• ポリテクカレッジ福山(福山職業能力開発短期大学校)小原 章次*
  • *現ポリテクカレッジ北九州

1.はじめに

3次元測定機は,一般的に検査過程における形状測定の分野に使用されているが,最近ではCAD/CAM/CATシステムの入出力インタフェース1~3)として活用されるなど,用途は拡大し重要性も増している。そのため測定にあたっては多機能化された操作法・データ処理法を駆使し,表面の形態・機能および品位を適切に反映する測定法・評価法(照合法)を選択する必要がある。

特に,多品種少量な部品・複雑な形状部品の測定データ処理には,より合理的な発想と効率的な管理技術が求められる。また,施設では企業からの測定依頼において,精度管理も含めたすばやい対応が求められる現状がある。

今回は,CAD部門・加工部門への測定データの合理的・効率的活用を検討するうえで,形状を構成する面の測定法とデータ処理を標準化する概念(Ver.2面構成マトリクス法による3次元測定データの統合化)を提案し,その適用例を報告する。

2.システム構成

面構成マトリクス法による測定のハード構成としては,メーカの3次元測定データ処理システムに対し,図1に示すとおり補助システムを装備した。この補助システムのセンサ部としては,タッチプローブで困難とされる部位の測定のために非接触センサおよび用途別センサを付加した。パソコン(PC98)データ入力部としてはRS-232Cを介し測定データ・測定指示コマンドをリアルタイムで受信する一方,出力部は条件判断に基づきI/Fから3次元測定機用制御装置にオン信号を送る構成とし,2台のコンピュータを並列で使用する方式をとっている。

図1
図1

ソフト構成としては,メーカの用意している3次元測定データ処理システムをべ一スにマクロ・パートプログラムと補助システムのソフト(パートプログラム生成ソフト,座標系変換プログラム,構造化データ変換プログラム,マップ法による表面評価プログラムetc.)を作成した。

3.面構成マトリクス法による形状認識

3.1 面の組み合わせにより構成される形状の認識

形状を創成するためのCADの基本的な入力手順は,「点→線→面→形状」と考えられるが,測定においては点・線・円など測定要素を直接的に求めるのではなく,形状を構成する多数面の組み合わせおよび投影法により計算処理される手順「測定点→面→線→点」の順でデータを得る逆のプロセスとなる。

また,面の対するプローブの補正を考慮すると各面モード(平面,円筒面,円錐面,球面,自由曲面,ねじ面など)は,空間の中に位置する表面形態から定義されるとし,面を第一基準とする形状認識が,測定における発想のスタートとする考え方が合理的である。

3.2 面基準による照合の機能分類

表面形態の評価は,1断面の観察によって推測できる場合と全面を測定対象とする場合があり,その評価パラメータはあらさレベル・うねりレベル・傾きレベル・各種幾何形状偏差レベルに分類され,主に測定点数によって規定される。しかし,加工面の現象を分析する場合などは測定点数だけでなく,測定順序・位置・ベクトルを持った点群データとして保存しておくことで,加工の診断にも適用することができる。

一般的に3次元形状の測定依頼において問題となるのは,「データムターゲット」と「評価パラメータ」が明確に意識されていない場合であるが,測定データをCAD部門・加工部門・管理部門のどの部門に適用するのか,また,表1に示すように照合法を分類し,どの機能に対応するのかを絞り込んだ後,評価パラメータを抽出することで解決される場合が多い。

表1
表1

3.3 面構成マトリクス法の基本概念

評価バラメータと表面形態が意識づけられると多面により構成される形状の認識となるが,以下面構成マトリクス法の基本概念を示す。

面構成マトリクス法により面を定義する手順は,表2に示すとおり,まず,主面の領域を定義する構成面欄(列)を指示する。次に面機能モード(平面,円筒面,円錐面,球面,ねじ面等)のいずれかを設定し,最後に評価パラメータを考慮し,表面形態を評価できる測定点数をレベル(1~3)として選択する。

表2
表2

同時に,面構成マトリクス法では上記3ステップをマウスで指示後,必要な測定条件および面情報を入力することで,測定基本プログラム・測定データの管理ができるようにプログラム設計している。

