知識が関連して理解できるように工夫する。
④ 安全対策については各項目に必ず記載する。
⑤ 習得状況が確認できるようにする。
とした。
全体の構成は,以下に示すように序章と8章だてとした。
次にテキストの仕上がり像については,図2-1~2-4をご覧いただきたい。例として,「基礎介護技術」の第3章「日常生活自立のための介護技術の実践」の中の「衣生活の援助」のところで説明する。
衣生活の援助のオリエンテーションとして,「衣生活とは」「衣生活の意義」を入れていく。
次に,
① 衣服着用の目的
② 衣服の条件・種類・材質:日常着・寝衣・病衣としてそれぞれに合ったものを書いていく。
③ 衣服の管理:現在では,ほとんど日常,和服を着ることが少なくなってきているので,和服のたたみ方を知らない人が増えてきている。そういう意味で和服のたたみ方を含んでいる。
最後に,
④ 衣服の着脱・交換の介護として日常着・寝衣・病衣それぞれの着脱・交換の達成目標,それに必要な物品,手順,達成度の確認,注意事項,留意点,安全対策を入れていく。
ここでのページのレイアウトは,上記のことがひと目でわかるように,見開きで1項目をまとめる。
このように,衣服の着脱・交換の介助だけでなく,衣服に関して基本的に知っていてほしいことを盛り込んでいる。
今回の調査をとおして感じたことは,私のいる東京都では,現在,介護サービス科の指導員が10名おり,将来,もう少し増える予定である。
しかし,他県の状況をみてみると,介護系の指導員が1県に1人か2人であり,身近に同じ問題を抱える指導員が少ない,情報不足,研修の場が少ない等を強く感じる。
使用教材状況調査でも示された介護サービス関連訓練職種の教材については,職業能力開発(アビリティーコース)用として開発されたものが見当たらず,各施設の担当指導員の努力により自作教材に頼っている部分がかなり多く,早急にニーズに適合する効率の良い教材開発が望まれており,希望に応えられるようなテキスト作りをしていきたいと思っている。