• 職業能力開発大学校建築工学科  渡辺 光良

新潟県巻町の住民投票は,私たちに大きな宿題を残した。原発建設の賛否を問う投票結果は,建設反対票が圧倒的多数で上回った。この問題は,基本的な原因の解決を図らない限り永遠に続く。

当事者側の説明では,電気消費量のピークは,ごく限られた時期の昼間数時間に集中し,その時間帯の電気を賄うため発電量を増やさなければならないので原発が必要という。ピーク時以外の発電量には余裕がある。電気量の不足する最大の原因は,多くの家庭で一斉にクーラーを使用することにある。その問題を解決する建築政策をとらない限り,いつまでたってもこの問題の解決はない。

節電住宅は,地球環境を考えればごく当然のことである。兼行法師は「家ノ作リヤウハ,夏ヲムネトスベシ…暑キ比ワロシ住居ハ,堪ヘガタキ事ナリ…」と説く。現在の建築は,冷房なしには住めない最も悪い住居である。通風や断熱を考えず,もっぱら電気設備に頼ることで成立している。節電のことなど考えていない家ばかりが多くなってきた。

近年,北海道の友人で外断熱をした二重壁の蓄熱性の高い補強組積造住宅を求めた者がいる。彼は省エネルギーのために二重壁の住宅を求めたわけではなく,厳寒の冬を快適に過ごすために求めたわけであるが,結果的には燃料費が非常に少なく,快適な省エネルギー住宅であるという。

イランとかイラクの真夏の昼は,気温が50℃を上回る熱暑になる。彼らの伝統的な住まいは,組積造で分厚い外壁を持った二重壁の家である。夏には,熱気が入らぬよう窓に目張りを施し室内で過ごす。室内は,冷房がなくても快適であるという。分厚い外壁は,熱を伝えにくい構造である。まさに兼行法師のいう「夏ヲムネ」とした住まいであり,これを外断熱住宅という。

外断熱建築は,厳寒時の寒気や灼熱の熱気を外壁で遮り,内壁には熱を伝えず,四季を通じて内壁温度を快適に保てるように工夫した家である。井戸水が一年中15~16℃に保たれる。これと同じ理屈である。

外断熱建築の原料は,地球を形成している地殻,つまり,岩石,砂,砂利および土などである。これらは,人類が安心して無限に利用できる材料であり,かつ,どこででも入手可能である。世界中の人々の住まいもこれを使うと容易に建築でき,地球環境にもやさしい。

ところが,わが国の建築は,なくなりそうな資源に頼りすぎている。例えば,鉄筋コンクリート造は,木材よりできた合板型枠を仮設型枠にして作り,その結果,熱帯雨林産の木材が少なくなったら,ツンドラ産の針葉樹を一部挟み込み,熱帯雨林産の木材の使用量を削減しているように見せかけている。ツンドラ樹林帯は,砂漠より降雨量の少ない地域であり,森林伐採をした後には二度と森林はよみがえらない危険性がある。

普通の鉄筋コンクリート造の建物は,自然の恵みにより長い間貯蓄された石油,石炭,天然ガスなどを原料にした電気をふんだんに使わなければ生活もできず,非常に環境に厳しい建築となっている。それで電気が足りないといっては,辺境の過疎地に原発を建設し住民に大きなリスクを負わせ,都会では無反省に電気の垂れ流しになる華麗なガラス張りの建築物をどんどん作っては,30年もすると古くなったと壊している。建築物は,造るにも使うにも壊すにも膨大なエネルギーを必要とする。

これからは,地球環境に優しい建築構法で造り,化石燃料をむだ使いしないで生活できる建築を推進し,そして結果的に電気が必要とあれば原子力発電所の建設もいたしかたない。

巻町原発の住民は,私たちに電気の使い方に対する反省を求めている。今,実行しなければならない問題は,いかに節電するかである。特に,建築物は,冷・暖房を止めたとたんムッとする熱気やシンシンと冷えてくるような構造にすべきではない。また,すでにあるものは早急に断熱改修を進め,電気に頼らなくてもすむ生活体系の確立が重要な課題である。大量の電気のむだ使いを改善しないで,原子力発電所の建設にのみ努力をするのではなく,省エネルギー政策を十分検討したうえで,今後の電源開発を推進すべきである。

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