• 海外技術協力 7
  • ポリテクセンター千葉(千葉職業能力開発促進センター)企画係  花澤 建美

1.国別の受け入れ状況

ポリテクセンター千葉では,平成7年度に757名の外国人研修生に対して,非実務研修を実施しましたので,その概要について報告します。受け入れ国と実施時期は表1に示しました。

表1
表1

国別では,

インドネシア共和国 629名 9コース

中華人民共和国 94名 8コース

ベトナム 14名 1コース

フイリピン 12名 1コース

ミャンマー 8名 1コース

から受け入れました。そのうち,インドネシアからの研修生が83%を占めました。

2.外国人研修制度について

この外国人研修制度は,開発途上国への技術移転を目的として行われています。始めの1年間は,日本語や技能訓練を行う非実務研修と,会社や工場における実務研修で構成されています。その後,検定に合格した研修生は,さらに1年間の技能実習生として日本で研修を続けることができます。この報告は,当施設で行った150時間の非実務研修についてまとめたものです。

3.研修生の研修職種

男子の研修生の方が圧倒的に多くて89%でした。したがって研修職種も建築関連の型枠施工,鉄筋加工,建築塗装をはじめ,溶接,鋳造,金属加工,機械加工,木材加工などが多くみられました。女性は9名を受け入れました。その研修分野は電子機器組立,縫製,食品加工の3職種でした。

国によっては,十分な就職の機会がないことなどを聞くと,研修生がこれらの分野の技能をしっかりと身につけて国に持ち帰ることは有意義なことであり,また必要なことと思いました。

4.非実務研修の内容

4.1 研修科目と時間

公共機関で行う非実務研修は,150時間です。その中から60時間の日本語授業を行い,残り90時間は技能訓練を行っています。ただし,インドネシア共和国からの研修生は,出国前に日本語研修を行っているので非実務研修は120時間に軽減され,日本語の授業は含まれていません。したがって,事前研修時間のすべてが技能訓練となります。

なお,技能訓練時間内には,オリエンテーションや研修生と職員による意見交換会,博物館に行く所外研修,日本の文化・習慣などの勉強をする日本事情が含まれています。

4.2 技能研修の内容

研修職種の数が少ないときは,実務研修の内容に合わせた技能訓練のカリキュラムを組むことができるので,業種に関連した作業用語や,工具の使用法の訓練を行いました。しかし,表1にあるように,一度に多くの研修生を受け入れた場合は,研修職種が多岐にわたっているので,研修業種ごとにカリキュラムを組むことができません。そこで,クラスをおおまかに建築分野(型枠,配管,鉄筋施工,合板製造等),金属分野(金属プレス,溶接,鋳造等),電気分野(電気機器組立,電気メッキ等),その他(食品加工,縫製,塗装,帆布加工等)に分けて,関連職種の指導員免許を持った職員が訓練を担当しました。

表1
表1

技能訓練の目標は,基本的な作業を行うことで,作業指示の用語,安全の用語,測定作業,形状や数の表し方などを理解でき,話せるようになることを主眼にして行いました。

4.3 オリエンテーションの実施

2年間の研修期間中の,災害の防止と日本での生活習慣に早くなじむことを目的に,オリエンテーションを行いました。企画係で作成した安全のテキストを使い,作業服と安全具,機械の操作,電源操作,交通ルール,教室使用の注意,トイレの使用方法,教室の後片づけ等について話しました。

研修生は選抜されて日本に来ているので,ルールについてはよく理解していましたし,研修期間中よく守っていました。

5.企業と研修生はどう考えているか

5.1 研修生に対する企業の反応

すでに研修生を受け入れている2社から聞いた,研修生に対する感想です。研修生に好意的であることがうかがえます。

  • ・日常会話が,もっとできるようにしてもらいたい。
  • ・基本的な生活習慣を,覚えてもらいたい。
  • ・作業については会社で教えることができる。
  • ・研修生はまじめである。
  • ・研修生が積極的に挨拶するので,工場内が明るくなった。
  • ・仕事を覚えてもらい,現地の合弁企業で働いてもらいたい。

