平成8年度より,アビリティコースとして経理,総務,営業のシステムで構成されたビジネスワーク科がスタートした。そのカリキュラム内容は,実践的内容を重視しており,経理システムにおいては,簿記会計から始まり,記帳実務,税務会計,財務分析,債権回収および資金繰り,パソコンによる処理など広範囲に及んでいる。実務を重視したレベルでカリキュラムは構築されたが,その目的を達成するための教材作成までは余裕のない状態であった。しかし,自らの経験不足や知識不足を補うためにも教材は欠かせないし,特に実務優先の課題や事例等は重要であるが十分ではなく,自ら作成する以外にない。
また,中小企業における経理業務を実務レベルでみると,伝票の起票・整理,帳簿への転記など煩雑な処理がある。経理実務で利用される財務ソフトは振替伝票を入力することで得意先元帳などへの転記が行えるが,売掛金などの回収に関わる請求書発行などの処理はできない。実務では,財務管理の主要簿よりも,得意先元帳や手形記入帳などの補助簿の役割が大きく,これを手書きでの転記作業で行うのは大変な労力を必要とする。さらに簿記では売上という取引が発生すると計上されるが,資金サイドからみると売上の代金が回収されて初めて売上が実現する。この企業の血液といえる資金を管理することは,企業の存続にも多大に影響する。
以上の観点から,パソコンを利用した業務の効率化を図れる改善事例を含んだ課題などが必要であると思い,管理の必要性が顕著である債権回収を主にとらえ,実務の流れをイメージ,シミュレーションできる債権管理(売掛金や受取手形など)処理プログラムを作成した。
日々,起票される売上または振替伝票から売掛金やその回収額をパソコンを利用して入力することにより,売上債権(売掛金および受取手形)を管理することができるシステムである。
本システムは,表計算ソフトLotus1-2-3のマクロ機能を利用して,得意先ごとの売掛金計上から回収処理(手形管理を含む),残高確認書発行,請求書発行までの一連の管理業務を行うことができる。
データの入力画面は伝票形式なので,起票された売上伝票や振替伝票を見ながら入力でき,入力方法も対話形式,コード入力方式を採用しているので,メッセージに従いながら数値入力のみで行える。つまり,漢字変換を伴うような煩わしい文字入力の操作を省いてある。
売掛金の計上およびその回収の処理だけではなく,受取手形の管理(受取および顛末)までを併せてできるようになっている。
(1) 売上債権(売掛金)およびその回収に関わる管理システム
(2) 受取手形管理システム(補助簿としての受取手形記入帳)
処理の選択は,メニューからその項目をカーソルキーで選択することによって行うことができる(図1)。
選択できる処理は,①売掛金の計上,②売掛金の回収,③請求書および残高確認書の発行,④受取手形の管理,⑤マスター登録である。各処理を選択すると,サブメニューが表示されるので入力および訂正が行える。
このシステムは,選択メニュー画面用および処理用のワークシートファイルとデータベースファイルで構成されている(図2)。
必要な機器類は,表計算ソフトLotus1-2-3(R2.4JもしくはR2.5J)とそれが動作するパソコン(NEC製)および本システムのフロッピーディスクである。
本システムは,フロッピーディスクのままでも使用可能であるが,データの読み込みや書き込み,記録容量を考慮すると,必要なマクロファイル,データファイルをハードディスク内にコピーして利用することが望ましい。実際の運用にはデータファイルの初期化が必要である。
例) A:\>MD A:\KANRI「リターン]
(作成するディレクトリ名)
※既存のディレクトリを利用する場含は,この操作は必要ない。
例) A:\>COPY B:*.*
A:\KANRI[リターン]
(①で作成したディレクトリ名)
※フロッピーデイスクがB,ハードデイスクがAドライブである場合
表計算ソフトLotus1-2-3のファイル読み込み用のディレクトリの設定をしておく。もしこの設定が間違っていると,本システムは動作しない。
または,規定値を変更する方法でもよい。
