•  海外技術協力 2
  • CEVESTチームリーダー  藤沢 翼也

1.はじめに

CEVESTは大変長い技術協力プロジェクトで,1983年に開始されすでに13年が経過している。第1次協力が1983~1990年の7年間にわたり実施され,2年間のあいだをおいて1992~1997年の第2次協力が実施されてきた。現在,協力期間もあと1年を残すだけになっている。

派遣されている専門家はリーダー,調整員,各専門家(ディプロマIIIレベル指導員養成訓練担当2名,向上訓練担当3名)合わせて7名である。それぞれインドネシアに赴任した時期は異なるが,インドネシアにきて1年半から2年ぐらいになる。全員プロジェクト終了予定の来年5月末まで協力業務を続けることになっている。

2.第1次協力

2.1 概要

1981年1月,錯木善幸首相(当時)がASEAN諸国を歴訪した際に「ASEAN人造りへの協力」構想が提唱された。

インドネシア政府は,第3次および第4次国家開発5ヵ年計画において,国民の職業能力の向上を図るため職業訓練施設の拡充を行うこと,ならびに小規模工業の開発および小規模企業の育成を行うことを重要施策の一つにあげ,「職業訓練指導員・小規模工業普及員養成センター」:The Center for Vocational and Extention Service Training(CEVEST)において,職業訓練指導員(労働省)および小規模工業普及員(工業省)の養成を行うことを提案した。

このプロジェクトに対して,わが国は,建物建設および機械設備の供与を無償資金協力により実施し,また,国際協力事業団(JICA)を通じて,専門家の派遣およびカウンターパートの日本研修を中心とする技術協力を実施した。

(1) プロジェクト名

職業訓練指導員・小規模工業普及員養成センター(CEVEST)

(2) 技術協力期間

1983年2月~1990年3月

(3) 技術協力分野

・職業訓練部門

協力分野:機械・溶接・板金配管・自動車整備・電子・電気冷凍空調・研究開発

訓練コース:指導員養成訓練(高卒2ヵ年訓練),指導員向上再訓練(3ヵ月),校長訓練,事業内指導員訓練

訓練実績:合計修了生数1,789名

・小規模工業部門

協力分野:研修事業・調査研究事業・指導相談事業

研修コース:普及員ジェネラリストコース(2ヵ月),普及員スペシャリストコース(3ヵ月),トレーナー養成コース(4ヵ月),企業家コース(3~4週間)

(4) 建物建設・機材供与

・無償資金協力

設計管理契約額 246,200,000円

建物工事契約額 1,936,800,000円

機材調達契約額 817,000,000円

合  計   3,000,000,000円

・技術協力機材供与 2億円余り

3.現在の協力(第2次協力)

3.1 概要

インドネシアCEVEST職業訓練向上計画

(CEVEST Vocational Training Development Project)

(1) R/D等署名日

1992年3月24日

(2) 協力期間

1992年6月1日~1997年5月31日

(3) プロジェクト・サイト

ブカシ市(ジャカルタ市から東に30㎞,車で約45分)

(4) 相手国実施機関

労働省(Ministry of Manpower)

(5) 日本側協力機関

労働省,雇用促進事業団

(6) 要請背景

1981年1月の鈴木首相(当時)のASEAN諸国歴訪時に提唱された「ASEAN人造り協力構想」に基づき,1983年2月16日署名された討議議事録(R/D)により,1990年3月まで「インドネシア職業訓練指導員・小規模工業普及要請センター(CEVEST)プロジェクト」が実施された。プロジェクト終了後CEVESTの施設は工業省,労働省の2省による共同所管から労働省所管へと施設管理の一元化が行われた。これに伴い,インドネシア側より,石油に依存した経済構造を変革し,製造業等輸出産業の重点開発による経済発展を図るため,これに必要な職業能力の一層の開発と,CEVESTの自立発展に資することを目的に,ディプロマIII訓練および向上訓練に関する第2フェーズ協力の要請がなされた。

(7) 目標と期待される成果

①労働省が管轄する153の地方職業訓練センター(BLK)指導員を対象に,ディプロマIIIの資格を付与するための情報処理,工業電子2分野の指導員養成コースの確立。

②機械,電気,電子分野の民間企業の在職者を対象とした技能向上訓練システムの確立。

(8) 協力活動内容

①向上訓練について

1)企画管理課の業務推進(訓練生の募集・広報・コース企画開発運営・実施計画策定等)

2)訓練指導員に対する補完技術

②デイプロマIII訓練について

1)企業ニーズの調査

2)訓練目標の設定

3)カリキュラム・シラバスの策定

4)訓練教材の整備・開発

5)訓練資機材の操作・維持管理

6)訓練コースの運営

7)卒業生のフォローアップ

(9) 調査団等派遣

①プロ形調査1991年3月11日~91年3月20日

②長期調査 1991年6月4日~91年7月2日

③長期調査 1991年8月4日一91年8月13日

④長期調査 1992年1月21日~92年1月28日

⑤実施協議調査 1992年3月19日~92年3月27日

⑥計画打合 1993年4月6日~93年4月16日

⑦計画打合 1993年12月14日~93年12月22日

⑧巡回指導 1995年5月29日~95年6月9日

(10) 日本側対応(主な投入内容)

