• 岩手県立高度技術専門学院長 小野寺 隆一

およそモノをつくる技術の発達は,人間生活の歴史そのものとも言うことができよう。食べること,着ること,そして住むことも,すべて人間が考えてつくり出したモノとの関わりの中で営まれている。

今や,小学生でもゲーム感覚でパソコンを操作できる時代であるが,コンピュータ技術のめざましい発達は,個人が,時間と空間を越えて世界的な情報と直結するようになり,モノをつくる産業においても,プロセスをできるだけ省いてより効率性を高める手段として欠くことのできないものとなっている。

マルチメディアやインターネットという言葉が飛び交う一方で,バーチャルリアリティ(仮想現実)というような,実物ではないモノや実体の伴わない現象の世界に,テレビの映像やパソコンの画像に向き合う生身の人間を誘い込んでいるようにも見える。

このような現象に囲まれている若い世代に,本当のモノ(本物)は一体どのようになっているのかを確かめさせることは難しくなってきているような気がする。

まして,モノをつくることに興味を持たせ,完成させる喜びを与え,それをやりがいのある職業として活かせる人材に育てることは容易なことではないと思う。がしかし,その裏を返せば,だからこそ彼らは,本物とは何かを知りたいという欲求が強いのではあるまいか,その糸口さえつかめれば,本当のモノに触れてみたい,つくってみたいと思うようになり,体験していく中で,モノのすばらしさやつくる喜びを感じるようになるのではないか。その心を呼び起こしてやりたいものだと思う。

私は,学生たちに対して次のようなことを問いかけている。

「モノづくりをめざす者にとって常に大切にしなければならないものがあると思う。私たちが生活している中で,何気なく使っているモノ,その一つひとつが,多くの人々が積み重ねた知恵と努力の結晶として今ここにある。その中には涙ぐましい苦労もあったに違いない。私たちはそのお陰で今生きていられるのではないか。モノづくりの技術を学ぶことは,今あるモノにまず感謝し,そのモノを愛し大切にする心を持つこと,言い換えれば,モノをつくることがいかに大変なことか,その尊さを知ることから始まるのではなかろうか。」と,卒業する際には,「ぜひ“いいモノ”をつくってほしい。“いいモノ”とは多くの人に喜ばれ使う人を幸せにするものだと思う。そのために,より“人間に優しいモノ”より“自然に優しいモノ”づくりをめざして努力を積み重ねていってほしい。その優しい心を持ってモノづくりに向かえば,きっと“いいモノ”をつくれると思うし,人やモノを思いやる優しい心を持った人間として信頼されることにもつながると思うから」と……。

子どもたちには,できるだけ,小さい頃から本当のモノに触れさせながらモノを大切にする心を育み,モノをつくってみたい! できた! すばらしい! というような感動を味わわせてやりたいものである。

おのでら りゅういち

おのでら りゅういち
おのでら りゅういち

略歴

36年 岩手県職員に採用
平成元年 ‘93アルペンスキー世界選手権大会推進局総務課長
平成6年 岩手県立農業短期大学校(農業大学校)事務局長
平成7年 現職

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