• ポリテクセンター福島(福島職業能力開発促進センター)渡辺 正夫

1.はじめに

パワーエレクトロニクス技術が進歩し,交流→直流交換(整流器)はもちろんのこと,各種交流機器のパワー制御に半導体を用いた電圧制御が広く応用されている。これらの制御による交流電流は非線形のため,ひずみ波電流となり配電系統の電圧波形ひずみの原因となっている。電圧波形ひずみは同系統に接続されている機器に影響を与え,いわゆる高調波問題を引き起こしていることについて述べる。

2.変圧器への影響

2.1 損失(発熱)の増加

(1)損失の増加

変圧器に印加される電圧に高調波を含んでいる場合には,鉄損が増加する。しかし一般には,通常の負荷に含まれる高調波による鉄損の増加はわずかで,変圧器の運転への影響は事実上問題にならない。

(2)負荷損の増加

負荷損の中の漂遊負荷損が高調波電流により増加する。しかし,三相全波整流時に発生する高調波電流での計算結果でも負荷損の増加は数%以内であり,変圧器として高調波の影響は問題にならないのが普通である。

2.2 騒音の増加

騒音の主原因は,鉄心の磁歪現象による振動によるものである。高調波により振動周波数の高調波分が増加し,人の聴覚感覚がピークとなる2~5kHz付近の成分が混じり,騒音の増加とともに「音のうるささ」も一層感じられることになる。

しかし,高調波による騒音の増大が変圧器の寿命に著しく悪影響を与えることはなく,変圧器として運転上は問題とならない。

近年の電気機器は大型の産業機器から家電製品の小型機器に至るまで,半導体によるパワーコントロールが利用されている。このような機器が変圧器の負荷となる場合,その変圧器は必ずといっていいほど高調波騒音を発生する。

(1)騒音対策

負荷機器から発生する高調波電流の変圧器への流入を抑制すれば,変圧器の高調波騒音を軽減することができる。図1にその一例を示す。

図1
図1

リアクトルは高調波に対して,高インピーダンスで,逆にフィルタは低インピーダンスになるので,負荷機器から発生した高調波の多くはフィルタに流入し,変圧器への分流はわずかとなり,変圧器の高調波騒音の軽減が可能である。しかし,現実には,

  1. ① 高調波電流の流入した変圧器の騒音は高くなるが,変圧器の温度上昇や寿命に著しく悪影響を与えない。
  2. ② 制御や負荷変動などにより,高調波の大きさ,あるいは周波数領域が広範になることから騒音軽減効果のわりにフィルタ費用が大きい。
  3. ③ 通常変圧器は電気室に収納されて,騒音は人の居住域に漏れず実質的なうるささによる苦痛はない。

などの理由により,ほとんど対策がとられていないのが実情である。すなわち,変圧器はそのほとんどが電気室に収納され,電気室の扉を締め切れば騒音が外部に漏れないこと,工場の産業装置用変換器にあっては周囲の騒音が比較的高く,変圧器の高調波騒音は特に気にならないことなどで,そのまま使用されているのが現状である。この場合,変圧器からの発熱を換気する必要があることは大切である。

3.高圧遮断器への影響

3.1 遮断性能への影響

高調波の発生源である半導体電子装置においては,出力側での事故あるいは装置自身の故障によって過電流が流れた場合,遮断器による電流遮断を待たずに装置自身が自己保護のため停止するように構成されている。したがって,高調波による遮断性能への影響については定常負荷電流の遮断時が対象となる。高調波を含んだ定常負荷電流を遮断した場合,高調波がない場合に比べて,電流遮断後の再起電圧および回復電圧が変化したり,電流零点でのdi/dtが大きくなることが考えられるが,電流値が定格電流程度であることを考えると,その影響は小さく問題とならない。

3.2 温度上昇

定常負荷電流に高調波を含んだ場合,全電流値の増加による主回路通電部の温度上昇が考えられる。また,周波数の増加(基本周波は変化しないが,電流値の変動が大きくなる)による主回路通電部に使用されている磁性金属の渦電流加熱が考えられる。しかしながら実際の系統においては,遮断器に流れる定常負荷電流は定格電流に比べて十分に小さいので,その影響は小さく問題とならない。

