• 松下電器工科短期大学校長  澤田 誠一

今やメガトレンドといわれる大変化の時代を迎えている。

景気は産業界においても雇用なき回復状況で製造業の海外移転による空洞化,若手層不足と高齢化,右肩上がりでない市場環境での収益確保が焦眉の課題で,さまざまなリストラ策がうたれている。すでに,労政上でも終身雇用や年功序列が崩れ,能力主義を前提にした抜擢人事や人材の流動化が急速に進んでいる。

つまり,企業においては量的収益型から脱皮し,新規需要を促す新商品,新市場の開発に経営資源の投入が行われている。これは大多数のものづくり系企業の経営課題のトップにあげられている。さらに,生産性向上と厳しい合理化で,さらなるコストダウンや品質向上,サービスなどの追求が続けられよう。さらなるグローバルな対応が求められ円高対応,基礎研究開発へのシフト,人材育成システムの見直しなどは,一企業だけでなく国レベルでの課題でもある。

したがって,ものづくり産業を支える社会システムに制度疲労を起こしつつあるため,新しいバラダイムシフトが求められることは間違いない。

ここで,わが社の人材育成にかかわる変化の一つとして工科短大への海外留学生の増加がある。'90年には1~2名(全体の約2%)であったものが'95年から今年に至って約10%に急増した。主な理由として海外生産が総販売高の30%(約1.3兆円)を超える規模に成長拡大し,現地基幹人材の育成ニーズが高まってきたからと解釈される。主には東南アジア(ASEAN)諸国での海外工場からの派遣であるが,一口に言って物心ともにハングリーで勉学意欲も高い。特に日本語習熟も驚くほどで,卒業研究発表時に見られるが日本人学生でここまで至るのは少ないのではないかと思う。

あるとき,彼らに日本人学生への感想を求めたときに曰く“全体にお金持ちで新しいものや遊びにお金を遣う(賛沢?)。その結果,自分たちは古いもの?を使わしてもらい結構楽しんでいる”とのこと。次に指摘しているのは“グループディスカッションなどで意見,主張のギブアンドテイクが少ない,十分な納得のないまま決定される,一方,ルールには従順である”。やはり,思考,意思決定,行動様式の風土の違いを感じさせる。これは,日本人同士の気やすさのためかグローバルには心すべきである。

われわれの常識というもの,あるいは善意や正義と思うことが彼らには必ずしもそうでないことを教えられた。しかし,帰国後は,日本人出向者と現地従業員との良きトランスレーター(真の日本人理解者)となってくれていると聞いている。

企業における「人づくり」は誰しも重要だという。しかし,結果(貢献度)が速効性でないために,それへの投資や時間には極力ミニマム化を要望する。期待が大きければ大きいほど教育速度にも工夫がいる。企業理念を実現する基本方針だと決意して,不変の風土にすべきと考えている。ただし,教育内容や方法は時代の流れに伴う価値観や経営環境の変化に対応すべきであろう。特に21世紀を担う技能・技術の変化を読み,より選択と集中が必要であることは言うまでもない。

「不易」なることは経営理念であり,「流行」は経営マネージメントと考えて努力したい。

さわだ せいいち

さわだ せいいち
さわだ せいいち

略歴

昭34 神戸大学工学部卒業。松下電器産業(株)入社
平元 松下電子部品生産技術センター 取締役所長
平3 松下電器産業生産技術本部 FA技術研究所長
平5 同上 工科短期大学校長