ある会社では,研修期間が2年間であることを利用して,1年ごとに研修生の半数を入れ替えて,先輩の研修生が新人の研修生を指導するようにしているとのことでした。このように,外国人研修生の受け入れがうまくいくように,会社側も工夫していました。

5.2 研修生の感想

日本での生活に対する研修生の感想です。日本に来て比較的早い時期(2~3週間)に行った,意見交換会で出たものの一部です。

  • ・日本語がわからない,特に漢字がわからない。
  • ・日本語を覚えたいので,日本人に話しかけても逃げてしまう。どうしてですか。
  • ・日本人は早く話すのでわからない。
  • ・地方の会社に行くので,その地方の方言がわからないことを心配している。
  • ・寒い(冬に来た研修生)ので病気が心配である。
  • ・生の野菜が食べられない。
  • ・宗教上,豚肉が食べられない。
  • ・作業の失敗で,会社のものを壊すのではないかと心配である。
  • ・日本に来ることができてうれしい。
  • ・たくさんの経験ができる。
  • ・お金が手に入る。
  • ・物価が高い。
  • ・日本は美しい,にぎやか,安全である。
  • ・日本人は親切,勤勉である。
  • ・食べ物,飲み物がおいしい,好きだ。

研修生は,日本語や習慣の違いを心配しながらも,日本に来ることができた喜びを語っていました。

受け入れ企業と研修生のいずれの立場からも,日本語の理解力と食べ物や宗教などの生活習慣の違いを心配していることがうかがえました。

6.研修生の日本語力

6.1 難しい日本語

研修生の間に日本語力の差が生じます。研修の終わり頃になっても,自分の出身地や名前も話したがらない研修生がいる一方,話す場を一人占めしている人もいます。日本語の上手な研修生は,職員と他の研修生との連絡役を演じることで,ますます日本語がうまくなっていきます。日本語の苦手な研修生はその人に頼ってしまうので,日本語の習得が遅れてしまうようでした。

インドネシアの研修生は,すでに300時間の日本語の研修を行ってから来ているので,来日時点でほぼ全員がひらがなは読め,こんにちは,おはようございます,さようなら,失礼します等の挨拶や,研修先の会社名や研修職種名は話せます。

そんな片言の日本語が話せる研修生と語しているとき,こちらの話した言葉がわかってもらえないときがあります。むしろそうしたときに,私たちが普段使っている日本語の持つ,同音異義語や表現の暖昧さに気がつくことがあります。

日本の生活に慣れた?と研修生に聞くと,わかりませんといいます。慣れたがわからないのです。同じ音のなれたでも,社長になれた?はすぐわかってもらえます。日本の生活は大丈夫?と聞き方を変えるとわかってもらえました。

早く終わるようにしなさい。これも研修生には,わかりにくいようです。ようにがわからないのです。食べるように,行くように,見るようになどと日常多く使っていますが,日本語を覚えたての研修生には,理解しにくいようです。

早く終わりなさい。食べなさい。行きなさい。と言ったほうがわかってもらえます。

ゆっくりした話ならわかりますか?この言い方も,理解できないようでした。したがわからないのです。上下の下と同じに受け止めるのです。ならもわかりにくいようです。ゆっくりの話は大丈夫?と言い方を変えるとわかってもらえました。

ゆっくりしたのしたと同じぐらいに使われるのが,ことです。見たことがあるか,バスに乗ったことがあるか,電話をかけたことがあるか,などとよく使います。甚だしいときは,勉強したことがあるか?のように,したとことがつながっています。このような言い方は研修生には難しいようです。また,電話をかけてみますか?のみますは,見ますかではありません。電話は話したり聞くもので,見るものではないのにかけてみますか?は研修生にとってわかりにくいでしょう。