しかしながら,最近では6kVクラスで数千kVAの半導体装置もあり,高調波を含有した電流を通電したときの総損失が,遮断器の定格電流(基本波のみ)を通電したときの損失と同等となる場合も考えられ,このような場合には上記の影響を無視できなくなるため,1ランク上の定格電流の遮断器を選定する対策が必要である。

3.3 騒音

高調波を含む電流が流れると,真空遮断器では真空バルブの端子部や遮断器の通電部に使用されている磁性金属が振動し,騒音を発生することがある。したがって,定常負荷電流が定格電流と同等で著しくひずんだ電流の系統に適用する場合,温度上昇や騒音については,個々の条件に応じた検討が必要である。

4.電力ヒューズへの影響と対応

4.1 定格電流,遮断特性への影響

ヒューズは実効値(熱)で動作するため,高調波電流が流れても特に影響は受けない。なお,電流波形に高調波成分が含まれる場合の実効値は,各次調波電流実効値の2乗の和の平方根となる。

実効値
実効値

4.2 高圧コンデンサ用ヒューズの選定

高圧コンデンサの短絡事故時の短絡事故電流をすばやく限流して,ケースの破裂,憤油などの大事故をくい止めるために,ヒューズを用いることが高圧受電設備指針と内線規定で推奨されている。また,力率改善用高圧コンデンサの高調波対策として,6%,8%,13%直列リアクトルがコンデンサ回路に挿入されるが,このリアクトルの挿入によって突入電流が抑制されることから,直列リアクトルがある場合には小さな定格のヒューズを選ぶ必要がある。

(1) 連続通電電流

直列リアクトルがない場合
コンデンサの定格電流の1.5倍
直列リアクトルがある場合
コンデンサの定格電流の1.2倍

(2) 突入電流

直列リアクトルがない場合
コンデンサの定格電流の70倍,0.002秒
6%直列リアクトルがある場合
コンデンサの定格電流の5倍,0.1秒
13%直列リアクトノレがある場合
コンデンサの定格電流の4倍,0.1秒

並列コンデンサがある場合は,並列コンデンサからの流れ込み電流を計算し,これに電源からの突入電流を加える必要がある。

(3) ヒューズは電源側に入れる

6%を超えるリアクトルがある場合には,リアクトルよりも下位の電圧はヒューズの定格電圧よりも高くなることがあるため,ヒュースは必ずリアクトルよりも上位の電源側に入れる。

5.保護継電器への影響

5.1 動作特性への影響

保護継電器においては,高調波による障害を受けるようなことはないが,動作特性は高調波による影響を受ける。高調波による保護継電器の特性への影響は,動作原理や回路構成によって,一律に言い表すことはできない。高圧受配電用の過電流継電器が,高調波を含んだひずみ波電流に対してどのような動作特性を持っているかを説明する。

高圧受配電用過電流継電器は,現在,①誘導円板形,②静止形の2種類があるが,技術動向から考えて今後は静止形が主流になると考える。静止形継電器の検出原理は,一般的に全波整流・平滑信号検出方式が採用されており,誘導円板形継電器と比較すると,ひずみ波の影響を受ける。

5.2 高調波対策

高調波が多く発生するところで使用する場合には,継電器個々のひずみ波特性を調べて適用可否を判断する必要がある。また個々の継電器が持っている「ひずみ波に対する動作値誤差特性」を考慮して,動くべきときに動作し,動くべきでないときには動作しないように,動作値整定することが必要である。

また特性がわからないときには,JIS C 4602-1986の耐波形ひずみ性能をベースに整定する。また別の手段として,高調波対策付きの継電器を使用する方法もある。

(1) デジタルフィルタによるデジタル継電器の高調波対策

保護継電器の高調波対策としては,アナログ継電器ではR,L,Cの受動素子によるアナログフィルタや演算増幅器によるアクティブフィルタが使用されている。一方,高調波対策付きのデジタル継電器では,アルゴリズムによるデジタルフィルタが使用されている。デジタルフィルタによる特長は,低次調波(例えば第2次調波や第3次調波で基本波に近い高調波)を除去するのに,アナログ処理では時間がかかるのに対し,高速処理できる点にある。

