前回は,通信ネットワークシステムで使われるごく基礎的な技術用語について解説しました。
今回は,その通信ネットワークシステムの応用例として,インターネットについての解説をします。
昨年のコンピュータに関する最大の話題といえば,Windows95とインターネットでした。
インターネットを使えば,日本にいながら,アメリカのクリントン大統領の顔を見たり演説を聞いたりできるという話を聞いた人も多いと思います。インターネットは,テレビ番組でもよく話題になったので,インターネットを知らないと,なんだか周囲から取り残されてしまったように感じた人もいたと思います。
インターネットとは,ひとことでいうと,「ネットワークの拠点も全体の管理者もいないネットワーク」ということになります。
その起源は,1969年にアメリカの国防総省が,大学や研究機関を研究目的で接続したARPANETというネットワークまでさかのぼることができます。これは,データをバケツリレーで運ぶ方式だと考えてください。大型汎用計算機のような,管理者がきちんと決まっているネットワークではなく,全体の管理者のいないネットワークが誕生したのです。その後,TCP/IPという通信プロトコルがUNIXというOS(基本ソフトウェアの集まり)に組み込まれ,インターネットは,研究者たちの努力で成長していきました。TCP/IPを共通プロトコルとして,隣り合ったコンピュータが自然発生的に次々とつながり始め,今日では,世界中の150以上の国の約6000万台にのぼるコンピュータがインターネットにつながるまでになったのです。図1は,インターネットに接続されているホストコンピュータの台数を示していますが,年を追うごとに急速な勢いで伸びていることがわかります。
通信ネットワークを考えるときに最も重要となるのは,そのネットワークがどのような通信プロトコルを使っているかということです。〈その1〉で詳しく説明しましたが,通信プロトコルとは,コンピュータ同士がデータをやりとりするときの手順を取り決めたものです。これが異なるコンピュータ同士では,日本語を知らないアメリカ人と,英語を知らない日本人がお互い話をしているようなもので,データをやりとりすることができません。以下に,代表的な3つの通信プロトコルについて解説します。
TCP/IPは,1983年にインターネットの前身であるARPANETのプロトコルとして規定されました。これは,通信に必要な手続きを4階層に分けて考えるプロトコルです。最初はUNIXというOSだけに組み込まれていたTCP/IPも,現在では,大型汎用計算機,ワークステーション,パソコンなど,ネットワークに接続されているあらゆるコンピュータ上のOSに組み込まれるようになっており,通信プロトコルのデファクトスタンダード(事実上の標準)の地位を獲得しています。このため,あの有名なWindows95にもTCP/IPが組み込まれています。
1984年にISOという国際機関が,OSI参照モデルというネットワークに関する国際規格を制定しました。OSIでは,通信手続きを7つの階層に分けて考えています。
ここで,通信プロトコルは,TCP/IPとOSIという2つの標準が並立することになりました。TCP/IPとOSI参照モデルとの間には明らかな違いがあるのですが,インターネットの急速な普及により,TCP/IPがOSIを押さえ込んだような形になっています。
パソコンの世界では,IPX/SPXという,これまたTCP/IPともOSIとも違うプロトコルが広く使われていました。これは,パソコン用通信ネットワークのためのNetWareというネットワークOSに採用されたプロトコルです。しかし,これも最近ではインターネットとの接続性の問題で,TCP/IPに押され気味です。
このようにして,TCP/IPは,インターネットのおかげで通信プロトコルの主流になりつつあります。次節では,このTCP/IPについて,より詳細に解説します。
TCP/IPというプロトコルは,TCP層とIP層に大別することができます。これらは,図2のように,それぞれOSIの参照モデルの中のトランスポート層,ネットワーク層にほぼ対応しています。
TCPは「伝送制御プロトコル」という意味で,信頼のおけないデータのやりとりを,信頼のおけるやりとりに置き換えるプロトコルだと考えてください。2つのコンピュータが,ハンドシェイクという方法でデータをやりとりします。ハンドシェイクとは,正しくデータを「送った」「受け取った」という確認を1つ1つ行いながら処理を進める方法のことです。
IPはインターネットプロトコルという意味で,インターネットでは,IPアドレス(Internet Protocol Address)というもので世界中のコンピュータを識別しています。
国際郵便の場合,相手の住所さえわかっていれば,世界中どこへでも手紙を送ることができます。これと同じように,インターネットは,相手のコンピュータのIPアドレスさえわかっていれば,世界中どこのコンピュータへでも電子メールを送ることができます。IPアドレスは,いわばインターネットの世界でのコンピュータの住所に当たるわけです。IPアドレスは,32ビットの数値になっており,あるIPアドレスのついたコンピュータは,世界にたった1台しかありません。もし,同じIPアドレスを持ったコンピュータが2台あったら,インターネットは大混乱してしまいます。そこで,IPアドレスの発行は,インターネット協議会という組織が,ユーザの申請を受けて行う仕組みになっています。このおかで,世界にたった1つのIPアドレスを手に入れることができるのです。
近い将来,IPアドレスが不足することがすでに予想されています。そこで,現在の32ビットのIPアドレスを,48ビットに拡張するという計画が進んでいます。
実際にパソコンなどでTCP/IPを使うときは,通信ネットワーク用カード,それに対応した制御ソフトウェア(パケットドライバ)が必要です。これらは,OSI参照モデルの物理層とデータリンク層にほぼ対応しています。
