この論文は札幌高等技術専門学院「電気・電子系コンピュータ制御科(北海道の通称名『電子工学科』高卒2年制)」の専攻実技の中で行っているゼミナールについて報告するものです。
この「ゼミナール」は,教科の最終段階における仕上げの総合実技として位置付けしているものであり,訓練生がそれぞれ自らテーマを設定し,ハードまたはソフトの「モノ」を製作し,かつ,それを論文にまとめた上で発表するまでの過程をいうものであります。
「ゼミナール」において,訓練生は「モノ」づくりを通じて基礎的な知識・技能のみならず,論文を作成することによる「ドキュメンテーション技法」,更に発表を通じ「プレゼンテーション技法」等の企画・開発・表現力などの応用能力を身につけ,主体的で創造性豊かな技能者の育成が図られています。
電子工学科の設立から10年が経過した時点において,これまでの経過と現状,「ゼミナール」の果たした役割,更に新たな課題について報告します。
近年,産業界におけるME化・情報化の進展により労働者に必要とされる職務や能力に大きな変化が見られ,本道においても実践的な技能と高度な技術的な知識をあわせた高度な技能労働者の養成が強く要請されています。
この小文は,こうした時代の要請に対応するため札幌高等技術専門学院「電気・電子系コンピュータ制御科(『電子工学科』普通課程高卒2年制)」において実施してきた専攻実技の中で行っているゼミナールについて報告するものです。
この「ゼミナール」は,2年間の教育訓練の最終段階における仕上げの総合実技として実施しているものであり,この実技では全ての訓練生が自ら個々にテーマ設定をし,その達成に向けて,訓練を進める方式をとっているものであります。
「ゼミナール」において,訓練生はハードまたはソフトの「モノ」をつくる喜びを知り,「モノ」をつくることを通じて技能者としての資質をつくり上げることになります。
ここに,電子工学科の設立から10年が経過した時点において,これまでの経過と現状,及び「ゼミナール」の果たした役割,並びに新たな課題についても併せて報告します。
「コンピュータ制御科」は,昭和60年,札幌高等職業訓練校の改築の際,時代の要請に対応すべく,他県に先駆けて高卒2年制の導入が図られ,国の基準である電子機器科(高卒1年制)を基本として「電子工学科」の名称で,精密機械科・金属加工科とともに新設されたものであります。
教科編成は弾力的に運用することが可能であるとのことで,教科の編成方針は「コンピュータをはじめとする電子機器の設計・製作・保守並びに情報処理技術に係わる高度な知識と実践技術を習得させる」とし,「高度情報化社会,技術革新,ME化など先端技術に対応できる技術的素養をもち,豊かな人間性と広い視野をもった技能者」という仕上がり像を想定し,2年後期の応用実技の中で「ゼミナール」を取り入れ実施してまいりました。
しかし,設立時において,高卒2年課程は先駆的であったことから,教科の編成作業には多くの苦労と工夫の試行錯誤を重ねたと聞いています。
教科については,その後の訓練基準の改正に伴い,平成5年4月に「電気・電子系コンピュータ制御科」に準拠したものとするためカリキュラムを変更し,これを機会に「電子工学科」を北海道における通称名として,現在に至っています。(以下「電子工学科」という。)
電子工学科の教科は,表1に示すように4段階の進度に分け実施していますが,「ゼミナール」は2年後期の最終段階に位置づけし,それまで習得した学科及び実技を基に,コンピュータのハード・ソフトウェア関連の実習を経て総合的応用実技として実施することとしているものです。
ゼミナールは一般的基本知識・技能を習得した訓練生に対して,各訓練生が個別に必要とする分野の知識・技能を追加または強化するものです。その展開を図1に略記します。
ゼミナールにおいて,訓練生はそれぞれその能力・興味・就職先で必要となる技能,技術に見合ったテーマを個々に設定し,このテーマを主体性をもって追求する過程で,これに関する技能・技術を身につけ,職業的知識を習得するようになっています。
ゼミナールは「モノ」づくりを中心課題として,これに必要な技法・技術・知識を自らが探究し,これを総合的かつ有機的に結合するように展開されます。
いずれにせよ,この発表会は,今では電子工学科が一丸となって進める一大イベントであり,発表会場は緊張と興奮で最高潮となります。
このため,例年発表会が終了すると,訓練生の中から自然に万歳が発声されたり,胴上げがなされたりする光景があちこちで見られ,私共指導員も一緒に感激する場面でもあります。発表会の様子を写真で示します。
ゼミナールは訓練を受ける者の主体性と自己管理参観者を根幹として進めているものですが,指導に当たる者はその進行状況を適切に把握し,目標が達成される段階まで指導することとしています。
なお,施設外での実態調査・部品調査等が必要な場合には,事前に計画書を提出させ,実施後は必ず報告させるなど厳格な運営と管理を実施しています。
