雇用促進事業団の新事業である事業主団体方式の展開のため,平成7年6月に北九州短大は,全国の団立短大に先駆け新事業の試行を始めた。試行校としての任務は以下の3点である。
試行を始めて丸1年過ぎ,幸いにして福岡全県の金型研究会(金型製作業団体)によって団体方式の事業を遂行する機会が与えられた。平成8年度に入り,61コースの能力開発セミナー,2回の技術研究会,1件のF方式研究を展開している。また,金型研究会参加の企業から情報を収集し,福岡市地域の事業主団体と新事業を開発することを計画している。
そこで今回は,事業主団体方式試行校としての業務を遂行するため,どのように事業主団体に働きかけていったか,本校の取り組みをまとめて報告する。
試行校として活動を始めるまでは,機械システム系の能力開発セミナーの実績は見るべきものがなく,また,企業との関係も学生の就職を通してのもののみであり,産業界に対する知名度はほとんどないに等しい状態であった。
試行校の指定を受けた後,そのあり方を決めるため「試行校推進プロジェクト委員会」を設置し,業務を推進するための具体的施策の検討を行った。
また,プロジェクト委員会によって各科1名から2名の能力開発スタッフを選出し,「能力開発スタッフ会議」を構成した。まず,北九州短大を世間に知ってもらうため,団体・企業を訪問し,少しでも興味を示してくれたところには本校への視察を勧誘した。特に,機械システム系(2科)では,セミナーへの参加企業が少なかったため,スタッフを3名に増員して外回りに精を出し,できる限り短大の見学に来てもらうように説得した。
機械システム系としては最初の4ヵ月間で,13団体・63社への訪問を実施した。その結果3団体と7社が見学に来てはくれたが,なかなか関心を深めてもらえるまでには至らなかった。一方,事業団からは,試行校として,早急に事業主団体へのセミナーやF方式研究の実績をあげるよう指導を受けた。この時期,これ以上どのように進めるべきか,全く手がかりもつかめず試行錯誤の日々が続き,アドバイスを求めて事業主団体方式を円滑に進めている他施設を訪ね歩いた。
このような時期に,事業団の関係者や民間団体の役員等から貴重なアドバイスを得た。それらを要約すると以下のようである。
以上の5項目を原則として活動した結果,福岡県金型研究会からの知遇を得た。
福岡県金型研究会は,1985年に金型技術および関連部品の品質向上のため,会員相互の連携によって生産技術の向上と経営の合理化を図ることを目的としたものであり,産官学による組織として発足した。以来,多方面にわたって積極的な団体活動を行っている。また,本研究会は事務局を(株)北九州テクノセンター(産官学からなる第3セクター)に,教育訓練事務局を福岡県工業センター(福岡県)に置く非常に基盤の確固とした団体である。図1に団体構成,表1に活動内容を示す。
① 当短大職員が研究会発足以来,図1に示す特別会員であり研究会の内容を熟知していた。
② 当短大の卒業生が参加企業の中堅社員として成長してきており,卒業生を通して情報収集ができた。
③ 出入りの業者から短大の情報が非常に好意的に伝わっていた。
④ 研究会側では,会員企業に対する中級技能・技術教育の実施と技術研究会の高度化を模索していた。
以上の4つのつながりが強くなって道が開け,平成7年11月6日,研究会の教育訓練事務局(福岡県工業センター)で第1回目の挨拶と会議を行うことができた。
その会議の中で,研究会から以下の具体的な3点の要望が出された。
研究会の依頼を受け1名の短大職員が企画委員となり,さらにFKKスクールカリキュラム委員(図1参照)を要請され,短大の広報が非常に進めやすくなった。また,後に研究会の好意で企画委員会に職業能力開発体系作成会議の機能も併設され,事業主団体方式を推し進める大きな力になった。物事を進めるうえにおいて人脈・人間関係の構築は不可欠である。肝胆相照らす仲となった現在,企画委員会に参画できたことを心からうれしく思っている。
実務経験2~3年の職員の中級技能・技術教育を実施したいという要望があった。これに対して短大は,研究会の教育訓練ニーズを把握してその教育訓練モデルを提示し,研究会企画委員会はニーズ調査のためのアンケートを実施し,研究会用の職業能力開発体系を作成した。表2に職業能力開発体系の作成までの活動を示す。また,図2に研究会企画委員会の行ったアンケート結果を示す。
先に述べたように研究会の事務局はうまく機能しており,短大側からの提案に対し積極的に耳を傾けてもらえた。特に,企画委員会・研究会総会・各種説明会では,特別の時間を設定して事業主団体方式の推進,短大の広報に協力してくれた。事業主団体方式を成功させるためには,この研究会のような団体が多くなることを望みたい。
平成7年11月初旬から平成8年3月末までの5ヵ月間の研究会との意見交換の中で,平成8年度の研究会用職業能力開発体系(図3)をもとにして,61コースからなる能力開発セミナーを計画し,「FKKカレッジ」と命名した。また,教育訓練事務局職員(福岡県工業センター職員)との話し合いの中からF方式研究開発も平成8年6月から始めることができるようになった。さらに,金型研究会は人材高度化支援団体に認定され,事業主団体方式が一層進めやすくなった。技術研究会も,平成8年度に2回,助成金を利用し短大で実施する予定である(図4に平成8年度事業計画を示す)。
会員企業のほとんどが50名程度の中小企業という事情で,FKKカレッジの受講者が思うように集まっていないが,実務者(総務・教育担当)へのFKKカレッジの内容説明会,会員企業への広報のための訪問,3ヵ月ごとのFKKカレッジの案内の送付等,積極的に広報活動を展開している。また,7月には研究会の技術交流会を短大にて行い,短大見学会も実施した。さらに,短大,教育訓練事務局(福岡県工業センター)を中心としたF方式研究も着実に進められている。試行校としての3つ目の課題である福岡市地域の事業主団体についても研究会傘下の企業を通して積極的に掘り起こしを図っている。
平成8年7月末現在の事業主団体方式の実績を図5に示す。
筆者らは,事業主団体方式試行校としての業務に1年間携わってきた。毎日が手探りの状態であり,企業・団体への訪問,短大見学への招待,能力開発業務の計画・実施などを無我夢中でやり遂げてきた。今回の福岡県金型研究会との団体方式事業をぜひとも軌道に乗せつつ,第2弾,第3弾の準備を進めていきたい。
福岡県金型研究会ハンドブック