• 職業訓練教材コンクール[1]1
  • 北海道立札幌高等技術専門学院 川崎三勇・藤山信之
  • 北海道立滝川高等技術専門学院 天内朝夫
  • 北海道立北見高等技術専門学院 堀 信明

1.はじめに

私たちは北海道内の技術専門学院において,それぞれに建築科の1年制普通課程,短期課程または建築デザイン科2年制普通課程を担当しているメンバーである。

このたびのコンクール入選作品の指導書「やりかた」は,平成6年度から2年間にわたる職業能力開発技法研究会・建築科分科会における教材開発プロジェクト(計9名のメンバー)の成果として作りあげられた5教科目の中の一作品である。

2.作成の経緯

この教材作成にあたったメンバーは,指導経験が3年未満の若手指導員2名と15年程度の中堅指導員2名の計4名で構成され,教材開発の経験者は1名だけであり,ほかの3名は全く初めてであった。

また1名は建築デザイン科で建築の施工法について実務経験の少ない指導員であり,4名のメンバーが同じ考えに立つことが難しかった。

教材開発として何をどのように手がけたらよいかをはじめ,テーマを定めるためにそれぞれの考えで積極的に討議・討論を重ねて多くの時間を費やした。

その結果として前年度のプロジェクトに引き続き指導書を作成することになった。

指導書を作成することにした要因は,

① 各教科において,何を重点に置き教えるべきか,また容易に理解できる指針的な指導書が必要であるなどの要望があった。

② 学科・実技とも,限られた時間の中で多くの知識を習得させるため,内容の重複を避けたい。

③ 教科担当者の現場経験の違いにより指導内容・作業方法が異なるため,学生に不安を与えるなどの諸問題を生ずるが,指導書によって教科に携わる全指導員が一定水準まで統一した指導ができる。

④ 現場実務経験の浅い指導員が実技指導を苦手としている傾向があり,指導書によって取り組みやすくなる。

⑤ それぞれが勤務地において,日常の業務の合間をぬいながら取り組める課題であり,通信設備により情報の交換がしやすい。

⑥ 指導書の作成を通して,経験の浅い若手メンバーをはじめ全員が各教科における適切な指導の形態,方法を研究できる。

などである。

また,指導書が必要とされるべき多くある教科目から「やりかた」をテーマにしたのは,上記の要因などから,今最も必要とされている教科目の1つであり,学科・実技とも単位時間数が少なく,知識づけと,実技の一体化が図りやすく,初経験であるメンバーが取り組みやすいことなどが理由である。

3.指導書の内容

3.1 形   態

この指導書の内容的形態は,指導方法の原点の1つである従来の指導案様式に基づいて作成している。

学科を第1章,実技を第2章に区分し,学実ともに行われる作業の流れに基づき,項目を整理し,さらにその項目ごとに,

① 何を教えるべきか,明確なねらいを定めている。

② 項目別ではあるが,知識習得時間の重複を省くことと,学生の理解度を高めるために,前提条件として以前に終えていなければならない教科目などを明確にしている。

③ その項目指導に必要な各種教材を記載し,TP教材についてはこの指導書から直接コピーして活用できるように要所に図形を記載した。

④ 実技においては,その作業に応じて必要使用工具や必要資材が容易に準備できるように記載した。

⑤ 指導事項として,この項目で習得させるべき必要知識を,項目ごとの作業の流れに沿ってさらに細分化して,細目ごとに実際に現場で行われている工法,方法などを多く取り入れるなど関連事項を網羅して,容易な指導ができるようにした。

さらに実技では,指導事項の重要点として,

⑥ 安全作業の方法や留意事項についても記載した。

⑦ 作業の分解を誰にでも理解できるように要所を図示し,また実技作業が容易にできるようにした。

⑧ 学生数は,4~6人を1グループとして,作業課題を設定し,実習作業中の指導事項や,終了後の確認および助言事項についても記載した。

このことによって各作業の指導が容易に,かつ効果的に実施することができる。

3.2 解   説

■第1章 学  科
■第1章 学  科

(1) やりかたの概要

やりかたの必要性および重要性を,各種作業に必要な用語の解説と関連作業の流れを理解し,なぜやりかたが必要なのか,また水盛りやりかたを作るに基準となる各種図面についてまとめた。

(2) 地なわ張り

敷地内の建築物と配置図の関連を理解し,作業に必要な資材,名称,作業順序を理解させ,直角度の測定では,大がねに的をしぽり3:4:5の定理(ピタゴラスの定理)を理解させるようにした。

