• 海外技術協力 4
  • ポリテクセンター千葉(千葉職業能力開発促進センター)所長  中野 頼明*
  • *現(財)海外職業訓練協会

1.はじめに

ポリテクセンター千葉では数多くの外国人を受け入れて研修を行っている。具体的な実践報告は別稿に委ねることとして,本稿では当センターでの外国人研修の簡単な歴史,外国人を対象とする研修を行う場合の受け入れルート別の研修コース解説,そして研修生の受け入れを行う場合の基本的な考え方について述べる。

2.外国人研修の歴史について

ポリテクセンター千葉はその前身が高度職業能力開発促進センター(高度ポリテクセンター)千葉分所であり,平成7年4月に独立をしたセンターである。高度ポリテクセンターは平成2年6月に千葉市美浜区に発足したが,その前身は中央技能開発センターであった。

中央技能開発センターは,昭和42年2月にオープンをした研修セミナーを主として行う訓練施設である。開所当時は中央技能センターといい,千葉市稲毛区六方町に位置する。設立当初より『中技センター』という愛称が定着をしていた。また研修寮も付設されていて,『成技寮(Seigi Ryou)』として親しまれている。

昭和47年10月から後述する『橋計画』の外国人研修が始まり,現在に続いている。その後,中技センターは国内対象のセミナーの実施とともに国際協力事業団受け入れの研修員訓練を行うなどしてきた。

急激な技術革新とマイクロ・コンピュータの発達に伴うOA化が進み,従来形の能力開発セミナーでは対処できない内容のセミナーを実施するために,千葉市幕張地区に機器・建屋を新しくした高度ポリテクセンターとして移転していった。しかしながら『橋計画』の外国人研修や旧来の訓練は跡地に残った分所で継続して行っていた。その後,外国人研修の増大や国内対象訓練の増設がなされ,独立したセンターになったことは上述のとおりである。また,『中技センター』や『成技寮』の名称は当所で研修を受講した国外の研修生にはことのほか思い出深い場所であるらしく,今でも「千葉市成技寮宛」で外国郵便が着くほどである。

このような歴史を振り返ると,ポリテクセンター千葉としての外国人研修の歴史は浅いが,六方町のキャンパスとしての歴史は24年にもなる。

3.受け入れルートと研修コースについて

ポリテクセンター千葉が行っている外国人研修は雇用促進事業団本部の研修依頼によっている。これは職業能力開発促進法第97の2条第3項の規定によるからである。

外国人が日本国内で研修を受けるには,入国に際して研修ビザの取得が義務づけられている。一般に研修ビザ申請は研修受け入れ団体ごとに入国管理事務所に対して行われているようである。

現在,当センターで行っている外国人向けの研修コースには受け入れ団体ごとに,次のようなルートがある。

3.1 国際協力事業団(JlCA)が受け入れている研修員のためのコース

個別受け入れと集団受け入れの2通りある。集団受け入れはJICAが研修内容,研修時期,定員,募集対象国(地域)等を設定して行うものである。GI(General Information:コースガイドのような説明書)が事前に配布され,また当該センターと協力して作成されるので研修内容が事前に読め,計画を立てやすい。

個別受け入れは専門家の技術移転対象者であることが多く,彼らはカウンターパートと呼ばれる。

JICAから海外に派遣されている日本人専門家は派遣先の政府機関で技術協力に当たっているため,研修員は派遣先の公務員であることが多い。私たちのセンターで受け入れる場合には,当然に職業訓練センターの指導員や工業高校の教員である場合が多い。専門家の技術移転内容に相応した国内研修を設定するため,個々の研修員で研修内容は異なっている。併せて来日時期,研修時間もバラバラのものとならざるを得ない。

たとえ1人でも1コースの設定をすれば,教室・実習場スペース,そして担当講師1名(以上)を割き準備をしなければならない。

写真1は平成7年10月27日に行われたウガンダ共和国の首都カンパラにあるナカワ訓練センターの副所長さんであるカウンターパート研修の修了式での修了証書授与の様子である。たった1人の修了式なので所長室にて式を執り行った。卓上にはウガンダ国旗と日の丸が見える。

