• 埼玉県立大宮高等技術専門校 主任職業訓練指導員  大塚太一・山口恵資郎

1.はじめに

大宮高等技術専門校の建築科では,在来軸組工法住宅の技能者,すなわち,大工さんを養成することを主目的にして,毎日訓練に取り組んでいます。入校生は,入校前にはほとんど手にしなかった各種の大工道具を取り扱うのですが,これらの道具を使った作業のほとんどが計算どおりにはいかないもので,俗にいう『カンとかコツ』といわれる長い年月をかけて,自分の体で習得しなければならない技能・技術を必要とするものばかりです。

生徒は,一人前の大工さんに早くなり,自分の手でマイホームを作ることを夢見て一生懸命訓練に励みます。ところが,毎日毎日の努力に報いる結果は当然のことながら,そう簡単には見いだせず,イメージどおりにいかない作業にいらだち,また,悩みはじめます。

そこで,その時期その時期での到達目標の提示と技能・技術の向上を確認することを目的として,また,生徒に対しては,意欲的に授業に取り組むことを喚起する狙いで,3年前から校内技能検定を実施しています。

2.建築科訓練内容

4月 道具の使用方法と手入法

墨壷・墨差し・さしがね・げんのう

のみ・砥石(金・荒・中・仕上げ)

のこぎり・かんな(荒・中・仕上げ)

スコヤ・けひき

5月 ほぞ穴掘り

つんごみ・通し・小根

継ぎ手

相欠き・腰掛蟻(目違無・目違有)

腰掛鎌(目違無・目違有)

腰掛しゃち

6月 ほぞ

平・小根・扇・重

仕口

大入れ蟻掛・渡りあご・傾ぎ大入れ

えり輪いり小根ほぞ差し・かぶと蟻

7月 継ぎ手

台持ち・金輪・追掛け大栓

8~9月 部分工作

軸組・小屋組・内法・壁下地・天井

10月 ツーバイフォー模型製作

10~3月 模擬家屋

構造骨組みと造作作業

軒高 3m

平面 2.7m×5.4m

面積 14.58㎡

3.技能検定の設置基準

技能検定の実施にあたって,次のことについて,内容を検討しました。

3.1 検定作業

大工作業において,最も基本的であり,かつ,重要な道具を使う3つの作業を検定対象とすることとしました。これは,電動工具等を使用するときの基本ともなるべきものであるといえます。

  1. ① かんなけずり作業
  2. ② のこぎり使い作業
  3. ③ のみとぎ作業

3.2 検定等級の設定

その時期の訓練内容に合致させながら,定期的に(2~3ヵ月に1度)実施できるように配慮して,1~5級制としました。

3.3 合格基準

修了生の習得実績と指導員が望む基準をもとに,表1のとおり決定しました。

表1
表1

この合格基準は,事前に生徒に伝えておきましたので,ほとんどの生徒は,検定日が近づくと,昼休みや放課後に寸暇を惜しんで練習に励んだり,道具の調整に時間をかけていました。

以下に指導員が考えた級別による合格者の技能程度を記述します(専門校修了レベルでの比較です)。

  • 1級――かなり高度な技能を有する
  • 2級――高度な技能を有する
  • 3級――平均的な技能を有する
  • 4級――平均より劣る技能である
  • 5級――初心者の技能である

3.4 実施時期

下記の日程で実施しました。前回,不合格となった者については,前回分と今回分を合わせて2つの級を受検できるようにしました。生徒によっては,見違えるような進歩をとげ,見事に2つの級に合格する者が何人もでました。

逆に,5級合格→4級合格→3級合格→2級合格→1級合格という手順をふんだため,ある級で2~3回足踏みしてしまう生徒もいました。

  • 5級――6月末
  • 4級――9月末
  • 3級――11月末
  • 2級――1月末
  • 1級――修了直前

3.5 合格証書の発行

実施の初年度は,『生徒にとって何か目指せるものはないか』『少しでも意欲的になれるものはないか』と試行錯誤的に,建築科独自で始めたものですから,科内技能検定として始めました。

また,簡単な様式でしたが,指導員名で賞状も発行しましたところ,5級・4級と1枚1枚授与されるごとに本当にうれしそうに,しかも,大切にしてくれました。そこで,校長の賛同を得ることによって,校内技能検定に格上げし,より感激の大きい校長名での賞状を発行しました。そうすると生徒は,ますます意欲的かつ積極的に検定に取り組み始めました。

4.技能検定を実施しての効果

生徒の身になると,できることならば避けて通りたいことで,初めは大きなプレッシャーを感じたことでしょうが,次第に自発的になり,また,意欲的に取り組むようになりました。われわれが希望する結果が得られ,それにも増して,生徒の技能に対する自信からか,技能習得意欲への姿勢が大きく変貌したのに驚きました。