そこで,日本語で話しかけるとき,受け手である研修生のことを考えて,言い方を少し工夫したり,ゆっくり話すことが必要だと思いました。そうした工夫が研修生の日本語の理解に役立ち,会話の機会が増え,上達にプラスになると思います。

6.2 間違った話し方

課題の仕上がった研修生に,「上手ですね」と誉めると「はい,先生に教えてあげました」と答える研修生がいます。もちろん,「先生に教えてもらいました」の誤りです。もし,会社で「先輩に仕事を教えてあげました」と言ったら困ります。先輩に仕事を教わりました,と正確に使えるように,

犬が肉を食いました→犬に肉を食われました

泥棒がお金を取りました→泥棒にお金を取られました

こんな場面を絵に描いて,言い方の違いを話しています。

「このボールペンはあなたの?」と聞くと,研修生が「はい,あなたのです」と答えるときがあります。この場合,「はい,僕のです」と,答えるのが正しいのですが,あなたを自分を指す意味に受けているので,「はいあなた(自分)のです」と答えてしまうのです。

6.3 日本語の活用の難しさ

研修生の話し方が不自然なときがあります。動詞の活用や形容詞の活用が正確ではないからです。日本人だったら幼児の頃から,長い時間をかけて繰り返し聞くことにより,規則を学ばなくても自然な活用をしているからです。そこで,研修生がどんなところで間違いやすいか調べてみました。

正解の人が最も多いのですが,次のような間違えの例がありました。

■帰る→帰ってきた,と同じ言い方になるように変えなさい

・間違えた例

行く→行てきた

乗る→乗てきた 乗りてきた 乗りってきた

買う→買うてきた 買いてきた

借りる→借りってきた

過去形にしたときの行った,乗った,買った,のように促音が入るときと,借りたのように促音が入らないときがあります。この活用の違いがわかれば,正解はもっと多くなると思いました。

6.4 単語の並べ替え

研修生に次のような問題を出してみました。

■正しい文章になるように次の単語を並べ替えなさい

悪い 家に 天気が ので いました

次のような誤った答えが出てきました。読むと思わず笑ってしまいますが,ちょっとした間違いです。

天気が家に悪いのでいました

家に天気が悪いのでいました

天気がので家に悪いいました

悪いので家に天気がいました

天気がと悪いを離してしまいました。家にといましたも離したのが正解にならなかった理由でした。

日本語の主部と述部の位置関係を,簡単明快に説明する方法があれば,研修生の日本語はもっと早く上達すると思います。

6.5 研修生の実力度

研修生がどんなところで間違えやすいかを知っていただくために,6.1から6.4で研修生の誤答例を取り上げました。しかし,次の正解率が示すように,研修生の日本語の実力は高いのです。短時間でよく理解していると感心します。それぞれ下に代表的な誤答例も併記しておきました。

■過去形の言い方に変えて,丁寧な言い方にしなさい

研修する→研修しました……………………94%

研修すしました

練習する→練習しました……………………88%

練習りました 練習すしました

教わる →教わりました……………………73%

教わらいました 教わしました

教われました

教える →教えました………………………72%

教えりました 教えしました

覚える →覚えました………………………72%

覚えしました 覚いました

覚えりました

作る  →作りました………………………78%

作しました 作るします

作かします

受ける →受けました………………………71%

受けしました 受けりました

受こしました

研修生に対して企業は,日常用語の理解力を要望していました。会社では研修生は丁寧な言い方をしたほうがよいと思い,このような問題をだしました。おおむね正しい解答をしていますが,時々誤った使い方もしています。

教わる・作る・終わるのようにるをりに変えてましたをつける(教わりました,作りました,終わりました)ときと,教える・覚える・受けるのようにるを削ってましたをつける(教えました,覚えました,受けました)場合があります。

研修生にとってはそのあたりのルールがわからないので,教えりました・覚えりました・受けりましたになってしまったのでしょう。練習するのするもしますに変え,しましたになるところを,終わる→終わりました,と同じ扱いで,練習りましたとなっています。