・専門家派遣

長期:リーダー,業務調整,情報処理,工業電子,向上訓練等7名

短期:年間6名(情報処理・工業電子・向上訓練等)

・研修員受け入れ

向上訓練運営,職業訓練企画管理,情報処理,工業電子等の各分野で年間5名×5年=25名

・機材供与

EWSコンピュータシステム,ロジックアナライザー,電子関係計測器類,車両等

(11) 他の経済・技術協力との関係

一般無償資金協力約30億円(83年7月3日 E/N締結,85年3月完成)

3.2 訓練実績(1次,2次)

1985年から1995年までの間に実施された訓練コースおよび訓練参加者の状況は表1のとおりである。

表1
表1

3.3 CEVESTの施設設備,職員数等

標記については表2のとおりである。写真1は施設全体の模型で,右半分が本館,教室棟,講堂,食堂等で,左半分が実習棟(機械,電気・電子,自動車整備,溶接・板金配管)である。工業電子および情報処理は右側教室棟を使用している。写真2から写真5まではCEVESTの様子の一部である。

表2
表2
写真1
写真1

3.4 プロジェクト・デザイン・マトリックス(PDM)

プロジェクトの目的・活動の要約,客観的に立証可能な指標,立証手段,重要な外部条件の仮定等をマトリックスに整理したものが表3である。目的・活動の要約の欄はそれぞれ,全体目標,プロジェクトの目標,結果・アウトプット,活動等が記されており,客観的に立証可能な指標とともに,われわれ専門家は常にこれらを念頭に技術移転業務に努めているところである。

表3
表3

3.5 ディプロマIII(D-III)訓練について

高卒3年訓練の指導員養成訓練で短大と四大の中間に位置し,テクニシャンレベルの訓練を実施している。

現在,工業電子科と情報処理科の訓練を実施しており,前者に安原雅彦(元ポリテクカレッジ大阪),後者に竹田浩治(元ポリテクセンター山形)の各専門家が協力している。

3.6 向上訓練について

民間企業の従業員を対象にして短期間の技能向上訓練を実施している。この訓練を通して向上訓練実施上の技術移転を行い,そのシステムの確立を図ることがわれわれの主な業務である。この分野は上田清満(機械・元ポリテクカレッジ川内),小坂佳正(電気・元ポリテクセンター京都),加藤隆久(電子・元ポリテクセンター埼玉)の各専門家が協力している。

また,ここには示していないが各コースごとに1枚ずつの用紙にそのコースの訓練目標,シラバス,スケジュール,経費等を簡単にまとめたものを作成し,これをコースガイドとして企業向けの広報,募集に使用している。CEVESTの周辺には日系企業,外国との合弁企業も多く,募集用のパンフレット等はインドネシア語と英語の両方を作成し使い分けている。

4.生活状況等

4.1 住宅,通勤,通学

専門家は全員ジャカルタ市内で生活している。住宅は全員アパート,マンションで,独立した一戸建ての家を借りている者はいない。住宅を借りるとき考慮することは,①JICA専門家としての住宅費の範囲内であること,②安全・快適性,③通勤,通学,買物等の便利度等で,各人の判断にまかされている。専門家3名は同一敷地内のアパート,タウンハウスに住んでおり,他の3名はそれぞれ離れたマンション,アパートに住んでいる。

CEVESTはジャカルタから約30km離れており,専門家は1台のミニバス(プロジェクトチーム専用車両)で通勤している。毎朝ミニバスの運転手がCEVESTから遠いところに住んでいる専門家から順にピックアップして(早い人は6時半ごろ),CEVESTに運んでいる。ちなみにわれわれの勤務時間は朝8時開始,夕方4時終了である。家に帰るときは朝の順番と逆になる。したがって遠くに住んでいる者はそれだけ車に乗っている時間も多くなる。

専門家のうち3名の者は子どもが学校(日本人学校)に通っており,学校の所在地がジャカルタ郊外で,これまた通学バスで1時間以上もかかるので,小学生,中学生の子どもをもつ専門家はできるだけ日本人学校に近いところに家を借りることになる。専門家は全員それぞれ車を所有しているが(運転手つき),これはもっぱら奥さん専用の買物や習い事,その他用(サークル・カルチャースクール,日本人クラブ集会等)で,ご主人は土曜日曜にゴルフに行ったり,奥さんの買物や子どものサッカーの練習につき合う程度である。

