大宮高等技術専門校の建築科では,在来軸組工法住宅の技能者,すなわち,大工さんを養成することを主目的にして,毎日訓練に取り組んでいます。入校生は,入校前にはほとんど手にしなかった各種の大工道具を取り扱うのですが,これらの道具を使った作業のほとんどが計算どおりにはいかないもので,俗にいう『カンとかコツ』といわれる長い年月をかけて,自分の体で習得しなければならない技能・技術を必要とするものばかりです。
生徒は,一人前の大工さんに早くなり,自分の手でマイホームを作ることを夢見て一生懸命訓練に励みます。ところが,毎日毎日の努力に報いる結果は当然のことながら,そう簡単には見いだせず,イメージどおりにいかない作業にいらだち,また,悩みはじめます。
そこで,その時期その時期での到達目標の提示と技能・技術の向上を確認することを目的として,また,生徒に対しては,意欲的に授業に取り組むことを喚起する狙いで,3年前から校内技能検定を実施しています。
4月 道具の使用方法と手入法
墨壷・墨差し・さしがね・げんのう
のみ・砥石(金・荒・中・仕上げ)
のこぎり・かんな(荒・中・仕上げ)
スコヤ・けひき
5月 ほぞ穴掘り
つんごみ・通し・小根
継ぎ手
相欠き・腰掛蟻(目違無・目違有)
腰掛鎌(目違無・目違有)
腰掛しゃち
6月 ほぞ
平・小根・扇・重
仕口
大入れ蟻掛・渡りあご・傾ぎ大入れ
えり輪いり小根ほぞ差し・かぶと蟻
7月 継ぎ手
台持ち・金輪・追掛け大栓
8~9月 部分工作
軸組・小屋組・内法・壁下地・天井
10月 ツーバイフォー模型製作
10~3月 模擬家屋
構造骨組みと造作作業
軒高 3m
平面 2.7m×5.4m
面積 14.58㎡
技能検定の実施にあたって,次のことについて,内容を検討しました。
大工作業において,最も基本的であり,かつ,重要な道具を使う3つの作業を検定対象とすることとしました。これは,電動工具等を使用するときの基本ともなるべきものであるといえます。
その時期の訓練内容に合致させながら,定期的に(2~3ヵ月に1度)実施できるように配慮して,1~5級制としました。
修了生の習得実績と指導員が望む基準をもとに,表1のとおり決定しました。
この合格基準は,事前に生徒に伝えておきましたので,ほとんどの生徒は,検定日が近づくと,昼休みや放課後に寸暇を惜しんで練習に励んだり,道具の調整に時間をかけていました。
以下に指導員が考えた級別による合格者の技能程度を記述します(専門校修了レベルでの比較です)。
下記の日程で実施しました。前回,不合格となった者については,前回分と今回分を合わせて2つの級を受検できるようにしました。生徒によっては,見違えるような進歩をとげ,見事に2つの級に合格する者が何人もでました。
逆に,5級合格→4級合格→3級合格→2級合格→1級合格という手順をふんだため,ある級で2~3回足踏みしてしまう生徒もいました。
実施の初年度は,『生徒にとって何か目指せるものはないか』『少しでも意欲的になれるものはないか』と試行錯誤的に,建築科独自で始めたものですから,科内技能検定として始めました。
また,簡単な様式でしたが,指導員名で賞状も発行しましたところ,5級・4級と1枚1枚授与されるごとに本当にうれしそうに,しかも,大切にしてくれました。そこで,校長の賛同を得ることによって,校内技能検定に格上げし,より感激の大きい校長名での賞状を発行しました。そうすると生徒は,ますます意欲的かつ積極的に検定に取り組み始めました。
生徒の身になると,できることならば避けて通りたいことで,初めは大きなプレッシャーを感じたことでしょうが,次第に自発的になり,また,意欲的に取り組むようになりました。われわれが希望する結果が得られ,それにも増して,生徒の技能に対する自信からか,技能習得意欲への姿勢が大きく変貌したのに驚きました。
また,技能の習得のみを念頭においていたわけですが,よいライバル関係の確立・クラスのまとまり等,波及効果も数多く見受けられるようになりました。
以下に専門校修了後に行った校内技能検定制度に対する『アンケート結果』を記述します。
アンケート結果で得られた各々の1位・2位・3位の数を各々の総数で割り,パーセント表示にすると表2のようにまとめることができます。
技能・技術の向上や授業に対する意欲の喚起等を目的に,3種類の技能検定を実施してきました。毎年,生徒の検定状況を観察し,かつ,アンケート調査等を分析して,検定内容を見直してきました。その結果,検定実施前に比べ,技術の向上・授業態度等は,格段によくなりました。また,修了生の就職先での評判も上々です。今後も,検定内容の改善を怠らず,よりよい技能検定制度を確立していきたいと思います。
現在は,3種類の検定制度ですが,さらに有意義な作業を模索していきたいと思っています。
建築科は1年制なので,後輩は,直接,先輩からのアドバイスを受けることができません。しかし,アンケート結果から,先輩の考え方・悩み・励まし・不得意分野等を知り,授業に生かしています。より深く,そして細分化した結果を提示したいと思います。
技術については,かんなけずり作業(刃研ぎ・台の調整)が難しいという結果がでていますので,説明と実習にもっと時間をさきたいと思います。
校内技能検定の名のとおりで,現在は,実力はあるのですが,社会で認知はされてはいません。誠に残念であり,生徒自身にとっては悔しいことでしょう。今後,もう1・2年実績を積んでから,社会で認知してもらえるよう,何らかの働きかけをしていきたいと思っています。
過去の各級最終合格率は,以下のとおりです。
全体の数字としては,決して悪くはないと思いますが,3級の合格率が気になります。指導員としては,3級レベルまでは,全員合格を目標にしていたからです。何人かの生徒は,不安をもって就職していったかもしれません。
考えられるあらゆる手段を使って,生徒とともに,“3級・全員合格”となるよう,今後とも精進努力していきたいと思います。
校内技能検定を実施するのに際して,生徒がどのくらいの意欲で臨んでくれるか,また,われわれが目的とする技能向上等の効果がどの程度あげられるか,当初は不安でもありました。なぜかといいますと,生徒の励みにという目的で制定しましたので,校内のみの認定で,社会的には効力を発揮するものではなかったからです。
しかし,それにもかかわらず,前述でふれたように,生徒同士がお互いにライバル意識を築き,より上級を目指し,技能向上に励んで,われわれが望んだ以上の効果があがりました。しかも,技能・技術を超え,専門校での生活の全般にわたって,よりよい波及効果をあげることができました。今後は,生徒の実力を一段とアップさせ,当校・建築科の修了生が,先に述べたように,社会の認知を得られるように働きかけていきたいと思います。
ほんのささやかな試みとして始めた校内技能検定ですが,われわれ自身,考えてもみない予想以上の効果をあげることができました。また,目標の設定しだいで,若い生徒がこうも自主的に,かつ,前向きに勉強しだすということを身をもって体験できましたので,関係各機関において参考にしていただければと思い,報告させていただきました。
最後に,実施に際し,ゴーサインをだしていただき,常に指導員の身になって,温かい応援や適切なアドバイスをしてくださった校長はじめ職員の方々に感謝します。