• ポリテクセンター青森(青森職業能力開発促進センター)雇用総合相談員  川越 吉彦

1.はじめに

気象業務法の改正は,気象予報士の登場となり,独自の局地予報の公表が自由化された。これにより,気象庁と民間の気象情報会社との役割分担が明確化された。

6年前の1991年9月27日から28日にかけて,台風19号は日本列島のほぼ全域を暴風域に巻き込みながら,時速80㎞以上の猛烈な速さで日本海を北上した。このため,記録的な暴風となり各地に大きな被害をもたらした。東北地方では,日本海側を中心に山形県1名,秋田県5名,青森県9名の死者を出すなど甚大な被害となった。

特に青森県では台風の直撃を受け,主力農産物の1つであるリンゴが収穫寸前に壊滅的な被害を受けた。

今後の日本に接近する台風被害を少なくするために,静止気象衛星「ひまわり」からの気象観測画像と1991年台風19号について再考した。

2.気象衛星

2.1 観測網

世界気象機関(WMO)では,気象業務を近代化して天気予報の精度を向上させるため,世界気象監視(WWW)計画を推進し,赤道上空に5個の静止気象衛星と,静止衛星の盲点となる南北両極地方をカバーする極軌道衛星とで,世界気象衛星ネットワークを構成した(図1)。

図1
図1

2.2 静止気象衛星「ひまわリ」

日本で初めて静止気象衛星「ひまわり」を打ち上げたのは1977年7月である。その後,2号,3号,4号と更新され,1995年6月23日から「ひまわり5号」にバトンタッチされた。「ひまわり5号」は東経140度の赤道上空3万5786㎞から,直下点を中心として半径6000km,地球のほぼ4分の1の広い範囲を絶えず観測している。これまでの可視光と赤外線による雲や地表などの観測のほかに,「ひまわり5号」は新たに蒸気センサを搭載して,大気中の水蒸気分布を検出して上空のジェット気流や気団の境界部分の観測が容易となった。

2.3 地球の投影法

「ひまわり」は自らの姿勢を安定させるため,1分間に約100回転しているスピン(常時回転している)衛星である。この回転を利用して,VISSR(Visible and IR Spin Scan Radiometer)と呼ばれる放射計によって地球を撮影している。このとき,放射計に組み込まれた可視および赤外センサによって,可視画像と赤外画像が同時に撮影される。VISSRは一度に地球全体を撮影するのでなく,赤外センサでは瞬時に見える140μrad(0.008度),可視センサでは,35μrad(0.002度)の狭い範囲を撮影している。そしてVISSRは「ひまわり」が1回転するごとに南北140μradの幅で地球を西から東に走査し,1回転すると,撮影位置を1ステップ140μrad南に下げて,また西から東に撮影していく(図2)。このようにして2500回転,25分かけて1枚の地球の画像を撮影する。1回転の走査で4本の可視と1本の赤外走査線上の画素の観測データが得られる。

図2
図2

赤道付近の画素の大きさ(分解能)は,赤外画像で約5㎞四方,可視画像では約1.25kmになっている。

このようにして撮影された雲画像は,いったん地上の気象衛星センターに送られ,緯度,経度,陸地線が加えられ後に,再度「ひまわり」に送り返される。「ひまわり」はこの加工された雲画像を地上に向けて再配信する。再配信される画像はWEFAXと呼ばれ,日本付近のH画像(赤外),I画像(可視光)は毎時間ごと,全球画像は4分割(A~D画)したものを3時間ごと(赤外画像のみ)に提供している(図3図4)。

図3
図3
図4
図4

2.4 可視画像と赤外画像

(1) 可視画像

可視画像では雲や地表などからの太陽光の反射をとらえ,太陽に照らされている部分しか写らない。そして,太陽光が強いものほど白く写るので,厚い雲ほど白く写ることになる。

(2) 赤外画像

赤外画像は,物質からその温度に応じて放射されている熱線を画像化して,温度の低いところは低いほど白く,高いところは高いほど黒くなるように処理されている。したがって,雲は上空にあるほど温度が低くなるので,赤外画像では高い雲ほど白く写る。

このように,赤外画像は可視画像と異なり昼夜の区別なく観測できる。

3.台風

3.1 台風とは

温帯地方で発生する低気圧は「温帯低気圧」あるいは単に「低気圧」と呼ばれ,熱帯地方で発生する低気圧は「熱帯低気圧」という。この熱帯低気圧のうち,中心付近の最大風速が毎秒17m以上のものを日本では「台風」といい,風速がそれ未満のものを「弱い熱帯低気圧」と呼んでいる。「台風」と同じ性質の熱帯低気圧は,他の地域では別の名称で呼ばれていて,北西太平洋の「タイフーン」,北大西洋の「ハリケーン」,北インド洋の「サイクロン」などがある。