5.3 保護継電器における高調波に関する諸規格

(1) 日本工業規格(国家規格)

■JIS C 4601-1976高圧地絡継電装置
試験する場合の条件として波形ひずみ率5%以下の入力で試験することが規定されているが,耐波形ひずみ性能の規定はされていない。
■JIS C 4602-1986高圧受電用過電流継電器
耐波形ひずみ性能として,限時要素を最小動作電流整定として,かつ,動作時間整定を1の目盛位置として,基本波に対して30%の第5次調波を含有させた動作電流整定値80%の電流を通電して試験を行ったとき,動作してはならないと規定されている。
■JIS C 4609-1990高圧受電用地絡方向継電装置
試験する場合の条件として波形ひずみ率5%以下の入力で試験することが規定されているが,耐波形ひずみ性能の規定はされていない。

(2) 電気学会電気規格調査会標準規格

■JEC 174 B-1972電圧継電器
試験する場合の条件として波形ひずみ率2%以下の入力で試験することがJEC 174の共通規格で規定されているが,耐波形ひずみ性能の規定はされていない。末尾の説明書きの部分に,ひずみ波に対し,特性の規定は一義的に定め難いので規定しないことにしたとある。
■JEC 251 O-1989過電流継電器
JEC 174 A-1970をIEC規格との整合性について検討を加え改訂したもので,ひずみ波電流特性に関する規定が新たに設けられ,静止形継電器に適用することで規定されている。ここでは,ひずみ波電流特性として,動作値と動作時間を最小整定とし,基本波に対して第3次調波,第5次調波,第7次調波を各々単独で30%含有させたときの特性が,ひずみ波対策ありの継電器では,基本波電流のみによる動作値の±15%以内,ひずみ波対策なしの継電器では,製造者の明示する値として規定されている。なお,旧JEC 174 A-1970過電流継電器では,耐波形ひずみ性能の規定はない。
■JEC 251 X電圧継電器
JEC 174 B-1972をIEC規格との整合性について検討を加え審議しているもので,ひずみ波特性に関する規定の審議が行われている。

ここでは,ひずみ波特性として,過電圧継電器と地絡過電圧継電器については動作値と動作時間を最小整定,不足電圧継電器については動作値を最大整定,動作時間を最小整定とし,基本波に対して第3次調波,第5次調波,第7次調波を各々単独で印加されたときの特性が,ひずみ波対策ありの継電器では基本波電流のみによる動作値の±15%以内,ひずみ波対策なしの継電器では製造者の明示する値として審議されている。ひずみ波の含有率は審議中である。

(3) 日本電機工業会規格(メーカの団体規格)

■JEM 1394-1981高圧受電用地絡方向継電器
試験する場合の条件として,波形ひずみ率5%以下の入力で試験することが規定されているが,耐波形ひずみ性能の規定はされていない。

6.漏電遮断器への影響と適用

6.1 特性への影響

(1) 地絡電流の波形ひずみ

電路の絶縁劣化や人体の感電は抵抗分が主となるので,これらによる地絡電流の波形は電路の対地電圧の波形とほぽ同じものとなる。電圧波形のひずみ量の許容値については国内外で検討されているが,例えばIECの案では,各次数の高調波の含有率の許容値は表3のような値となっている。したがって地絡電流に含まれる高調波の量も,これらと同様に数%程度と考えられる。

表3
表3

7.計測器への影響

7.1 指示計器への影響

(1) 精度への影響

高調波電流が基本波電流に重畳することによって,非線形特性となり,測定誤差を生じるが,影響は指示計器の動作原理によって異なる。表4にひずみ波形回路での適用例を示すが,電圧計,電流計においては原理的に誤差を生じる整流形が最も高調波の影響を受けやすいことがわかる(整流形は奇数調波を含んだ波形の実効値と平均値の差から原理誤差を生じる)。なお,高調波電流の過大流入による電流コイルなどの損傷も考えられるが,実際にはほとんど例がないようである。また,許容限界についてはJIS C 1102で整流形を除いた適用周波数用の交流電圧計,電流計,受信指示計および周波数計について,正弦波で最大目盛値に相当する電気を加えたときの指示値とこれと同じ実効値を持ち,基本波の15%の第3次調波を含む電気を加えたときの指示値との差(ただし高調波は影響の最も大きい位相を加える)で表4のように規定している。

