これまでの報告においては,パソコンを利用したマルチメディア情報処理技術に関する基礎的研究の一環として,筆者が試みてきている『学校案内』タイトル作品制作の概要に関して,フリーソフトウェアを利用したコンピュータ画像の提示を中心に報告してきた。
その結果,パソコン通信において普及しているフリーソフトウェアを活用することで,MS-DOS環境のみでもコンピュータ画像の色表現において,一定の実用性を確保することができた2),3)。
しかし,音声データの出力においては,その認識率が低く,実用性の点では問題の残るものであり,その音源(音楽・音声)データの出力に関する概略は次のようであった。
① 音楽データは,「PC-REC」という市販品を利用して生成されたPCMデータ形式(1秒当たり8KBのデータ量)の配布自由なデータを利用した。
② また,音声データについては,「98TALK」というフリーソフトウェアを利用した音声出力を行っていたが,認識率は不十分であった。
その後,音声情報出力方法の検討を行い,音声情報出力用のフリーソフトウェアを利用することで,これまでに示してきた画像の色表現における一定の実用性確保だけでなく,音声の認識率も実用レベルのものとすることができ,より実用性のある『学校案内提示作品』を試作することができた。
これらの音声情報出力方法改良などの試みについては,次に示すようであった。
当初の音声情報出力で利用した「98TALK」は,ゼロクロス法によるD/A変換を採用した規則音声合成10)であるため,かなりノイズの多い音10)で,アクセントなどの細かな設定もできず,認識率が低いものであった。
そこで,音楽データと同様の「PC-REC」を利用したマイクロフォンによる音声入力を,PCMデータに変換出力する録音再生形式での音声出力を試みた。
しかし,その結果として,肉声情報の再生とすることで,音声情報の認識率を高めることはできたが,マイク入力時の周囲の雑音などの混在や録音時のマイクの性能などの問題点とともに,音声情報だけで4MBほどのデータ量となり,ハードディスクでの提示となってしまった。
規則音声合成という言葉は,規則に基づいて,なんでもしゃべれるようにしたものを意味し,その中でも特に,漢字の混じったものを(日本語)テキスト音声合成と呼ぶ10)。
新たに採用した規則音声合成ソフト「VC2」10)では,ゼロクロス法に代わうて比較的最近考えられたPWM変調(Pules Width Modulation)によるD/A変換10)を用いており,アクセント付与などの機能もあるため1O),音声情報の認識率を高めることができた。
図3に示している「VC2」の処理の流れに従った音声出力処理を行うことで,『学校案内提示作品』をフロッピーディスク2枚に入れることができた。しかし,提示実行用ソフト「KiT(ED)」の外部コマンド実行機能を利用した音声出力であり,音声生成時のファイルアクセスを頻繁に行うため,句読点の部分が間廷びする感じになり,VC2の音声データをRAMディスクに置くことが必要であった。この音声データだけでなく,画像データなども合わせてフロッピー2枚分の2.5MBをRAMディスク上に確保することができると,処理の選択に対応した操作性の向上を図ることができる。
1995年11月11~12日に開催された本校学園祭において,インターネット関連セミナーと無料体験コーナーなどを企画開設し,これに合わせて本校の学校案内のホームページ(以下,「HP」という)を公開した11)。
このHP試作は,前述の「フリーソフトマルチメディアプレゼンテーション」12)の取り組みによって蓄積された文字・画像情報などを有効利用し,短期間で作成したものである。
これらの学園祭企画におけるHP試作の経緯とその制作概略は次のようであった。
北九州市内のインターネット関連団体の1つに「北九州ネットワーカーズフォーラム:NFK(Net workers Forum in Kitakyushu)」という団体13)があり,この会合('95/10)に卒業研究生とともに参加し,学園祭の企画案への協力を依頼した。その際に,卒業研究生がHPを制作すれば学園祭で公開できるような協力支援体制を検討していただけることとなり,11月の学園祭に向けて,HP制作作業を卒業研究の一環として取り組んだ。
WWWサーバへの掲載に際しては,専用の掲載ディレクトリを作成し,この中に卒業研究生のHPを掲載することとなった。メニュー形式による卒業研究生の各ページへの選択項目をトップページに作成することとなり,学校案内HPも合わせて掲載することとした。
