• ポリテクカレッジ北九州(北九州職業能力開発短期大学校)情報技術科  平澤 博
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1.はじめに

平成3年度の半ばに本校における構内電話回線の一部が従来の4線式から2線式へと変更され,能開大に開設されている『職業能力開発関係通信ネットワーク』,すなわち『UITnet』の利用環境が整備されることにより,そのアクセスが容易なものとなった。

そこで,こうしたパソコン通信ネットワーク『UITnet』へのアクセス状況を中心としながら,さらに,地域に根差した草の根パソコン通信ネットワークなどをも含めた,教育的有用性とより幅広い活用性についての報告1)をこれまでに行った。

その後,「パソコン画像通信」や「パソコン通信ネットワーク(BBS局編)」などに関する能力開発セミナーなどの実施を通じて,パソコン画像通信で利用されている圧縮画像処理関連フリーソフトなどに着目し,これらを活用したマルチメディアプレゼンテーションを試み,MS-DOS環境だけの特別な環境でなくても静止画像と音源(音楽・音声)を組み合わせた提示・実行が可能な学校案内提示作品を試作した。

さらに,インターネット環境におけるホームページ(以下「HP」という)制作に際して,これらの文字・画像データを有効活用した学校案内ホームページも試作することができた。

その結果,次のような活用性と教育的有用性を見いだすことができた。

  1. ① MS-DOS環境のみでもコンピュータ画像の色表現において,一定の実用性を確保することができた2,3)。
  2. ② また,音声情報出力の検討も加えることで,音声出力の認識率も実用レベルのものとすることができた。
  3. ③ 総じて,種々のフリーソフトウェアを活用することで,文字や画像だけでなく,音源(音楽・音声)データをも組み合わせることで,より実用性のある『学校案内提示作品』とすることができた。
  4. ④ 今後のマルチメディア情報処理技術に関する基礎的教育推進における既存機器有効利用の可能性を確認した。

こうした本報告の取り組みの経緯は以下のようであった。現在,「ネットワーク」「オープンシステム」「ダウンサイジング」「マルチメディア・マルチベンダー」をキーワードとしたコンピュータ機器環境の再編成が進展し,北九州市においても「コンピュータなどを利用したマルチメディア関連産業の育成と振興を目指した拠点整備」,すなわち「新映像情報都市北九州」の整備・推進に関する具体的な取り組みが1993年度から開始されてきている4)。

こうした,「文字や画像,音響,映像など」の複数のメディアを複合して利用するためのパソコンによるマルチメディア環境の整備・推進が,MS-Windowsを中心として急速に進展しつつある現状といえる。

しかし,このMS-Windows環境は,一定の高機能なハード環境とMS-Windowsの操作方法の理解が必要となり,旧式の既存機器環境,すなわち,従来のMS-DOS環境のみでは機器機能拡張の費用などが必要となってくる。また,画像データファイル形式などの相違により,既存画像データを有効利用することも容易とはいえない。

こうしたなかで,筆者はこれまでに,既存機器環境,すなわち,MS-DOS環境だけの特別な環境を必要としないフロッピーベースでのマルチメディア作品の提示方法について検討し,画像圧縮処理関連フリーソフトと音源(音楽・音声)情報出力フリーソフトなどを組み合わせることで,『MS-DOS環境のみでも,静止画像と音源の効果的な提示をインタラクティブに操作することができる学校案内提示作品』を試作した5,6)。

本報告では,この『学校案内提示作品』の制作経緯と各種フリーソフト利用方法,および『学校案内提示作品』の文字・画像データを有効利用したHPの試作などについて報告する。

2.画像提示に関する検討経緯

一般的にマルチメディアパソコン7)としては,表1に示す仕様以上のWindows環境を必要とするものであり,現有機器環境では十分な機能を発揮できないながらも,従未のMS-DOS環境のみで作成・利用してきた画像・音楽・音声データの有効利用などを中心に検討を進めた。

表1
表1

音楽・音声などの音源データの利用に関しては,現有機器では拡張ボードが必要となり,価格的にも高価であったため,従来の画像データの有効利用を中心に検討した。そして「RGBべた画像のBMP画像変換プログラム」を作成し,これを利用することで従未のMS-DOS環境のみで制作した画像をMS-Windows環境の画像データに変換し,MS-Windows環境での画像提示を実現することができた。

その後,作品提示環境や提示用ソフトの著作権などの問題を考慮しつつ,MS-DOS環境だけの特別な環境を必要としないフロッピーベースでの画像提示方法を検討した。そして,パソコン通信で普及しているフリーソフトウェアを利用したコンピュータ画像の提示方法を試行した。