また,後で説明するWWW(World Wide Web)ブラウザやFTP(File Transfer Protocol)といった,私たちが使いたいサービスを提供するソフトは,応用層に相当します。これらのソフトをTCP/IPで使用するためには,ソケットと呼ばれるプロトコルが必要となりますが,WindowsNTやWindows95では,すでにそれ自身にソケットが用意されています。Windows3.1では,Winsockというソケットを別に用意する必要があります。
次節では,どうすればインターネットに接続することができるのかを解説します。
もし,大学のような公的な研究・教育機関や民間企業であれば,そこのコンピュータネットワークに接続することで,インターネットに直接接続したことになります。パソコンに,通信ネットワークカードを挿入し,ネットワーク管理者にIPアドレスをくれるよう申請すればよいのです。
この方法は,ユーザにとっては理想的です。電話代がかからず,料金が格安で,通信速度が速く,しかも確実につながります。その通信速度は,Ethernetという接続方法の場合で公称10MBPS(1秒間に1000万ビット),FDDI(Fiber Distributed Data Interface)という光ファイバによる接続の場合では公称100MBPSにも達します。WWWの検索なども問題なく行えます。これまでのパソコン通信が9600BPSくらいであったことを考えると,かなり高速になっています。
ただし,先に説明した3つのプロトコルを利用しているネットワークを相互に接続するときは,ゲートウェイが必要になります。
もちろん,所属している組織がインターネットに接続していなければ,この方法は使えません。
通信回線を使ってインターネットに接続することを考えます。この方法は大きく2つに分けられます。
1つ目は,UUCP(Unix to Unix CoPy)接続という方法です。これはUNIX間通信という意味で,パソコンのOSがUNIXならばできますが,今はやりのWWWサーバが使えないなど,制約が多いので詳しくは解説しません。
2つ目は,ダイヤルアップIP接続という方法です。現在,プロバイダと呼ばれる多くの会社が,インターネットを使う一般の人にサービスを提供しています。ですから,誰でもパソコンにモデムと電話回線をつなぎ,プロバイダに申し込めば準備完了です。
この方法は,プロバイダが教えてくれるアクセスポイントという場所までの電話代が必要で,そのうえに使用料金がかかります。また,普通の電話回線の場合,通信速度が最高でも28800BPSであり,直接接続に比べると遅くなります。WWWの検索には,かなり時間がかかります。
このダイヤルアップIP接続には,PPP(Point-to-Point Protocol)とSLIP(Serial Line Internet Protocol)という2種類のプロトコルがあります。現状では,PPPだけ知っていれば十分でしょう。PPPは,直接接続のようにIPアドレスを1人ずつ割り当てるのではなく,電話をしたときに,プロバイダが持っているたくさんのIPアドレスの中から1個を選び,それを割り当てる方法です。
インターネットではたくさんのサービスを利用することができますが,ここでは3つのサービスについて解説します。
インターネットの歴史の中でも,一番古くからあるキャラクタベースのサービスです。文字だけでコンピュータを使うことを,キャラクタベースの使い方といいます。基本サービスは,世界中の人とメッセージのやりとりをする「電子メール」,ファイルのやりとりをする「FTP」,自分のコンピュータが遠くのコンピュータの仮想的な端末として使える「Tel-net」などがあります。基本サービスは,伝送する情報量が少ないので,普通の電語回線を使っていても速度的な問題はありません。ただし,難しいコマンドを覚えなければならないのが欠点です。
キャラクタベースのサービスの中では,比較的新しいサービスです。難しいコマンドを使わなくても,インターネットのサービスが受けられるように開発されました。しかし,現在ではWWWに押され,あまり使われなくなってきました。
インターネットの歴史の中で最も新しく,GUI(Graphical User Interface)を基本としたサービスです。文字だけでなく,音,絵,動画などを総動員(マルチメディア)してコンピュータを使います。インターネットが爆発的に普及したのは,このWWWのおかげです。
このサービスの仕組みは,まず,情報提供者がインターネットの各所にWWWサーバを置くことから始まります。サーバには,WWWドキュメントを指定する道具として,URL(Uniform Resource Locator)があります。例えば,アメリカのホワイトハウスのWWWサーバを見たいときには,
http://www.whitehouse.gov
と指定します。これをロケーションと呼びます。
一方,WWWサーバの情報を見るために,MosaicやNetScape,Internet ExplorerといったWWWブラウザというソフトが開発されています。私たちは,WWWブラウザを起動し,上記のURLを画面から指定すれば,クリントン大統領の顔を見たり,演説を聞いたりすることができるのです。いながらにして世界の情報を受信することができます。
WWWサーバが最初に表示する画面のことを,特に「ホームページ」と呼んでいます。私たちが自分でホームページを作れば,インターネットを通じて,そこから世界に向けて情報を発信することもできます。
大学では,オリジナルのホームページを作り,入学希望者をたくさん集めるといったことを行っているところもあります。学校がインターネットに積極的であるという姿勢を見せることは,時代の先端を走っているというイメージを受験生に与える効果があります。また企業も,会社案内の掲示や取引の効率化などでインターネットを利用することに大いに注目し,活用しています。
図3は,私たちポリテクカレッジ福山のネットワーク上にあるホームページの画面です。残念ながら,現在は施設のネットワークをインターネットに接続することが許可されていないため,このホームページを地域の人に公開することができません。もし,インターネットにホームページを公開できれば,より多くの地域の人々に,私たちの施設や活動を理解していただけると思います。
次回は,無線による情報通信ネットワークについて解説します。
(つづく)