[f・1]→[W・ワークシート]→[G・全体]→[D・規定値]→[D・ディレクトリ]→A:\KANRI→[U・更新]
※マクロマネージャーを利用してディレクトリ変更マクロを作成しておくと,便利である。
表計算ソフトのLotus1-2-3を起動させて,トップメニューファイルであるMAINMENU.WJ3を読み込むことにより,自動的にマクロが起動する。
トップメニューから「1.売上管理」を選択すると次の図3の画面になる。
月,日の順で数値入力していく。
5月10日を入力する場合,5を入力してリターンキーを押して次に10を入力してリターンキーを押す。
前回の伝票番号から自動的に連番で入力されるので入力は不要である。
画面が2分割され,右半分に得意先リスト一覧が表示されるのでコード番号確認後にリターンキーを押す。コード番号を入力すると,得意先名は参照される。
右半分にリスト一覧が表示されるので確認後にリターンキーを押してコード入力すると,担当者名は参照される。
右半分に商品リスト一覧が表示される。上下のカーソルキーでスクロールできるので,コードを確認後にリターンキーを押しコード入力すると,商品名,単価は参照される。
数量は伝票から読み取り入力すると,金額は計算される。
数値入力が終わると,操作パネル上に「承認」「訂正」「追加」「破棄」の選択メニューが表示される。もし同じ得意先のデータがあれば,「追加」を選択して続けて入力ができる。
また,数値等に誤りがあれば,「訂正」を選択して修正も行える。入力データを確認後,よければ「承認」を選択する。
データ入力の処理の継続に関するメッセージが表示されたら,続ける場合は「Y」を,やめる場合は「N」を入力すると,トップメニューに戻る。
※別の処理も同様にガイダンスが表示されるので,メッセージに沿いながら行える。
請求書と残高確認書の出力例を図4,図5に示しておく。
①メニューは,マクロ命令のmenubranch命令を利用するのではなく,ワークシートにメニュー項目を作成し,上下のカーソルキーのみで選択できるようにした。
また,キー操作ミスによる誤動作を防ぐために,指示以外のキーを操作しても誤動作しないようにキー判断ルーチンを組み込み,抑制した。
②処理速度を考慮し,1つのファイルにまとめるのではなく,処理ごとに1つのファイルとしてマクロをモジュール化した。
③漢字変換を伴うような文字入力を省くためにすべてコード入力にした。
④入力に必要な情報(得意先コードや商品コードなど)はすべて画面に表示できるようにして,コード表などを参照する手間を省いた。
⑤データ保存,データ読み込み時には,その旨のメッセージを表示し,ユーザへ動作状況を知らせるようにした。
⑥データの保存は,Lotus1-2-3のファイル形式ではなく,データベースファイル(dBASE)形式を採用した。これは処理速度の改善などがその理由である。外部データベース機能を有しているので,他のソフトウェアを必要としない。
⑦売掛金だけの管理だけではなく,資金繰りなどに関連している回収された手形の管理も併せて機能追加した。
ビジネスワーク科は,カリキュラム内容が幅広く新しい内容であるので,担当講師が教えやすく,生徒が学びやすい教材は,とても重要である。今回は,売上という取引事実の始まりから回収に至るまでの一連の流れを理解して処理できるようなシステムを構築したが,債権の回収には多くの時間と労力を有することを少しは,理解してもらえたと思う。
しかし,実際に財務管理や債権管理,資金繰りなどは重なり合っており,これをうまく結びつけるような教材があれば,さらに理解が深まると思う。
教材は単なる形のあるもの(テキストなど)ではなく,そこにはノウハウが蓄積されていると思う。また,ソフトウェアがバージョンアップを繰り返すように,教材も多くの人の英知を受けて成長や進化を続けていく。作成にあたっては開発教材の共有を念頭に置きながら,だれでも利用できるように心がけているが,まだ不十分な点がたくさんある。多くの人の英知を受けて教材のノウハウを共有することができれば,多くの教材を活用することができる。
本教材がビジネスワーク科の教材開発のきっかけとなり,その輪が広がれば幸いと思っている。