これらの経緯については次のようであった。

2.1 『学校案内作品』制作意図

本報告の画像提示は,『学校案内作品』制作意図に基づくもので,その概略は次のようである。

  1. ① 本校の『学校案内』をもとに,従未の『学校案内』における文字と写真によるパンフレット(小冊子)形式に代えて,パソコン上でマルチメディアを利用したインタラクティブな操作による学校案内を実現する。
  2. ② イメージスキャナ入力による画像を中心とする構成で,本校の受験希望者を対象とし,高等学校などへの配布を考慮する。
  3. ③ 音源(音楽・音声)情報出力も可能な限り付加する。

2.2 MS-Windows環境での「学校案内」作品制作

MS-Windows環境での作品制作に関する概略は,次のようであった。

① 利用ソフトとしては,「Authorware Star」を使用した。これは,MS-Windows環境上で動作するマルチメディアオーサリングシステムといわれているものである。なお,提示作品については,タイトル作品という呼び方が採用されているため,本報告でもその呼称を用いた表現としている。今回の本タイトル作品制作に際しては,販売元のモニタキャンペーンによって,このソフトを利用する機会が得られたものであるが,周辺環境が未整備な状態での利用であった。

② 内容的には,イメージスキャナ入力画像を中心とした構成で,選択提示内容の開始・終了などの際に簡略化した音楽が流れる程度である。

利用ソフトに対応した映像・音楽・音声用ボードを整備すると本格的な動画や音声データを利用できるが,未整備であり,かつ高価なため利用しなかった。

③ 画像のイメージスキャナ入力は,スキャナ添付プログラムを利用したが,従来のMS-DOS環境のみでの画像データ形式(8色表示)であった。

そこで,「RGBべた画像のBMP画像変換プログラム」を作成することで画像変換処理を行い,MS-Windows環境画像とした。

④ タイトル作品の仕様は表2に示しており,この内容については,モニタ終了後に提出したモニタレポートの内容と同様のものである。

表2
表2

⑤ 作成したタイトルプログラムは,実行型のファイルとし,ランタイムライブラリとの組み合わせによる実行が可能である。

また,モニタソフトの上位機能を有するソフトでは,配布用としての単独実行型ファイルとすることもできるが,今回のモニタソフトではサポートされていなかった。

2.3 MS-DOS環境のみでの「学校案内」作品制作

前述のMS-Windowsによる動作環境での『学校案内』作品の提示実行においては,一定のハード環境とMS-Windowsの操作方法に対する理解が必要となり,限られた環境でのプレゼンテーション実行となっている。また,配布に際しては,利用ソフトの著作権なども問題となってくる。

そこで,通常のMS-DOS環境だけの特別な環境を必要としないフロッピーベースでの実行を可能とすることで,本校における学生募集や広報活動などに有効利用することを検討した。

そして,パソコン通信において普及しているフリーソフトウェア,すなわち,著作権はあるが配布や複製を自由に行うことができるソフトを利用したMS-DOS環境だけで実行可能な『学校案内』作品を制作した。

このMS-DOS環境だけで実行可能な『学校案内」作品制作の概略については,次のようであった。

① 利用ソフトとしては,MS-DOS環境で動作させることができる「KiT(ED)」8)を使用した。これは,パソコン通信のフリーソフトウェアとしてアップロードされているものであり,自由に複製・配布することができるソフトである。

② 内容的には,利用ソフトの機能の相違を踏まえながら,MS-Windows環境での『学校案内』作品とほぼ同様な画像提示をMS-DOS環境だけで実現することができた。

また,音楽・音声データについても,専用のボードを使わずにパソコン本体のBEEP音を利用することで音源再生することができるフリーソフトウェアなどを利用した。

③ 『学校案内』作品の仕様は,表2にほぼ準じたもので,利用ソフトの機能の相違による選択メニュー内容の提示方法などに異なる点もあるが,MS-DOS Ver.2.1での実行が可能であり,マウスを接続していない場合にはキーボードの矢印キーで代用することができる。

表2
表2

3.コンピュータ画像のアナログ16色による色表現

これまでに述べてきたコンピュータ画像は基本的な8色の色表現であり,画像の色表現としては満足できるものとはいえなかった。そこで,パソコン通信における画像通信の分野で利用されているフルカラー画像をアナログ16色に減色して表示させるというフリーソフトウェアなどを利用するとともに,各種画像関連フリーソフトウェアを活用することで,実用に供しうるコンピュータ画像の色表現を試みた。

これらのフリーソフトウェア活用を主とした『学校案内提示作品』制作工程は,図1に示している。

図1
図1

3.1 フルカラー画像の取り込みとファイル保存

本校の『学校案内'93'94』に掲載されている写真図版を原稿とし,イメージスキャナを利用したフルカラー画像の取り込みを行った。

処理方法としては,「①市販のフレームメモリとその添付ソフトを利用する方法」と「②フレームメモリを使用しないで,直接フルカラー画像データファイルへの出力を行うことができるフリーソフトウェアを利用する方法」という2通りを検討したが,その概要は次のようであった。