台風は一般に上空の風の弱い夏は迷走することが多く,秋には上空のジェット気流に乗って急速に方向を変え,速度も増すことが多い。台風が北上して日本付近に近接すると,今までより冷たい海水面と北からの寒気の影響が加わって次第に本来の性質を失い,温帯低気圧の性質の1つである前線を伴うなどの変化があると,通常「温帯低気圧に変わった」と発表される。

3.2 台風の発生および発達の機構

台風は海面温度の高い区域に発生し,その発達を促すエネルギーは海面から補給される水蒸気の潜熱であると考えられている(図5)。

図5
図5

第1段階:弱い低圧部に積雲対流が生じ,その結果徐々に域内上空の温度が上がり,下層の気温が下がって,周囲から湿潤空気の流入が起こって対流雲を強めるとともに,上空で気流の流失が起こる。

第2段階:低層で低気圧性の循環が強まり,それが対流雲によって上層へ運ばれ,上層の中心部にも低気圧性の渦が生じる。そしてその外側は高気圧の輪となり,上層の空気はそこから発散する。潜熱の放出による温度の上昇は中心部上下に広がる。低気圧性回転の輪は上部で広がり,その速度は弱くなる。その結果,上部の中心部では空気が下降し始める。

第3段階:潜熱の放出による内部の加熱がより増加し,それに伴い輪を描いて上昇する気流の速度も一層強まり,上部の低気圧性輪の半径も一層大きくなり,中心部では断熱昇温をする下降流が下層まで達して,台風の目が形成される。そして下層で周囲から流入する空気が輪を描いて上昇し,上層で強く発散することにより中心部の気圧は急激に低下する。

第4段階:これは最終的な準定性状態で,運動のエネルギーの産出と消滅とのバランスおよび,全エネルギーおよび角運動の収支のバランスにより決定される。

3.3 台風と風

台風は大きな空気の渦巻きになっていて,強い風が反時計回りに吹いている(図6)。図7は台風による風速の分布を示す。台風による風は,一般に中心に向かうほど風速が強くなり,風の息(短い時間内の風速の変動)も大きくなる。中心から50~150kmぐらいのところで最も風が強く,さらに中心に近づくと台風の目となって風は弱くなる。

図6
図6
図7
図7

しかし,台風による風の分布はさまざまで,いつも中心付近が最も強いとは限らず,中心からかなり離れたところで強い風が吹くこともある。台風の勢力と見通しを知るための目安として,台風の大きさと強さがある(表1)。

表1
表1

3.4 台風と雨

台風は,暴風とともに大雨をもたらす。台風は熱帯で発生し,接近するため,多量の水分を含んでいる。台風を取り巻く雨雲の状況をモデル的に示したのが図8である。“先駆降雨帯”は台風の進行方向前面の中心からおよそ400~1000kmも離れている。

図8
図8

3.5 台風と高潮

高潮は,主に気圧の降下と強風とにより発生する。台風の中心近くは気圧が低くなっているため,海面が吸い上げられる。吸い上げられる量は,気圧が1hPa下がると,海面はほぼ1cm上昇する。

3.6 台風と高波

台風は,暴風とともに高波をもたらす。中心付近の最大の有義波高は,過去の観測データから,平均的に表2のとおりである。

表2
表2

4.1991年台風19号

 4.1 台風19号

1991年台風19号は,9月16日9時マーシャル諸島付近で発生した。中心気圧1000hPa,中心付近の最大風速は18m/sであった。台風19号がH画に初めて現れたのは9月19日である。まだ目はない(図9)。

図9
図9

台風は,24日21時には,那覇市の南約650kmに達し,中心気圧925hPa,中心付近の最大風速は50m/sとなり,「大型で非常に強い」台風になった。

26日18時,久米島の西南西約110kmの海上で向きを北に変え,北上し続けた。

27日9時,鹿児島市の西南西約110kmの海上を進み,27日16時過ぎに長崎県佐世保市の南に上陸した。中心気圧935hPa,最大風速50m/sで,上陸時の中心気圧としては観測史上4位のタイ記録となった。

図11は長崎県佐世保市の南に上陸する直前の赤外画像である。目は小さくなっているが強力な勢力を保ち続けている。

図11
図11

その後,台風19号は九州の北部をかすめて日本海に入り,28日0時には,輪島市の西約270kmの海上を時速80kmと速度を速めて北上した。

28日の1時には,青森県の日本海側が強風に入り,3時には日本海側の一部が暴風域にかかった(図12)。4時にはほぼ全域が暴風域内となり,6時には深浦の西約130kmの海上に達した。中心気圧は955hPa,最大風速40m/s,「大型で強い」台風に代わり時速90kmの速さで北東進した。さらに速度を速め,28日8時前に北海道の渡島半島に上陸した。

図12
図12

上陸後,横断する形で北海道を通過し,28日の15時に千島近海で温帯低気圧となった。

4.2 台風19号の目

1979年から「ひまわり」による台風観測が開始された。気象観測の少ない海洋上での台風の情報が得られるようになった。台風の中心位置は目がある場合は目の中心となるが,それ以外のときは積雲の湾曲した雲列によって決定される。