3:4:5の定理は建築現場施工において,直角度を測定するためにいたるところで活用される。

(3) 水盛りやりかた

水盛りやりかたの目的を理解させ,施工時における資材の各寸法および名称の説明,使用目的,施工方法を作業の流れに沿ってまとめ,要所に図形を多く取り入れTP等の活用ができるようにした。

また,水盛りはレベルによる方法を用い,バカ棒の作成と利用ができるようにした。

(4) 墨出し

墨出しの目的,作業方法と順序を理解させ,直角度の測定は測量機器を用いる方法と水糸と下げ振りを用いて大がねで確認する方法の2通りで対応できるようにした。

■第2章 実   技
■第2章 実   技

(1) 大がねの作成

作業課題を設定し材料の選択,寸法のはかり方,さしがねの使い方などをまとめ,作業にかかる安全面では釘を曲げる方向も入れ,作業時における墨の付け方,さしがねの使い方,釘のとめ方等のチェックポイントを設け,適切な指導ができるようにした。

また,作業評価課題を設定し個々に評価できるようにした。

(2) 地なわ張り

配置図をもとに基準線を出し,大がねと水糸により直角を求める方法と,測量機器(トランシット)を使う方法の2通りを習得し,順序よく正確な地なわを張り作業ができるようにした。

また,作業の流れに沿って図形を付け加えることにより視覚的に理解し指導できるようにした。

(3) やりかた

各部材ごとに作業内容をまとめ,水盛り(水平基準線)の出し方には,レベルによる方法を用いた例を記載し,安全面では,かけやの使い方(安全姿勢の指導,杭の修正の仕方),釘に関する注意事項をまとめた。

(4) 墨出し

基準線の立ち上げには下げ振りを用い,水糸は勘を養うために目視で合わせる方法とした。

直角度の確認は大がねで行う方法と測量機器による方法の2通りを記載した。

4.訓練への適用・効果

この指導書は,一定程度現行のカリキュラム時間を重視し,木造建築施工法または木造建築施工実習として最低限習得させるべき知識・技術をまとめてみたものであるが,完全実施に要する時間は現在の学生の理解度から何時間必要なのか試行的に実施してみた。

普通課程の教科目主担当には経験の浅い指導員,短期課程の教科目主担当には経験豊富な指導員とし,それぞれに学科と実習を指導書に従って進行させてみた。

その結果として,

① 学科で学ぶ知識と後に実施される実習時間の隔たりが少なくかつ知識と技術の関連性がよかった。

② 班編成体制の実習指導においても,班ごとの指導担当を定めなくても,実習に携わる全指導員が経験の大小に左右されることなく同じ考え方で指導ができた。

③ 提出課題に基づく実習作業により,学生がグループ討議を実施しながら,容易に作業を進めることができ,進行中の確認や完成後の確認,反省が行えた。

このような結果から,その効果は,

① 指導員の経験による教科目の苦手意識がなくなった。

② 一定水準までの指導が統一されることにより,学生側の指導上の疑問点がなくなってきた。

③ 学生自らが,課題完成に対し確認事項や反省事項をチェックし,製品の完成度を高めている。

などがあげられる。

今後の課題としては,限られた時間内で多くの知識を習得することができる教材として,指導書と関連づけされた自学自習にも活用できるワークブック的な学習書の作成が望まれ,一体化して活用することによって一層の効果が期待できるものと思われる。

5.おわりに

この指導書は,学生指導に最も適切と思われる一例を記載し,限られた時間で学科・実技が容易に行われるように一連化させたものであるが,まだまだ内容的に不十分な面も多く,新工法や新技術にも対応できるように,諸先輩方から多くの意見をいただきながら,常に改善していくべきものと思っています。

また,このたびの教材(指導書)の作成と労働大臣賞入選の栄誉ある受賞の原動力となった平成6年度のプロジェクトメンバーに深く感謝し,さらには少人数の厳しい訓練体制にもかかわらず,度重なる研究会開催などのご支援,ご協力をくださった諸先輩や仲間の皆々様に,そしてこのような機会を与えてくださった職業能力開発研究室をはじめとする関係各位に,この誌上をお借りし心より感謝とお礼を申しあげます。

多くの仲間の力で作りあげられたこの教材が,今後の訓練に大いに活用され,さらには,プロジェクトメンバーはもちろん,多くの仲間たちの新たなる教材作りの発端になれれば幸いと願っています。

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