• 栃木県立県央高等産業技術学校  宮沢 篤
  • 青森県立青森高等技術専門校  幸山 博克

1.はじめに

われわれは,県立の職業能力開発施設で冷凍空調関係の指導に携わっているが,訓練に適する教材が少なく,市販されていても高価で購入できない場合が多く苦労しているのが現状である。また,一般的に,空調システムの冷凍サイクルを考えた場合,ルームエアコンが冷えないこと等をよく耳にするが,実際はどのような状態になっているのか不明な点も多い。

そこで,能開大の冷凍空調トレーニングユニットの製作および性能試験の研修を通して,これらの問題を解決することを考えた。

また,教育を行う立場から,より効果的な訓練を行うには数値やデータをもとに解析するだけでなく,われわれや訓練生の五感を使って感じ取ることの必要性についても考えてみた。

2.実験装置および実験方法

図1に市販のルームエアコンを改造して製作した教育訓練用トレーニングユニットの写真を,また,図3にフローシートを示す。

図1
図1
図3
図3

2.1 改造した点

表1に示したとおりである。

表1
表1

① システム中の冷媒封入量の減量・増量運転状態の把握

  • ・冷媒封入量と冷房能力
  • ・冷媒封入量と圧縮機冷凍能力
  • ・冷媒封入量と冷媒循環量(冷房能力から算出)
  • ・冷媒封入量と冷媒循環量(圧縮機回りから算出)
  • ・冷媒封入量と冷凍効果
  • ・冷媒封入量と圧縮仕事
  • ・冷媒封入量と凝縮熱量
  • ・冷媒封入量と成績係数
  • ・冷媒封入量と効率

② 冷凍サイクルの膨張行程におけるキャピラリーチューブの適正選定(4種類設置)

③ ユニット各構成機器の運転状況および冷媒配管に設置したサイトグラスから冷媒の状態把握

④ ヒートポンプ式の冷暖兼用運転

⑤ 内蔵されていた基盤での自動運転と有接点シーケンス回路を組んだ手動運転

⑥ シーケンス回路の配線制御訓練

⑦ 各種模擬故障診断(蒸発器の目詰まり等)

以上の7課題等であるが今回の報告では冷房運転時の性能試験のみの記述とする。

2.2 性能試験の手順

表2のとおり,冷媒封入量を5種それぞれに対してキャピラリーチューブ4種を図2のようにパックレスバルブで取り付けた5系統について,冷房能力・冷凍効果・成績係数を計測した。

表2
表2
図2
図2

3.実験および考察

3.1 冷房能力について

図4から冷房能力は冷媒封入量に比例して高くなる傾向にあるが,個々のキャピラリーチューブをみると,封入量を増加させていくと冷房能力が低下する現象や測定不能の結果がみられる。

図4
図4

また,キャピラリーチューブを内径別にみると,内径1mmは長さ500,200,300mmの順に冷房能力が高くなり,冷媒封入量は0.2kgを除く0.4kg以上は計測されており,封入量に対する適応の幅が広いことが理解できる。内径1.5mmでは冷房能力が低く冷媒封入量に対する適応の幅が狭く,0.8kg以上は測定不能となっている。

以上の結果から,冷媒封入量とキャピラリーチューブ関係は,内径を大きくすると冷凍サイクルのバランスが崩れ膨張せず,低圧圧力の上昇や高圧圧力の低下をもたらす現象となる。しかし,内径が適切な冷凍サイクルに合致すると,適正長さが300mmであっても,200mmに短くなっても適切な冷凍サイクルに近い能力を持つことから,長さが30%以上短くなっても冷房能力は低下するが良好な冷凍サイクルとなる。

このことからキャピラリーチューブの選定はまず内径を決め,次に長さを冷房能力と比較することにより,決定するという手順を見いだすことができた。その他の要因としては膨張弁前後の管径,巻き径,巻き条数の違いによる流量特性の変化,冷凍機油の影響,加工時の変形による抵抗増加,付帯機器の能力・性能・負荷等が考えられる。

3.2 冷凍効果

図5から,キャピラリーチューブ内径1.0mmの長さ500mm,内径1.5mmの長さ300,1000mmについては,冷媒封入量が多くなると冷凍効果は減少の傾向にある。キャピラリーチューブ内径1.0mmの長さ200mmと300mmについては45~46kcal/kgで横ばい状態となり,高い値を示し安定している。

図5
図5

3.3 成績係数

図6から,キャピラリーチューブ内径1.5mmの冷媒封入量0.6kgおよび内径1.0mmの冷媒封入量0.8kg以上で成績係数は8以上となり,液戻り状態で高い値を示している。

図6
図6

今回の実験では,成績係数が7を超えると液戻り状態となっている。キャピラリーチューブ内径1.0mmの冷媒封入量0.6~1kgで安定した値が得られている。

3.4 冷媒状態

冷凍サイクル冷媒のサイトグラスからの状態や配管の霜・露付きの状態,振動,音等についての観察は表3のとおりであり,冷媒封入量に対するキャピラリーチューブの性能がよく理解できる。

表3
表3

冷媒封入量が少なすぎると低圧圧力の低下,霜付き等,冷媒封入量が多すぎると液バック等の問題点が生じる。

キャピラリーチューブの内径が太い場合や同じ内径でも200+300mmのように流量に対して抵抗が少なくなった場合は,液バック現象を生じ膨張行程が不完全となり冷媒がただ通過しているような状態となる。

その他キャピラリーチューブと冷媒封入量が適合しない場合は,配管内を冷媒が音を出して流れたり,異様な振動を発生する。

以上の結果から,本ユニットのキャピラリーチューブおよび冷媒封入量を決定する重要な要因は,

① ユニット運転中の冷凍サイクルの冷媒の状態(サイトグラス等による)は適正であるか。

② 冷房能力は高いか。

であり,本ユニットの適正値は表4のとおりである。なお,冷媒封入量については0.8kgが適正封入量であるが,0.6kgのときにも比較的良好な結果が得られ(アキュムレータ付きの効果もある),キャピラリーチューブの適切な選定を行うことにより適正封入量の約15%の増減に対して,良好な冷房運転が可能であり,ある程度の気候および配管長等の変化にも対応できる能力をユニットが持つものと考えられる。

表4
表4

4.おわりに

訓練生が本ユニットを使用して訓練課題に取り組むことで,運転中の配管や冷媒状態をサイトグラスで目視し,異常な音がないか耳で聞き,異常な振動や温度差を手で触れて感じ取ることは,冷凍空調理論を理解するうえでたいへん大切な部分と考える。また,本ユニットの製作はそれほど高度な知識や技能は必要としていないため,製作すれば一層,興味や理解度が高まると考える。

今後の課題として,①キャピラリーチューブのきめ細かい設定,②冷凍サイクル冷媒の実測による流量測定は,本ユニットの完成に関して重要な要件である。

また,蒸発器の負荷については開放された室温でなく,負荷の変動を可能にする装置での測定等を検討中である。

なお,空調トレーニングユニットの性能試験にあたり,能開大の三宅先生,梶先生をはじめ多くの皆様方のご協力,ご助言をいただきましたことを誌面をお借りしてお礼を申し上げます。

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