写真1
写真1

当センターで対応できる内容は当然にセンターが持つ技術レベルに沿ったものである。現在,木工・電気電子・機械加工・自動車整備・塑性加工等のコースが受け入れ可能であるが,最近では海外からの要望事項がコンピュータ制御,コンピュータ・ソフトウェア,NC加工等が急増している。一般に個別コースでは注文を受けての単品生産的な個人授業になる。また,研修期間も見学研修のみの1日コースから3~6ヵ月程度の長期間にわたる研修もある。

個別,集団それぞれに研修員の国籍・地域は多岐にわたるが,海外でプロジェクト方式で協力をしている職訓センターの指導員・管理職が多い。最近ではウガンダ共和国,ケニア共和国,インドネシア共和国,UNRWA(国連パレスチナ難民救済機構)である。

集団コース,個別コースともに研修内容は技術研修を中心にして行われるが,使用言語は日本語である。すべての研修員が日本語の理解があるわけではないので,JICAにお願いして研修監理員(コーディネーター)の手を煩わして英語,スペイン語,アラビア語等に通訳していただいている。集団・個別を問わず,帰国後は現地にての伝達研修が行われるように派遣専門家は手配をし,技術・技能の拡散ができるような計画が実行される。一般には外国で研修を受けてきた者(カウンターパート)には相手国政府により一定期間のボンディングがなされて,帰国後に確実に技術・技能が伝播されるような方策が取られていることが多い。

マレーシア政府の東方政策(ルックイースト)研修員コースは同国政府の費用負担で行われるが,日本側の受け入れ窓口はJICAとなっている。研修方法としてはJICAの集団コースに近いやり方である。研修期間はおおむね4~5ヵ月である。

3.2 国際研修協力機構(JlTCO)を通じて受け入れている研修生コース

外国人技能研修制度に基づき来日する研修生には,一定期間の公共職業訓練施設での基礎研修が義務づけられている。

日本国内の研修生受け入れ団体が複数名の研修生(一般には10~100名くらい)を同時に受け入れ,各研修生は引き受け団体傘下の企業に分かれて実技の実習を行うことになる。当センターでは来日直後の約1ヵ月間のオリエンテーション部分で基礎研修を集団コースとして実行している。

この研修を非実務実習と呼ぶが,企業内の実習と区別するために一般に『座学研修』とも呼ばれている。座学といっても教室内研修だけではないことに注意されたい。主な研修内容は日本語会話と基礎技能の習得にある。この詳細は上述のように別稿に譲る。

ビザ発給の時期,飛行フライトの予約,団体傘下での研修受け入れ時期の関係から開講日や研修生数が直前まで定まらずに,変更されるケースが比較的に多い。

今までに当センターで研修を受けた研修生の国籍はペルー共和国,中華人民共和国,フィリピン共和国,インドネシア共和国,ベトナム社会主義共和国,ミャンマー連邦等である。平成4年から始まった当該研修は,総研修修了者数が千百余名を数えるほど盛況に受け入れている。

写真2はミャンマー連邦の研修生の修了式の様子である。当センターでのオリエンテーション修了後にホテル・マンとしての研修を都心のホテルで実習する予定があるので,全員がきちんとしたスーツに身を包み,リクルート・ルック風なのも微笑ましい。写真は感謝の言葉を日本語で読んでいるところである。卓上にミャンマー連邦国旗と日の丸が並んでいる。写真の奥には受け入れ団体の代表者と日本語講師が同席しているのが見える。

写真2
写真2

3.3 日本ILO協会を通じて受け入れている研修生コース

国際技能開発計画により日本の企業で実習研修する目的で来日する研修生のためのオリエンテーション・コースで,3ヵ月コースである。企業内研修は3~6ヵ月間であるので,都合合わせて6~9ヵ月間の研修期間になる。このコースは一般に知られていないので,少し詳しく説明をしたい。この制度が他と異なるのは公・労・使の三者構成のコンセンサスを得て行われる研修制度であることである。日本の企業体の協力を得て開発途上国から有為な青年を日本に招き,日本的な労働制度の学習,生産現場での経験を積ませるものであり,対象者をエリートのみに絞った研修制度ではなく,現場のライン・マンや職長に経験を積ませる画期的な制度といえよう。