まとめると以下の基本概念により構成されている。

(1) ユーザの目的・用途によって構築できる概念
(2) 形状・面の定義
  1. ①3平面データム系(絶対座標系)
  2. ②補助データム面(相対座標系)
  3. ③面モード(平面,円筒面,円錐面,球面,ねじ面等)
  4. ④面レベル レベル1:測定点10点以内 レベル2:150点以内 レベル3:10,000点以内
  5. ⑤主面の領域を規定する構成面
(3) 比較・評価の機能化(時間,位置,ベクトル)
  1. ①3平面データムに対する補助データム評価
  2. ②3平面データムに対する測定面の評価
  3. ③補助データムに対する測定面の評価(マップ法による評価,統計,解析)
  4. ④照合の3機能(絶対照合,相対照合,相互照合)
(4) 測定の効率化
マクロ・パートプログラムによる簡略自動測定プログラムの作成(標準化)
概念の共通化(測定・設計・加工・管理)
(5) 測定要素メモリの構造化
(6) 座標系・測定プロセス・測定結果のデータベース化

からなっている。

4.面構成マトリクス法による測定法

4.1 測定方向および測定プログラムの類型化

このたび,測定に使用したプローブは,接触した瞬間にデータを取り込む原理のタッチシグナルプローブと,測定子の変位の大きさを見ながらアプローチし,変位量が1mmになったところでデータを取り込む原理の倣いプローブの2種類である。なお,エッジ部および溝部の測定には,プローブを接触しながら自動調心性を利用し,停止する位置のデータを取り込むポイント測定法を用いた。

測定方向は形状および表面形態などの「規則性」「繰り返し性」を見いだし,測定方向と多断面データを得るアルゴリズムを求め,マクロ・パートプログラムを作成しデータベース化する。基本的な測定方向は,3D・A-Z・R-Zに類型化できるが,これは料理人がまな板の上で食材を生かした包丁さばきをするイメージにたとえることができる。また,すでにデータベース化されたパートプログラムを他の形状に利用するにあたっては,測定条件とデータ保存ファイル名を変更することでプログラム作成の効率化が可能となる。

測定子は精度保証されたメーカの供給されるものを使用したが,羽根の測定のような特殊な「規則性」をもった複合的な機能面で構成された形状には,測定子の形状を工夫する必要がある。補正が3平面データム系に対してなされるとすると図2に示すような基本形が考えられる。

図2
図2

4.2 測定方法

測定からデータ処理までのフローは図3に示すとおりである。また,面機能モード別に作成した測定マクロ・パートプログラムの基本的な考えは,プローブで面の始点と終点を指示し領域指示を行い,後は断面数・測定ピッチ・測定方向・逃げ点・終点条件などを入力するだけで,誰でも簡単に自動面測定ができるようにした。各面機能モードの指示方法および測定方向はモデル測定適用例で説明する。

図3
図3

4.3 面構成マトリクスにおけるデータ処理法

測定要素のメモリは,1,000点の指定メモリを有効に活用しつつ,150点を超える測定データについてはFDに保存するものとし,図4に示す面構成マトリクスのマス目をマウスで指示すると自動的に指定メモリが割り付けられる。輪郭データについてはファイル名を保存する方式をとり,後日,測定プログラムおよびデータを有効に活用する。

なお,測定要素メモリのデータの主な処理は,以下に示す3つの方法がある。

  1. (1) 本体内(IBM)でプログラム実行中に指定メモリ(1-1000)に保存し,指定メモリ間移動はマクロプログラムで行う。
  2. (2) リアルタイムで入力したデータをHD/フロッピーに保存する。指定メモリヘの再入力はマクロプログラムで行う。
  3. (3) デバッガを使用し,直接カレントファイル(IBM)内のメモリを書き換える。これはファイル内のメモリを移動する方法とすでにコピーしているファイルから移植する方法がある。

5.モデル測定適用例

以下各部門へ適用する測定例は,特殊な測定法と指摘されるかもしれないが,基本コマンドで測定できるプリミティブな形状の測定依頼が逆に少なく,逆説的ではあるが,標準的な測定パターンおよび測定データの表示画像と考えられる。

5.1 CAD/CAMへの適用(3Dモード1結合法)

モデル(魚)の測定の指示方法と測定方向は面の測定始点と終点による範囲指定で自動多断面測定を行った。また,座標形変換によって得られた測定データの測定システム内でのCRT上の描写(図2)である。当然,CADに通信しデータ処理することも可能であるし,このシステムではNC加エデータに変換し,モデル加工もできる。

図2
図2

図4にはべ一ス面上にそれぞれ分割処理した魚の描写を示すが,CAD上でべ一ス面を合体させることで,相対的なデータ処理の展開も可能である。

図4
図4

5.2 ねじへの適用(座標系変換による測定法)

