今回,島村弘海氏からこのリレートークの依頼がありました。
文章を書くのが超苦手な私は,即断ろうと言い訳を考えましたが,押し切られ書くことになりました。
まず,島村氏と私の関係を説明します。訓大溶接科の大先輩であり,入団後,初めて勤務した施設での先輩でもあります。実際に,一緒の施設で仕事をしたのは3年間という短い間ですが,仕事はもちろんのこと,社会人として身につけなければならないアフター5の過ごし方?(簡単には酒の飲み方)と多方面にわたり教えていただきました。
さて私は,海外の経験はありません。したがって,これまで多くの皆さんが書いてこられたような海外でしか体験できないことは書くことができません。そこで,能開大の研究課程で過ごしたときの体験を書きたいと思います。当事業団にはさまざまな研修制度があり,皆さんご存知だと思いますが,その中に在職者として,能開大の研究課程へ研修できるシステムがあります。研修期間は2年間という長い期間です。その期間で私は,本当にいろいろなことを学び,貴重な体験をいたしました。私の専攻は,材料物性で「細束X線ビームを用いた窒化珪素/ステンレス鋼接合部近傍の応力測定」というテーマでした。それまで私のX線についての知識は,仕事で溶接の指導員をしていましたので,X線といえば透過試験で溶接部の写真を撮り欠陥を見つけることぐらいでした。ですから,X線によって,物体の応力を測定できるなどとは微塵も考えたことがありませんでした。測定のための基本的な単位の感覚も仕事ではミリ単位の誤差が当り前だったことが,研究課程ではミクロン単位になり,細かい世界に戸惑いも多く感じました。また,入団以来文章を書いた記憶は,機器等申請ぐらいのもので理論立てて筋の通った文章などほとんど書いたことがなく,こんなにも文章が書けないかと本当に情けない思いをしました。それと同時に,発表に関しても指導員として人前で話すことは数多く経験していましたが,いざ研究発表となると,基本的な専門知識をおさえていないことと,雰囲気に慣れていないことでかなり苦労しました。
このように,日々迷いの連続で,辛いことも多々ありましたが,楽しいことも数多く経験しました。その中で,一番楽しかったことは寮生活です。事業団にとどまらず,各都道府県の先生方と知り合いになり,いろいろな見方,考え方を知ったことや,研究について夜遅くまで共通の悩みを語り,アドバイスしてくれた多くの友人を見つけたことは貴重な財産であり,この2年間のよき思い出となりました。
現在は,浜松短大の生産技術科で機械関係を担当しています。研究課程で培った研究の手法や考え方,また専門的な知識等を,今後どのように実際のセミナーや専門課程に生かしていくかが,私たち研修を受けた者の役割だと思っています。
さて,次回は指導員の鑑であり,私の師匠でもある加古川の成松清水先生です。よろしくお願いします。