*現ポリテクカレッジ川内
開校2年目の1994年4月,国際協力の一環として市町村からの委託によるブラジルから外国人研修生1名を本校で初めて受け入れた。4月入学から9月修了までの6ヵ月間の研修生の受け入れ準備体制,カリキュラム,研修状況,指導状況,生活状況等について報告する。
1994年2月末,読谷村から本校に海外(ブラジル)からの研修生1名を引き受けてもらえないかとの要請があった。読谷村では1993年度より「読谷村海外移住者子弟研修生受入事業」を実施し,初年度はボリビアから1名の男性研修生を選抜し,大宜見村在の沖縄産業開発青年隊へ6ヵ月間委託して研修を実施した。2年目の今年(94年度)は,ブラジルより1名の女性研修生をすでに選抜しており,沖縄での研修希望内容はコンピュータ操作の勉強に意欲があるとのことで,読谷村から近くてコンピュータ関係の機器・設備が整った本校(ポリテクカレッジ沖縄)に研修受け入れを要請したのである。
本校では,初めての海外研修生受け入れ要請であった。雇用促進事業団の業務内容に照らし合わせたら,事業団の国際協力としての研修員(生)受け入れ対象者は,労働省とJICA(国際協力事業団)等を通してのみである。県市町村等からの要請による研修生の受け入れは,事業団の本来業務としての海外研修員(生)受け入れ業務にはなじまないことが判明した。せっかく初めての外国研修生受け入れの機会であり,何かよい方策はないか思案中に,事業団本部より事業内援助として実施可能との連絡があり,実施することにした。
要請された研修生のプロフィールは以下のとおりである。
初めての外国人研修受け入れ事業であり,言葉,研修内容・機器,文化・習慣等の問題点が検討された。万難を排するため,研修受け入れプロジェクト委員会を組織した。委員は各科(5科)から1名,開発援助課から1名の合計6名で構成し,事務処理は開発援助課が担当した。
プロジェクト委員会では,研修目標,研修内容,カリキュラム,研修方法を立案し,研修担当者,研修場所,研修機器等を検討した。
研修受け入れ期間は,94年4月から9月30日までの6ヵ月間とする。
研修目標は,
① 表計算ソフトの関数および,マクロ機能の利用応用方法を習得する。
② MS-DOSの基本的な操作方法,ハードディスクへのインストール方法,MS-Windowsの基本的な操作方法を習得する。
③ 日本語に親しみ,読み書き話すを習得する。
④ 短大の学生と交流を深める。
⑤ 日本(沖縄)の文化,習慣を理解する。
研修(授業)方法は,集合研修(短大学生との交流を深めるため一緒の授業)と個別研修指導(マンツーマン)を取り入れた(表1)。
1日の授業時間は短大学生の時間に合わせる。開始時間は朝8時45分で終了時間は16時45分とし,1日で4時限(100分単位)授業を行った。その他,学校行事等にも親睦のため参加した。
集合研修のときは,短大学生と一緒の授業であり,研修生は専門用語と漢字が不十分であるので,他に1名の語学指導補助担当者をつけた。
個別研修のときは,基本的にマンツーマンで指導し,研修指導担当は各科の先生方に協力して出してもらった(表2)。その研修場所は職員と交流しやすい本館A棟1階事務所隣の相談室を主に使用した。
パソコンの機種は,ブラジルではIBM-PC系が主で,それを使用しているとのことであったが,短大の先生方が慣れているNEC社のPC-98系とそのアプリケーションソフトと周辺機器で研修を行った。
最初に日本語の習得とパソコン操作に慣れさせるため,日本語ワープロ「一太郎」から研修を始めた。漢字が読めないため,なるべくひらがなで書いてある文章を選び,漢字にはふりがなをつけて入力練習をした。キーボード操作のタイピングはポルトガル語がローマ字的読み方なので,ひらがなのローマ字入力はお手のものであり上達が早かった。ひらがなとカタカナの読み書きは来沖前から習得しており十分であった。漢字の読み書きは習得時間が十分でなく不十分のようだった。
パソコンでの表計算「Lotus1-2-3」の操作はのみこみが早くびっくりした。習得に大変意欲があり,ブラジルでの業務の応用マクロ等を自作していた。また,「Lotus1-2-3」の検定試験にも挑戦したが,問題の漢字が読めなくて理解できなく,合格には至らなかった。
その他,プログラミングやCAD・CG等も積極的に楽しく研修を受けていた。短大生との集合授業で若者同士の交流を深め,友達も多くできたようであった。
読谷村の叔母の家等よりバスで通学していたので,沖縄の人の生活状況の理解と日本語の勉強に良かったと思っている。ブラジルでも日本のカラオケが流行っており,彼女のカラオケは玄人はだしで大変なものだった。
また,火,木曜日の夜は琉球舞踊を習い沖縄の芸能にも触れ,習得した舞踊で読谷祭りの舞台で披露し,読谷村役場の研修受け入れ担当者の小橋川さんと2人で司会もこなし,大好評だったと聞いている。
言葉はあまり通じなく,細かいことまでお互いに理解できなくとも,実習をやっていく中で理解させることができた。日系2世で肌の色とか顔形がわれわれと似ていても,育った国の文化・習慣・環境が違うので,物事に対する考え方等の違いを理解することができたと思う。また,研修生との交流で先生方,学生自身の国際化と活性化にもつながると思っている。
この貴重な海外研修受け入れの経験を生かし,地理的・気候的になじみやすい当校で研修員(生)の受け入れと,海外への先生方の技術協力派遣も考える時期にきているのではないだろうか。
4月の研修受け入れ時は修了証書の発行は予定していなかった。ブラジル帰国者からのアドバイスで,ブラジルに帰国してから日本(沖縄)での研修の証があれば非常に役立つとのことで,日本語と英語の修了証書と研修履修時間・内容書を研修名「コンピユータ処理技術」として交付した(図1,2)。
本校で習得した知識や技術が帰国後どれほど役立つか気がかりな部分があったが,帰国後の連絡によれば,地元の大学に入学し,大学でアルバイトとして週に3回コンピュータ関係の授業を教えて高給を取っているとのことであり喜びにたえない。
最後に,初めての外国人受け入れ研修で多くの苦労があったが,各科のプロジェクト委員と研修担当者,開発援助課の宮里正および関係者のみなさんの協力で成功裏に終わることができた。感謝を申し上げます。この貴重な経験をこれからの国際協力,次回の研修員(生)受け入れに生かしてほしいと思っている。
なお,この経験を生かし,95年4月より9月までの6ヵ月間,読谷村からの委託でブラジルより2名の女性研修生を受け入れ,9月より12月の3ヵ月間,インドネシアより2名の研修員(カウンターパート)を電子機器科と情報処理科を中心に受け入れた。また,96年4月より6ヵ月間,読谷村からの委託で1名の女性研修生を受け入れて研修中である。