学園祭企画におけるインターネット関連セミナーと無料体験コーナーなどの企画に対する案内資料の準備作成や各種協力支援担当者との連絡調整などに追われ,HPのトップページ作成作業は,11月に入ってからの直前の制作となってしまった。限られた期間のため,これまでに制作してきている『学校案内提示作品』12)制作における各種の文字・画像データファイルを有効利用し,最小限の修正・編集作業を行い,学校案内HPを制作することとし,その概略は次のようであった。
学園祭('95/11)終了後も掲載公開され,年度末の96年3月までは,掲載内容の追加・修正・編集作業を行うことができた。こうしたなかで,学校案内HPの修正・編集や,学園祭で実施したアンケート集計結果の概要,卒業研究概要などの追加掲載も行った。
また,当校の人材高度化支援活用事業対象団体である北九州情報サービス産業振興協会(KIP)からの講演依頼14〕に際しても,WWWサーバアクセス例として,当校の学校案内HPなどを紹介することができた。
96年4月以降からは,掲載内容の追加・修正・編集はできないが,NFKおよび北九州テクノセンターの支援協力により,NFKのHPにある学校のページ欄で当短期大学校案内HPが参照できるようになっている。また,学内LAN環境の整備に伴い,内部利用WWWサーバを構築し,これに掲載することで,HP制作例として教育訓練に利用するとともに,96年8月に開始したインターネット接続実験WWWサーバに掲載し,暫定公開している。
本報告では, 表6 に示すWindows環境での『学校案内作品』制作を契機とし,MS-DOS環境のみでの実行可能な『学校案内作品』制作を通したコンピュータ画像の色表現2),3)に,その後の音声情報出力を付加するためのフリーソフトウェアの利用例を示してきた。
これらの画像・音源(音楽・音声)情報に関するフリーソフトウェアを活用した『学校案内提示作品』制作工程は図1に示しているが,雑誌などの書籍添付形式での普及も促進されてきている種々のフリーソフトウェアを活用することで,実用に供することができるコンピュータ画像の色表現と音声情報出力が可能となり,文字や画像だけでなく,音源(音楽・音声)データをも組み合わせることで,より実用性のある『学校案内提示作品』とすることができた。
このMS-DOS環境だけで実行可能な『学校案内提示作品』は,配布や複製が自由であるため,学生募集などの広報活動においてきわめて有効であり,各種のプレゼンテーションや教育用などにも有効利用できるものといえる。
これまでに述べてきた内容は表6で示すように2年の期間を経ており,現状の急速なパソコン環境に対応した内容とはいえない面もあるが,本報告によって一定の整理を行うとともに,今後の教育訓練や能力開発セミナー実施に際しての参考資料として,有効利用することも考慮したものである。
現状のコンピュータ環境においては,「ネットワーク」「オープンシステム」「ダウンサイジング」「マルチメディア・マルチベンダー」をキーワードとしたコンピュータ機器環境の再編成が進展しつつあり,ハードウェアの低価格化とともに,マルチメディア情報処理の開発環境の進展と各種アプリケーションソフトウェアの出現やバージョンアップなどが進行してきており,各種のマルチメディア情報処理技術に関する開発・実行環境の整備が急速に促進されている現状といえる。
こうしたマルチメディア情報における視覚情報としての画像のもつ意義は高く,この点に着目した教育訓練の展開が今後も必要なものといえる。従来の文字や画像を中心とした画像関連教育から,コンピュータを主体としながらも,従来の文字や画像に加え音源や映像などとの関連を図った教育訓練内容などの検討を,今後も継続していくことが必要である。
本報告は,既存機器とその環境下で作成されたデータ資源などの有効な利用と,パソコン(画像)通信などにおいて普及してきているフリーソフトウェアなどの有効活用についての検討事例の1つであり,今後のマルチメディア情報処理技術などに対応した教育訓練を推進していくためには,MS-DOS環境の既存機器では十分とはいえない。
「ネットワーク環境」や「マルチベンダー機器の導入」と「オープンシステム化」が進行しつつあるなかで,さまざまなデータ形式の相互利用が可能な教育訓練機器環境の導入が早急に必要であり,MS-DOS環境の既存機器において,次のような問題点なども指摘されてくる。
こうした点は,96年度の電子計算機リース更新により一定の再整備が行われてきているが,より先端的情報通信技術に対応しうる教育訓練の実施においては,十分とはいえない現状といえる。
本報告は,旧式の既存機器とフリーソフトを有効活用したものであるが,今後も既存機器で十分に教育訓練を実施できるということではない。最新の機器が整備されていないため,既存機器を利用した最新技術の一端とその基礎的な教育訓練の展開を模索・検討したものである。
