• 海外技術協力 8
  • 職業能力開発大学校 国際協力部 丸山雅滋・生産機械工学科 磯野宏秋・電気工学科 岡野一雄

1.研修の概要

1.1 研修コースとその特徴

本校での海外技術研修員の受け入れは,昭和38年に国際協力事業団の委託によりスタートしました。それから数えて今年度で33年目を迎え,非常に長い歴史をもっています。

ここで,能開大で実施している海外研修員の受け入れ業務を整理したいと思います。図1を見てください。大きく分けて集団研修課程と個別研修課程に分けることができます。

図1
図1

集団研修課程は1ヵ国1名の研修員を原則とし,その国々の共通のニーズをあらかじめ考慮したカリキュラムを設定する「定食コース」で,日本側から割当国に「ジェネラル・インフォメーション」と呼ばれる「募集要項」を送付し研修員を募集し,集団で研修を実施するコースです。

これに対し,個別研修課程とは特定の国の要請に基づき,特定の研修ニーズを満足させるためにカリキュラムを設定する「注文コース」です。国際協力事業団が実施する技術協力プロジェクト等のカウンターパート(相手国専門家)や国際機関からの要請に基づいて受け入れる研修員が,この研修課程に当たります。

また,集団研修課程には職業訓練指導員コース(以下「指導員コース」という)とハイテクロボット制御コース(以下「ハイテクコース」という)の2つがあります。指導員コースは8.5ヵ月の研修期間で職業訓練施設で働く中堅の指導員を対象とし,技能と技術を向上させることを目標としています。

ハイテクコースは,発展途上国においてロボット制御関係の職業訓練業務に携わる上級者を対象として,ロボット制御分野における先端技術および関連知識を習得させることを目的としています。研修期間は7ヵ月となっています。

これまでの研修員の受け入れ実績についてふれたいと思います。表1には集団コースが始まった昭和38年から昨年度までの指導員コースの国別研修員の受け入れ実績表です。開始当初は3コース7名だった指導員コースは,コースの新設によって受け入れ研修員が増え,ちなみに平成8年度では46名になりました。

表1
表1

また,ハイテクコースの前身に当たるハイテクリサーチコースについては,昭和60年より平成6年度までに38名の研修員受け入れの実績がありました。ハイテクロボット制御コースについては,スタートした昨年には5名の研修員を受け入れています。

1.2 集団研修課程での研修目程について

能開大で実施している集団研修課程は7ヵ月以上と長期にわたり毎年実施していることもあり,研修日程は定型化されています。

まず,研修当初には国際協力事業団八王子国際研修センターで日本理解と日本語研修が実施されます。5週間(120時間)の授業で研修員は日本語での挨拶や簡単な日常会語が話せるようになり,びっくりしてしまいます。日本語研修が終わると,研修場所を能開大に移動して専門研修がスタートします。

能開大での研修では,指導員コースとハイテクコースでは一部研修日程が異なります。

まず,指導員コースについて昨年度を例にとると,夏期休暇の時期に実施する共通講義を境として,前期の8週間と後期の17週間に各研修分野に分かれて専門研修が実施されます。専門研修では能開大で実技を中心に研修が行われますが,1週間に1回程度は工場や展示会などに見学に行き,各専門分野での見聞を広げています。そのほかには,民間企業に研修を依頼して,生産現場での実践的な研修が5~7週間行われます。また,研修期間が長いこともあり,気分転換も兼ねて北海道や九州などにある訓練施設や企業・観光地などへの1週間研修旅行が2回実施されます。

このコースでのユニークなところは共通講義です。共通講義とは能開大の夏期休暇に合わせてすべての研修員が同じ研修を受ける講義です。講義の内容としては,指導科の先生が担当する日本の職業訓練システムや技能分析・カリキュラム作成技法。部外講師を迎えての訓練技法や視聴覚教材作成・コンピュータ実習など,指導員としての共通する課題を研修します。その他には,1日バス旅行で鎌倉に出かけたり,体育館でのソフトバレー大会などが行われます。特にソフトバレーではエネルギッシュな性格が試合にじかに出るため,決勝戦では異常な盛り上がりをみせます。

次にハイテクコースの研修日程について説明したいと思います。このコースは冬休みをはさんで研修が行われます。少人数のコースのため共通講義はなく,年末年始は冬休みになります。指導員コースと同じように週1回の工場見学や,研修の終わる時期に1週間の研修旅行が実施されます。行事は少ないですが,研修員が5人と少人数のためか,まとまりがとても良く,相模原市広報室からの取材のときも代表者を決めて快く対応していました。

2.指導員コースについて

2.1 授業内容

能開大の専門研修が国内の職業訓練指導員の高度化を目的としているのに対し,国際協力部の指導員コースは,“発展途上国における指導員の高度化”を目指しています。そのため,研修員は自国では習得できない技術,それもできるだけ高度な授業を期待して来日します。

ひところは日本へ来ること自体が目的でありステータスであった時代もありましたが,今は現地に進出した日本企業の影響や経済のグローバル化が進んだ結果,彼我の技術レベルの格差は徐々になくなりつつあります。そのため最近では,研修員の将来の身分を保障できるようなカリキュラムづくりが要求されており,当科では,NC(数値制御)やCAD/CAM(コンピュータ援用設計/生産)など,わが国でも先端分野に属する科目を中心に据えて対処しています。

さらに,実習時間を多くしてほしいという要望が多く,当科では専門研修の講義と実習の比をほぼ3対7とし,かなり実習に重点を置いた編成としています。

高等教育への進学率が数%の国であっても大卒が資格要件ですので,研修員のレベルは高いものとなっています。授業態度は概して真面目であり,教師への質問も積極的で,的を射た内容のものが多くみられます。教師側にとって気の抜けない存在ですが,逆に教え甲斐があるといえます。

