平成7年の暮れ,ある大手会社は「平成9年春の大学新卒者から“パソコンを使いこなせること”を採用の条件にする方針」を明らかにした。
パソコンを使いこなせることが技術部門や開発部門だけでなく,事務部門にも進んでいるため,英語とともに採用の絶対条件とした。
各企業は,ホワイトカラーの効率化を図るため,社内でのパソコン研修を進めているほか,パソコンを使える人材を積極的に採用しているが,新卒者の採用条件として明確化する例は珍しい。
就職戦線に臨む学生にとって,パソコンは“武芸百般”の筆頭になりそうだ(新聞記事から)。
最近のマイクロ・エレクトロニクス(ME)の進歩は,あらゆる産業に大きな影響を与えている。そのなかでも,コンピュータの発達は,障害者の職域拡大という面において重要な役割を果たしている。
コンピュータのソフトウェア関連分野では,プログラマとして活躍する障害者も見受けられる。点字プリンタ等の開発は,視覚障害者のプログラマを誕生させるなど,重度障害者にも就業のチャンスが生まれている。
図1はそれらのことを示している。
図2は,①企業と企業外部との取引を扱う一般会計と,②企業内部における取引を扱う原価会計とを図示したものであるが,企業内外における「金の流れと物の流れ等」を明快に説明している。
経理事務の第一の仕事は,図2で示すとおり企業活動の結果を記録集計し,最終的に外部に公表される貸借対照表・損益計算書等に集約することである。これは「財務会計」ともいわれる。
さて,企業内の活動において,金が収入と支出となって動くとき,その情報は細大もらさず経理部門に集約される。これらの蓄積された経理数値を,経営(管理)に役立てるように加工して,経営者や部門管理者に提供することは,経理事務の第二の仕事である。
この経営(管理)のための経理の役割は,近来ますます重要になっている。
大量のデータを迅速に処理できるパソコンは,経理事務の第一の仕事,第二の仕事等に有効な働きをする機器である。
表1は,「経理・財務分野」専門知識マトリックスおよびユニット構成の事例である。
パソコンを使いこなすことは経理事務担当者として必須の条件となっているが,パソコンを購入すれば今日からでも経営(管理)に役立てられるだろうか? 「パソコンは,ソフトがなければただの金物」といわれるが,一般的には,経理事務担当者はパソコンを使用して財務会計を処理できるソフトを作成できない。
そこで,それを解決しようとして,市販されているソフト(購買・販売・給与・財務会計等)を購入し,それを企業の実体に合わせ,操作・熟達して,目的を達成しようとする。
では,市販しているソフトを購入すれば,それはすぐ使えるものであろうか?
私は,裁判に関する仕事をしています。
訴状や準備書面の起案,統計資料の処理等のため,表計算・データベースの各ソフトをノート型パソコンを駆使して手作業以上の能率を上げています(中略)。
確かにパソコンは,ホワイトカラーの生産性を飛躍的に向上させる可能性を持っているとは思います。しかし,こう使いづらくてはかないません。どうも人間が機械を使うのではなく,トラブル処理で人間が機械に振り回されているように思います。
OAのマニュアルのわかりにくさは定評(?)がありますね。
わが社のKさんは,ほとんど暗記するほどにマニュアルを精読している。なのにパソコンに向かうと「ここどうやるの?」と聞いてくるのはなぜかしらん?(八王子市・匿名・OL・23歳)
私は,以前に,Aメーカのソフトを統一使用してパソコンを使用しておりました。Aメーカのサポート体制は完璧で,年中無休・平日も夜9時まで連絡がつき,ずいぶん助かりました。
最近,私はAメーカを止め,Bメーカのユーザとなりました。わからないところがあり,Bメーカに電話するのですが,連絡がついたことがありません。午後5時以後は電話サービスは終了しています。祝日,土・日は休みです。他のユーザは「よく我慢している」といつも感(寒)心しています。
以上のようにパソコンでソフトを使いこなすようになるまで大変のようである。
パソコンを一種の機械と考え,パソコンに入力するデータ等を材料等と考え,入力の仕方を加工と考え,できあがる資料(例:貸借対照表・損益計算書等)を製品と考えると,これは一種の物づくりである。
物づくりであるならば,われわれは職業訓練関係でそれらを訓練するための相当の蓄積を持っている。(職業訓練)実技教科書もその1つである。
従来から,公共職業訓練には,(職業訓練)実技教科書が愛用されている。
現在,(職業訓練)実技教科書の対象職種は20数種に及んでいる。
それは,水色の表紙(A4判)で,当該職種の基本的な作業が,1つひとつ,作業名・主眼点・作業順序・要点・図解等に見やすくまとめられている。
もともと,職業訓練において各指導員は,実技の訓練を合理的に,かつ能率的に進めるため,あらかじめ訓練の内容を作業分解し,順序よくまとめ,整理した指導案を作成する。
それら各指導員の作成した指導案を持ち寄って,吟味・検討し,さらにわかりやすくし,危険防止の注意点や実作業に役立つ関連知識等,学習意欲を起する工夫(絵図・解説を含む)を加え,訓練生用の実技教科書ができあがる。
パソコンを使用しての経理事務を行うための実技教科書を「出版業者につくらせるべきだ!」という主張がある。「文部省の小学校等の教科書は,出版業者がつくっている」というのが主張の根拠らしい。
はたして出版業者が,それをつくってくれるであろうか? 出版業者は,常に採算がとれるか? という前提がある。一般に,職業訓練の実技教科書は,需要は強いが売れる数は少ない。内容の変化は早い。すぐ古くなる。このような危ないものに出版業者が手を出すであろうか?
いい実技教科書は,訓練生に必要な技術・技能を短時間に,確実に定着させる。しかし,それは市販されてはいない。指導員でつくる以外方法はないということで「パソコン使用の財務会計事務等」の実技教科書をつくることになった。
以下の条件を満たすものにしたいと考えた。
以上の条件を満たす例題は図3のようになった。
パソコン使用による財務会計の実技教科書では,財務会計ソフトを使って,次のことができる人(入門レベル)を目標とした。
以上のことを考慮した作成例を図4,図5に示す。
できあがった実技教科書を表2のように試行しながら修正した。
試行の結果によれば,教え方としては表3の順序がよい結果が得られた。
教えてみて感じたことは,入力の方法だけ教えると訓練生は「すぐ飽きる」ことがわかった。
平成5年8月から10月にかけてパソコンを使っての財務会計の能力開発セミナーがあり,初級5日間,中級5日間(いずれも週2日)を実施した。
初級では,前半に簿記の基本的な内容を説明し,後半は受講生からの要望で「大番頭三代目」のソフトを使ってセミナーを実施した。
教材のもとになったのは,つくりたての実技教科書(パソコン使用の財務会計)であった。「PCA会計Ⅱ」と「大番頭三代目」とのソフト上の相違点は微調整しながらセミナーを実施した。
中級では,商業高校教科書の総合問題をやりながら,日商簿記検定3~2級(初段階)の内容のセミナーを実施した。
その受講生に,この前会った。彼は言った。
「現在も,パソコンを使って経理事務をやっています」
その笑顔の白い歯が印象的であった。
本稿は,パソコン使用の財務会計(基礎編)を中心に記述した。将来,チャンスがあれば,パソコン使用の購買事務,販売事務そして給与事務を発表したい。