ねじの決定量を測定する方法として,3針法・光学的測定法などあるが,3次元測定機におけるねじの測定は,ねじ部と他の測定要素との相対照合が容易にできること,組み立てを前提とした結合部品の要素間の相互照合による幾何偏差も推定できるなどのメリットがある。組み立てた状態での相対照合との比較については精度保証を含めて検討中の段階である。

ねじの測定対象はねじゲージのM22-1.5を用い,座標系は中心軸を通る直角2面と軸に対する直角面を第1次座標面に設定し,MPP-4の基準位置・自動調心性を活用したポイント測定のマクロプログラムによって行った。測定データによるピッチ,有効径などの計算精度は,各軸繰り返し精度3.5μmに規定される限界がある。

5.3 羽根の測定(A-Zモード&予測ポイント測定)

(1) プローブ形状の考案

羽根の測定は羽根周囲の輪郭(ねじ機能モード)と上面の複合形状と考えられ,測定にあたっては,羽根輪郭と上面の測定が連続的に測定できるよう2段プローブを考案した。測定結果を図6に示す。

図6
図6

(2) 測定の自動化

羽根の周囲の輪郭測定にあたっては,曲率半径が急激に変化する箇所5点をジョイスティックモードで指示測定することにより,後は差分傾きの最大ベクトル方向に対し,各測定点のプローブの逃げ量を直前の定ピッチ測定の差分量によって,予想補間を行いながら自動ポイント測定を行う。また,上面についても引き続き自動測定が可能なアルゴリズムを求めた(図7参照)。

図7
図7

5.4 加工面診断への適用および繰り返し精度(診断法)

(1) マップ法による加工表面の評価

加工面の測定は,測定の始点と終点を領域指定することで自動測定ができる。測定データ処理としては面の表面形態を正確に分析するため,多断面データをアスキーファイルで保存し,表面の領域・位置・変位を抽出し,マップ法により等高ピッチごとに識別できるようにCRTにグラフィック表示できるようプログラムを作成した(図8参照)。また,画面上の任意の位置をマウスで指示することで,断面形状の観察ができる。

図8
図8

(2)任意の断面形状の評価の判定

マップ法で抽出した任意の1断面の詳細な評価法としては,アスキーファイルとして保存したデータを市販のソフト(lotas1-2-3)で読み込み,演算処理をする方法を採用した。精度的には表面あらさ測定機と比べるとプローブ径による誤差がでる。しかし,断面の傾向性およびうねり・傾きレベルにおいては3次元的に評価できるメリットがあり,切削加エプロセス診断および検証の一要素となりうる。

5.5 液圧プレスによる深絞り加工品の板圧評価

任意の断面から板厚を検討した例を示すが,測定指示および測定方向は,図9に示すとおりである。なお,図面もしくはおす形状に対する絞り加工面の輪郭は絶対照合として扱え,板厚変化(内の輪郭と外輪郭差)は相互照合と考えられる。なお,開発段階における製品の評価では,耐圧試験などの強度試験を行うことで総合的に行われている。

6.おわりに

面構成マトリクス法による3次元測定データ統合化の概念によると以下の改善がみられた。

  1. (1) 測定プログラム作成の効率化が図られる。
  2. (2) 構造化した測定メモリデータから組み立てを想定した部品相互の要素間幾何偏差を推定することができる。
  3. (3) マップ法により簡便な面評価および断面データの抽出が容易にできる。
  4. (4) 機能別に分類した面モデル(輪郭測定含む)測定データにより,CAD/CAM用I/Oデータおよび切削加エプロセス診断のデータベースが効率的に構築できる。

今後,3次元形状の測定依頼において「可能」と「限界」および「拡張性」を即答できる測定システムにするためにも,データベース化した各マクロ・パートプログラムに対し精度保証と時間管理の検証を繰り返し,完成度の高いものにしたいと考えている。

〈参考文献〉

  1. 1)小原章次・田中茂:半導体レーザによる非接触データのCAD/CAMへの適用,「実践教育」,Vo1.6,No.2.1991.
  2. 2)小原章次・山県佳男:CAD/CAM入力インターフェースとしての三次元測定機の活用,「実践教育」,Vo1.7,No.3.1993.
  3. 3)村上誠:機械系3次元測定CAD/CAMシステムの効果的教育について,「報文」,1994.3.4.
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