• 機械系の能力開発3
  • ポリテクカレッジ岐阜(岐阜職業能力開発短期大学校)梅田 良範

1.はじめに

ポリテクカレッジ岐阜の生産技術科における卒業研究は,2年次の後期に平常授業中で108H,集中授業として72H,合計180H(10単位)実施される。当科では,『物作り』を主として,2年間習得してきた知識と技術を生かして,学生自身が自主的に設計から製作まで行うように指導し,施設内の汎用の工作機械,NC工作機械を種々用いて,各研究テーマに取り組んでいる。3次元CAD/CAMシステム導入後,CAD/CAMシステムを用いた設計製作についても卒業研究テーマとして取り上げている。

今年度の生産技術科の卒業研究では,3名の学生がこのテーマに取り組み,その指導を行ったのでこれを報告する。

2.3次元CAD/CAMシステムの概要

2.1 ハードウェア構成

現在の3次元CAD/CAMシステムは,平成5年に導入され,各科の専門訓練課程の実技,社会人対象の能力開発セミナー等で活用されてきた。

機械システム系におけるシステムのハードウェア構成は図1に示すとおりであるが,使用した3次元CAD/CAMソフトウェアはCAD室にあるサーバと端末を含めて5台のEWSに導入されている。NC工作機械との接続は,LANにより実習場のパソコンを介して接続されている。

図1
図1

2.2 ソフトウェア機能構成

CAD/CAMソフトウェアの主な機能としては,次のとおりである。

① 2次元CAD機能

三面図の作成

② 3次元CAD機能

ワイヤフレーム,サーフェイス,およびソリッドモデルによる3次元モデルのモデリング

③ 2.5次元CAM機能

プロファイル加工,穴あけ加工,および平面領域加工

④ 3次元CAM機能

CLスライス荒取り加工,等高線荒取り加工,自動荒取り加工,輪郭スキャン加工,自動曲面加工

⑤ 加工情報ファイル

工具データ,材質コードデータ,切削条件データ,機械仕様データ

⑥ データベース

作成モデルの3次元データの管理

3.卒業研究の取リ組み

3.1 課題の設定

『3次元CAD/CAMを用いたNC加工』として,前年度は,製品モデルの加工についてまとめたが,今年度は,プレス型を想定した金型の設計,製作をテーマに3名の学生が取り組んだ。3次元曲面加工を主において,前述のCAD/CAMソフトウェアの機能のうち,特に3次元CADおよびCAM機能と工具や切削条件等の設定に関係する加工情報ファイルについて重点的に理解させることを目標とした。

CAD/CAMシステムを用いて型を製作する場合,上型と下型についてそれぞれ別々にモデリングからNCデータ変換および加工を行うことも考えられるが,短期間にまとめることもあり,1つの製品モデルを用いて,一定の板厚を与えることにより,上型と下型の両方のNCデータを作成させた。製品モデルの形状についても,システムの操作に時間をかけずに3次元CAMの機能を発揮できるように,いくつかの3次元曲面を有する比較的単純な形状とした。

また,操作手順をまとめたオリジナルテキストも作成した。

3.2 モデリング

製品のモデリングについては,3名それぞれ独自のモデルを製作し,NCデータ変換が困難と思われるところを若干,形状変更した。モデルは,自由曲面や球面,回転面等からなり,面と面のつながりは滑らかなRを施した形状である(図2~図4)。

サーフェイスモデルの作成では,若干の制限があり,その操作手順については,オリジナルテキストとしてまとめた。

3.3 下型のCL作成

下型のCL作成は,製品モデルのCL作成と同様に,荒取り加工では仕上げしろを1mmとし,仕上げ加工では板厚を見込まないCLを作成した。

なお,荒取り加工はCLスライス荒取り加工を採用し,仕上げ加工は自動曲面加工によりCLの作成を行った(図5)。

図5
図5

3.4 上型のCL作成

上型のCL作成は,製品のサーフェイスモデルを180°反転し,荒取り加工では下型と同様に仕上げしろを1mmとし,CLスライス荒取り加工によりCLの作成を行った。仕上げ加工においては,板厚分をCAD曲面より削り込むCLを作成した(図6)。

図6
図6

3.5 NCフライスによる加工

加工材料については,試験的にWAX材を使用したが,上型,下型の仕上がり状態をみてみると,自動曲面加工による仕上げ加工では,CL線のピッチを細かくとることで,ある程度仕上げ面をよくすることは可能であるが,むしろ等高線加工による加工が適しているものと思われる(写真1~写真3)。

3.6 今後の課題

今回,思ったよりモデリングに時間がかかり,WAX材による加工にとどまって,金型の製作までに致らなかった。今後,鋼材を用いた型の製作が今後の課題としてあげられるが,この場合,特に使用工具や切削条件の設定が問題となり,加工情報ファイルの作成に重点を置かなければならないことが予想される。

また,NC工作機械による仕上げレス加工を目標とした場合,仕上げ面を考えた加工法の選択や加工手順に,さらなる検討が必要であると思われる。

いずれにせよ,短期間で習得させるためには,指導計画を綿密に立てる必要があることを実感した。

4.CAD/CAMシステムによる教育訓練の整理

CAD/CAMシステムに関する卒業研究を指導して実感したことは,前述したように,短期間に目的とする内容を習得させるためには,指導計画を綿密に立てることである。これは,社会人対象の能力開発セミナーにおいても同様である。能力開発セミナーの受講生を考えた場合,それぞれ,職種,部署等が異なり,当然,習得しようとする内容も異なる。

そこで,CAD/CAMシステムについて,受講対象者を,設計者,NC加工技術者,システム管理者に大別して習得する内容の整理をしてみた。

CAD/CAMシステムの主な機能は,図7に示す6項目があげられるが,設計者を対象とする教育を考えた場合,主に図面の作成,管理が考えられ,2次元CADによる図面の作成およびデータベースの管理を中心とした訓練コースの設定が必要に思われる。NC加工技術者を対象とする教育を考えた場合,製品形状や材質等による使用工具,加工条件,加工手順等の選定が考えられ,3次元CAMおよび加工情報ファイルの作成を中心とした訓練コースの設定が必要に思われる。システム管理者を対象とした教育については,データベースの管理および加工情報ファイルの作成を含む,LANで接続された機器のデータ通信およびトラブル対処等を中心とした訓練コースの設定が必要に思われる。以上のように,訓練対象者によって習得しようとする内容が異なり,それぞれの対象者に合った訓練コースの検討が,効果的な訓練につながるものと考える。

図7
図7

5.おわりに

CAD/CAMに関する卒業研究を担当して,思ったよりも機器の操作の習得に時間がかかり,操作だけで終わる可能性が高く,短期間での教育を考えた場合,課題の設定,訓練内容,時間配分等を,あらかじめ入念に検討しておく必要があることを実感した。

今後,この経験を生かして,学内だけでなく対外的なセミナーにおいても効果的な訓練を実施していきたい。

〈参考文献〉

  1. 1) 平成5年度岐阜短大CAD/CAM専門部会報告.
  2. 2) 実践テキストCaelum 3次元CAM((株)トヨタケーラム),1994,8.
  3. 3) 梅田良範,高田 保,吉川惇司,青山征夫,原吾朗,山田昭夫,八田正昭,筧  修:岐阜職業能力開発短期大学校研究発表会予稿集,1996,12.
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