台風19号の目(図13)は直径が数10kmにも達する。中心位置を取り巻くようにたくさんの湾曲した雲列の共通の焦点に推定する。雲の分布は円形のパターンとなっている。

図13
図13

台風の強さは,中心を取り巻く雲分布の状態から決定できる。この手法はアメリカで開発されたもので,開発者の名にちなんでドボラック法と呼ばれている。ドボラック法では,台風の目の大きさと円形度,中心の円形状の雲域の大きさときめの細やかさ,雲域の高さ,および雲域を取り巻く湾曲したバンド状の雲域などが決定要素となり,それらを総合的に判断して強度を決定する。

4.3 台風の時速90km

台風の進行方向に向かって,右半円では台風自身の渦巻く流れと,台風を移動させる流れが同じになって強い風となる。一方左半円ではその方向が逆となり相殺されるので,風はいくぶん弱くなる(図15)。

図15
図15

台風19号が青森県西方を通過したときの速度は約90km/hで,これは秒速に換算すると約25mである。単純に台風の渦巻き風に加算できないが,台風の進行速度が速いほど右半円では強風となる。

4.4 最大風速と最大瞬間風速

台風19号の最大風速(10分間の平均)と最大瞬間風速の関係を表3に示す。

表3
表3

近年,突風率が高く,風による被害が多くなっている。

突風率
突風率

4.5 青森県津軽地方の地形

青森県津軽地方は岩木山(標高1625m)と,八甲田山(大岳標高1585m)の地形が,台風19号の進行方向と風向の影響をもろに受けた形となった。

図16は青森県内の瞬間最大風速と風向を表したものである。各観測地点とも風向は南西の風を示している(深浦は南南西)。

図16
図16

黒石の観測データは黒石市役所の屋上に設置した風速計の値である。この装置は気象庁の公認を受けていないので非公式とした。

図17は岩木山から南東方向の地形を表したものである(南西の風と直角方向)。風は岩木山と八甲田山の谷間を南西の風が吹き抜けている。南西風の延長線上にある青森市内も風が衰えず,強風が吹き荒れた。一方,五所川原市,木造町を中心とする地域は,岩木山の陰になり被害が少なかった。

図17
図17

4.6 模型による実測

国土地理院発行の5万分の1の地図をもとに,5万分の1の模型を作り風速実験を行った。結果は弘前地区および黒石地区ともに平地と比較して1.2倍の強さとなった。想像したとおりの結果が得られたが,岩木山,八甲田山など,すべて表面を紙粘土で仕上げたので,実際の樹木や障害物を考慮すると数値は少なくなると考えられる。また,風向を南,南西と変化させたが差は認められなかった。

4.7 青森県内気象官署の最低海面気圧

台風19号の県内各観測所に記録した最低気圧を表4に示す。

表4
表4

4.8 台風19号の経路図( 図18 )

図18
図18

台風19号は長崎に上陸した27日16時の移動速度は時速50km,北上中に速度を上げ時速80kmに達した。3時から6時にかけては一時的に90kmを記録した。

5.おわりに

1991年の台風19号が日本各地に大きな被害の爪痕を残してから5年,その記憶も次第に薄れようとしている。台風が日本付近を通過するときの注意点は,台風の中心気圧,付近の海水温,台風の進路,満潮時間,台風の速度,風向と地形の関係,最大風速と最大瞬間風速の関係,雨台風・風台風の別等である。それによって,対策を立て被害を最小限にくいとめることが可能となる。台風が来る前に,行うこと,注意すること,準備することや避難場所等,十分な準備と心得が必要である。

「ひまわり」は観測範囲が地球の4分の1と広く,また常時観測している。この広大な地球の雲や自然現象の雲解析など,気象データの空白地域の情報が天気予報に必要不可欠なものになり,正確な予報が出される。

最後に,ここ数年異常気象が連続して発生している。エルニーニョ現象の発生,ジェット気流の蛇行,地球の温暖化などが原因と考えられ,世界規模の共同研究が行われている。

これらの異常気象は,私たちの排出する二酸化炭素の影響が大きく,これを減らす方向で検討が迫られている。

〈参考文献〉

  1. 1) 木村浩子:青森職業訓練短期大学校卒業論文,1992.
  2. 2) 藤谷泰子:青森職業能力開発短期大学校卒業論文,1995.
  3. 3) ケンウッド・コア:静止気象衛星「ひまわり」画像受信システム取扱説明書 
  4. 4) 気象庁:異常気象レポート'89
  5. 5) 気象庁:台風に備えて,平成3年3月.
  6. 6) 気象庁:今日の気象業務,平成7年版.
  7. 7) 日本気象協会:「ひまわり」で見る四季の気象,1993.
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