3ヵ月オリエンテーション・コースは主に日本語の習得に当てられる。1日6時間,1クラスが10~12名の少人数での語学授業なので,来日直後にはほとんど話せなかった日本語が3ヵ月後にはきちんとした日本語会語ができるようになる。

これは全員が成技寮に宿泊し,昼も夜も日本語漬けの環境なのと,各1期ごとの出身国数が14~15ヵ国なので,共通語として日本語に頼らざるを得ないことにもよる。

この期間中は語学の習得以外にも,体育や日本の労働慣行,労働法等の研修をも包括する内容になっている。

開設当初は対象国をアジア地域に絞り『アジアに架ける橋計画』(通称:橋計画)といわれてきたが,今では対象国が全世界に広がり『世界に架ける橋』と改称した。また,派遣元国も開発途上国ばかりではなく,先進国にも門戸を広げている。

この制度は昭和47年10月に第1期生を迎えて以来,年間3回のペースで現在に続いている。平成8年3月29日には第68期の研修生の修了式が済み,総計3400余名の修了生を企業にお渡ししたことになる。表1に今までの受け入れ数を示す。日本ILO協会のご好意によるデータであるが,この表の中の数名の者は日本語オリエンテーション・コースを受講していない(来日時にすでに相当程度の日本語を話せていた)ので,ポリテクセンター千葉での修了者数とは一致していないことをお断りしておきたい。

表1
表1

また,この表から日本との関係,特に日系企業の海外進出状況をうかがうことができる。

3.4 職業能力開発短期大学校に受け入れる海外留学生コース

このコースは平成7年度から始まった新しい研修コースである。ポリテクカレッジ秋田,ポリテクカレッジ富山,そしてポリテクカレッジ島根に受け入れる予定の短大生の日本語習得のためのコースで,今年は平成8年3月22日から10日間はオリエンテーション期間,同年4月1日からは1年間の日本語学習が始まる。前半の半年は,日本語の習得に全力を注ぎ,10月からの後半には数学,物理等の基礎学科の日本語による補講が始まる予定である。そして,日本語検定試験に合格した後,平成9年4月から晴れて上記の短大生になれるわけである。

写真3は第1期生の開講式の模様を示す写真である。

写真3
写真3

現在の留学生の対象国はインドネシア共和国,マレーシア,フィリピン共和国,タイ王国の4ヵ国で総計12名を毎年受け入れることになっている。募集は公募による。

4.海外研修生受け入れの基本的な考え方について

ポリテクセンター千葉では,上述した4種類のルートによる外国人を受け入れて研修を行っている。研修内容,対象レベル,開始日がそれぞれに異なっていることが理解していただけたことと思う。

これらのコースを全職員で手分けして担当しているが,日本語の授業はその基礎部分を外部講師に依頼している。技術用語の説明や工具・機器の説明は当然に当センターの講師が受け持っている。

外国人研修には上記のようなルートの違いがある。国内の雇用労働者対象の能力開発コースに種々の形式,レベルの違いがあるように,海外から来日する研修生の能力開発コースにもいくつかのバリエーションがある。

年に1~2回の受け入れであれば,そう問題が起きるとは思えないが,年間を通じて継続的に研修生が来日するような場合(例えば,JITCOの座学研修生)は,センター全体でシステマティックな行動を取らなければ流れるような訓練は展開できない。

そこで,座学研修が本格的に始まる平成6年度に図1に示す『フローチャート』を検討し,この流れ図に沿って訓練展開を始めることにした。具体的な実施方法は別稿を参照してほしい。

図1
図1

当センターで行う外国人研修は研修生にとっては最初に出会う日本である。来日した日,あるいは翌日には研修が始まるので,彼らが故国から背負ってきた文化尺度と日本のそれとが微妙に食い違うことがある。言葉の習得にも初期には間違いや勘違いを起こしやすい。

ほとんどの研修生が成技寮に泊まることになるので,この面での配慮も必要になる。そのため,『橋計画』と『座学』の研修生については,それぞれの受け入れ機関から生活指導員に来所を願い,毎日成技寮に同泊していただいている。また,寮規則も英語,中国語,インドネシア語,ポルトガル語,スペイン語,タイ語で用意をしている。

その他にも日々の訓練の中でプロトコールが必要であるが,このことは他日に稿を起こしたい。

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