2.2 目常生活

協力委員をしていると,研修員の日本を見る目の鋭さに,ハッとさせられることがあります。昨年の阪神大震災のあと,彼らは異口同音に「他国に援助している金持ちの政府が,なぜ被災者に援助しないのか。私の国では考えられない」と驚きます。

地下鉄サリン事件で国内が騒然としていたとき,アフリカの研修員は「わが国には国境沿いに100万人の反政府ゲリラが住んでいる」と平然としています。また東南アジアの女性研修員は,日本の冷めた親子関係を察して,「わたしの国では,子どもはたとえ都会に住んでいても月に一度は帰省して両親をねぎらうのが習慣です」といいます。

政治,経済などで開発途上国が抱える問題は深刻ですが,研修員のモラルは高く,日本での生活もきわめて質素です。このような研修員の日常に接していると,考えさせられることが多々あります。

2.3 将来に向けての提案

現状の指導員コースは,ほぼ定常状態で推移しているように見えますが,ここへきて状況が変化しつつあります。例えば,文部省系の大学や一般企業が競って研修員を受け入れ始めたこと。また,日本のODA予算の伸び率が低下傾向にあり,そのため既存コースの見直しが行われていること。さらに,JICA研修コースの地方分散が始まっていることなどです。

能開大にとっては魅力のあるコースづくりが,何よりも重要な課題となっています。そこで,以下の2点を提案したいと思います。

1つは,能開大のインターネット網を活用して,数十ヵ国に散らばる修了生や派遣専門家を結んだ『国際ネットワーク』を組み,職業訓練に関するホットな情報を提供し,それによるサポート態勢を組むことで,能開大の影響力を強化することです。

もう1つは,研修員と学生・教職員が気軽に交流できる場として『国際交流会館』を建設すること。そこには国際研修コースの各科の事務室,教室をはじめ,レストラン,ラウンジ,パソコン教室,売店などを設けます。さらに国際関係図書・観光案内・ビデオなどを設置した情報発信基地とするのです。

これらの活動を能開大の1つの柱に据えれば,交流会館を中心に大学全体が活性化し,国際協力業務も今以上に評価されるのではないでしょうか。

3.ハイテクコースについて

平成7年度からハイテクコースが集団コースの形になり,ハイテクロボット制御コースとして始まりました。このコースは「ロボット制御コース」という名前がついていますが,実際はロボットを設計したり,作製するわけではなく,ロボットを設計,作製する際の基礎となる制御技術を習得することを目的としています。したがって,カリキュラムの内容も,ロボット制御のための電子回路やパワーエレクトロニクスおよび電気設備,ロボットの駆動部となるモータの制御,ロボット制御のためのコンピュータ利用技術,ロボットの五感となるセンサの基本特性およびセンサを使った計測技術等を中心にしています。

平成7年度の研修員は,中国,タイ,コロンビア,メキシコ,フィリピンの5ヵ国からそれぞれ1名であり,合計5名の研修員を受け入れました。各国の構想が異なるため,本コースに対するイメージや期待も全く異なっていました。さらに,それぞれの研修員が自国で専門としていた分野が異なり,コンピュータを専門とする研修員,電子回路を専門とする研修員などさまざまでした。したがって,1つの授業を取り上げても,ある研修員にとってはやさしすぎ,他の研修員にとっては難しすぎるといった問題があったようです。

このような問題は今後も発生すると思われますが,完全に解決する方法はないと思われます。ただし,研修員が応募する際にGIを熟読すること,受け入れる際に研修員の専門性を十分審査すること等により,ある程度緩和できるように思われます。

研修の進め方は,講義と実習を分離しないで,午前中の3時間と午後の3時間を1ブロックとし,この1ブロック内で講義と実習を行う方法を取りました。指導する側にとっては,3時間の連続授業はややきついことになりますが,実習を行いながら必要に応じて解説をしていく方法によって研修の効果が高まることを期待して,このような方法としました。

このコースは,9月末から約6ヵ月の研修を行ったわけですが,最初の数回はインターネットに関する実習を行いました。この実習を行うことにより研修員たちには自分の国との交信ができるようになるため,大変好評でした。また,休講しなければならない事情が発生したときには,インターネットを使って種々の情報収集を行うなど,即利用できる実践的実習となりました。

このコースでは,毎週1回の工場見学を行い,日本の先端技術や文化に親しんでもらいました。工場見学の往復において,プライベートな話をする機会も多かったため,教員と研修員との間に友好的な関係を作るためにも効果があったようです。横浜の工場を見学した帰りに中華街で「ちょっと一杯」などもあり,教員にとっても楽しいときが過ごせました。

反省点としては日本人学生との交流が少なかったこと,研修旅行が帰国直前であったことなどがあげられます。

日本人学生との交流については,他のコースの研修員からも強い要望がでているようです。研修員によっては長期課程の講義を受けたいという人もいました。

しかし,長期課程の学生と同時に講義を受けようとすると言葉の問題が発生します。今後,研究課程の講義の一部に英語での講義を取り入れる時代でも来れば,この問題が解決されることになると思われます。

研修旅行についてはなるべく早い時期の方がよいようです。早い時期に研修旅行を行うことにより,授業以外で話をする機会が増えますので,研修員同士が親しくなるためにも,また教員と研修員が友好的な雰囲気になるためにも有効と思われます。したがって,今年度は10月頃に研修旅行を実施する予定です。

ハイテクコースは初年度であったため,準備不足の点も多く,理想的な研修であったとはいえないかもしれません。また,研修員も全員が必要を感じて猛勉強とはいかなかったようです。後者は相手方の問題ですが,前者については2年目の今年度はある程度改善されるはずであり,また改善していかなければならないと考えています。

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