  1. ① フレームメモリの添付ソフトを利用したフルカラー画像の取り込みを行い,JPEG形式の画像データファイル(以下「JPEGファイル」という)として保存した。
  2. ② フリーソフトウェアの「スキャナ画像取り込みプログラムGTSCAN」を利用すると,フレームメモリを保有していなくても,直接的にフルカラー画像としてのQ0形式の画像データファイル(以下「Q0ファイル」という)を出力し保存することができた。さらに「JSV.EXE」というフリーソフトウェアを利用することで,Q0ファイルをJPEGファイルとして保存でき,画像ファイルのデータ量を削減することができた。

Q0ファイルとは,パソコン通信で普及しているフルカラー画像データ形式の1つであり,「RGBの各色を0(暗)~255(明)の8ビット,順番はRGBの順で合計24ビット(3バイト)で1ドットを表現」しており,640x400ドット画像のデータ量としては,768KBとなる。そのため,ファイル保存に際しては,JPEGファイルとして圧縮保存することでデータ量の削減を図ったのである。

なお,パソコンはPC9801シリーズ,スキャナはGT4000を利用した。

3.2 フルカラー画像の16色への減色とファイル保存

データ量を削減するためにJPEGファイルとして保存されたフルカラー画像データは,「JSV.EXE」とセットになっている「JLD.EXE」を利用することで,JPEGファイルからQ0ファイルに変換することができる。

これらのフルカラー画像データのモニタ画面への表示に際して,JPEGファイルは「JPGV98」,Q0ファイルは「Q0V98」という「フルカラーから16色への減色ソフトウェア」を利用してアナログ16色での画面表示を行うことで,実用に供しうる画像の色表現が可能となってくる。

このようにしてモニタ画面上へ16色に減色・表示した後,「現在表示されているグラフィックス画面を,べたファイルに落とすSAVERGB」を利用して再保存することにより,通常のMS-DOS環境での利用が可能なアナログ16色画像データファイルとした。

3.3 アナログ16色画像の編集

モニタ画面に表示されたアナログ16色画像に対する編集作業については,「市販ソフトや自作ソフトで作成した画像を読み込んで簡単な編集をほどこし,異なるデータ形式のファイルに変換する」ことができるフリーソフトウェア「画像データ変換・編集ツールGCV」を利用した。

このフリーソフトウェアには,画像をただ変換するだけでなく,簡単な編集機能として,「文字の入力・表示」や「ドット編集」「拡大・縮小」「パレット編集」などの12種の機能があり,必要に応じて画像の部分的な修正などの編集を行うこともでき,これらの編集作業の後に,再保存を行った。

3.4 画像提示用作品の制作

こうして得られた16色RGBべた画像をもとにして,「グラフィックスを主体とした,プレゼンテーションツールであり,マッキントッシュのハイパーカードのように画面にある指を動かしてマウスのボタンを押すと,あらかじめ用意された写真・絵・文字・文章を画面に表示するプログラムKiT(ED)」8)というフリーソフトウェアを利用し,本校の『学校案内提示作品』を制作した。

「KiT(ED)」はBASICのようなもので,コースファイル(スタックと呼んでいる)が必要である。このスタックファイルの作成に際しては,表3に示すように,28個の命令と3種の分岐・繰り返し構造を利用することができる。こうしたプログラミング言語仕様をもっているため,C言語などの構造化プログラミングにおける基本制御構造に準じた記述が可能となっており,構造化プログラミング経験者にとっては,構造化設計も容易に記述することができるプログラミング言語ととらえることもできる。

表3
表3

図2の「KiTEDのメニュー構造」に示すように「KiTED.EXE」を利用することで,一定の仕様のスタックファイルを容易に作成できるが,詳細についての制御などを編集・記述するためには,エディタによる記述が必要となってくる。このスタックファイル編集に必要なエディタとして「HED.EXE」,そしてFEPは「WXP104C」を利用した。

図2
図2

このようにして作成したスタックファイルの命令群に従って,「KiT.EXE」により,画像ファイルなどを提示実行させた。

この「KiT(ED)」が扱う画像ファイル形式としては,通常の16色RGBべたファイルだけでなく,RGBべた画像を圧縮した画像(拡張子:KIM)や画面の半分までの大きさの部分画像(拡張子:KRC)があり,「KiTED.EXE」によって16色べた画像を読み込み,これらの画像形式として再保存することで変換することができる。

さらに部分画像は「COMP.EXE」によって圧縮することもでき,表4に示すように画像ファイルのデータ量を削減することができ,フロッピーディスクを利用した画像提示が容易なものとなった。

表4
表4

(つづく)

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