そして,1995年11月11~12日に開催された本校学園祭においては,これまでに述べてきた学校案内提示作品の制作手法を発展させ,インターネット利用による本校学校案内HP制作を試行,学校案内提示作品で利用している文字と画像データを再利用し,インターネットによる提示に対応させるためのデータ形式の修正などを行うことで,Hyper Text Markup LanguageによるWWWサーバへの掲載内容を短期間で容易に制作することができた11)。
このことからも,本報告の学校案内提示作品制作技法は,今後のマルチメディア情報処理技術に関する基礎的教育推進における既存機器有効利用の可能性を確認することができたといえる。
とりわけ,能力開発セミナーなどによる企業従事者に対する職業能力開発業務推進を担うべく当事業団においても,こうした組織的かつ全国的,さらには国際的なインターネット利用などの施設展開と推進,そして教育訓練の展開が期待されている14)といえる。
こうした現状のなかで,今後の技術革新に対応しうる仕様を完備した教育訓練に必要なパソコン環境としては,「Windows95やWindowsNT,そして,インターネットなどの動作環境が確保されたパソコン」を中心としたコンピュータ環境の整備による, ネットワークやマルチベンダー・マルチメディアに対応しうる最低限の機器仕様である。そして,これらの時代の先端技術を踏まえたハード・ソフトの導入推進が,高度専門課程の教育訓練のみならず,専門短期課程,そして人材高度化支援システムの展開における職業能力開発の実施成果を左右する重要な課題となってきているといえる。
北九州市周辺においても,一定の情報通信環境の基盤が整備され,インターネット利用が広く普及しつつある現状といえ,その動向は次のようである。
① 96年2月からはインターネット接続プロバイダが北九州市周辺にも設立・進出してきており,企業従事者のみならず,一般市民に対しても安価なインターネット接続環境が提供されてきており,インターネット利用環境が急速に普及してきているといえる。
② 96年4月には,従来のヒューマンメディア創造センター4),13)が九州ヒューマンメディア創造センターとして,再発足している。
③ 96年5月に,北九州テクノセンター内の北九州産業情報センターでは6台のインターネットアクセス端末を設置し,無料でインターネット体験ができるコーナーを開設し,週3日間(火~木)は夜9時まで利用可能とし,北九州市内の中小企業の方々を対象としたインターネット利用の啓蒙・普及活動なども行っている。
一方,企業内部においては,インターネットにおける各種の情報発信技術を,企業組織内部の各種情報受発信手法として活用するイントラネット環境の導入・展開が進行しつつある現状といえる。また,従来の各種アプリケーションソフトにおいてもインターネットにおけるHP制作支援機能を付加する方向での開発・提供・販売形態へと転換しつつある。
④ こうした動向を踏まえて,前述の北九州情報サービス産業振興協会においては,96年7月から97年3月までの間,インターネット関連を中心とした技術交流会を開催することとなり,当短大情報システム系職員も参加するなかで,地域企業との技術交流を通して,人材高度化支援モデル・研究開発事業への発展が期待されるものとなりつつある。
今後は,インターネット関連技術を中心とし,各種事務処理関連ソフトウェアとの連携による各種情報処理手法の開発・普及が進展していく傾向にあり,当校も全学的な取り組みによる積極的なインターネット活用を検討していくことが急務となってきている。
現在,当情報技術科においては,期間限定(98年3月まで)ではあるが「インターネット利用に関する基礎的実験」17)の取り組みを推進しつつある。こうした実験環境の整備に伴い,学内LAN実験端末によるインターネット利用が可能となっており,今後は短大全体としての利用・活用の取り組みが期待されてくる。
さらには,雇用促進事業団全体としての全国規模のネットワーク化推進により,各施設間の事務処理的業務のみならず,各教育訓練施設におけるインターネット関連の実際的な教育訓練を実施するための接続回線確保とその積極的な利用・活用の取り組みを早急に推進していくことが必要となっている現状といえる。
本報告は96年3月発行の当校紀要18)掲載内容に,96年8月までの状況を補足し,2回の連載としたものである。
現在,雇用促進事業団においては,各都道府県単位の「地域ホームページ」を97年10月1日を目途に全国的に開設することとしている。
こうした「地域ホームページ」の開設の際に,本報告のホームページも有効利用されるものと考える。