また,技能の習得のみを念頭においていたわけですが,よいライバル関係の確立・クラスのまとまり等,波及効果も数多く見受けられるようになりました。

以下に専門校修了後に行った校内技能検定制度に対する『アンケート結果』を記述します。

①技能検定を受検しての感想を聞かせてください

  • ・自分のレベルを自覚できた
  • ・技能向上に役立った
  • ・修了後も1級を意識し,努力できた
  • ・級友と切磋琢磨し,競争した
  • ・合格を目指すことによって,大工職への職業意識が芽生えた

②技能検定制度についてどう思いますか

  • ・自己啓発に大変プラスになる
  • ・非常によい制度なのでぜひ続けてほしい
  • ・国家試験受検時の参考になる

③受検時の心構えを聞かせてください

  • ・自分に負けない(挫けない)
  • ・ライバルに(誰にも)負けない
  • ・納得できる仕事をする(妥協しない)
  • ・必ず合格するという気持ちで臨む
  • ・平常心を心がけた

④合格の前後で技術的自信に変化がありましたか

  • ・大変自信がついた25%
  • ・自信がついた33%
  • ・どちらともいえない34%
  • ・自信はつかなかった8%

⑤合格証書を授与されたとき,どう思いましたか

  • ・授与されるたびに,自信が増した
  • ・次回も,頑張るぞと思った
  • ・大きな励みになった

⑥合格基準は,適当だと思いますか

  • ・もう少し難しいほうがよい26%
  • ・今のままでよい68%
  • ・もう少し簡単なほうがよい6%

⑦3種類の技能検定作業を,難しい順に並べてください

アンケート結果で得られた各々の1位・2位・3位の数を各々の総数で割り,パーセント表示にすると表2のようにまとめることができます。

表2
表2

5.今後の課題

5.1 技能検定の見直し

技能・技術の向上や授業に対する意欲の喚起等を目的に,3種類の技能検定を実施してきました。毎年,生徒の検定状況を観察し,かつ,アンケート調査等を分析して,検定内容を見直してきました。その結果,検定実施前に比べ,技術の向上・授業態度等は,格段によくなりました。また,修了生の就職先での評判も上々です。今後も,検定内容の改善を怠らず,よりよい技能検定制度を確立していきたいと思います。

現在は,3種類の検定制度ですが,さらに有意義な作業を模索していきたいと思っています。

5.2 アンケート結果の利用

建築科は1年制なので,後輩は,直接,先輩からのアドバイスを受けることができません。しかし,アンケート結果から,先輩の考え方・悩み・励まし・不得意分野等を知り,授業に生かしています。より深く,そして細分化した結果を提示したいと思います。

技術については,かんなけずり作業(刃研ぎ・台の調整)が難しいという結果がでていますので,説明と実習にもっと時間をさきたいと思います。

5.3 社会での認知

校内技能検定の名のとおりで,現在は,実力はあるのですが,社会で認知はされてはいません。誠に残念であり,生徒自身にとっては悔しいことでしょう。今後,もう1・2年実績を積んでから,社会で認知してもらえるよう,何らかの働きかけをしていきたいと思っています。

5.4 合格率の向上

過去の各級最終合格率は,以下のとおりです。

  • 1級――27%
  • 2級――62%
  • 3級――91%
  • 4級――100%
  • 5級――100%

全体の数字としては,決して悪くはないと思いますが,3級の合格率が気になります。指導員としては,3級レベルまでは,全員合格を目標にしていたからです。何人かの生徒は,不安をもって就職していったかもしれません。

考えられるあらゆる手段を使って,生徒とともに,“3級・全員合格”となるよう,今後とも精進努力していきたいと思います。

6.おわりに

校内技能検定を実施するのに際して,生徒がどのくらいの意欲で臨んでくれるか,また,われわれが目的とする技能向上等の効果がどの程度あげられるか,当初は不安でもありました。なぜかといいますと,生徒の励みにという目的で制定しましたので,校内のみの認定で,社会的には効力を発揮するものではなかったからです。

しかし,それにもかかわらず,前述でふれたように,生徒同士がお互いにライバル意識を築き,より上級を目指し,技能向上に励んで,われわれが望んだ以上の効果があがりました。しかも,技能・技術を超え,専門校での生活の全般にわたって,よりよい波及効果をあげることができました。今後は,生徒の実力を一段とアップさせ,当校・建築科の修了生が,先に述べたように,社会の認知を得られるように働きかけていきたいと思います。

ほんのささやかな試みとして始めた校内技能検定ですが,われわれ自身,考えてもみない予想以上の効果をあげることができました。また,目標の設定しだいで,若い生徒がこうも自主的に,かつ,前向きに勉強しだすということを身をもって体験できましたので,関係各機関において参考にしていただければと思い,報告させていただきました。

最後に,実施に際し,ゴーサインをだしていただき,常に指導員の身になって,温かい応援や適切なアドバイスをしてくださった校長はじめ職員の方々に感謝します。

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