中国は,改革・開放経済のもと,経済体制の改革を行って産業の近代化を図っていることに加え,海外からの投資が増加しており,その結果,経済が急速に発展しつつある。中国の全人口12億のうち,労働人口は約6億を占めている状況にあるにもかかわらず,社会的需要に合致した質の高い技能労働者が不足している。このような構造的問題が先進技術の導入や生産性の向上を阻む要因となっている。
この課題に対して,国家第8次5ヵ年計画(1991~1995年)の中で,産学共同による技術の導入と普及を図り,技術者・技能労働者に対する再教育・訓練の実施を推進する政策がとられている。
1979年,中国政府は,労働部直轄で唯一の大学レベルの高等職業教育訓練機関として「天津職業技術師範学院」を設立し,高度な知識をもつ職業訓練指導員の養成に努力してきた。しかし,昨今の社会的需要に適合した高水準の指導員養成を行うには,その設備,機材が老朽化,陳腐化している。
このような事情から,技術革新に対応しうる機材を導入し,全国の技工学校等,職業訓練関係の現職指導員を対象とした教育訓練施設,すなわち「中国労働部職業訓練指導員養成センター」を設立し,職業訓練指導員の知識,技術,技能のレベル向上を図ることを計画し,日本に対して無償資金協力およびプロジェクト方式による技術協力を要請してきた。
これを受けて,国際協力事業団は1992年2月より,事前調査団,第1次~第3次長期調査団を相次いで中副こ派遣し,十分な協議を重ねた結果,1994年8月30日,北京において実施協議調査団がR/D(討議議事録)に署名し,「中国労働部職業訓練指導員養成センター」がプロジェクト方式による技術協力施設として正式に発足した。
当センターは中国における技術革新に対応できる職業訓練指導員の養成を目的として,中国3大直轄地(北京,上海,天津)の天津に設立された。天津は,面積1万1,000k㎡,人口850万人の大都市であり,北京の南東150㎞に位置し,北京の海の玄関の役目を果たす工業都市である。
1993年初め,整地,建物建設が始まり,自動車整備実習棟,自動車検査棟,本館(事務室,実験室,教室,ビデオスタジオ等),NC精密加工実習棟,学生宿舎,食堂が順次完成した。目下,グラウンド,テニスコート,プール等の周辺環境の整備に力が入れられている。
総面積は15.6万㎡,建築床面積は2万8,372㎡である。
センターは中国労働部職業技能開発司の管理のもと,併設されている「天津職業技術師範学院」と同等の並立した組織である。
本プロジェクトの包括責任者は,労働部職業技能開発司長であり,運営,管理責任者はセンター主任(現在は「天津職業技術師範学院」院長が兼務)である(図1)。
プロジェクト協力実施期間である1994年11月1日~1999年10月31日の5年間における5つの技術協力分野は,いずれも基礎技術の充実と実学融合を図った教科目により実践的な職業訓練指導員を養成しようとするものである。訓練人数はいずれの科においても,1学年48名である。訓練期間と卒業後の資格は,自動車技術分野のみ3年間,短大卒資格を取得し,他の4分野(生産技術,制御技術,電子技術,情報技術)は2年間で大卒資格を取得する。
訓練対象者は,いずれの分野においても次の3項に該当するものであり,かつ短大卒以上のレベルを有することが条件となるが,自動車技術分野のみ技工学校卒以上のレベルとなっている。
無償資金協力として1995年3月までに18億円の機材が供与された。さらに,5年間のプロジェクト技術協力期間中,1億円の機材が供与されることになっている。
人的投入として,リーダー,業務調整員,各分野1名,計7名の長期専門家が常駐するとともに,毎年5名の短期専門家が訪中して技術指導にあたることになっている。
センターのカウンターパート(C/P)に対しては毎年5名を約3ヵ月の期間訪日させ,職業能力開発大学校,東京職業能力開発短期大学校等で研修させることになっている。
各分野における教員の配置状況と学歴構成を表1に示す。各分野ともC/Pの数は,R/D協議にのっとった9名を満足させている。短大卒資格を与える自動車分野を除き,大卒資格を与える他の4分野においては修士卒が多く,一般的な職業訓練分野における技術協力とは趣を異にしている。それゆえ,技術指導の困難さを痛感させられている。
(1996年4月8日から)
職業能力開発大学校,東京職業能力開発短期大学校が一体となって推進する施設対応方式の当プロジェクトは,外務省,国際協力事業団,労働省,雇用促進事業団の指導のもと順調に1年半を経過しようとしている。中国における人づくりという重要な任務を推進するためには,日本国における関係各位のご支援が不可欠です。今後ともよろしくご指導賜りますようお願い申し上げます。