• ポリテクカレッジ福山(福山職業能力開発短期大学校)
  • 寺重隆視・市田憲治・池田秀作
  • 平島隆洋・内田廉彦・幾瀬康史

1.はじめに

半導体産業は,日本を代表する知識集約型産業であり,これに従事する現場技術者,技能者にも一層高いレベルの技量が求められてきている。半導体集積回路の大規模化が進むに従い,製造技術,とりわけ半導体の精密微細加工技術は,きわめて重要な位置を占めつつある。

福山市を中心とする備後地域では,精密微細加工用の工作装置を製造する企業が多数あり,それぞれに独自技術を持ち,世界的にシェアを有する企業も少なくない。これらの企業は,「BISTEC」と称する企業主団体を構成している1~3)。本校では,平成6年度にBISTECを事業主団体モデル事業(いわゆるD方式)に指定し4),3~4レベルの能力開発セミナーを精力的に展開してきた5~6)。

本稿では,BISTECにおける平成7年度の取り組みを速報するとともに今後の活動方針について述べる。

2.平成7年度の実績

2.1 能力開発セミナー

平成7年度は,BISTEC会員企業に対し,きめの細かいサービスを行うという方針で計画を立てた6)。その要点は次のとおりである。

  1. ① 事前に,各会員企業の研修担当者に聞き取り調査を行ったうえで,セミナーの内容を精選する。これは会員企業によって(あるいは同一企業内の部署によってさえも),要求される内容が異なることが明らかになったためである。
  2. ② 毎回課題を出し,セミナー終了後に最終試験を行う。これは,教育効果を高めるためにぜひ実施してほしいという要望が,いくつかの会員企業から出されたためである。
  3. ③ セミナー終了後のアンケートを,会員企業の研修担当者とともに検討し,次のセミナーに即座にフィードバックする。研修担当者との緊密な情報交換は当然行うべきことである。

図1に,半導体関運の能力開発セミナーの,年度ごとの延べ受講者数を示す。図1より,BISTECを事業主団体モデル事業(D方式)に選定した平成6年度以降,計両,実績ともに飛躍的に増加していることがわかる。

図1
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前述した①~③によりセミナーの質的向上を図ることを目的として,平成7年度は平成6年度よりも計画を縮小した。しかし,実績としては逆に,対前年比で1.3倍,対計画比で1.9倍という結果となった。この理由については,各セミナーごとのアンケート調査を分析したうえで考察する必要があるが,全体としては,われわれのセミナーが一定の評価を受けているものと考えている。

2.2 事業内援助

BISTECでは,毎月1回,それぞれの技術分野の第一人者を全国から講師として招き,講演会および勉強会を実施している。これらに対し,本校は事業内援助の形で企画,立案,運営に参加している。表1に平成7年度に行った講演会を,表2に勉強会の実績をそれぞれ示す。

表1
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表2
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これらの講演会,勉強会は会員企業がBISTEC事務局に働きかけて実現したものであり,会員企業の熱意により裏打ちされている。したがって参加者も毎回60名程度と多く,質疑も熱心に行われるなど,非常に活性度の高い講演会,勉強会となっている。事業内援助においても,できるだけ会員企業の望む内容を正しく引き出し,きめ細かく対応することが重要であることがわかる。

3.平成8年度の活動方針

平成8年度の半導体関連能力開発セミナーの計画延べ人数を,図1に示した。これは,BISTEC事務局が行った募集の結果,平成8年3月31日現在において,定員(10名)以上の受講希望者数となったセミナーの総定員数である。また現在も受講の申し込み,あるいは新コース設定の相談,要望をしてくる会員企業は少なくない。したがって平成8年度の実績は,図1に示した値よりも大幅に増加する可能性がきわめて大きい。

図1
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この数字は,本校の活動に対するBISTEC会員企業の評価が定着しつつあることを強く示唆している。平成8年度も前年度の方針を踏襲し,できるだけきめの細かいサービスを実施する予定である。

また,2.2節で述べたように,BISTECでは,毎月1回程度,それぞれの技術分野の第一人者を招き,講演会および勉強会を実施し,本校は事業内援助の形で参加している。「それらの講演会や勉強会を十分に活用するため,予習のためのセミナーを開いてほしい」との要望がBISTEC側からあり,これに応える形で新たに能力開発セミナーのコースを起こすことになっている。これはセミナーのあり方としては新機軸のものであり,その成果が期待される。

4.おわりに

本校のBISTECに対する能力開発セミナーに関して,平成7年度における実施経過と,平成8年度における計画について簡単に報告した。平成7年度については,①各会員企業に対して,できるだけ要望にそった内容とする,②課題や試験を取り入れる,③アンケートで得られた情報を会員企業の研修担当者とともに分析し,速やかに次のセミナーにフィードバックする,といったきめの細かい対応を心がけた。その結果,平成7年度の実績および平成8年度の受講申込者数は,図1のような結果となった。これらの因果関係を正確に把握するためには,各コースごとのアンケート等をさらに分析する必要があるが,少なくともBISTECの能力開発セミナー全体としては一定の評価を受け,かつその評価が定着しつつあるものと思われる。

図1
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また,現在のところ,設備等の関係で座学を主体とした能力開発セミナーしか実施できない状況にあるが,実践技術の教育訓練を重要視する立場から,あるいは,今後の事業主団体研究開発事業(F方式)の展開という見地からも,実習設備の早急な整備が重要課題であると考えられる。

〈参考文献〉

  1. 1) 国民金融公庫:日本のシリコンバレーを目指す企業家たち,調査月報399,7,pp.30-35,1994.
  2. 2) WEDGE:半導体連合を生んだ反骨の求心力,pp.26-29,May 1995.
  3. 3) 西木田:備後をシリコンバレーに推進組織活動盛ん,長銀総研エル 3/96,pp.16-20,1996.
  4. 4) 内田他:地場産業の育成を目指すポリテクカレッジ,技能と技術29,3,pp.41-45,1994.
  5. 5) 池田他:事業主団体に関する能力開発,職業能力開発報文誌7,1,pp.109-114,1995.
  6. 6) 市田他:事業主団体に対する能力開発セミナー,技能と技術30,4,pp.10-14,1995.
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