次に単語の並べ方の実力はどうでしょうか。

■正しい文章になるように並べなさい

の に あす 行き 9時 ます

正解> あすの9時に行きます………………39%

誤り 9時にあすの行きます………………55%

時間を先に置いた表現が半数以上ありました。

玄関 を ください 靴 ぬいで で

正解 玄関で靴をぬいでください…………47%

〃 靴を玄関でぬいでください…………6%

誤り 玄関を靴でぬいでください…………12%

〃 靴ぬいでで玄関をください…………12%

〃 玄関を靴ぬいででください…………6%

ぬいでくださいという2語がつながった人は,77%いました。3語以上になったとき,単語をどこに置くのか迷っていることがわかります。でも,以上の解答にみられるように,研修生はかなり正しく日本語を使っています。また技能訓練の場においても,用語の習得や工具の扱いに対して意欲的に取り組んでいることが,言葉の獲得に良い効果をもたらしているように思われます。

日本語の活用と,2語文から3語文へと単語を増やすとき,単語の置き方のルールがわかればもっと効果的な日本語の習得ができると思います。

7.研修受け入れと施設の対応

7.1 事務処理の改善

研修の受け入れ決定から研修開始まで,短いときは1週間から10日ほどの余裕しかありません。その間に,消耗品や教材の発注から訓練計画書の作成,非常勤講師の委嘱,授業担当者の配置等の事務処理をしなければなりません。また,4週間後の修了式に合わせて修了証書も作らなければなりません。

1回のコースに使う研修生の名簿の種類も多いのです。授業の出席簿・修了書発注名簿・日本語授業評価表・研修終了後のJITCOへ提出する研修報告名簿・卓上に置く名札の5種類が必要です。しかも,記入の様式が全部異なっています。

こうした繁雑な事務作業を改善するために,DTP(卓上編集)ソフトを使用することにしました。DTPソフトで必要な書類の書式を前もって作成しておきます。コースごとに入れ替える日付や氏名,職種などは差込指定にしておきます。コースごとのデータはワープロで作り,テキスト形式のファイルで保存します。書式文書にデータを流し込むと,書式文書中の差込指定の位置に,データファイルから必要な文字列を,次々と拾い出しながら置き換えていって書類を作成しました。

名簿の基本データとして図1にあるように,研修生1名について,母国語の氏名・カタカナ表記の氏名・生年月日・年齢・通し番号・和文職種名・英文職種名を入力したものを作成しておきます。

図1
図1

これをDTPソフトで作成しておいた,書式文書(フォーム)図2に流し込むと,必要な項目を置き換えて書類ができあがります。

図2
図2

修了証書発注名簿は,データから母国語氏名・カタカナ氏名・和文職種名・英文職種名・生年月日の5つの欄に,それぞれ基本データから必要な項目を流し込んで作成しています。この方法によって,修了証書の名前の間違いや,訓練計画書の金額の間違いなどがなくなりました。

7.2 施設全体の対応

外国人研修は開講から修了までが短いうえに,表1のように頻繁に研修生を受け入れました。その間,物品の購入や,安全靴・運動靴の足合わせ,所外研修日の弁当の手配や旅費の袋詰め,研修の最終日に行う評価会(写真6)の準備,開講式・修了式(写真7)の進行など,事務の方をはじめ多くの職員や部外講師の協力によって,外国人研修を行ってきました。施設をあげて取り組んだこの努力は,研修生からよい評価を得たものと確信しています。

表1
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写真6
写真6
写真7
写真7

8.まとめ

① 研修制度について,受け入れ企業・研修生ともに好意的な受け止め方をしている。

② 受け入れ企業・研修生の双方が,日常会話力の心配をしている。

③ 技能訓練の場を通して,日常会話の訓練を行うことは日本語習得に効果的である。

④ 動詞,形容詞の活用と,3語以上の文になったときの単語の置き方のルールができれば,もっと効果のある日本語の訓練ができる。

⑤ 受け入れ事務を定型化することで,研修生に対するきめ細かい支援が行えた。

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