私は,小学校5年生頃から諺や格言に興味を持ちはじめ,これを紹介した本を好んで読むようになった。
それは,担任の先生が諺や格言に極めて造詣の深い方で,授業の中で何事につけ諺等を教えて下さったり,夏休み等の宿題に,どのような諺や格言があるかの調べを課されたりしたからである。調べた諺等を,得意になって級友に解説したことが50年近く過ぎた今でも想い出される。
その当時は,終戦直後の紙不足等のためか,または住んでいた地域に小さな本屋しかなかったせいか,諺や格言を特集した書物は見当たらなかったが,昭和30年代になると,数多く出版されるようになり,その年のベストセラーになるものも現れた。現在も,この種の本は時々発行されているので,諺や格言を容易に勉強できる。
諺は,民衆の生活の中から生まれ,古くから伝えられている教訓や生活の知恵等を簡潔に表現した言葉であり,格言は,人間としてのあり方,生き方等を端的に示した先人等の教えである。
その内容は,人類の英知等が結集されたものと言っても過言ではなく,多種多様なので,人々の人生観,職業観,価値観の多様化や気質の変化が目立つ現代においても,職業生活や人生そのものを送るうえでの指針になるものが多い。
少ない文字で,多くの真理等をよくもこれほどまでに見事に表現したものと感心させられるものばかりである。
外国のものも含めると大変な数になるが,いろいろな分野や次元に関するものがあり,しかも一つのものを引用する目的に応じていく通りにも活用できるので誠に便利である。
私は,単に自分の処世訓にするだけではなくて,例えば,結婚式や諸会合で祝辞やスピーチを依頼されたり,現在の職場で入所式や修了式等の生徒に対する訓示など機会あるごとに,諺や格言を紹介するように心がけている。
それは,一人でも多くの人々に,私が指針としている諺や格言を,自らの個々の行動を決める際の基準にしていただきたいことと,手前みそになるが,諺や格言を交えて話をすることによって,自分の考え等が,聴き手に一層明確に伝わると信じているからである。
本稿では,職業人としての心構えや労働の意義など職業生活に関するもので,私が好んで引用しているものを紙数の許す範囲内で紹介しよう。
1.初心忘るべからず。
2.理想的な職業というものは,その職業のために働けば働くほど自分のためにもなり,他人のためにもなる仕事だ(武者小路実篤)。
3.世には卑しき職業はなく,ただ卑しい人があるだけだ(リンカーン)。
4.どんな職業に従事していても,その職業になりきっている人は美しい(吉川英治)。
5.どんな職業でも負けるものかといった決心で当たらなければ,決して成功するものではない(後藤新平)。
6.苦あれば楽あり。
7.世の中には福も禍もない。ただ考え方でどうにもなるのだ(シェークスピア)。
ささき まさひで
昭34 東北大学文学部卒 労働省入省
平5 労働省退職
日本障害者雇用促進協会就職
平7 4月より現職