表4
表4
表4
表4

(2) インバータ負荷の測定方法

インバータの1次側,2次側の電圧・電流は,高調波を含んでいるので計器により測定値が異なる。

① 電力の測定

インバータの入力側,出力側とも電流力計形計器を使用し,2電力計法または3電力計法によって測定する。特に入力側は,電流が不平衡になりやすいので,3電力計法で測定することが推奨される。三相電力計も電力演算式やあるいは3電力計方式など測定器の違いによって誤差が生じる。また,電流測定側にCTを使用する場合や電圧測定側にVTを内蔵している計器では,CT,VTの周波数特性によっても誤差が生じる。

② 電圧の測定とVTの使用について

インバータ入力側:入力側電圧は,正弦波でひずみ率も非常に小さいので,通常の交流計器で精度よく測定できる。

インバータ出力側:出力側は,PWM制御した矩形波電圧であるが,インバータ負荷の入力である基本波成分を測定する必要があるため,必ず整流形電圧計を使用する。可動鉄片形は高調波分を含んだ実効値を指示するため基本波分より大きな値となる。

VT:VTはインバータの出力側には使用できない。ダイレクト目盛の計器を使用する(インバータ入力側への使用は可能)。

7.2 電力量計への影響

(1) 精度への影響

電力量計に高調波を含んだ電圧または電流を印加すると,電圧磁気回路または電流磁気回路の非線形特性により,電圧・電流磁束が完全に対応して変化しないことがあり,精度に影響する。さらに各種特性補償装置および調整装置の高調波特性により,誤差が変化する。しかし,その影響の度合いは小さい。例えば電圧波形ひずみ率が10%,負荷電流ひずみ率が10%の場合,計器の誤差は-1.0%以内であると報告されている。

(2) 熱的障害

過大な高調波電流または電圧により,電力量計の基本要素である位相補償コイル,位相調整装置が加熱し,焼損に至ることがある。電流コイルと位相調整コイルは変成器の1次,2次と同様な作用となり,高調波電流が電流コイルに流れると,その周波数に比例した2次誘起電圧が位相調整コイルに発生し,過大な高調波電流isが流れ,その結果,位相調整コイルまたは調整抵抗が焼損するものである。

(3) 関連規格と許容限度

1979年改正のJISからIEC規格に準拠して,負荷電流に第3次調波を含有させた場合の誤差の限度が規定されることとなった。変成器付き電力量計の規格JIS C 1216-1979においては,定格周波数および定格電圧のもとで力率1の定格電流を通じ,この負荷電流に10%の第3次調波を含め,これによって生ずる誤差変化を求めることとなっており,その限度は表5に示すとおりである。

表5
表5

関連規格については以下のものがある。

  • ・JIS C 1211-1979電力量計(単独計器)
  • ・JIS C 1216-1970電力量計(変成器付き計器)
  • ・IEC Pub. 521(1988) class 0.5,1 and 2
    alterneting-Current atthour meters

8.計器用変成器への影響と適用

8.1 精度への影響

計器用変成器(VT),変流器(CT)の原理構成から2kHz程度までであれば周波特性がよく,高調波がVT,CTの基本性能である誤差特性(比誤差)(位相角誤差)に大きく影響することはない。したがって,一般的な使用状態では精度面での高調波による影響はほとんどない(計器用変成器の規格としては,JIS C 1731-1988やIEC 1201-1985があるがいずれも高調波に関する規定はない)。

9.おわりに

高圧受変電設備等で,高調波問題の対策が大きな社会問題となっており,機器への影響と対策(適用)をまとめてみた。高調波問題を検討するうえで,本稿が皆さんの一助となることを希望する。

〈参考文献〉

  1. 1) 高圧受電設備指針
  2. 2) 内線規定
  3. 3) 三菱高圧受配電用過電流継電器
  4. 4) 日本工業規格(JIS)
  5. 5) 電気学会,電気規格調査会標準規格
  6. 6) 日本電機工業会規格
  7. 7) IEC規格
  8. 8) 高調波問題の現状と対策,三菱電機(株)
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