訓練生の個別テーマと到達目標の設定は,ゼミナールの成否を決定することになりますので,訓練生の能力・興味・就職後必要となる技能・知識などを勘案して,適切に設定されるように指導・助言がなされます。
この際,指導員は第一段階で達成できる比較的容易な目標と,困難ではあるが努力により達成可能な第二段階を想定の上,達成感が満たされるよう,より高い目標を目指すように指導しています。
ゼミナールの目標設定と進捗の推移を図2に示します。
ゼミナールは,マイコン制御系・電子機器系・ソフト系に大別され,それぞれ個人またはグループで実施しています。
ゼミナールのテーマも初期の頃は,パソコンに接続する機器の製作やマイコン制御による小規模なシステムの製作が中心であったのが,次第に高度な機能を持たせた複雑なシステムへと移行しています。
最近はパソコンに直接挿入するインターフェースボードの自作をはじめ,実用化を目指した福祉機器の開発,新素材やセンサー等を使用した作品も増えてまいりました。
ソフト系の使用言語も訓練内容の高度化に合わせ,平成元年度からC言語に対応してまいりました。
テーマの内容も毎年変化しており,前年と同一課題であっても,必ず先輩の資産の上に自己の成果を上乗せしたものとし,バージョンアップを図っています。
発表テーマの推移を資料1に,平成6年度のゼミナール発表会のプログラムを資料2に示します。
ゼミナール期間中は,電子工学科5人の指導員全員が指導に当たり,指導分担・班編成の決定・全体指導などについては,科の指導会議により意見交換や中間見直しなどを実施し,全体を調整します。
そのうえで,個々の訓練生が選定したテーマについて,その設定から発表会に至るまで専任の指導員が終始一貫して指導に当たることにしております。
ゼミナールの期間中は,訓練生が個々のテーマに沿って,連日夜遅くまで真剣に取り組む姿が見られるようになります。
特に,論文の締切りとか発表会近くともなると,休日登校も多くなり,ゼミナールが終了したときには,ほとんどの訓練生から「今までで一番真剣に勉強した」とか「ゼミナールで自分を変えることができた」という感想を聞くことができます。
こうしたことから,毎年実施しているゼミナールは,自ら主体的に訓練に取り組む意欲を高めさせる上においても大きな効果があったと考えています。
初期においては,全道各地から離転職者を含め幅広い年齢構成でしたが,最近は年齢構成もほとんどが20才未満であり,かつ進学校の一つとして見なす傾向が強まっており,4割近い応募者が工科系大学と併願する状況にあります。
現在まで9期の訓練生を社会に送りだし,修了者総数は210名となっています。
この内,ほぼ全員が訓練内容を生かした職種に就いており,就職後の処遇も高専・短大卒業者と同等の扱いを受け,このため離転職も少なく,安定した職業生活を営んでいます(表2)。
なお,修了者は上場企業で中堅エンジニアとして活躍している者も多く,大半の者は地元の企業で設計・技術サービス分野の中核的エンジニアとして欠くことのできない存在となっています。
ゼミナールを通じて形成された創造性と主体性は,企業で大いに評価され,訓練生は高い評価を受けるようになりました。ゼミナール発表会も定着し,マスコミにもたびたび登場するなど広く地域に知られるようになってまいりました。
今年も,ゼミナール発表会のことが地元新聞やテレビのニュースでも取り上げられました。(図3)。
制度改正により,訓練時間は1600時間から1400時間に短縮されており,また週休2日制が訓練の継続に与える影響は少なくありません。このための対策として,可能な限り自学自習を推奨し,パソコンを自ら準備することを訓練生に勧めています。また,将来的にはCAIが完備されたホストコンピュータとの接続が可能なノート型パソコンの導入も考えているところです。
先に述べたように,年次を経る毎に成績優秀者が入校するようになってきましたが,反面,画一的・受動的な訓練生の割合が増加しているように思われます。このため,導入段階における指導が重要となっており,特に初期段階で一定の成果を上げさせ成功感を味わわせるとともに,自発的に更なる目標に向かって行くよう指導することが大切であると考えます。
技術革新が急速に進み,企業の求める技術水準は毎年向上してきており,ゼミナールに取り組む課題も毎年変化してきています。
たとえ入校者のレベルが毎年同じであっても,取り組みの課題と到達目標は前年より高いものが要求されるため,指導に当たる者は常に新技術・新素材について研鑽を重ね,専門的指導力を高めることが求められています。
ゼミナールは,自主的で創造性豊かな技能者の育成手段の一つとして機能し,期待どおりの成果をあげていると考えております。
ゼミナールを終え,修了していく訓練生の成長ぶりを見るにつけ「ゼミナール」の果たしてきた役割の大きさを痛感しています。
また,修了生の活躍ぶりを確認できたときの喜びは格別なものがあります。
ゼミナールに取り組んで10年,試行錯誤の繰り返しから現在の形が形成されてまいりました。これからも社会ニーズに適切に対応できるよう訓練生の育成に全力を傾注してまいりたいと考えております。