街にはバスやタクシーがたくさん走っているが,タクシーの一部を除いて安全上問題があり,ほとんど使用されていない。

4.2 メイドと運転手

ジャカルタに住んでいる日本人の大部分はメイドや運転手を雇っている。メイドは掃除や洗濯だけをする者と炊事をする者に分かれる。

掃除・洗濯だけの場合1ヵ月の給料は15万ルピア(約7,500円)ぐらい,炊事専門は18万ルピア(約9,000円)ぐらいである。時には両方やらせる場合があり,その場合でも日本円になおすと1万円前後である。人件費が非常に安いので大きな一戸建てに住んでいる人はメイドを2人,3人と雇っている人もいる。一方運転手はメイドに比べるとはるかに給料が高く,1ヵ月40万~60万ルピア(2万~3万円)ぐらいで,メイドの2~3倍である。

メイドや運転手を毎日相手にするのはどこの家でも奥さん方であり,これがまた大変なことで,いつもゴタゴタが絶えない。使用人の扱いに慣れている奥さん(ダンナも同じ)は例外で,インドネシアに来て初めてという人が大半である。メイドや運転手は日本人に使われ慣れしているので,初めてのシロウト(使い慣れしていない日本人)とでは気持ちの持ち方(態度)・余裕の度合いが違う。家によってはどちらが雇い主でどちらが使用人かわからなくなる家もあるということである。幸い専門家からはこの手の苦情を聞かないが,皆,大なり小なり苦労していることは事実である。奥さん方のストレスのたまる原因の一つにこのメイドや運転手との対応がある。どこでも奥さん連中が集まるとまず最初に出る話が,メイドや運転手の悪口ということに相場が決まっている。一戸建ての広い家に住むと最低でもメイドは2人,なかには3人,4人と雇うところもある。さらに安全上ガードマン(夜警)を雇い,さらに犬も飼うことになり,それはもう大変である。最近一戸建てよりもマンション(ガードマンは個人で雇う必要がない)に人気がある理由の一つに,この使用人の問題がある。

4.3 買物,食料品,衣料品など

ジャカルタには大きなデパートが3店あり,プラザ(概観はデパートで中は個人の店が密集)は何店あるのかわからないぐらいである。スーパーマーケットもたくさんあり,日本食品を専門に売っているスーパーも2つある。したがって食料品等で購入できないものはまずない。大変便利であるが,日本食品については日本の値段の2倍ないし3倍はする。日本に一時帰国した専門家がインドネシアにもどるとき,その大きなトランクの中はほとんど日本の食料品だという話は本当だと思う。有名ブランド品もたくさん売っているが,日本も最近安売り店ができてそこの値段と大差ないようだ。日本食にこだわらなければ米,野菜,果物,他食料品,衣料品等,日本に比べるとはるかに安く,生活はしやすいところだと思う。ちなみにガソリンは1リットル40円,ただし新車のトヨタ・コロナ2000cc,免税で255万円(一般の人は510万円)。物によって値段も異なり一律に安いというわけではないが,一般庶民には生活できるようになっている。

4.4 新聞,テレビ,本

新聞は日本の新聞がその日の午後に配達される(朝刊と夕刊が一緒になっている。衛星通信でシンガポールに送られ,そこで印刷されたものが飛行機でジャカルタにくる)。雇用促進事業団のご配慮で朝日新聞を毎日配達してもらっている。それを翌日CEVESTに持っていき専門家間で回し読みをしている。

テレビは日本のNHKの放送が見られる。時間制限があり一日中は見られないこと,衛星放送(日本国内の衛星放送の番組と全く同じということではなく,一般放送内容を一部編集しなおしたもの)なのでパラボラアンテナ(かなり大きい,直径4~5m以上)のあるマンション等でないと見られないこと,など一部不便はあるが,見られない国の人のことを考えるとゼイタクはいえない。

本屋はジャカルタに紀伊國屋と丸善があり,だいたい何でも買える。ただし値段は2~3倍する。

本の場合は日本円の値段が印刷されており,それを見ながら日本円に直してその3倍の値段の本を買うのは少しツライ。いきおいこちらではよほど必要とするもの以外は買わなくなり,本を読む時間も以前に比べるとだいぶ減った。

5.おわりに

CEVESTの概要とジャカルタでの生活の一部について記し,ここでは技術協力業務に伴う困難点,具体的な事例等については省略した。プロジェクトの成果はもちろん派遣されたプロジェクトチームの活動のいかんで大きく決まってくることは事実だが,それをより掘り下げてみると,協力受け入れ相手国側スタッフの能力,条件,派遣チームメンバーの構成などで大きくちがってくる。つまり現地でのプロジェクトチームの環境と条件が大変大きな要素と言えると思う。そして,それは国によりプロジェクトにより異なる。現状ではそれを変えることは難しい。与えられた条件の範囲内で最大限できることをやる以外にないと思う。

本稿ではふれなかったが,日本サイドにおける後方支援については,カウンターパート(インドネシア側指導員等)の日本研修受け入れ,短期派遣専門家の派遣等,雇用促進事業団の本部および各施設の皆さんには大変お世話になっており,心からお礼申し上げる。

CEVESTの第2次協力期間も1年弱を残すのみとなり,第1次協力および第2次協力の前半を担当された多くの専門家の方々の実績をふまえて,ここに現専門家一同,より一層の努力をしていかなければならないと考えている。

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