雇用促進事業団では能力開発分野を系別に分類して実施してきたが,そのうちの1つ「管理・サービス系」においては,事務,営業販売から経営,管理までの広範囲な職務を包括してきた。ポリテクセンターではこのうち事務・営業販売の技能にしぼり,「ビジネス系」として離転職者訓練と在職者訓練を実施することになった。
今年度から事業団の離転職者訓練(アビリティコース)は「システム・ユニット訓練」の形態でリニューアルしたが,その中で「ビジネス系」は特異性を持っている。
従来からポリテクセンターで,基礎から初級事務職員を養成する6ヵ月コースとして「OAビジネス科」「OA経理科」などを実施してきた。これと同様の分野は,事業団で実施する委託訓練コースのほか,都道府県立能力開発校,女性就業援助センター,各種・専修学校等でも広く実施されているところである。
事業団ではこのビジネス系訓練科を改編。女性向けコースとして,中小企業の即戦力となる中堅事務職員を養成する従未よりも高度なレベルの訓練科に変更した。さらに資格取得を意識せずに,就職先の業種を明確にして実践的なカリキュラムを盛り込んだ。これを「ビジネスワーク科」と名づけ,基礎的な事務・OA技能を有する者を対象とする,という点が特徴である。
ビジネスワーク科の訓練内容については,【経理】システムを核とし,これに【総務】または【営業・販売】のいずれかのシステムを組み合わせて実施することとなっており,それぞれ3ヵ月で,合わせて6ヵ月のシステムモデルである(図1)。
この3モデルのうちの1つを各ポリテクセンターで実施するわけである。なお,各システムの1ヵ月ごとの内容は図2のとおりである。
このようなシステム・ユニット訓練を実施していくうえで,「全国のビジネス系指導員全員がすべてのシステムに精通することおよび動機づけを行うこと」を目的に,昨年9月と10月に指導員研修が実施された。【経理】【総務】【営業・販売】システムを,ビジネス系指導員10数名が分担して講師となり,全国の170数名が12日間にわたり受講した。これからのビジネス系能力開発の手応えと決意を新たにした研修であった。
研修担当の講師が作成した研修用テキストをもとに,ユニットごとに全国のビジネス系指導員で分担して加筆修正し,ビジネスワーク科のテキストを作成した。
これまで当センターの離転職者訓練では,初級事務職員の養成コースとして,OA関係を含めると次の3科を実施してきた(図3)。
旧3科とも基礎的技能の訓練で,修了生は事務系職種への就職がほとんどであった。
ビジネスワーク科は,基礎的技能を有している者を対象として中堅事務職員を養成する応用的技能の訓練となる。
当センターのビジネスワーク科では,高知県の求職動向と求人状況(表1)からみて事務系職種に的をしぼり,【経理】と【総務】を実施することにした(表2)。
経理システムのうち業種別選択では「製造業」と「建設業」とし,訓練生がいずれかの業種を就職先業種としてイメージを描いて選択することとした。
各システム(【経理】,【総務】)の修了月(3・6ヵ月目)のシステムには,応用課題として企業への就職訪問ユニットを盛り込んでいる。
各ユニットのレベルは,表3のように事業団で分類しているレベル表示に基づいている。
当センターの新システム・ユニット訓練のカリキュラムも決定し,県内の各ハローワークへの説明を行った。当初は,ビジネスワーク科のレベル変更とその前提となる対象者に条件をつけることについて理解を得られるかどうか,懸念した。
しかし,ハローワークとの意見交換会の中でも,すんなり了解をいただいた。それは「県内には委託訓練コースや県立能力開発校も含めて,初級事務職員の基礎レベルの訓練コース数や定員が,求人数に比較すると多すぎる面があった。ポリテクセンターが中堅事務職員の応用レベルのコースに改編する方向は,基礎的技能を有している求職者の適性に合わせて就職に結びつけやすく好ましいこと」という意見だった。対象者の募集条件の表記の仕方としては,『簿記の知識とOA機器の操作技能を有し,経理と総務の実務経験が1年以上の方』とし,その旨ハローワークの窓口で応募希望者に対して指導し,周知徹底することとなった。
平成8年7月期の初めての募集時は定員15名に対して,応募者が28名。募集の条件を満たしていると思われる者が多く,17名が入所し,訓練を開始した。
現在,入所後約3週間経過し,まだ1システム目の途中だが,訓練生にアンケートで感想や要望を聞いてみた(図4)。
〈その他の感想〉
このように不安の声もあるが意欲的な意見が多い。
担当する講師は,3名(嘱託指導員も含む)。テキストを改訂してより体系的なもので訓練したいとの要望や,次回からは募集の条件にさらにマッチする訓練生に絞り込みたいとの声もある。とにかく私たちも初めての経験であるが,熱心にアンケートへ記入してくれた要望や期待をむだにせず,できることからとりかかって訓練生の不安を取り除いていきたい。さっそく訓練の進め方を工夫して,講義中心のユニットでは講義と演習課題のあとにパソコンを活用して課題を解く手法を取り入れたり,複数の指導員で対応するべく補講を開始したところである。
真価が問われるのは6ヵ月後。結果的に就職に結びつけられるよう,訓練効果をあげていく方法をいろいろと模索しながら実施していきたい。
離転職者訓練(アビリティコース)では,とにかく就職意欲のある入所者を多く確保し,そして訓練実施の結果,関連職種への就職者を送り出していくことが重要である。
当センターでは月に一度,拡大ケース会議で全系の指導員の意見交換会を実施している。その中で,就職促進に向けてアビリティ担当指導員の意識が大切だとされ,次のような点にまとめられた。
「事業主団体の傘下企業訪問時には修了生一覧名簿を忘れずに持参しよう」というようにアビリティ担当指導員から声がかかるくらいになることが大事。
21世紀に向けての能力開発。われわれを取り巻く時代・社会・地域が変われば,同じように変容していく。いつも新しい発想,新しい手法で『時代・社会・地域にマッチした能力開発』が求められているようだ。